Hearty Beat

いちる

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春がもう終わる、という時期。
 ネット上では真夏に関東で行われる大規模な音楽フェス「Summer Rock Fes」の出演者が更新された。
 一番小さなステージで、オープニングを飾るアーティストが話題に上る。

『誰だよ?HEARTY BEATって #SRF』
『しらね?マイナー時間だもん、新人じゃね? #SRF』
『アー写、本人ぼかしてあるけど、二人組だよな #SRF』
『サイト、リンクあったから飛んだけどまだなんもなかった #SRF #heartybeat』
『……ギターの方、なんか見たことね?#SRF #heartybeat』

「おはようございま……す?」
 学校が終わり向かった、練習スタジオのドアを開けたとたん気まずい空気を察知し、ちらりとこちらをみたサポートメンバーのタクの目配せに圭は苦笑いを浮かべた。
 プロデューサーの矢作と七生がにらみあっている。
 他のメンバーは慣れた風で飲み物を飲んだりタブレットで何かを確認したり二人には触れないように過ごしている。
「……帰る」
 一言発し七生は立ち上がり、バタバタとトートバッグに荷物を詰めると圭の横をすり抜けスタジオから出ていった。
 百八十センチ近い身長の圭と百七十センチを少し越えた位の身長の七生では、やや七生が顔をうつむけるだけでその表情は見えなくなる。
 だだ、ちらりと若干長めの髪の毛の隙間から見えた表情はとても苦いものだった。
 そして、圭を見もしない。
「あ…」
 振り向くがその背中は既にドアの向こうで。
「ほっとけ、ミドリ」
 矢作がイライラと大声を出し追いかけようとした圭をとめる。
「……えーと…でも、ちょっと、見てきます」
「もう追いつかないんじゃない?」
 タクの声に曖昧な笑みを浮かべ、ドアを開けた。

 七生と矢作が衝突するのは今回がはじめてではなかった。
 最初のうちはオロオロしていた圭だが、段々それが二人のコミュニケーションなんだと気づき最近では他のサポートメンバーのように落ち着くまで放っておくようになった。
 まず、一曲毎にアレンジでもめる。
 七生を全面に出したい矢作とそうではない七生。
 ボーカルはできるだけ圭の色を出すようなアレンジを持ってくる七生に、できるだけ七生の色を出したい矢作はノーを突きつける。
 自分のせいでもめているかと思うと最初は気が気ではなかったが、今まで一人で音楽をやってきた圭にとっては新鮮に映る部分もあった。
 矢作は「LINKS」の初期のプロデューサーでもあった。今回集められたメンバーとも旧知の仲なのだという。
 もちろん音楽界でも人気で圭もその名前と実力は知っていた。

 地下にあるスタジオなのでエレベーターを使うなら追いつけるかもしれないと、飛び出したが、非常階段でなにやら声がすることに気付いた。
 そちらかと身体を向ければ、七生と誰かが低い声で静かに口論をしていた。
「お前が碧川を押したい気持ちは分かるが、一枚目は失敗するわけにはいかないだろう?」
「……時間が無い。二年って約束だから」
「お前が勝手に区切っているだけだ。こちらは納得していない」

 葛城が七生を説得しているようだと思い、自分は出る幕はないかと気付かれる前に戻るかと踵を返そうとしたとき、物陰の二人が圭の視界に入った。

 え?
 葛城が七生を抱きしめていた。
 話をするために七生を落ち着かせようとしているのだろう。そして、自分の方に向かせるために頬に手を添えているようだが、違った見方をすれば熱い抱擁シーンに見える。
 ……そういう関係なのかな。
 ツキッと小さく胸が痛んだ。

 LINKSの活動休止中も御堂を支えてきたのは葛城だと今回集まったメンバーが言っていた。
 天の岩戸を開けたのが新人くんとは思わなかったけどね、とからかうように言われたのだ。

 まあ、俺はただの音楽仲間だからな、二人の関係がどうであれ、御堂さんに認められるような音楽を作るだけだ。
 自分に言い聞かせるように、そう心の中で決心をした。
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