上 下
10 / 37

10★魔女の眷属

しおりを挟む
 オーネはドレスをたくし上げて、黒タイツを穿いていた。
 そして長くしなやかな足を顕にさせて、片足立ちをすると、
「ゔぉおりゃあぁぁっ!」
 と、男のように唸り叫び
 勢い良く重たく分厚い鉄の扉を一蹴りし扉をブチ開けた。

ドォン!
 と鉄の扉は内側に倒れ煙を立たせた。
「すごい、これも魔女の力………?」
「まぁ……そうよっ!すごいでしょ!」
 オーネはしまった!と思いつつも開き直った。
 マントのフードの中に入っている小鳥のボースに頭を何度も突かれた。
《また、変な伝説できちゃうじゃないか!》
 オーネの外見は自分が望む姿だが中身は少し頭が足りないのではないか?
 というほど能天気なところがある。
 ボースの美しき身代わりになってほしいのに成長して男らしいところ出てしまう所が悔しくて八つ当たりをしてしまう。
 小鳥になって姿を表さない、コンプレックスな己が一番の原因だとわかってはいるが……気が済むと先に進むように促す。
《慎重にして……ここは使い魔の群れだよ……》
 塔の中の暗闇から赤く光る瞳がこちらを睨む。
 そして、襲い掛かってくる。
 オーネめがけて跳びかかってきたのはゴブリンとされる妖精だ。
 家に住んだり、森に住む妖精の種類だが、魔女の眷属にされたために人を喰らう魔物になっている。
 ボースは自らに魔法をかけているために、この魔物たちを一掃する力を使うのならば、正体を表さねばと思っていたが、クララが目の前に立って、瞳を煌めかせて何やら唱えると魔物は闇の影に消えていった。
「……クララ、あなた一体…」
 オーネはクララの力に驚く。
「一応、シスター……ですから……」
 とクララは誤魔化した。
「それに、わたしも覚悟を決めてるんです。神父様を…みんなを救いたいのです…」
 だけど、母とは本能的に戦えないとわかっている。
 だから…
「母を…魔女をお願いします!」
「ええ、わかったわ!」
 そういい、魔女のいる塔の最上階を目指した。



 悪魔の魔女はベッドにすわって足を組み二人が来るのを待っていた。

「わが愛しの娘…帰りが遅かったわね…」
 クララはゾッとする。
 母の座るベットの壁に神父が磔にされている。
 手首に釘が刺されて痛々しい。
 何日も飲まず食わずだということがわかるように衰弱しているようにも見える。

「あれが、クララの愛する神父様?お爺さんじゃない?」
 八十近くに見える神父をみてオーネは素直な感想を口にする。

「ああ…っ!神父様…っ!神父様を離して!お母様っ!」
 思わず駆け出し母親に襲いかかる。
 クララは母の上半身をベッドに倒して馬乗りになり首を絞める。
 我も忘れて、瞳を炎が揺らめくような金に煌めかせて本気で殺そうとする。
 神に仕えるシスターとしてはあるまじき行為でもある。

「ふふっ…威勢のいい事ね……あなたは私に逆らえると思ってるの?」
 悪魔の魔女である母の力の差に勝てるわけないのはわかっていた。
 瞳を合わせるとクララは腕の力をなくして、その場に倒れ込む。
「この神父はお前へのプレゼントよ…私と同じ悪魔の魔女になるためのね…」
 優しく悪魔の魔女は娘の頭を撫でる。
 今は血肉を分け合った母娘ではないが娘に変わりない。
 娘に甘かったからこそ、裁かれたことを思う。
「その神父の血肉を持って今度こそともに魔女に…悪魔になればいい……そうすればもう裁かれることはないのだから……」
 これは母としての愛情、まだ人としての枷があるのかと苦笑する。

