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圭は洗面所からドライヤーと使いかけのワックスを手に取るとリビングに戻った。
圭の剣幕に押されたのか七生はおとなしく座っていた。
叱られた猫のようで可愛いと圭は思った。
「乾かしますからじっとしてて下さいね」
毛の向きに注意をしながら温風をあてると、タオルドライで表面はある程度乾いていたがやはり内側は湿っている事に気付く。
指に七生の綺麗な髪の毛を引っかけて痛めないように慎重に作業をし、薄い毛色の若干猫っけの柔らかい髪を丁寧に手ぐしで乾かし、整えていく。
気持ちいいのか七生は何も言わずに圭に身を委ねていた。
世話焼きの気質が落ち着くとさっき横に置いた靄がふんわりと晴れていくのを感じる。
「乾きました。あとは……」
少しのワックスを手のひらに取り温めながら伸ばしていき、それをやんわりと七生の髪の毛にもみこむ。
「……お前さ、長男?妹、いる?」
されるがままになっていた七生が口を開いた。
笑いを含む声に少しムッとする
「いますよ。ちょっと年が離れていますけど。妹と弟」
「だろうな」
くくっと七生は小さく笑った。
「世話焼きだって思ったんでしょう?よく言われるんですよね。『長男だろ?』って」
「まあそれもあるけど髪の毛の扱いも丁寧だから妹の髪もやさしく解いたりしてんだろうなって、思って。弟もいるのか」
「ええ。双子の小学六年生です。そろそろ妹は髪の毛触らせてくれなくなりましたけど。御堂さんは一人っ子ですか?」
「……姉がいる」
兄ちゃんに髪の毛触られるの恥ずかしいと言われたのは去年だったか。女子は好きじゃない男子に髪の毛は触らせないんだと言われ、「好きでもない男子?」と軽くショックを受けたもんだ。兄ちゃんはいつまでも大好きな妹だぞと思ってるんだけどなあと言ってやろうかと思ったが、成長もしているんだと嬉しく思った。
……好きでもない人に髪の毛は触らせない。
妹が言った台詞をもう一度心の中で反復する。
ということは御堂さんには嫌われていないということ、かな。
「可愛がられてた弟って感じですか?さて、いいですよ」
前髪を軽く上げて、決してカチカチに固める感じじゃなくふんわりとワックスをきかせまとめた髪型は七生に良く似合っていた。
「うん、御堂さんって感じ」
圭が満足気に頷くと一瞬顔を曇らせて七生が訊いた。
「……どんな俺?」
「ワガママだけど絶対って決めてることがあって……なんか、絶対折れない感じ」
「え?」
予想もしなかった答えをもらったように七生は目を瞬かせる。
「ちょっと額出しましたからね、御堂さんの強い感じがさらに強調されるというか……」
どう考えても褒められているとは思えない言葉に七生はムッと唇を尖らす。
しかし、そう言われることが少し嬉しかった。『LINKS』での七生の立ち位置はどちらかと言えば儚く華奢なイメージを保つことを強要されていた。しゃべると思ったよりも声が低いため必要以上にしゃべるなとも言われていた。歌うんだからそういうわけにはいかないのに。ワガママで強いのが「七生らしい」なんて。
『そういう強いところが、俺の好きなナオ』
不意にそんな事を言われた『声』を思い出す。
思い出さないようにしていたのにと、唇の内側をかみしめ、閉ざしていた記憶がこれ以上心を支配しないように軽く頭を降る。
圭には気付かれていないようだと、「お前さ、褒めてんの?けなしてんの?」
と、不機嫌さ全開で圭に詰め寄った。
「どちらかと言うと、けなしてるかも、ですね」
そんな事は気にもならないように圭はからかうような声色を出し、圭はちらりと七生に視線を流す。
「はあ?」
「……だって、その気の強さで矢作さんと衝突してばかりで……」
圭は七生の手首を取り椅子から立ち上げさせた。
ギターを支えているのが不思議なくらい細い手首を少しだけ力をこめて握ると、背中を少し丸めて視線を七生に合わせる。
少しだけ茶色い瞳にじっと見つめられると、七生は自分の頬が赤くなるのを感じた。
どくり、と、胸の鼓動が一飛びする。
その高鳴りの意味に気付きたくなく、慌ててうつむき表情を隠す。
離せとばかりに七生が手を引けば、圭はにっこりと笑いパッと手を離した
「……一応、俺もHEARTYBEATのメンバーなんです。もう少し、御堂さんの考えてること教えてください。それに……なんだか皆して御堂さんを迎えに行けっていうだけで、なんで俺が派遣されたのか全く分からなくて」
迷指に七生の綺麗な髪の毛を引っかけて痛めないように慎重に作業をしていく。
惑をかけられたのは自分だと言わんばかりに肩をすくめる。
確かに、付き合いの浅いコイツに、みんなは面倒事(おれ)を押し付けたわけだもんな。そう思えば少しだけ七生の中に圭に対する申し訳なさが芽生える。
ある程度音楽活動をやっているとは言え今までの圭の活動は素人が少しだけましになったようなモノだ。いきなりプロの世界のやりとりを見せられても面食らう事も多いだろう。
少し、ちゃんと向き合わなければ。
そう、七生は思った。
「……すまん、説明する」
