鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

広太と祐希の実力

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どうやらこの真紅のドラゴンは頭が良いらしかった。真紅のドラゴンはもとから迫ってきた凜に気づいていた。しかし、気づいていない振りをして敦也たちに向けて火球を放ったのは爆発で視界を封じて、目隠しをするためであったのだ。そして、その間に真紅のドラゴンは迫ってきた凜を右前足で掴んだのだ。
「凜っ!!」
凜の手から落ちてきた、《神威》が地面にぶつかり、かん! という小さな音を生み、電子式になり倉庫へと再転送された。





無意識のうちに敦也は動きだしていた。頂点まで続く壁を電光石火の勢いで走っていたのだ。背後では、広太が「バカ野郎!」と叫び、祐希が「敦也くん!?」と慌てた声を上げている。
敦也のスピードでは凜が行ったみたいな壁面走行は出来ず、減速をし始めていく。
「くっ!」
さらに真紅のドラゴンが壁面走行中の敦也めがけて口を大きく開き、真っ赤な火炎を口の中で迸らせ始めたのだ。
避けなれば火炎に焼かれる。でもどこに避ければいい。
敦也は思案した末、上に跳ぶことを選んだ。壁を強く蹴り、高く、もっと高いへと跳んだ。
真紅のドラゴンが放った熱線は壁に直撃して、敦也がいた壁の一部を粉砕した。真紅のドラゴンの頭上へと跳んだ敦也は右拳に電雷を纏わせて、真紅のドラゴン頭を叩きに行く。
真紅のドラゴンは敦也の攻撃を防ごうとするように尻尾をしならせて上からぶつけにくる。敦也は左腕で尻尾を掴み、身体を尻尾の上に踊らせて、尻尾から背中へと走る。
「うぉぉぉ!」
背中にたどり着いた敦也は、真紅のドラゴンの背中へと電雷を帯びた右拳を繰り出した。直撃した拳に真紅のドラゴンは痛そうに悲鳴を上げる。
「もう一発!」
今度は左拳を繰り出そうと電雷を纏わせて構えると、真紅のドラゴンは背中を横にして壁に背中からぶつかりに行く。
壁にぶつかる寸前に上に跳んで、壁と真紅のドラゴンのサンドイッチになるのから回避したが、今度は真紅のドラゴンは上に顔を向けて大きく口を開き火炎を噴く用意をした。
敦也に逃げ場はなかった。空中で彼は迫り来る死という恐怖に身が縮むような思いをしていた。
真紅のドラゴンは熱線を発射した。あんな熱そうなものが直撃すれば間違いなく即死だろう。死にたくないと敦也は強く思った。
熱線は敦也の前で止まった。いや、勢いは続いている。まるで、バリアかなにかにぶつかっているみたいだった。
敦也は地面にいる空がバリアを展開してくれたのを嬉しく思って少し笑うと、ぽんと頭の上に優しく手が置かれた。
「まったく、敦也くんは無茶ばっかりするんだね。ぼくは敦也くんに死んで欲しくないんだよ」
「祐希!?」
祐希は能力を発動して、宙に浮いていた。人間は浮かべないという縛りから自由になったのだろう。おまけに敦也も浮かせられていた。
「もっと頑張りなよ広太ー」
「わかってるよ、すぐに凜を助けるぞ。だから敦也一回落ちつけ!」
広太は壁を跳んでは反対側の壁に着地してを繰り返して、真紅のドラゴンに近づいていた。
「さ、敦也くんは見てるだけでもいーよ。神器使いの力をとくと見よって感じかな」
祐希はそう言うと、敦也を浮かせていた能力を解いた。するともちろん彼は垂直に落下し地面に身体を打った。
「いてっ!」
祐希は敦也に詫びも入れず、真紅のドラゴンを睨んでいた。その瞳には憎しみのようなものがあった。
普段は笑ってばっかの祐希の少し怒った表情に敦也は驚いた。
けれど、息を吐いて背中にぶら下げている剣の柄に手を当てると、
「よし、がんばちゃうよー!」
表情は真剣な表情だが、いつもの間の抜けたような声を出した。
祐希が神器・《氷華》を抜剣すると彼女の髪は水色に変わり、瞳の色も水色に変わった。
真紅のドラゴンは直ぐ様察した、一番危険な人物がいま目の前にいると。両翼を翻し、真紅のドラゴンは祐希に突進を始めた。
「お、速いなー……けどね」
