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14、三つの夢
しおりを挟む僕に与えられた仕事はメニュー表の料理を作り運ぶ仕事だった。
おカマバーをやっている時間だけだったけれど、お客さんに気を使ったり身体を触られたり、絡まれたりした。
とにかく疲れた…仕事ってこんなに疲れるものなのか…
帰ったきたのは7時頃…朝までやってるなんて…
ホストの時はホステスのお客を相手にするらしく朝10時までやっているらしい。
僕はベットに倒れ込むと深い眠りに落ちた……
人間寝ている間に3回夢を見るという…
その3回のうち一つはすずさんと初めてあったあの日のことだった。
季節は梅雨。
雨にぬれた僕を家に招いてくれた。
僕はおずおずしながら、すずさんの家にはいった。
「あ!」
と声をあげたのはすずさんだった。
部屋の中はゴミだらけでお世辞に女の人の部屋とは言えるようなものじゃなかった。
すずさんは顔を赤くして、そのゴミのことは口にはださずに、ニコニコしながら僕にお風呂を炊いてくれ入れてくれた。
お風呂も綺麗とは言えなかったけど、とても体があったまったし、とても感謝して、心にもジ~ンと暖かさが染み渡っていた。
そんな中……
「も~~~~!!私のバカ!!はっずかしい!!」
と、どなり叫ぶ、すずさんの声がお風呂場にも響いた。
もう十分暖まったので、着替えてすずさんのところにいくと、ゴミが倍にふえていた。
ゴミ袋の中身が散乱していた。
すずさんは、自分自身への怒りに髪をぐしゃぐしゃとかき乱していた。
僕は一瞬いるんだ。
正直……恐かったから。
「あの~手伝いましょうか?」
すずさんはこちらを見ると顔が真っ赤でちょっと涙ぐんでいた。
さっきの後ろ姿は鬼のようだったけど、かわいいと思った。
すずさんは恥ずかしがりやさんなんだ……。
「いいわよ、あんたはお客さんなんだし……って名前聞いてなかったわね」
「ぼくはカイトといいます」
「年は?」
「十六です…」
「六才も年下なんだ~私は寺乃すずよろしくね」
と軽く自己紹介をし、ゴミの山を片付けようとすればするほど散らかっているようだった。
僕は見兼ねて掃除を手伝った…というか僕一人でほぼ片付けた。
「すごいわね~カイトくん。掃除の天才だわ!!」
本当に感心したように手を叩いて喜んでくれた。
それが僕もうれしかった。
少しでも恩を返した気もしたし、すずさんに誉められたから……
「御飯かってきたわよ~コンビニ弁当。私、料理できないのよ」
「そんな感じはしますね。」
と、つい口にだして、キッと睨まれた。
「ごめんなさい……」
すずさんはふっと柔らかく微笑んだ。
「本当のことだから仕方ないわよね。さ、食事にしましょう」
ひさしぶりの御飯は普通のコンビニ弁当だったけれど今まで食べたご飯よりもとても美味しかった。
それは、一人じゃなかったからかも知れない。
すずさんは僕がまだ半分食べている間にすでに食べ終わっていた。
爪楊枝で歯につまったモノを取っている姿は、初めて会った時の女性らしさとはかけ離れていた。
一瞬この人は性別を間違えてうまれてきたのではと思ってしまった。
「そういえばさ、カイトくんって帰る家ってないの?だから、あんなところで凍えてたの?」
「はい……住んでいたところは在ったんですけど……叔母が僕のこと迷惑がってるのがわかってたから、自分からでいったんです」
僕はうつむいて、そのことを話した。
叔母夫婦と従兄弟達とすんでいた。僕をこき使いながら邪魔者だと思っていたのは分かっていた。
だから、中学卒業した日にでていった。
高校も金がかかるから行かせたくない様子だったから…行かなかった。
でも、こんな針のむしろなようなところにいるのは馬鹿馬鹿しくなってでていったのだ…
「で、行くとろ頃がなくてあんな所で座り込んでいたというわけね」
「……はい」
しばらくの沈黙の後すずさんが、机に頬づえをついて、言った。
「じゃあ…私のところに住む?」
「え?」
「あんた、行くところないんでしょ?帰りたくないんでしょ?」
「はい……」
「じゃあ、決まり。私のところにいなさい。」
にんまりと微笑んでそう命令した。
「でも……まずくないですか?僕…男だし」
「不貞なことしたら、追い出すから安心して」
「は、はい」
そのときは、
「そういうことは、決して」と心の中で呟いた。
「それと、家政婦みたいなことやってくれればいいからさ。」
そういって、微笑むすずさんが大天使にみてた。
僕に居場所ができたことが嬉しくって涙がこぼれた。
「は、はい…ありが…とうございます」
「あ~!も~!男の子なんだから、泣かないの!」
すずさんは僕の顔をハンカチで拭ってくれた。
姉のようであり、母のようだと感じた。
心地の良い居場所。やっていることは叔母の家と変わらなかったけど。
心地が全く違った。僕の居場所って感じがしたのはすずさんの所がはじめてだった…
姉や母と同じ家族としての一線をこえなければ…ずっといられたのに……
嫉妬の余り、あんな不貞なことをしなければ…
あの時のすずさんが夢の中でまた再現されている。
すずさんに無理矢理キスしたシーン。
キスをするのは初めてだったけど、激しく唇を奪った…
ドキドキして…たまらなくて…
自分の方に心を向けたくて…あのヒカルさんに負けたくなくって。
すずさんの腕の震えが伝わって腕をはなした。
すずさんは消えた。僕への信頼がきえるように…
そして次の瞬間、ヒカルさんがあらわれて、あの不敵な笑みを僕に向ける。
その腕にはすずさんがいた。
二人はどんどんとうくなっていく…
「まって!いかないで!!もうあんなことしないから!!」
追い掛けようとしたが、いきなり圧し潰されそうなほどの重圧感がおそってきた。
「俺たちがカイト君といるいからいいじゃ~ん!」
「いいじゃ~~~~ん!」
「いいじゃ~~~~ん!」
僕は突然あらわれた真一郎さんと双児に羽交締めにされた!
どんどんすずさんが遠くなっていく……
「俺達の家が新たなカイトくんの居場所なんだからさ~」
「からさ~!」
「からさ~!」
確かに、真一郎さんは善い人だし、双子達もかわいい、家は豪華なマンション…
けど…
僕が一緒に暮らしたい人はすずさんだけ…ボロくってちっちゃなアパートでも……
僕は…すずさんとずっと…
「すずさんと暮らしたいんだ!!!」
と自分の叫びで起きてしまった。
「カイト起きた?」
「おきたおきた!沖田ソウシ!」
双子たちが僕の上に馬乗りになってキャッキャと自分達で言った駄洒落に笑っていた。
どうりで、重苦しい夢や、悪夢を見ると思った…
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