ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第五章 期末テスト大騒動

第16話 結局うちの婚約者が最強

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 期末考査の全ての試験が終了すると、学院にはややダルっとした空気が漂った。

 翌週、一週間をかけてペーパーテストが返却され、さらにその次の週に終業式及び収穫祭、そして成績の順位発表が行われる。

 バルバディアは単位制であるため、成績発表は単純なテストの点数ではない。全ての教科の試験結果を集計し、得点率を割り出して、その率が高い順から発表される。
 終業式当日の朝、各寮の掲示板に、学年順位が五十位までと、寮内順位が十位まで貼り出されるのだ。で学年一位と寮別の一位は終業式で表彰があるというわけ。

 その翌日から生徒たちの帰省が始まり、三日後には生徒寮が閉鎖され、先生たちは自分の研究に没頭。俺たちは実家に帰って、約ひと月の長期休暇を過ごすこととなる。



 魔法学Ⅰ(R)の試験がアレだったので、もう諦めもついていたのだが、俺はというと。



「…………学年二十二位」
「いや、魔法学Ⅰのテストでコースアウト時間切れのわりに凄いと思うよ?」
「十五位に励まされるなんてこの上ない屈辱だ……」

 やはりあのコースアウトが響きに響いた。
 結局あのあと時間切れによって捜索隊が組まれて、イルザーク先生やアキ先生、すでにテストを終えていたアデルやトラクが深奥の森に捜しにきてくれた。
 城下町で麻薬を売りさばいていた四回生四名を確保した、その功績については一応褒められたが、それはそれ、これはこれ。

 試験の結果は『十五問中八問解答、ゴールならず』。
 他の試験のペーパーテストはほぼ満点、魔術学や魔法薬学基礎なんかの実技系試験も満点近かった。
 多分魔法学Ⅰでコースアウトしなければ学年一位か二位は獲れた。

「なにが悔しいって一位がアデルだということだよ」
「うん……只人が入学ってだけでも前代未聞だけど、これは後世に語り継がれるだろうねぇ……」

 学年十五位のトラクもさすがに遠い目になっている。

 そんな具合にメンタルべっこべこのまま終業式に出席。表彰される三回生首席の兄貴に拍手を送り、一回生首席であったアデルのことは無心で見守った。一応拍手はしたけど。

 ちなみに当然だがリディアは順位表には載っていない。
 何位だったんだろう、あの爆発魔……。

 終業式後は寮に戻って、ホームルームみたいな集会があった。
 寮長や寮監から、休暇中の注意事項や後期開始日程などが知らされる。気づいたら終わっていた。ボケッとしていて全然話を聞いていなかった。

「ニコ?」

 寮生たちが移動しはじめても動かない俺を、エウがちょいちょいっとつつく。

「あ……全然聞いてなかった」
「うん、ぼんやりしてたね。珍しい」
「二十二位がショックで」
「じゅうぶんすごいと思うけどなぁ」

 そんなエウはぎりぎり学年五十位に名前が載っている。
 ペーパーテストでけっこう点を落としたものの、幼い頃からの魔力制御訓練のおかげでコントロールが卓越している彼女は、実技では全て満点を叩き出していた。

 このあとは、大食堂とその中庭で収穫祭が行われる。
 会場に向かう寮生たちの流れを見送って、俺たちは最後尾からのんびりと追いかけた。

 収穫祭は凍季が明けて五ヶ月の節目に、ベルティーナ全土で開催されるお祭りだ。
 第二の月から始まる農作業が、第五の月の終わりに第一弾の収穫を迎えてひと段落、前期の実りに感謝し後半もよろしくと神さまにお願いするというもの。

 内容としてはまず祈りの時間があって、あとはごはんをいっぱい食べて、火を焚いてその周りで踊って……こう言うとキャンプファイヤーみたいだけど、そんな感じだ。

 大食堂の中庭に到着したところで目に飛び込んできたのは、いがみ合うリディアとデイジーであった。

「あぁら只人さんじゃないですの。あなたのうっかりのせいでニコラまでとばっちりを喰ったというのに、よくもまあ呑気に収穫祭に顔を出せましたこと!」

「あぁ~~らデイジーさんじゃないの! 毎度毎度人を扱き下ろす語彙が豊富で羨ましいこと!」

 リディアの反論がパワーアップしている……。
 こうして主人公は強かになっていくのだなぁ。

「偉そうに! 一体学年で何位だったのよ、言ってごらんなさい!」

「ふっ、聞いて驚くなかれ……。堂々の最下位よ、当たり前でしょ!! これで私より成績の悪い子がいたら逆に心配だわ!!」

「確かにそうですわね」

 デイジーもそうなんだけど、アロイシウス棟事件のホーディー少年然り、麻薬売人の四人組然り。


 どいつもこいつも俺より悪役らしいことしてんじゃねぇよと。
 俺はニコラ・ロウだぞ。いずれは魔王軍に寝返って暗躍する予定(予定は未定)のニコラ・ロウ様だぞ。なんでおまえら俺より悪役っぽいんだよ。


 あとリディアは開き直るな。

「大きな声で恥ずかしい成績を暴露して、恥ずかしくないのか」
「出たわねニコラ・ロウ!!」
「開き直って大声で学年最下位の順位を暴露している暇があったら、そのヘッポコ魔術をどうにかする方法を考えたほうがいいんじゃないのかい、最下位さん?」

 隣にいたエウが「もー、ニコってば」と呆れ顔で俺の腕を引く。
 が、リディアと俺の顔を見合わせると、なんだか困ったように笑った。

「ケンカするほど仲が良いとはよく言いますが……」
「「仲良くないっ!!」」
「似た者同士なのね、きっと」
「「似てないっ!!……真似するな!」」

 エウはふふっと肩を竦める。
 美少女天使の微笑みに勝てる口論などあろうはずもない。俺はもちろん、リディアまで口を噤んだ。
 エウフェーミア、恐るべし。

「ごはん、食べよ。収穫祭だから、今日はケンカ禁止。ニコも、リディアさんも、デイジーさんも。ね?」

 はい。
 殊勝にうなずく俺、リディア、つられるデイジー。

 微笑むエウの向こうから兄貴が手を振っているのが見えた。トラクやアデルもなんだかんだで食事にありついている。バルバディアに入学して知り合ったロロフィリカも、エウの同室のミーナも、アンジェラ先生もアキ先生も、前期が終わる解放感に浮かれているようだった。


 ふ、と大きな翳が落ちる。


 見上げると、大きなおおきな〈天海のくじら〉が、バルバディア生の前期の奮闘を讃えるように天海を遊泳しているところだった。その巨体をくるりと一回転させながら、尾びれで天海を勢いよく叩く。

 一拍遅れて細かい霧雨が降り、上空には虹がかかった。

「……天海のくじらの、今日も変わらぬ恵みに感謝します」

 エウが胸の前で両手を組んで目を閉じる。

「明日もまた変わらぬ幸いに、祈りを」

 その長い睫毛が僅かに震える様子をじっと見下ろしながら、俺もまた目を伏せた。


 明日もまた変わらぬ幸いに祈りを。



 そんなこんなで俺、ニコラ・ロウの──
 華麗(に)なる(予定の)悪役生活の前半分は、終わりを告げたのだった。
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