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鬼人族編

1話 逝って行こう

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  俺は死んだのか。とりあえず死んだら言ってみたかったことランキング1位を言ってみる。死んでもなお楽観的でいる自分に笑えて来る。さっきのは非常に怖かった。ホラー映画は暇なときよく見ていたから、映像でああいうのを見るのには耐性があったが実際に体験するのと見るのとでは全然違う。

 あの人いつからいたんだろうな。あれは人にできる芸当なのだろうか。俺はほとんどのことはどうでもいいが、自分の命は大切にしている。身体に何か異常が発生すればすぐ病院に行く。大抵何も症状が無くて医者に冷ややかな目で見られるが。いやー、循環器内科の対応が一番ひどかったな。
 そんなことはどうでもいいんだ。
 
 俺は常日頃から背後に人がいる状況を作らないように常に背後を気にしている。偏見だが夜中に出歩いてる奴なんて大抵が変な奴だ。だから、夜中に散歩するときは3秒おきくらいに後ろを振り返るようにしている。そんな俺に隙なんてなかったはずだ。それに俺は動体視力も運動神経もすこぶる良い。めんどくさがりな性格でスポーツは向いていなかったが、兄も父も祖父もみんな運動神経が良かった。そんな遺伝子をしっかりと受け継いでいるのだ。

 それに、これは俺の持論だが、変な奴は自分より変な奴を襲うことはないから、夜道を歩いていて背後に人がいるとき、大抵変なステップを踏んでいる。夜中にステップを踏みながら散歩してる奴なんてのは、十中八九変人だ。そんな変人にストーキングするなんて世の中にはおかしな奴がいるもんだ。

 つまり、何が言いたいかというと、俺は運動神経抜群で変人でストーキングする隙なんて無かったはずだ。
 それなのにである。

 顔は見えなかったが、あの野郎、俺が家に入る一瞬で一緒に帰宅してきやがった。あのでかい図体でどうやったら気配を消したまま、俊敏な行動ができるのやら。うん、無理だ。奴が人間じゃなかったということだ。
 
 「その通りでございます。」
 ん?なんだ?声?
 てか、俺死んだのになんで思考ができてるんだ。

 「私が特別にあなたをお招きし、選択するための思考をできるようにして差し上げているのです。」
 
 選択?てか、あんた誰だ。

 死んだ後に遭遇するきれいな声の女性、、、間違いなく女神だ。

 「ご名答、私は女神にございます。」
 
 定番だな。死んだ俺、女神の登場、そして次来るのは転生の相談か。非常に良い流れだ。言うなれば、野球で1点ビハインドの中、三者凡退に抑え最後の攻撃を迎えるようなものだ。素晴らしい例えだ。さっきからモノローグが止まらないな。死んで頭がハイになってしまっている。これからなにやら選択する場面があるそうだ。これで次の人生が決まる気がするから、いったん落ち着こう。

 「女神様、お話を続けてください」
 
 頭の回転が早く合理性も持ち合わせているが、心を読んだことに気づいていない天然さに好感を抱く女神をよそに、八神圭が話の続きを求める。

 「ふふ、良いでしょう。しかし、まずは謝罪をさせていただきたいのです。」

 「謝罪?何をされたんですか?まさかあの人っぽい、人じゃないやつのことですか?」

 「お察しのとおりです。あなたを刺し殺した者は人ではなく、天界に住む神や天使の影なのです。天界に住人が悪だくみをしないように、一定期間で悪しき心を抽出し番犬に食べてもらうのですが、番犬がこぼしてしまったのです。そして、それが地上に落ち、人を殺す影として現出し、あなたを殺してしまったのです。私の責任でございます。申し訳ございませんでした。」

 「そうですか。全然いいですよ。」
 大抵の人は、人生の絶頂期で終わらせてしまった人を憎んだり憤慨したりする場面で、あっさり許した八神圭に女神はまた少し笑ってしまう。

 「ごめんなさい、あまりにもあっさりしているので少し笑ってしまいました。ですが、本当に悪いと思っております。そこで代わりといっては何ですが、あなたの好みに合いそうな世界に特典付きでお送りしたいと思います。」
 
