Hearty Beat

いちる

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「行くぞ」
 綿シャツにジーンズを身に付けテーブルに置いてあった財布を手に取ると七生は言った。
「え?」
 まだ、準備に時間がかかるのでは?と思ってダイニングの椅子に腰掛けスマホをいじっていた圭は慌てて顔を上げる。
「髪の毛、まだ濡れてますよ?」
 ざっと拭かれて軽く後ろに流した髪型は、そりゃカッコいいといえばカッコいいけど。
 ……風呂上がりって丸わかりすぎて、なんだか。

 圭の心になぜかもや、っと心に黒い靄が生まれる。
 ちょっと無防備すぎる……

「そのうち、乾く」
 財布をジーンズの尻ポケットに入れながら圭のアドバイスをさらりとかわして本人はどこ吹く風だ。
「いや、えっと……」
 七生は男の目からみても綺麗な顔をしている。と圭は思った。
『LINKS』の頃だってモデルの真似事もしてた。雑誌の表紙を飾ったり、ちょっとしたファッションショーのランウェイを歩いたり。
 ツインボーカルの片割れ、結城は『男らしいカッコ良さ』だったが七生は『中性的なカッコ良さ』がウリだった。
 ファッション誌で、到底圭のような普通の若者では手が届かないようなブランド物を着こなしていた。

 なのに、なんなんだ、このずぼらな感じ。

 圭は自分の中の「ある部分」が引き出されるのを感じた。なので生まれた靄はひとまず横に置いておく。まずは、自分が出来ることを、しなければ。

「風邪引きますし、そのままじゃ、髪の毛跳ね放題です!」
「ああ?」
 突然の圭の剣幕にきょとんと七生が圭を見る。
「座ってください」
 ダイニングの椅子を指差し自分は洗面所へ向かう。
 
 圭には弟と妹がいる。
 まだ小学生の双子だ。
 少し歳が離れているので、仕事をしている両親はよく圭に子守を頼んでいる。
 圭自身もお兄ちゃん、お兄ちゃんと懐いてくる双子を可愛く思いあれこれと世話を焼くこともしばしばだ。
 長男故の世話焼きタイプ。
 それが友人からの評価だった。
 チーム『HeartyBeat』ではそんな自分は出してはいない。
 ハナコにとにかくおとなしくしていろときつく注意を受けたからだ。
 しかし、今はプライベートタイムである。
 七生をみているとその『長男故の世話焼きタイプ』の気質がむくむくとあふれ出てくる。
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