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あやかしと神様の恋縁(こいえにし)

13☆阿倍野家

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 もと香茂の屋敷なので瑠香は懐かしく思うし幼い頃、親戚たちが大広間に集まって宴をしていたことを思い出す。

 ジジ様の娘は葛葉子の母だけだったが、ババ様の連れ子は三人いた。
 みんな娘でホントの親子のように仲が良い。
 さすがに、連れ子の叔母にはスケベなことはしない。
 心掛けているらしい。
 その叔母の一人が香茂の一族と結婚して子供たち三人来ている。
 瑠香は知った親戚の顔があって安心して、挨拶する。
歳は近いし、昔は良く遊んだ。
 集まりであえば仲良くしてる。
 葛葉子もどきどきと挨拶する。

「阿倍野家に帰ったら魔物屋敷で困っちゃうわよ!でも、勇気を振り絞って一歩入ったらお義父さんの異界でよかったわ!」
「あら、ほんと、母さんそっくり!」
 ベタベタ瑠香は触られる。
 男だけど懐かしく思われるのは悪くない。
 ルカの神もふふふと、笑って懐かしそうだ。

「血筋ねぇ、母さんそっくりさんが好みだったの?ハコちゃんは?」
 叔母たちには、葛葉子は、『ハコちゃん』
と呼ばれているらしい。

「うーん。そうなのかなあ?でも素敵でしょ?」
 葛葉子は、自慢する。

「母さんそっくりなお婿さんねぇ…」
 叔母たちは複雑らしい。
「でも、ハコちゃんが好きになった男の子なら歓迎するわ。」
 親戚みんな明るかった。
 まるで、ウカ様の異界で出会った狐たちのようだ。

 ジジ様の娘以外にも懇意にしている遠い血縁者がきているらしい。



「もう、この屋敷は頭首になった威津那のものになってしまったからな。」
 ジジ様は口に加えていた煙管を吹いた。

「ほっといて、いいのですか?」
「穢れを祓うほうがもう難しいなら朽ちるまでだ。
 家がなくても人が残ればそれで良い。」
 ジジ様の意見はさっぱりしていた。
 だが、眉間にシワを寄せ

「もう、当主ではなくなったワシが手出しすることはできなんだ。したくもないしの。
 威津那はとても力がある。ハルの神の力を身に留めるほどにな。」
「ハルの神の力を?」
「晴房が生まれる前は威津那が依代だったのだよ」
 それは、父に聞いたことがある。
 父も対として、瑠香が誓いをするまでルカの神を宿していた。
 日和国は光と影…陰陽の理を重要視しているところがある。
 対比であり比和。対立するもの欠けては自然の理は成り立たない陰陽の理を大切にしている。
 表裏一体になると、どの国より最強になる。
 皇を守る誓が必要だが……
 それで、裏に関わる一族が神誓の依代として皇の世を守る役目を担っている。
 晴房がハルの神そのもの力を宿し最強なのもそのためだがその力を分祀のような形で持っているということかと瑠香は思った。
 威津那は瑠香の対でもあるということかと考えた。



「さらに、狐を操る術に長けたイズナ一族の上に、『先見』の力は並外れておる…」
『先見』は占術道具を使わずとも、未来が見える力だ。
 占い主とする陰陽師には憧れな力だ。

「先を見すぎて、己を失うことは多々あったが橘がいた時はその力が押さえられていたのじゃ」
 二人は相思相愛の夫婦だった。

「ジジ様、わたし母様のことあまり覚えてないから教えてほしいな。」
「……なら、私達が教えてあげるわよ。」
 叔母たちに連れて行かれる。
 葛葉子も瑠香と相思相愛になったばかりで、そういう話に興味がある。
「ちょっと、離れて聞いておいで」
 ジジ様はにこやかに手を降るか、目は笑ってなかった。

 いつのまにか、ジジ様と瑠香二人残された。
 瑠香はそのことに気づいてなかった…

「未来をよく見る威津那にとって橘の存在は『今』を見つめるのに重要な存在だった。
 明るい気性の者とともにいれば明るい未来を見ることができるらしいの。」
 暗い者がそばにいれば暗い未来しかみえなくなる。
 その力に興味を持ったものが「最近はイズナの元に集まって信仰してるみたいだな。