「そうはいかないわ、あなたを裁くのは神父じゃないんだからっ!」
 オーネは腰に手を当ててビシリっ!と悪魔の魔女に人差し指を指す。
「【魔女を裁く魔女】である、あたしがあんたを裁くために来たのよ!」
 悪魔の魔女は、オーネをねめつける。
 悪魔の魔女は自分は色気のあって美しい容姿だと思うが、オーネの神がかった美しさに見惚れてしまった。
 悔しいという感情はなく、素直に受け入れてしまう。
 オーネはそれほどの存在なのだ。
 けれど悪魔の魔女には簡単にばれてしまった。
 彼は女ではない……と……
 悪魔の魔女はぺろりと唇を舐めた。
 ベッドに座っていたはずの魔女はオーネの前にスっと瞬間移動をして近づいた。
「っ!」  
 あまりの速さにオーネは驚き体を固くする。
 オーネの滑らかな頬を両手で撫でる。
「あなた、美しいわ……【魔女】なんて偽りをやめて、男として私のモノになりなさい。」
 その声音は艶っぽくも強い命令を発する声音。
 この声、悪魔の魔女の命令に逆らえない男は一人としていない。
 だが、
「お、こ、と、わ、り、」
 オーネは、ニコリと美しく微笑み右手のひらを振り上げてバシン!と魔女の頬を打つと魔女は壁に叩きつけられた。
「!」
 オーネの瞳はとても冷たく魔女を見る。
「あたしはすでにボースのものなのよ!クソババア。」
 声も冷たく容赦なく口悪く言い放つ。
 オーネの馬鹿力で普通の人ならば気絶だけではすまないだろう。
 悪魔の魔女の体は塔の壁にめり込んでいる。
 けれど、彼女はむくりと起き上がる。
「悪魔に、逆らわないほうが身のためよ…ボーヤ……」

 魔女の顔は蛇そのものになり、皮膚も蛇の鱗のように変化する
 さらにその鱗は鋭く皮膚から捲り上がるとオーネ目掛けて襲ってきた。
 オーネは素早くそれを避ける。
 魔女の体から発せられた鱗は壁に思いっきりのめり込んだ。
 当たったらひとたまりもないだろう。
 それに煙が出て刺激臭がする。とても、気分が悪くなるような思い匂いだ。
「オーネ!嗅ぐな!」
 小鳥のボースは頭を突く。
 魔法の口先は解毒にもなる。
「ごめん。」
「これに当たったら、魔法が効かないオーネといえど、タダじゃすまないよ!」
 悪魔の魔女が放ったのは魔のエネルギーで自ら発生させたものだからだ。
「すばしっこいのねぇ…」
 魔女は、クララを指差すと、気絶していたクララは目を覚ます。
 瞳孔は猫のように縦に煌めきそして猫のように素早く、オーネに蹴りを入れて壁側にふっ飛ばした。
「うっ…クララってば、はしたないわよ…」
 オーネに負けないほどの馬鹿力だった。
 それだけではなく足の底を壁につけて普通に立ってオーネの首に、腕を巻き付けて引き上げる。
 オーネの足が地につかないところまで持ち上げぶら下げる。
「グハッ…クララ…!」
 首が締め上げられて苦しい。
 魔法が効かなくても物理攻撃ならば効果はあった。
「眷属にされた人間は人以上の力を発揮することができるんだよ」
 とボースは冷静に言った。 
 それはオーネも一緒だ。
「いい子ねクララ、さすが私の娘だわ」
 悪魔の魔女は満足げだ。
「もう一度だけ、問うわ…あなた、私のものにならない?かわいがってあげてよ…?」
 また体から鱗を出す姿勢だ。
「何度でも言う…あたしの心は【魔女を裁く魔女】のものなのよ!」
 心変わりなんて絶対にしないんだから!
 と言葉にしようとしたらクララに首を思いっきり締められて声が出なかった。
「そう……私のものにならないのならば殺すのみ!その美しい体をあとも残らないほど切り刻んでやる!溶かして存在自体消してやる!」
 悪魔の魔女は体から毒の鱗を放った。
 けれど、オーネのかぶっていたマントが風を纏うように膨らみ鋭い鱗を包み込み勢いを殺して鱗は地に落ちると煙を発して消えた。
 始めに発した鱗はまた石壁に刺さっているというのに…
 ありえないことに悪魔の魔女は目を見開いた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

祈り姫

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:38

あやかしと神様の子供たち

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

星を眺めて花が咲く☆あやかしと神様番外編

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

陰陽師と伝統衛士

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

狐のお姫様とキスの魔法

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

憑かれて恋

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:109

処理中です...