取引先の男たち

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同じ誕生日の男

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瀬川さんは、常本さんと同じくらいお世話になってる問屋さんの営業マン。



月1のペースで奈良から営業車でやってくる。



少しぽっちゃりな体型に、顔のパーツが小さく中心に集まった可愛い系の恵比寿顔で、ファストファッションで揃えたような間違いなく流行に無難で、爽やかな服装を心掛けている瀬川さんは40歳。
うまく撫で付けた髪に白髪は見当たらない。




瀬川さんは、いつも瀬川さんで、
知らない間に私達雑貨店に勤める女子スタッフの懐に自然に入り込む、生まれ持ったような人徳とコミュニケーション能力がある。



その証拠に彼と初めて出会った記憶がまるでない。



確かに数年前に挨拶はしているはずだが、覚えはない。
知らない間に友達になっていた、みたいな感覚で、瀬川さんはいつの間にか空間に馴染むようにそこにいたのである。



瀬川さんは何でもそつなくこなす。
新商品を絶妙に勧めて、ダメなら定番商品のリピートにシフトチェンジする。
切り替えが上手いのだ。
二兎追うものは一兎も得ずとあるように、欲張らずに確実に得られる道を選ぶ。
その時は、スタッフが気づかなかったり忘れていたような細かな定番商品の在庫状況まで確認出来るくらい、余念がない。



最終的に捕らえた、一兎がデカければ問題ないのだから。




それはそうと、
雑貨というのは本当に粗利がとれない。
問屋によって異なるが、提示される原価に対しての掛け率が基本的に高いのである。



メーカーと直接取引すれば、幾分安く仕入れることは出来るが、発注ロット数や総発注金額、送料など条件は厳しくなる。
問屋に頼めば、ロットを崩すことも可能であったりメーカーが混ざっていても、まとめて送料無料ですぐ配送してくれたりと、使い勝手はこちらに軍配が上がる。


それに、お客様の急ぎの注文が入った時こそ問屋は必要不可欠なパートナーである。
特に、瀬川さんの会社は協力的で手配も早い。



こういう迅速かつ丁寧な対応が求められる時ほど、信頼を得るチャンスということを、よく心得ているのだろうと思う。



だから、常本さんに注文した方がこちらにとっては得なのに、あえて瀬川さんに注文する、というさじ加減での仕事上の付き合いなんかが存在するのだ。



そういう部分は、本当は排除してしまったら楽でもう少し効率良く利益も出るだろう。
しかし、私達は人だ。
商人と商人。

血が通っているからこそ、長年の付き合いや信頼みたいな、生温くて実体のないそれを感じることが出来るし、
あるボーダーラインにのらない限り大切にしなければいけないと、それとなく上司や周囲から教えられるのだ。




そんな瀬川さんの尊敬すべきところは、どんなに支店や他の取引先で嫌なことがあっても一切愚痴をこぼさない、ということだ。


営業マンなら当たり前じゃないか、
と思うだろうが、そうでもない。
愚痴る営業マンは事実多いし、それとなく嫌みを漏らす人もいる。



そんな人達の中でも、瀬川さんは基本穏やかな一定のテンションで、不平不満なく堅実に仕事をこなすものだから
総合力の高い稀有な存在だと思う。





ただ、彼にもだらしない部分が1つあったという。
女性関係だ。
結婚もして一人娘がいる瀬川さんは、

私が入社する数年前に、いきなり坊主頭をこしらえて営業に来たという。





いきなりどうして?と、みんなが取り立てて聞くと瀬川さんは、




やっちゃいまして、、、




と、はにかみながら応えたそうだ。



事の詳細は教えてくれなかったそうだが、どうやらおイタが過ぎて、奥様にバレたらしいのだ。




その代償に髪を奥様に捧げ、反省の証として坊主頭を世間様にさらす羽目になったという。





私は、もう過ぎてしまったことだが、それを聞いて何か安心した。




オールマイティに見える人物の、弱点や本能的な欲望を見ると、
ああ、彼らも私達と同じ人間なんだと改めて思い知らされるからだ。



そして、そんなシンプルに易しい処罰で瀬川さんを赦す奥様に尊敬の意を表したい。
それも、彼が普段からいい父親でありいい夫をしていたからこそ、それぐらいで済んだのかもしれないが。





そんな瀬川さんと私は、つい最近、
ささいな雑談の中で、
同じ誕生日ということが分かった。



その瞬間はものすごく親近感が湧いて、会話にも華が咲いた。





反面、誕生日占いを今すぐ読み直して、瀬川さんとの相違点を見つけたいという思いに駆られたのは内緒の話である。


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