 「俺の好み、、ということは剣と魔法の世界ということですか?そしてその特典とは、俗にいうスキル、戦う力をくださるということですか?」
  定番の流れにやはりテンションが上がってしまう八神圭だが、もはや先ほどのように落ち着きを取り戻せなくなっている。

 「はい。あなたがこれから向かう世界には魔物が跋扈しております。魔物を倒すことでレベルが上がり、レベルアップで得られるスキルポイントを割り振ってスキルを獲得して強くなります。そして、あなたにはスキルポイントと、好きなスキルを1つプレゼントしたいと思っております。それでよろしいでしょうか?」

 「よろしいですよろしいです。それがよろしいです。ちなみにスキルポイントはどれくらいもらえるのでしょうか?またスキルを一つ得るためにはどれくらいスキルポイントがかかるのでしょうか?」

 興奮して口調が変わっている八神圭を見て、三度笑みがこぼれる女神。

 「順番にご説明したいところですが、あなたにステータス画面の使い方、これからの転生の手順を頭の中に直接お送ります。」

 女神様の言葉を合図に、これからどうすればいいのか理解できた。
 「ステータスオープン」
______________________________________________________________________________________________________________________________________________________
ステータス
名前 :ーーー
年齢 :ーーー
種族 :ーーー
レベル:ーーー
HP :ーーー
MP :ーーー
筋力 :ーーー
耐久 :ーーー
俊敏 :ーーー
知力 :ーーー

装備 :なし

ユニークスキル:ーーー
    スキル:ーーー
______________________________________________________________________________________________________________________________________________________

 俺の前にゲームでよくあるステータス画面のようなものが現れた。年齢、名前、種族、ステータス、スキルなど多くの項目があるが、どれも空欄になっている。まるで元からステータスを操っていたかのように、自然とステータスの振り方が理解できた。

 「いかがでしょうか。」
 俺は女神さまの質問に大きく頷いた。

 「何かあれば、お申し付けください。ごゆっくりどうぞ。」

 どうぞ、女神の声を最後に自分だけの世界に入る。

 俺が手を加えるところは、種族とスキルだ。
 種族だが、人族、森人族、獣人族、小人族、竜人族、魔物まである。魔物はスライムからドラゴンまであるが、スキルポイントを使わないと獲得できない。そして、種族によってステータスが決まるようだ。だが、ステータスが決まるのはレベル1の時と、レベルアップ時の上昇分である。レベルが1つ上がるごとにステータスポイントが得られるため、ステータスの配分は自分の裁量によって変えられる。しかし、上位の種族:龍人、魔人族、巨人族、天人族は、レベルアップで得られるステータス上昇が桁違いであった。

 女神様がくれたスキルポイントは500。貴重に扱わなければならない。

 スキルの方も確認してみよう。スキルの場合のスキルポイントの活用方法2パターンある。
一つ目は取得。二つ目にスキルのランク上げだ。
 風魔法を例にしてみるとこんな感じだ。

風魔法 Fランク 10ポイント
風魔法 Eランク  20ポイント
風魔法 Dランク  30ポイント
風魔法 Cランク 40ポイント
風魔法 Bランク  50ポイント
風魔法 Aランク  60ポイント 
風魔法 Sランク  70ポイント
       
 スキルの取得時には10ポイント必要とし、それ以降はランクを一つ上げるごとに、必要なスキルポイントは10ずつ上昇していく。ランクはF~Sランクまであるため、Sランクまで上げるとなると280ポイント必要となる。スキルは様々なスキルに派生する。例えば、土魔法がCランクになると、それに派生する魔法が取得可能となる。だが、どのスキルがどのように派生するかは、女神様がくれた情報にはなかった。

 剣術などの技術系スキルも魔法スキルと同様のスキルポイントが必要となる。

 そして、上記の通常のスキルとは別に、ユニークスキルというものが存在する。これには先天的なものや種族特有のものなど様々なスキルがある。そのため、ユニークスキルは条件をクリアすることで取得可能となるスキルで、非常に珍しいスキルであるらしい。また、取得のためのスキルポイントはそれぞれ全く異なるようだ。