つい声が小さくなる。
「飯食いながらでいいですよ。行きましょう?」
圭はさっさと玄関に向かった
圭の剣幕に押されたのか七生はおとなしく座っていた。
叱られた猫のようで可愛いと圭は思った。
「乾かしますからじっとしてて下さいね」
毛の向きに注意をしながら温風をあてると、タオルドライで表面はある程度乾いていたがやはり内側は湿っている事に気付く。
指に七生の綺麗な髪の毛を引っかけて痛めないように慎重に作業をし、薄い毛色の若干猫っけの柔らかい髪を丁寧に手ぐしで乾かし、整えていく。
気持ちいいのか七生は何も言わずに圭に身を委ねていた。
世話焼きの気質が落ち着くとさっき横に置いた靄がふんわりと晴れていくのを感じる。
「乾きました。あとは……」
少しのワックスを手のひらに取り温めながら伸ばしていき、それをやんわりと七生の髪の毛にもみこむ。
「……お前さ、長男?妹、いる?」
されるがままになっていた七生が口を開いた。
笑いを含む声に少しムッとする
「いますよ。ちょっと年が離れていますけど。妹と弟」
「だろうな」
くくっと七生は小さく笑った。
「世話焼きだって思ったんでしょう?よく言われるんですよね。『長男だろ?』って」
「まあそれもあるけど髪の毛の扱いも丁寧だから妹の髪もやさしく解いたりしてんだろうなって、思って。弟もいるのか」
「ええ。双子の小学六年生です。そろそろ妹は髪の毛触らせてくれなくなりましたけど。御堂さんは一人っ子ですか?」
「……姉がいる」
兄ちゃんに髪の毛触られるの恥ずかしいと言われたのは去年だったか。女子は好きじゃない男子に髪の毛は触らせないんだと言われ、「好きでもない男子?」と軽くショックを受けたもんだ。兄ちゃんはいつまでも大好きな妹だぞと思ってるんだけどなあと言ってやろうかと思ったが、成長もしているんだと嬉しく思った。
……好きでもない人に髪の毛は触らせない。
妹が言った台詞をもう一度心の中で反復する。
ということは御堂さんには嫌われていないということ、かな。
「可愛がられてた弟って感じですか?さて、いいですよ」
前髪を軽く上げて、決してカチカチに固める感じじゃなくふんわりとワックスをきかせまとめた髪型は七生に良く似合っていた。
「うん、御堂さんって感じ」
圭が満足気に頷くと一瞬顔を曇らせて七生が訊いた。
「……どんな俺?」
「ワガママだけど絶対って決めてることがあって……なんか、絶対折れない感じ」
「え?」
予想もしなかった答えをもらったように七生は目を瞬かせる。
「ちょっと額出しましたからね、御堂さんの強い感じがさらに強調されるというか……」
どう考えても褒められているとは思えない言葉に七生はムッと唇を尖らす。
しかし、そう言われることが少し嬉しかった。『LINKS』での七生の立ち位置はどちらかと言えば儚く華奢なイメージを保つことを強要されていた。しゃべると思ったよりも声が低いため必要以上にしゃべるなとも言われていた。歌うんだからそういうわけにはいかないのに。ワガママで強いのが「七生らしい」なんて。
『そういう強いところが、俺の好きなナオ』
不意にそんな事を言われた『声』を思い出す。
思い出さないようにしていたのにと、唇の内側をかみしめ、閉ざしていた記憶がこれ以上心を支配しないように軽く頭を降る。
圭には気付かれていないようだと、「お前さ、褒めてんの?けなしてんの?」
と、不機嫌さ全開で圭に詰め寄った。
「どちらかと言うと、けなしてるかも、ですね」
そんな事は気にもならないように圭はからかうような声色を出し、圭はちらりと七生に視線を流す。
「はあ?」
「……だって、その気の強さで矢作さんと衝突してばかりで……」
圭は七生の手首を取り椅子から立ち上げさせた。
ギターを支えているのが不思議なくらい細い手首を少しだけ力をこめて握ると、背中を少し丸めて視線を七生に合わせる。
少しだけ茶色い瞳にじっと見つめられると、七生は自分の頬が赤くなるのを感じた。
どくり、と、胸の鼓動が一飛びする。
その高鳴りの意味に気付きたくなく、慌ててうつむき表情を隠す。
離せとばかりに七生が手を引けば、圭はにっこりと笑いパッと手を離した
「……一応、俺もHEARTYBEATのメンバーなんです。もう少し、御堂さんの考えてること教えてください。それに……なんだか皆して御堂さんを迎えに行けっていうだけで、なんで俺が派遣されたのか全く分からなくて」
迷指に七生の綺麗な髪の毛を引っかけて痛めないように慎重に作業をしていく。
惑をかけられたのは自分だと言わんばかりに肩をすくめる。
確かに、付き合いの浅いコイツに、みんなは面倒事(おれ)を押し付けたわけだもんな。そう思えば少しだけ七生の中に圭に対する申し訳なさが芽生える。
ある程度音楽活動をやっているとは言え今までの圭の活動は素人が少しだけましになったようなモノだ。いきなりプロの世界のやりとりを見せられても面食らう事も多いだろう。
少し、ちゃんと向き合わなければ。
そう、七生は思った。
「……すまん、説明する」
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