切なさと君と僕

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携帯=大切な存在論

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ねぇ、先輩?
携帯とか車の鍵みたいな大事なものをよくなくす人って、大切な人も大事に出来ないんですって。




俺が必死に、最後にどこで携帯を触ったか記憶を巡らせる中、
君は事も無げに空々しくいい放つ。




俺らが所属するサークルが毎週水曜日の夕方の5時から借りている大学の多目的室内。



荷物を置いて、ソファに座って、さあ携帯でもイジろうかと思ったら、鞄の中にも、デニムのパンツのポケットにもどこにもない。



携帯ない!ショックで独り言が出た。見渡せば多目的室内にいるサークル員はまばらで、2年生または1年生の後輩の女子ばかり。
学年ごとに椅子やソファのある場所に固まっている。



うーん。
後輩と仲は悪くはないが、携帯なくしたから試しに俺の番号鳴らしてくれる?と気軽に言えるような子は、今のところここにはいない。

もう5分もしたら、3年の奴等か親しい野郎の1人や2人くらい来るだろう。
その時、鳴らしてもらおう。
その結論まで至って、
携帯の行方を考えているときに、


君は俺から右斜めの少しソファから離れた所に立ったまんま、微笑みながらそんなことを言うもんだから、
何?
と言ってしまった。



同時に、携帯がなくて、1人で静かに慌てている自分の姿を見られていたのか、と思うと先輩としてのプライドみたいなものがチクッとした。



だって先輩、いつも携帯ない、どっかいった!って探してません?




そうかな。




なんて気取った返事はしてみたものの、

確かにそうだ。そこに関してはぐうの音も出ない。
知らない間に、気づけばどこにやったのかわからなくなる。
幸い、最終的には講義室や食堂の机や椅子の上に置き忘れていて発見されるのだけれど。



しかも、携帯がないと発覚するのも、講義が終わってサークルに来たときか、サークルの飲み会中にはしゃいで携帯を見失う、という主な2パターンだから見られていても仕方ないか、と思い直す。



いや、でも、だからといって、携帯なくすからって
大切な人を大事に出来ない。とは彼女もいる俺からしたら心外だ。知っててわざとか?
そもそも携帯=大切な人と考える根拠が飛躍しすぎていて、理解出来ない。
どうしてその方程式が成り立つか、なんて最早知りたいとは思わない。

これだから、女子は。
テレビかなんかで聞きかじった情報を鵜呑みにして理不尽に垂れ流す。



君はいつもそう。
一歳下の後輩なのに、意見が分厚くて真っ直ぐで時たまに俺をからかう。



俺からは普段他の後輩女子と同じように優しく接してると思うのに。



ただ、君には、俺の軽薄で、下品で、実はものすごく暗い部分を見抜かれているような気がしていた。



よそゆきの、程よく調子乗ってて、友達もたくさんいて、彼女もいて、リアルに充実しているように見せている外面なんて、
君には通じない気がした。




その証拠に、悔しいが、
彼女との仲も悪くはないが、マンネリ化していて俺が頑張って盛り上げているという状況が事実、今あるから。


頑張り方が間違っているのかもしれない、手応えがない、そう思うこともある。
ただ、付き合っているのに彼女とは距離を感じていて、俺はそれを少しでも縮めたいだけなんだ。



でも、そんなこと君はつゆとも知らないはずだ。俺の彼女とも同じ大学とはいえ学年やサークルといったコミュニティーも違うから面識はないし、俺もそういうことは誰にも言ってない。
けどこの際、もうバレていてもいいような気もした。




携帯鳴らしましょうか?




先ほどまで無礼だった君が、この状況で申し分のない提案をしたので驚いた




あぁ、ううん、大丈夫。




自分でもよく分からないけど、なぜだか断ってしまった。
別に怒りも嫌な気分も存在しない。



いいんですか?




意外そうに俺をみる君。
自分の発言で俺のことを怒らせたか?と暗に伺っているようにも見える。




試されているような気がした。君に。





うん。大丈夫、ありがとう。




そうやって、にこやかに笑って見せる俺。
余裕のある男に見せようと。




分かりました。
早く見つかるといいですね。





君は安心したようにそう言って、
俺の前から立ち去った。





その後ろ姿をぼんやり見ながら、
まず俺の手で足で歩いて直接携帯を探そうと思った。




誰かに鳴らしてもらう、なんて毎回都合のいいことに期待しないで。




なくしたのは俺なんだから。
責任を持って、見つけなければいけないような気がしていた。



そこで、すっかり携帯をなくすことに慣れてしまっている自分に気づく。



大事な携帯なんだから。
自分にいい聞かせる。




もし、自分の手で見つけ出せたなら、
いの一番に彼女にLINEでメッセージを送ろう。




携帯見つかったよ。って。




分からないけど、そうすることで近くにいるはずなのに遠くにいる彼女に、正しく歩み寄れるような気がする。





僕は、やっぱり君には敵わない。





だけど、今後2度と携帯をなくす情けない姿だけは君に見せまいと心に誓った。




















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