Hearty Beat

いちる

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「で」
 御堂七生を怒らせてから一週間後。
 事務所の地下にあるそのビルの共同スタジオで圭は七生、ハナコ、葛城を前にし、先週以上に緊張していた。
 今日はキーボードの前に座っている。
 その正面にあるパイプ椅子にだらりと体勢を崩してに座る七生が促した。
 誰の目から見てもやる気がないのが覗える態度だ。
「……良介が来いって言うからきたけど」
「ありがとうございます」
 圭がそう返事し、ぺこりと頭を下げるとまた二人の間に沈黙が走る。
 だよなあ、と圭は心の中で先週の自分の失態を再度後悔した。
 そこをあわてたようにハナコが言葉をつなぐ。
「御堂くん。この前は私が事前にこの子に説明をしてなかったのでごめんなさい。今日はこの前借りたデモをこの子なりにアレンジしたみたいで、ぜひ聴いてほしくて」
「……あー、置いていったのか、俺」
 七生は失敗したなあという苦い表情を浮かべた。
 その様子を見て相変わらず、良介は面白そうに肩を揺らしていた。
「まあ、聴いてみようじゃないか。ナオ。……ね、ミドリ君?」
「……ええ。では、えーと、三曲目に入ってたタイトルが『HB』ってやつです。」
 ぴくりと七生の頬が揺れた。
 その様子を見て圭はゆっくりとイントロを奏で始める。
 ストリングスのアレンジと、自分なりにつけた歌詞。
 ギターをつま弾いただけの曲だったが、その曲は確実に誰かを応援するような要素を含んでいた。なのでテンポを少しだけ上げて、曲のイメージからちょっとわくわくするような自分なりの応援ソング風な歌詞を付けてみたのだ。
  日頃の自分の曲調にはない曲。
  誰かの力になる曲だな、と思いながらアレンジした。
 歌い始めた瞬間七生の表情が変わったのに気付いた。
 泣きそうな、それでいて懐かしそうな表情を浮かべている。
 圭はできるだけ聴いた人の心が元気になるようにとポップにアレンジしたつもりだ。だから七生が泣きそうな顔をした事に少しショックを受けたが、なんとか歌いきった。
 三分程度で一曲歌い終わると、圭は三人の反応を待った。
「えーと……」
 しん、とスタジオは静まりかえっている。
「いや、いいんじゃない?」
 ぱちぱちと拍手をして、驚いたと良介が言った。
「な?」
 恐る恐る七生を見ると口を真一文字に結んだままじっとしている。
 圭ではない、それを通り越しどこか遠くを見ているようだ。何か考えているのか瞳はくるくるとせわしなく動いている。
 ……駄目だったか。
 圭はキーボードに置いた楽譜を手にした。
「この前は本当にすみませんでした」
 ぺこりと頭を下げキーボードから離れると楽譜と預かっていたデーターをハナコに渡そうとした。
 なんと言っても御堂七生の新曲だ。
 部外者が持っていていい代物じゃないだろう。
 と、七生の視線はそのまま口を開いた。
「良介、スタジオって今日からどっか押さえられる?」
「え?」
「CD出すんだろ?配信だけにするの?雑誌とかラジオとかネットとか宣伝媒体って今からどれくらい押さえられるんだ?ああ、今なら動画配信チャンネルを作ればいいのか。SNSはどこまで出来る?」
 圭がハナコに渡そうとした楽譜を七生が横取りし、葛城に詰め寄り一気にまくし立てる。
「……ナオが望むだけ」
 にやりと笑って良介が言った。
「今日何日だっけ?……六月にCD……無理か。今どきCDはいらない?いや、やっぱりCD出した方が話題にはなるからな。あ、CDは後でもイベントとか先にでちまうとか、どう?」
  落ち着いて、とでも言わんばかりに葛城は七生の肩に手を乗せた。
「夏フェス出る?」
「ああ、出れたら出たい。……小さいステージで構わないから」
「きいてみよう」
  葛城がスマホを取り出し、何やら確認を始める。
  七生が圭に向って手を伸ばした。
「ちょうだい」
「は?」
「データー」
「は?……えーと……」
  状況がつかめず固まる圭にハナコが言った。
「合格みたいよー。よかったじゃない、内定取れて」
「え?」
   あわてて七生を見る。
   葛城がどこかに電話中だからか、さっきまでの興奮状態が治まったのか表情をガラリと変えてつまらなそうに佇んでいた。
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