Hearty Beat

いちる

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「……話題になってるね。HEARTY BEAT」
 やっぱり追いつきませんでしたと、スタジオに戻りキーボードをセットしていると矢作が言った。
 ツインギターでいきたいと言った七生を矢作が説き伏せ、結局圭はキーボードでいく事になった。
   ここでもかなり二人は衝突していて数日は険悪なムードが漂った。
   圭自身は鍵盤はそう得意ではなかったが二人で並んだ時に片方がキーボードの方が見た目が安定するのではないかと思いそう進言したのも気に食わなかったらしい。
「お前、誰のために……」
   きっ!と綺麗な顔で睨まれて、しまった、とは思ったが、今度は圭と七生の衝突が始まりそうだと察したサポートメンバーが二人に割り込み、七生は黙り込んだ。
    そもそも、七生が気に入るサポートメンバーが見つからなかったのが最大の理由なのだから、どこかで譲歩も必要だった。

「矢作さん、エゴサーしてるんですか?」
  矢作の意外な声かけに圭は少し驚いた。
「当たり前だろ、お前気にならないのか?ミドリ」
「……考えた事もなかったです」
   ソロ活動でもSNS上の自分の評判を検索した事はない。
   もちろんアカウントはあるからそこに書き込まれたコメントは読むし返事もする。
   自分のアカウントに書き込まれるコメントにも薄らと悪意が感じられる事があるのにわざわざそれを探しにいくなんて思いもよらなかった。
「呑気だな。…HEARTY BEAT、七生じゃないかというツイートも見かけたぞ」
「マジっすか?あの写真だけでよくわかりますよね」
 二人の写真をかなりぼかして編集してあり、『二人組だよね?楽器持ってるよね?』位しかわからない。
「ファンならわかるんじゃないか?…みんな七生の事、待ってるから」
『LINKS』が『休止宣言』をして丸三年。
 他のメンバーが音楽活動をしてるから七生の沈黙がファンには寂しさを感じさせていた。
 その七生が活動再開するとみんな気づけばどれだけ大騒動になるだろう。
「……待たせたあげくに俺みたいなのと組んでたら殺されますかね?」
 苦笑いしながら肩をすくめる。
「そう思うなら練習しろ」
 ばさりと楽譜が渡された。
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