祈り姫☆恋日和

花咲マイコ

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香茂家の事情

母の寿命

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「母さんはあと八年しか生きられないの…」

 母は悲しげな雰囲気を消すように努力しているが、無理だった。

 そう告白した原因は、兄弟喧嘩。
「兄ちゃんなんか死んじゃえ!」
「薫みたいな馬鹿な弟なんか嫌いだっ!お前こそ死ねっ!」

 簡単に【死ね!】という悪役のセリフのアニメの影響で簡単にそんなことをいい些細な喧嘩をした。

 そんな喧嘩を続ける二人の息子にずっと黙っていようと思っていたことを告白した。

 母は桂と薫の悲しげな顔を見ると涙があふれる。

「そんな!かーさんもっと生きてよ!
 死んじゃうのやだ!」

 僕はさっき言った言葉を後悔しながら泣き出して母の胸で泣くしかも大声で…いつもいろいろ我慢している事もはき出すように…

「やだよお!死なないでよ!」
 薫も僕と同様に泣きじゃくる。

「……でも、誰しもいつかは死んでしまうの。」
 二人の愛しの息子をぎゅっと抱きしめて、
「それがいつになるか、普通は、わからないことだけど、かーさんはわかるんだ…」
 涙をあまり見せたくない母は笑顔を僕達にむけて、

「だから、限られた時間仲良く幸せになろうなっ!」

 その日から死という言葉はタブーになった。

 精一杯、母との時間を大切にしたいがために父と喧嘩したこともあった…

 父は卑怯にも深夜になると能力を使って子供たちを眠りに落とした事は言うまでもないが…
 でも家族全員で抱きしめあって抱擁して幸せな時間を絶対に忘れない…



 半年前から体を壊し寝込んでいた母は死期を悟った…

 とても苦しそうにしていた時もあった…

そのたびに死なないで…!

 と祈り願わずにいられなかった。

 本当は半年前に死ぬはずだったのを今日まで堪えたらしい…


「最後は父さんとと決めてるんだ。」
 弱々しく微笑んで告げる。

「これで、サヨナラになるけど、お前達には私が見えれば会えるから……寂しく思わなくていいよ。桂…薫をよろしくね…薫も元気で長生きしてね」

 父はガチャリとドアを開ける。
 父との約束で、最後は母と二人にする。

 悲壮な顔した父か部屋に入ってくる。
 辛いと伝わる。
 共に死のうともしている。

覚悟はできている……

 それほど愛しているのだ
 母を……

 窓の方を見ると母は微笑み、空に上がっていくのが見えた…
 魂の母はこちらを見ようとしない…
 いや見るのが辛いみたいだ…

 母が亡くなって苦しいほど悲しいけれど……

 ドアの向こうで、父が声を殺して泣くのを見る方が胸か痛くて悲しくて辛かった……

 もう、こんな経験したくない…させたくない…

 僕は強くそう思った…


 父は僕達に暴言を吐いて、
 祖父の家に預けた。

 しばらく一人で屋敷にこもっていたらしいが、東親王殿下の命令で宮中に出仕して息子二人に会おうとはしなかった。

 家はこのまま、父の物忌期間の別荘のような感じだ。

 僕たちもたまに帰るけれど父と会いたくなくて日にちをずらす…

 母が亡くなって半年後、誰もいない実家に帰ると、

「おかえり。桂!」
「か、かぁさん!?」
 しっぽときつね耳のあやかし姿の母に抱きつかれる。

 僕も母を抱きしめようとしたら、スカッと空をきる。

 ほんとに会えたけど、もう生きてない幽霊だと思うと悲しい。

涙が溢れる…
 そんな涙を拭くことはできるのか拭っておでこにキスをしてくれた。

「しつれいな。私は今神の御使いをしてるんだぞ。しかも、縁結びのお狐さまだぞ!」
 ふふんと、腰に手を当てて胸を張り自慢する。
 大きな狐のしっぽが揺れる。

「そ、そうなの?生まれ変わらないの?」
 母は黄泉に行ったのことがあるとか聞いたことあるけど…
 行かなくてもいいものなのだろうか……

「うふふ。私はイザナミ様、ククリ姫様に気にいられてね。
 縁結びの仕事を手伝っているんだよ」
「そうなの?す、すごいね」

「ルカの神の眷属として特別に瑠香が寿命を全うするまでこの世にとどまる契約してるんだ。
 とーさんには私の姿は現実では見えない意地悪されてるけどね…」

 瑠香が誓いを破った代償の一つだと言うけれど、優しいルカの神の計らいらしい。

「瑠香はまだ神の化身で寿命もながいから、あの世に行く時間を待つ代わりに仕事をしてるんだよ。」

 母は生きている頃より若く二十歳くらいに見える。
 とても元気そうだ。
 最後の母の苦しそうな姿を忘れてしまうくらいに。

「お前も好きな子ができたら縁を結んでやるからなっ!」

 そう言って頭を撫でて抱擁して、今日は特別、僕だけの母としてそばにいてくれて嬉しかった。

 それに、母さんはいつでも母さんだと思うと安心した。

 僕だけの母さんになったのはこの日が初めてかもしれないと思う…

 ずっと父が母を独占してたから…

だから、

 この事は僕は父さんに言わない。
 
 僕の意地悪は父さん似なんだから…
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