Hearty Beat

いちる

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……笑ってる?
「えーと……」
「いや、……碧川君おもしろいなーと思って」
 自分のところの人間の悪口を言ったであろう圭に対して怒るでもなくくすくす笑っている。
「矢井田さん、碧川君に説明してなかったんですね」
「ええ、逆にへんな先入観を持って身構えられてもいけないと思って……」
 裏目にでましたがとハナコは苦笑いした。
「碧川君、今日私たちがここに伺ったのは、君とナオでユニットを組まないかという誘いだったんだ」
 まだ頬にかすかな笑いの色を浮かべたまま葛城が圭に言った。
「……へ?」
 ……ユニット?
 俺が?
 LINKSの御堂と?
 葛城の言葉がゆっくりと脳に伝わり、それが正しく認識されると、圭はぶんぶんと頭を振った。
「なんで……」
 実力が違いすぎる。
 自分はただの音楽好きな素人で、事務所の社長にスカウトされたことは他の素人より少しだけ運が良かっただけで。
 片や御堂七生は、CD出せば少なくとも数十万枚は売れたり、ライブチケットだってプラチナになるような有名なバンドのほぼメインの人物だ。
 呆然と圭は葛城の顔を見つめる。
「ネットの動画で君を見たナオが君とぜひ一緒にやりたいって希望してね。調べてみたら矢井田さんの事務所だって分かって。矢井田さんとは昔から懇意にしてるので、話してみたら、乗り気になってもらったんだ……君に話してなかったのはちょっと想定外だったけど」
「……ミドリが変にテンパっても困ると思ったんですよね。こう見えても小心者というか、自己肯定感が低いというか」
 こう見えても。
 ハナコは隣に座る圭をチラリと横目で見るとはあ、と再度大げさにため息を付いた。
 圭の180センチ近い身長は相手に威圧感を与えることもある。視力が悪くかけている黒縁のメガネは神経質そうなイメージ。サッカー少年の名残もあり体格もそこそこいい。「音楽をやっている」と言って最初から信じられる事があまりなく、どちらかと言えば真面目そうな堅物という風に周りからは見られる事が多かった。
「でもユニットって……」
 二人組。
 というか、やりたければ御堂七生ならソロでも十分いけると思う。わざわざ自分と組む意味はあるのか。
 ぐるぐると頭の中で考える。
 そんな圭の気持ちを見透かしたように葛城は言葉をつづけた。
「結城が」
 LINKSのもう一人のメインメンバーの名前を出す。
「彼がソロだから、同じことはやりたくないと。そうなると、新たなバンドを組むか……なんて悩んでいたところにネットで君の歌声を聴いたらしい。二人でどうだろうと。それに……LINKSの御堂、再始動となれば、まあ、そのネームバリューで最初はなんとかなるでしょうと。で、うまくいけば解散後は君も『元○○の碧川』でそのままこの業界に残れると思うって」
「はあ」
 本当か嘘か分からないが、御堂と結城はあまり仲が良くなかったと聞く。それがLINKS休止の理由だと。
 でも……始まってもいないのに、解散の心配……?
 圭はやってもいない就職活動の面接風景を想像した。
 普通の会社も入社の面接の時、「君が退職するときには……」なんて説明があるのだろうか?
 疑問に思ったことがさらに表情に出たのだろうか、葛城が苦笑いを浮かべ説明をした。
「……ああ、ナオの希望でね。できれば期間限定のユニットにしたいそうだ」
「限定?」
「二年間。……それで結果を出して残したいらしい」
「……はあ」
 二年で何が出来るんだろうかと圭は頭をひねるがそこには彼らの考えがあるんだろうと頷く。
 音楽をやっているだけの素人に運営に関する意見があるわけが無い。
「メリットはあんたにも十分あると思うわけ。御堂君と一緒だもん、売れないはずはなくない?」
 ハナコが身を乗り出す。
「そもそもあんた就職決まってないんでしょ。ここで、どーんと全国デビューなんて、かなりラッキーじゃない?」
「いや、就職活動はこれからが本番で……」
 葛城に就職が決まってないことをあまり知られたくないと思った。
 だからこの話に飛びつくのだと思われるのがなんとなくしゃくだった。
 が。
「何言ってんのよ。うちの内定者だってもう決まったわよ」
 涼しい顔でハナコが否定する。
「へ?まじっすか?」
「そうよー。来年からは社員が増えるからねー。……というわけであんたには頑張って働いてもらわないと」
 バンバンとハナコは圭の肩を叩く。
 ……大学四年生で、今の時期、何もしてないのはやっぱり俺だけなんだろうか。
 がっかりと肩を落とす。
「はあ」
 でも。
 先ほどの御堂を思い出す。
 にこりともせず、怒り……というよりそこには失望の表情を浮かべていた。
「……怒ってましたけど」
 確かにあんな事言うべきでは無かった。つい中高の仲間がいてはしゃいでいた自分を思い出したのだ。
  それに。
  音楽を始めてあらためて「LINKS」の曲を聴く機会も増えてクラスメイトとは違う嫉妬の気持ちが芽生えていたのも事実だった。
「そうだね。でも……君はどうなの?」
 葛城が柔らかく聞き返す。
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