鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

決着と感動と

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敦也は凜と顔を見合わせて深く頷いてから、左右に別れて壁を登り始める。敦也が電光石火で壁を登り、凜が神速で壁を登る。
敦也たちの行動に気づいた真紅のドラゴンは、登ってくるのが速い凜めがけて火球を放った。
凜は向かってくる火球を確認すると、壁を登りながら身体を一回転させて神威で火球を斬り裂き、さらに壁を登る。
壁を凜みたいに軽く走れない敦也は限界が来たら、空にバリアを出してもらい足場にして真紅のドラゴンまで跳んだ。
凜に気を取られていた真紅のドラゴンに電雷の拳を一撃かまして、敦也は地面に着地する。
一撃を受けて、敦也に憤怒の咆哮を上げる真紅のドラゴンの背中に凜がさらに《神威》で斬りかかる。
真紅のドラゴンは凜に視線を据えて口を開き、巨大な火球を放つ。神威を振り切った状態の凜に火球を防ぐ方法はない。だがーー
火球が凜に直撃する寸前に空が展開したバリアによって防がれた。
凜は重力のままに地面に落下して着地すると、敦也がまた壁に向かって走り出すのを確認してから壁を走り出す。
真紅のドラゴンは俺達の行動を確認するや、両翼を大きく広げて強く羽ばたき始めた。すると猛烈な風が発生し壁を走っている二人の妨害をした。
敦也と凜は強風に逆らえず壁から離されて、宙に飛ばされ真下に勢いよく吹き飛ばされた。そこに追い撃ちをかけるように真紅のドラゴンは火球を数発放った。並行感覚が不安定すぎる空中では、凜も火球をすべて切断する自信はなかった。
「敦也兄!」
火球を空が展開したバリアで防ぎ、敦也と凜は地面に不安定に着地した。
「やっぱあいつ頭いいよな」
敦也が両翼を羽ばたいている真紅のドラゴンを眺めてぼやくと、
「いや、これでいくぞ。敦也と凜の連携はバッチリだ。あとは俺と空がフォローするから」
広太が銃を構えて立ち上がる。まだ顔には疲労の色が残っていた。
「よっしゃ! もう一回行くぞ凜!」
「了解です、先輩!」
敦也は凜の返事を確認すると、再度壁に向かって走り出す。
壁に向かって走り出した敦也と凜を見て、広太は真剣な表情をして呟いた。
「……問題は魔力の限界だな」
「ん、魔力?」
空が広太の呟きに反応して首を傾ける。
「普通だったら、壁面走行なんてできないだろ。敦也と凜がそれを可能にしているのは魔力と能力によるものだ。で、能力は魔力がきれたら使えないし、身体の強化も魔力がなければできない」
珍しく正論を言っている広太に「おー!」っと、空は頷く。
「なら、魔力がきれる前に倒せばいいんでしょ」
「そうだけど、そんな簡単な話じゃないだろ」
広太が腕を組みそんなことが、可能かどうか思案するとなりで空は敦也にバリアで足場を作る。
「やぁぁぁ!」
敦也が拳を真紅のドラゴンの横腹に直撃させると、体勢を変えて足下に展開されたバリアを蹴って後方に跳ぶ。
「グァァァ!」
真紅のドラゴンは咆哮を上げながら、敦也めがけて口を大きく開き火球を放つ。彼は少しの恐怖を感じながらも空がバリアを展開するのを待った。バリアが展開されると、火球はバリアにぶつかり衝撃を残し消失した。
反対側で凜が壁を蹴り真紅のドラゴンに接近する。真紅のドラゴンは尻尾をしならせて、上から凜を叩き落とそうとすると、凜の足下にバリアが展開されて尻尾をするりと避けて、力を込めて剣を真下に振り下ろした。
ズバ、っという豪快な切断音が聞こえそうなぐらいに真紅のドラゴンの尻尾が切断された。尻尾はそのまま真下に落下していく。
「グォァァァァァ!!」
尻尾を斬られた痛みで絶叫する真紅のドラゴンは眼を大きく開き、自分を翻弄する者めがけて身体を全速力で飛翔させる。あっという間に地面に着地した真紅のドラゴンは左前足で空を横から薙ぎ払う。
「くらうかよ!」
バリアを身体のすぐ横に展開して、真紅のドラゴンの攻撃を防ぐ空だが、その表情に笑顔はなかった。
「あ、こりゃやばーー」
真紅のドラゴンの膂力はバリアを崩壊させ、そのまま空を薙ぎ払い彼を右の壁へと激突させた。空がぶつかった辺りの壁は崩壊し、瓦礫が追い撃ちをかけるように降り注いだ。
「空! くそっ、四弾装填、狼牙破滅弾!」
広太は怒りを顔に滲ませながら《群狼牙》から銃撃を放つ。不可避の弾丸は飛翔しだした真紅のドラゴンに直撃はしたがさほどダメージのないようだった。
我が主よ。もうじき活動限界時間じゃ。これ以上の解放は身体に影響を及ぼすぞ。
人狼女王の声が広太の思考内に飛んでくる。
あと一発だけでいい。あと一発だけ、あいつに放つ。そうでもしなきゃ俺の気がすまねぇんだよ!
