あやかしと神様の恋愛成就

花咲マイコ

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あやかしと神様の黄泉がえり

26☆神の化身

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 葛葉子の命が途絶えた途端、天守閣は消える…

 天守閣の頂上にいたはずだが逢引廊下になっていた。

 瑠香は気が付かない。
 ただただ葛葉子を抱きしめて声を殺し泣いていた……

「あやかしは退治されたのか?」

 景皇太子は逢引廊下になった場所に訪れて、瑠香が愛しき女を抱きしめ泣く姿に胸が締め付けられる。

「よく…任務を果たした…審神者よ…」
 非情にも景皇太子はそう言い、九尾の狐の依り代であろう女を抱き泣く審神者を不思議に見る太刀の者達を引き下がらせる。
 陛下に無事討伐されたことを報告しに行った。

 滝口臣はその場に残り、瑠香に近づく。
 その悲しみから察しはつくが信じたくない。

「瑠香…葛葉子さんは……」
 更に葛葉子を抱きしめて臣にも見せたくないようだった。
 葛葉子の腕が力なく反応もなく、だらりとしているところを見ると臣は涙が溢れてとまらない。

「瑠香、葛葉子は……」
 東親王と春子女王、陰陽寮長もその場の雰囲気を察する。

「っ!葛葉子お姉さまは……っ!」
 春子は悲しみで涙が溢れて止まらない。
「東様の時のような奇跡が起きればよいのにっ!葛葉子お姉さまっ!」
 東の胸で春子は泣く。
 東はその頭を抱きしめる。

「こうなる事を…一番避けなきゃいけなかったのに…」
 東は自分の責任でもあると、悲しみに目を背けず二人を見る。

「…ん?…って!」

 すっと葛葉子のだらりとして動かなかった腕が持ち上がり瑠香の背の服の布を掴む。

「起きた!」
「葛葉子っ!?」
 瑠香はハッとして葛葉子を強く抱きしめていた腕をゆるめて葛葉子を見る。
 葛葉子の瞳は金にきらめく。

「葛、葉子なのか?」
 瑠香は目覚めた葛葉子が葛葉子だと感じない。

「ちがうわ…私は葛葉子じゃない…」
「なら、九尾の狐か!?」
 瑠香は身を硬くするが、その気配でもないと感じる。

「私は、橘……西を守る白狐の菊と同化した魂……」
無表情でそう告げる。

「阿倍野殿…橘か……」
 陰陽寮長はそう呟く。
 陰陽寮長に橘は微笑む。
 私を知っているあなたがいてくれてよかった…と心の中を覗けばそう思っていた。

「葛葉子はいま黄泉の国にいるわ…あの子を引き戻すことが出来るのはあなたしかいないの…」
 瑠香の瞳をじっと見て言う。

「私がこの体の死を防いでいる間に迎えに行ってあげて…」
 橘は葛葉子の体に入ったはいいがうまく体を操れないようだった。

「どうやって、黄泉へいけばいいんだ?」
 黄泉の国は死した魂しか行けない死後の世界だ。

「私の八尾比丘尼の血を一滴飲んで死ねばよろしいのですわ。」
 すっと現れた八尾比丘尼はそう告げる。
「ただ死んだだけなのでは、葛葉子を連れ戻すことはできない。」
 橘はそう告げる。
 東は一度死んだと言っても黄泉の国へは行かずに戻ってきた。

「ではどうすれば……」

《依り代ではなく神の化身の体として死ねば黄泉へいける。》
 ルカの神は瑠香の背後に現れてそう告げる。

《私の力は現実世界とは違う世界と繋ぐ力だよ。
 ハルの神は現実の世界の物事を霊的に消す力のほうが強い。
 私はあやかしや神を異界へ戻す、繫げる、場合によっては消すほうが得意なのだよ…》

 それは依り代としてとて思い当たる。

 瑠香自身、あやかしに容赦無いし、異界の道もわかる…さらには神の力を封じる審神者だ。
 これも宿命の中に入っている事だと…思うと納得する。

瑠香ルカという名前を魂に縛り付けた時点でもう決まっていることだ。」
 陰陽寮長は言った。
 父もどこまでこの宿命のことを知っているのか…後で問いただそうと思った。

《神の化身の体になることは、陰陽寮長のように引き継ぐ依り代ではなく、死が来るまでお前は私の現し世の為の体になるのだよ》

 本当の神のようになるということか…
《その代わり力も何もかも私の力をその体で使える。
 条件はあるけれど…
 そして、時たま私がその体を自由にする…
 そして生涯、皇室のために務めるのだよ。
 守りの神として…》
 まあ、正直、今までと変わらないことだけどね…と優しく付け加える。

 簡単に言えば晴房と同じになるということか…
 神の依り代ではなく蘇った時には神の体になっている。
 人であって神。
 まさに現人神というやつか。

「それでも構わない…」
 葛葉子を救うことができるのならば……

「では、誰がオレを殺す?」
 その場にいるものは流石に怖気づく。
 晴房は逢引廊下まで飛び来てふぁっと床に降りる。

「私がやってやろう。」
「晴房…いや、ハルの神か…」
「陛下のお祈りを守っていたが、こちらが重要とみてな……無事、九尾を仕留めたようだの」
 にやりとハルの神は笑う。
 このような宿命にした張本人にイラっとする…
 それに何を企んでいるのか未だわからない。

「あの女狐を瑞兆にすることこそ、我の目的、お前の望みでもあろう?」
 確かにそうだ。それしかない。そうしなくてはならない。
「ああ…」
 八尾比丘尼は床に落ちている短刀で腕を切り滴る血を瑠香になめさせる。
 ハルの神は心臓に手を当て瑠香の息の根を止めた。
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