「父が言ってたとおりだな…ジジ様はとめないのですか?」
 瑠香は眉間にシワを寄せる。
「威津那の信仰者も結構力があってな、狐の身ではあやつられてしまうのじゃ。
 それに今の力ある審神者はお前じゃ。
 もうワシには止める力はない」

 しかも宮中で働く若き現役だ。
 ジジ様は突然背を丸めて畳に手をついて瑠香に頭を下げる。

「ジジ様!顔をお上げください」

「お願いだ、神に宿命つけられし審神者よ。
 どうか、威津那を止めてくれ。」
 瑠香は、慌ててジジ様の隣に寄り添い頭を上げてもらう。

「あやつは皇室を愛していた。誇っていた。
 誰よりも、娘の橘よりも本気で愛していた。」
 ジジ様は今まで溜め込んでいた悲しみを伝えるように瑠香の手を握り力を込めて震えていた。
 泣いている。
 その思いが瑠香にも伝わる。

「けれど、愛しき者たちに先立たれて、しかも神殿で房菊が、そそをして、不名誉でもあったし、娘の不運を見逃した為に心に深い傷を負った……
 さらには、葛葉子は一度死んだのだろう?」

 ジジ様もきっと威津那と同じ気持ちになったことだろう。
 愛しい血縁者を亡くした悲しみは同じだ。

 そのことに気がついて、威津那は完全に気が触れて荒御魂になってしまったのだ。

「ワシはもう年だからもうすぐ娘たちの元へ逝くから諦めもついたし、あやかしになった葛葉子の顔を見れば幸せそうだし安心した…けれど、威津那はちがう…」
 さらにぎゅっと手を握る。

「皇室を愛していた分、恨んでいる。神誓いをするほどの男なのだよ。」
「でも、皇室を恨んでいるなら神違えして、死ぬのでは?」

 まだ、愛の言霊を言っていない葛葉子に白狐神は容赦なく忠告した。
 ハルの神ならば、忠告どころではすまないだろう。
 霊的に生まれ変わらせるハズだ。
「新たなハルの神として生まれた晴房がおるだろ?
 その時点で神との契約は無事切れたが、
 力だけ威津那は留めておる。それほどの力を元から持った存在だ。」
 瑠香にも香をあやつり人の記憶を消したり捉えたりする生まれながらのものと同じかと理解する。
 神の力を借りれば相乗効果もある。
 晴房のための審神者として役割を頂いたものだと思ったけれど、威津那の神の力も抑えるための審神者としての宿命か……と、納得いく。

「まぁ、とにかく、葛葉子を幸せにしてやってくれ。
 威津那が許さなくてもワシが許す。」
「ありがとうございます」

「ハンコは押しておくから紙を寄越せ。」
 言われたとおりに、丁寧に渡す。
「……しばらく、この異界でゆっくりしておゆき……お前にとって懐しい家じゃろ?」
「はい。それでは遠慮なく……」
 なんだか、暗い雰囲気とは真逆で拍子抜けした。
 すんなり認められたし、どことなくそっけないような……
 だけど、葛葉子の父とは対決しなくてはいけないと改めて思う。

「……ん?」
 ジジ様の話に夢中で親戚が皆いなくなっていることに気づく。
 それに葛葉子の姿もない。

ゾッと背筋に寒嫌な予感が走る
 ジジ様は煙管の煙を瑠香に吹きかける。
「威津那のところじゃ。親戚は別の空間で宴よ」
「なんだって!?」
「父親に会わせないとは言ってないだろ?」
 確かに、そうかもしれないけれど今の父親は危険な状態だとジジ様自身言っていたではないか。

「葛葉子に会えば少しは気は治まるかもしれぬ……半年以上も会いに行こうとせぬ娘だからの。」
 ジジ様は太々しく鼻で笑うようにまた煙をふく。
「このっ!クソジジィがっ!」
 瑠香はあまりの事に怒り言葉が悪い。
 瑠香は葛葉子がいないと落ち着かない。余裕がない。

「……ルカの神というよりか、威津那に似ておるな…」
 第二の威津那にならなければいいが……と、ジジ様は煙管を吸わずにため息を吐いた。
 瑠香は急いで葛葉子の香りを辿り異界と阿倍野家に繋がる長い通路を走り抜けて行った。
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