祐希は真紅のドラゴンの突進を観察して呟いた。真紅のドラゴンは身体に火炎を纏わせて全速力で、危険な人物めがけて突進していた、はずだった。しかし、そこに祐希の姿はいなかった。
「ぼくのほうが全然速いや!」
祐希は真紅のドラゴンの背中の真上に上下逆さになって浮かんでいた。スカートが捲れないのは能力で無効化してるからだろう。祐希も恥ずかしさはちゃんとあるらしい。
上下逆さまのまま《氷華》を、真紅のドラゴンの背中にめがけて構えた。
「三拾六連華乃二拾三、カンナ!」
祐希が叫ぶと、《氷華》の回りに鋭く尖った氷柱がたくさん現れた。次の瞬間、そのどれもが真紅のドラゴンめがけて一斉に動きだす。
真紅のドラゴンは背後から迫り来るたくさんの氷柱を回避しようと尻尾で叩き落とそうとしたが、尻尾が動かなかった。
「八弾装填、狼牙破滅弾!」
広太の強力な一撃を受けて尻尾が動けなくなっていたのだ。
「グォォォォォ!」
逃げる術がなかった真紅のドラゴンは背中を氷柱で貫かれる。凜を離すと思いきや、真紅のドラゴンは痛みに堪えるためか思わず凜を握る力を強めてしまった。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
凜が苦しそうに叫ぶ。
「やば、そうきたか!」
祐希も真紅のドラゴンの行動は読めなかったららしかった。
「グォォォォォ!」
真紅のドラゴンは雄叫びを上げながら、全身に火炎を纏わせた。握られている凜が熱そうに悶える。火炎の熱で刺さっていた氷柱は完全に溶けてしまう。
「うわ、こりゃぼくとあいつ相性悪いよ。てなわけで、広太ファイト!」
「やっぱ、そうなるんだよな」
広太は回りに狼弾丸を十匹現れては、群牙狼に吸い込まれていった。十匹、つまりは全弾装填したということだ。
我が主よ。あれをやるつもりか?
他にないだろ。奴の体力を一気に減らす方々は。
しかし、あれをやれば、制限時間は著しく下がってしまうのだぞ。
広太の考えに慌てる人狼女王。
お、心配してるのか人狼女王。
そうだ、我が主が戦えなくなったら、誰が戦うのだ。
広太は眼を閉じて笑った。
敦也と凜がいるだろ。あいつらは強い。
何を言っているんだ、我が主よ。あの子供らの力はまだ。
人狼女王は敦也と凜のことを信用していない様子だった。
人狼女王様は俺を信じてるだろ。
それはもちろん。我が主のことをわたしは信じているぞ。
なら、俺の信じてるものも信じてくれよ。
「祐希、奴に隙を作ってくれ……俺が叩き込む!」
「りょーかいだよ、まっかせなさい!!」
祐希は地面に着地して敦也に寄ってきた。
「敦也くん、ぼくと広太であいつの動きを封じるからさ、その間に凜ちゃん助け出してくれるかい」
敦也に断る理由なんてなかった。仲間が助かるのを見ているだけなんて嫌だった。彼は何かしたい思いで一杯だったのだ。
「あぁ、任せてくれ。空、手伝ってくれるか」
「もちろんだよ敦也兄。いくらでも手伝うよ」
「任せたよ敦也くん。君なら出来るさ」
祐希はそう言って、真紅のドラゴンがいる上空へ能力を発動し飛翔していった。
真紅のドラゴンは飛翔してくる祐希めがけて火球を放つが、
「三拾六連華乃三拾壱、ガーベラ!!」
《氷華》の能力で火炎であるはずの火球が凍りついてしまった。凍りついた火球は落下し地面にぶつかり砕かれる。
「よっしゃ、いこうか!!」
真紅のドラゴンの頭上にまで飛翔した祐希は、《氷華》を柄を下にして身体の中心に一直線に構えた。
「三拾六連華乃二拾七、エゾギク!!」
祐希が叫びと背後頭上に巨大な氷塊が出現した。まるで、氷山から切り崩してきたかのような巨大な氷塊を操って、真紅のドラゴンめがけて放った。
「うりゃゃゃあああーー!」
《氷華》剣の切っ先を真紅のドラゴンに突きつけて、巨大な氷塊の勢いを加速させる。
真紅のドラゴンは巨大な氷塊の存在に気づき、氷塊に向けて口を大きく開き火炎のブレスを噴出する。
火炎のブレスによって氷塊の勢いは止まっていはいるがなかなか溶ける気配がなかった。ならばと、火炎のブレスの勢いを強くして氷塊を押し返そうと真紅のドラゴンは思案した。
「うっにゃぁぁぁ!!」
