切なさと君と僕

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恋愛ごっこ

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君は、いつも、女の子としての自分に自信を持てていなかったね。



俺は、分かってたよ。



君が充分魅力的だってこと。




君は、豪快に笑うし、ハッキリものを言う子で、曲がったことが嫌いで、



どこか寂しげだったね。




初めて、サークルの新歓お花見で君に会ったとき、君は俺のヤンチャな髪型と服装に明らかに引いてたね。




正直、あの時、俺は君のこと全然相手にしてなかった。




俺には、高校から付き合っている可愛い彼女がいたし、
俺が好きなのは俺がいないと生きていけないような甘え上手な子。





君は、自分のこと、昆布女、スルメ女って言ってたね。



どういう意味?って聞いたら、




噛めば噛むほど味が出る女、って意味だよ。




そういって自虐的な笑みを浮かべたね。




でも、その通りだと思う。
大学に入って、4年間君と同じサークルだったけど、
知れば知るほど君は優しくて、
純粋で、色んな表情を見せる人物だ、ってことを月日が経つ程に俺は感じていった。





サークルの練習の時も、君は、嫌な顔1つ見せずに一生懸命俺に付き合ってくれたし、



合宿の時も、俺が駅の階段で荷物持つよ、って言ったとき、
大丈夫!!重くないから♪



って言って普通に俺の申し出を断ったから、

追いかけて、そういう時は重くなくても、ありがとう、って持ってもらわなきゃダメでしょ、

ってなぜか俺がダメだしした時、
君は神妙な顔して、ごめんね、って言ったね。





俺だって、誰にでも優しくするわけじゃないし!


でもさ、普通に反省してる君が可愛かった。
うぶで、今まで男にそういう女の子扱いされたことないんだな、って。





あと、普通にサークルの飲み会で、
可愛いよね、って言った時、
真っ赤な顔して、黙っちゃったのも、ギャップがあって可愛いな、と思った。





何より君は、俺と距離を取るのが絶妙にうまかった。





俺が1人でタバコ吸ってる時は、近づかなかったし、



俺が構って欲しそうな時は、自然と話しかけてきたね。




俺と彼女のディズニーデートの話も、笑って聞いてくれたね。




話の相性も、多分俺と君はすごく良かったんだと思う。





1度だけ、俺が君にピアスをプレゼントしたの覚えてる?





何てことない、雑貨屋で買ったピアスだけどさ。
君には、いつも世話になってるから、君に何かあげたくて、、君に似合うと思ったんだ。







え?

私に?




ありがとう!!






興奮気味で喜ぶ君を見て、あげてよかったな、と俺は思ったし、

多分だけど、君が初めて男からプレゼントをもらう相手が俺、っていうことにも
ちょっとした優越感を覚えた。





俺、基本的に女の子には優しいし、女の子みんな好きだけどさ。




でも、だからってみんなにこういうことしてるわけじゃないから。
言うの2回目だけど。




うん。そうだね。
君は、友達だし、サークル仲間だし、
俺にとって気の合うお気に入りの女の子でもあった。




就活も終わって、卒業が近づいて来たとき、
君は以前より、俺に自然に甘えて来るようになったね。




サークルに顔を出した時も、外で冷えた手の平を、君は俺の背中にくっつけて、



あったかい、と言って笑ったね。




何かといって、会えば俺の隣に座るようになった君。




まるで、卒業、という直前に迫った別れを今更惜しむようで、ひどく君の行動が愛しく思えた。






だからって、別に、




俺も、



君も、



この関係性を変えようとは、しなかった。





卒業式、当日。




式典を終えて、二次会会場に移動して、友達と酒を煽る。




サークルみんなで写真を撮るから、
そう言って俺を探しにきた君は、
ピンクの着物に、紫の袴を纏っていて
アップにした髪型もメイクも完璧。




綺麗だ、と思った。




酒に酔った俺の手をつかんで、
仲間のもとまで俺を連れていく君。




大胆に見える行動もえらく自然に見えて、
後ろ姿が、君なのに、君じゃないみたいで、俺は夢心地だった。





その後、夜は駅前の居酒屋でサークルの卒業飲み会。
後輩もたくさん集まって、俺らの卒業を祝いつつ、寂しさゆえの別れを惜しんでくれている。




長テーブルのななめ向かいの席に座って洋服に着替えた君は、ヘアメイクだけが際立っていて、




あれ?顔が朝より1.5倍大きくなってない?



なんて君に冗談を飛ばして、軽く絞められた後、




君は、後輩との写真撮影や女子トークにいそしんでいる。




もちろん、同期の男子や後輩男子をイジるのにも余念がない。




ふと、よぎる。



今日で、最後なんだ。



君の笑顔を見るのも。




そう思うと、伝えたいことがあった。





一盛りあがりして、席なんかもう決まってない状況下、飲み物を飲んでいる君の隣に座る。






おっ!○○!






なんて、女子らしくない反応。
君らしい。
笑ってしまう、俺。






○○ちゃん?






うん?




俺さ、○○ちゃんのこと、好きだよ。





性格がいいから、とか中身が、とかそんなんじゃなくてさ、、






上手く言葉が出てこない。







度々、以前から飲み会の際、君に好き、というのは常套句で珍しいことじゃない。




だけど、こんな改まって冗談なしの雰囲気で言うのは初めてで、、




酒の勢いもあったのは事実。





私も、○○のこと好きだよ。




にっこりと、ほんのり赤い顔でいつも通りの返答。




慣れてきた、いつも通りのやり取り。
そう。でもさ、今日で最後なんだよ。
これも。





そう思うとやりきれなくて、
今までの恋人ごっこに罪を感じた。






俺と、このまま…。






何いってんだろ、俺。




この場の雰囲気に流される、
ってこう言うことなのか?




俺は、君との関係性をどう変えたい?

このタイミングで?




俺の言葉足らずな提案に、君は思いの外、食い下がった。





このまま…?

このまま、何?





いつもより艶っぽい目で、その先を欲しがる君。

君が、欲しがっているのは、俺と君の未来?






いけない。





馬鹿だ。俺は。





黙って立ち上がる俺。
何ごともなかったかのように、居酒屋の廊下にいる後輩男子に話しかける。




俺についてきて、俺の腰に手を回す君。



一生懸命俺に甘えて、さっきの続きを教えて欲しい、そういう顔をしてた。



でも、君は俺の様子を伺って、とうとう諦めた。




君は、俺との距離を取るのが本当にうまい。




すっと俺から離れて、何事もなかったようにみんなの輪に戻る君。









ごめんね。弄んで、君の心を。







純粋だけど、自分を大切にする君は


重い女になるのも、都合のいい女になるのも避けて、


全部ごまかしてくれた。








いつも、いい女だった。君は。










俺は、いつもその時の欲望や気分で生きる自分を、初めて恥じた。










飲み会の最後、
君は卒業する同じ代のサークル仲間全員にそれぞれ手紙をくれたね。




居酒屋を出て月明かりが差すなか、
何もなかったかのように、あっさり解散する俺達。





君がどこに歩いて行ったのかも、俺はちゃんと知らない。






帰る電車の中、君からの手紙を開ける。





君はこの上ない、卒業の手紙にふさわしい感謝の言葉をくれるとともに、


俺がサークル内で一番好きな男だ、と書いてくれたね。








明日、お礼のLINEを君に送ろう。











いつも通りの俺で。


















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