 種族はユニークスキルを見てから決めよう。時間はたくさんあるんだ、ゆっくり決めよう。

 俺は正真正銘の第二の人生をどのように生きたいのだろうか。
 前世での俺は、何か物足りなかった。ふとした瞬間、どうにもならない衝動に駆られることが良くあった。剣と魔法の異世界ならば、俺の欲望を満たしてくれると思っていた。だが、いざ行くとなるとどのような世界かもわからないし、何をすればよいのかわからない。

 戦闘、生産、好きな人との結婚生活、子育て、前世でできなかったことを全部やりたい。

 わからないことだらけで、何をしていいかわからないなら、なんでもできるようにすればいいのか。
 一つのスキルが目についた、これだ、やりたいこと全部できる。

 ユニークスキルが決まると種族もすんなり決まった。

 「女神様、種族を決めたので、その姿にしてもらうことって可能ですか。」

 「可能です。ですが、それはあなたが天界に生をなすということです。地上に生命を創ることと、天界から生物を送り出すことでは、全く異なります。前者の場合、好きな場所から第二の人生を始めることができますが、後者の場合、地上のどこに送り出されるか、わからないのです。通常、天界の住人が地上に降りることはあり得ないため、安全は保障できません。それでもよろしければ、今あなたの種族を変えさせていただきます。」

 やるしかない。俺はいつも何かを選択するとき、後悔してもいいやと思って選択する。絶対に後悔しない選択なんて無いと思うし、あったとしてもその時の自分が選択できるとは限らない。だから、この選択をしても俺は後悔しない。
 「それでも、お願いします。」

 「わかりました。それでは。」

 「ステータスオープン」
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ステータス
名前 :ーーー
年齢 :0歳
種族 :スライム
レベル:1
HP :4/4
MP :4/4
筋力 :1
耐久 :1
俊敏 :1
知力 :1

装備 :なし

ユニークスキル:スキル図鑑
    スキル:風魔法(C)
        鑑定眼(Ⅾ)

スキルポイント:290


スキル説明
 スキル図鑑:取得するとすべてのスキルと、その取得条件がステータス画面に表示されるようになるスキル。

 風魔法:風に関した魔法が使えるようになるスキル。ランクが上がると、魔法による魔力消費が減少し、威力が高くなる。ランクごとの魔法が使えるようになる。魔力を風に変換するため、オリジナルの魔法も使える。

 鑑定眼:隠蔽スキルを持たない種族またはアイテム、もしくは、自身の鑑定スキルランク以下の隠蔽スキルを持つ種族またはアイテムの、ステータスやアイテムの効能を見ることができる。

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 ユニークスキルは”スキル図鑑”を取得し、護身用に風魔法(A)を取得した。そして、種族はスライムにした。これにはもちろん理由があるが、後ほど地上で答え合わせをしよう。無数にあるユニークスキルの中から、スキル図鑑を取得した理由も関係している。

 種族で50スキルポイント、ステータスめっちゃ低い、最下級のスライムだからすごく安かった。風魔法(C)・100スキルポイント、鑑定眼(Ⅾ)・60スキルポイントを使った。計210スキルポイント使用したため、500ポイントあったスキルポイントは残り290となった。だが、この数値は非常に多いと思う。レベル1から、Cランクの魔法とユニークスキルを所持し、さらにSランクのスキルを一つ取得できるほどスキルポイントが余っている。ユニークスキルにスキルポイントを消費しなかったのがすごく大きい。女神さまには本当に感謝している。

 さて、第二の人生への準備は完了した。天界に心残りはない、いざ異世界へ。

 「女神様、決まりました。」

 「ええ、これで異世界に旅立つ準備は完了しました。もう一度言いますが、天界で生を得たためどこに飛ばされるかわかりません。」
 
 「わかっております。後悔はしていません。」

 「そうですね、今更どうにもなりませんしね。最後にもう一度謝らせて下さい。私の不手際で死なせてしまい申し訳ありませんでした。」

 「もう過ぎたことですし、大丈夫です。それに旅立ちは笑顔の方が嬉しいです。」

 「そうですね。私はここから見守ることしかできませんが、幸せに生きてくれることを願っています。」

「ありがとうございます。女神様のおかげで最高の日々が送れそうです。」

「それは良かったです。第二の人生に幸あらんことを。」

 親切にしてくれた神様と固い握手を交わして、異世界へ降り立った。
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