祐希は《氷華》を構え直して、宙を斜めに斬り裂いた。すると巨大な氷塊は崩壊して、姿を無数の少し大きな氷柱へと変形させた。そしてその無数の氷柱は、真紅のドラゴンへと襲いかかる。
真紅のドラゴンにとって巨大な氷塊から小さな氷柱へと姿を変えたのは好都合だった。大きくて溶かしずらかったものが、わざわざ溶かしやすいものに姿を変えてくれたのだ。なので、真紅のドラゴンは火炎の勢いを上昇させて氷柱を迎え撃った。
あっという間に氷柱はすべて溶けて水も熱で水蒸気と化してしまった。けれども、祐希の仕事はそれだけで十分だった。
「こんな感じでいいかい広太」
《氷華》で氷柱を迎え撃つために噴出されてきた火炎のブレスの余波を斬り裂き、真紅のドラゴンの背中を眺めた。
「あぁ、十分だ。あとは任せとけ!」
真紅のドラゴンの背中にいた広太は跳躍して宙を舞う。
「全弾装填、狼牙炸裂弾ろうがさくれつだん全弾発射ザ・オールバースト!!」
広太が絶叫すると、群牙狼の全弾(十匹)は四方八方に散らばって、真紅のドラゴンに集まって襲いかかっていく。
「グァァァァァ!!」
真紅のドラゴンは身体のあちこちに走る痛みに対して叫びを上げていた。反射的に凜を握る右前足にも力が加わる。
「う、あっ!」
「凜、大丈夫だ。いま助けに来たぜ……ごめんな、ちょっと待たせたちまったな」
真紅のドラゴンに握られて身体中に走る痛みが極限に達していた凜の薄く開いた瞳には、ある少年が写っていた。
「せん……ぱい?」
凜は力なく目の前に立つ少年の名前を口にした。
「言ったろ、俺は強くなるって。仲間を守るために。仲間と【鍵の在処】にたどり着くために」
目の前に立つ敦也は拳を高く構えて言葉を紡ぐ。
「俺はまだまだ弱いさ。だけど、目の前で苦しんでいる仲間ぐらいは助けてみせるさ!」
敦也は叫ぶと電雷を帯びた拳を真紅のドラゴンの右前足に直撃させる。彼の拳が真紅のドラゴンの右前足を破壊していく。
「うおぉぉぉぉぉーー!!」
ばぎっ! と音をたてて、真紅のドラゴンの右前足が粉砕される。握られていた凜は解放されて重力のままに落下を始める。
「空!」
敦也は足場にしていたバリアを移動してもらうよう叫ぶ。身体を上下逆に回転させ、両足で空が移動してくれたバリアを蹴った。
宙を跳んだ敦也は落下を続ける凜を抱きかかえて、壁で跳ねてから地面に着地した。
「よっしゃ、成功だ!」
「さすが敦也くんよくやった。今度、メロンパン半分あげるよ」
広太と祐希からよくやったと歓喜の声がかけられる。
「先輩……ごめんなさい。わたし迷惑かけて」
凜は掠れた声を出しながら敦也から眼を反らしている。凜の瞳には小さな涙の粒が存在していた。
「迷惑? そんなんいつかけられた」
敦也の言葉を聞いてきょとんとした凜のために彼は言葉を継ぐ。
「俺が仲間を助けるのは当たり前なんだよ。だから、俺はなんの迷惑も感じていない。それより俺は凜を待たせてしまって悪いと思ってる」
「いえ、突っ走ってしまったわたしが悪いんですから。先輩は悪くありませんよ」
「まぁ凜が無事でよかった」
敦也は凜を腕から下ろして地面に立たせる。凜は少しよろけたがなんとか立つことができた。
「先輩、行きましょう。わたしたちであいつを倒しますよ!」
「動けるか?」
「大丈夫ですよ。先輩こそ大丈夫ですか?」
凜は首を傾けて敦也を見上げる。
「もちろん問題ないさ。行くぞ!」
敦也の答えを聞くと凜は、素早く詠唱を口にして《神威》を顕現させた。
敦也と凜は、はるか頭上を舞う真紅のドラゴンに視線を据えて拳と剣を構える。
「ぼくは休憩させてもらうよ」
祐希は剣を慣れた動きで鞘に納めて、壁に寄りかかって座る。剣を納めると同時に髪の色も水色からいつもの色に戻っていた。
「行ってこいお前ら、俺も少し休む。しっかりフォローしてやれよ空」
広太も疲れたのか勢いよく地面に座った。
「言われるまでもないよ。留守は任せろよ不完全のリーダー」
空は疲労している広太を一瞥すると帽子を被り直した。
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