広太は瓦礫に埋まってしまった空を一瞥して決意を固める。
代償ならいくらでも受ける! だから、頼む人狼女王!
人狼女王は思考内でため息を吐いてから、
……あと一発じゃ。
心の中で人狼女王に礼を言ってから、広太は作戦を伝える。
「祐希! あいつを落とすぞ、力を貸してくれ!」
「おけ、りょーかいだよ!」
「敦也、凜! 俺と祐希があいつを落とすから、お前達の全力を叩き込め!」
「わかった」
「了解です!」
敦也と凜はうなずきながら地面に着地した。
「お前ら出てこい!」
広太の叫びに反応して、広太の回りに十匹の狼弾丸が現れては、《群牙狼》に吸い込まれるように入っていく。
「全弾装填! 狼牙破滅弾! 全弾発射!!」
広太はありったけの魔力を込めて大技を放った。広太のまわりは振動で床と空気が震える。二丁の銃から放たれた大きな狼のような魔力弾は、真紅のドラゴンの左翼に穴を空けた。
真紅のドラゴンはバランスをくずしたが、右翼だけでバランスを立て直し二発火球を噴いた。
「やぁぁぁあああ!」
能力を発動させて飛翔している祐希が《氷華》を抜き火球を凍らすと、火球の間を踊るように飛翔して真紅のドラゴンの右翼にまで到達した。
「りゃっ、やぁぁぁ!」
祐希は右翼の近くで右翼を斬り裂くように勢いよく回転する。氷華が横に動くたびに氷の筋が残り、祐希が一周すると一輪の向日葵が咲いた。
三拾六連華の参、向日葵だ。咲いた向日葵はじょじょに右翼全体に氷を延ばしていく。
左翼は穴が空き、右翼は凍りつき動かない。真紅のドラゴンは羽ばたくことができなくなり落下を始めた。
「よし、行くぞ凜」
「はい、先輩」
敦也と凜は、落下してくる真紅のドラゴンを待ち構える。
突然、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。
「待ってるだけじゃダメだよ」
その瓦礫に埋まっているはずの人物の声を聞くと、敦也と凜は後ろから押されて宙にゆっくりと飛びはじめた。
「やっぱ、バリアの三人乗りはきついな」
「空! 大丈夫か!?」
「生きてたんだ! ……よかった」
敦也は頬をつねったりしてこれが嘘じゃないか確かめる。凜の眼には涙のようなものが見えた。
「勝手に殺すなよ。あの程度じゃ、僕は死なないよ!」
空は強がっているが左半身はほとんど動かない状態だった。身体のいたるところから血が出ていて、とても大丈夫そうには見えない。
「凜姉、泣くんならこいつ倒してからでしょ」
空は無理して笑う。
頭上が急に明るくなった。それが真紅のドラゴンの放った多数の火球だと俺が理解したときには凜が動きだしていた。
「はぁぁぁああーー!」
凜は身体を回転させたり斜めらせたりしてすべての火球を斬り裂いて、敦也たちのいるバリアに着地した。
「もうすぐだ。あとは任せたからね二人とも」
真紅のドラゴンとの距離は縮まり、もうすぐそこまできている。凜はバリアを蹴り跳躍して、真紅のドラゴンに猛然と斬りかかりに行く。
「やぁぁぁぁぁーー!!」
右上から斜め下に、左上から斜め下に、縦一直線に斬り裂いてから、斬り裂いた中心に突きを五連続させたあと、横一文字に全力の回転斬りを一回転をぶつけた。
真紅のドラゴンが痛みの絶叫を上げた。凜は回転斬りを終わらせ重心を後ろに下げて、後ろから跳んでくる敦也と入れ替わる。
「うらぁぁぁぁーー!!」
敦也は残っている魔力をすべて電雷に変えて右腕に纏わせると、それを真紅のドラゴンの頭に繰り出した。
「……おらぁぁぁぁぁあああーー!!」
雄叫びとともに全体重を乗せて繰り出した拳を、真紅のドラゴンの頭が凹むまで力を込め続ける。
「グオァァァァァァァ!!」 力を込め続けると、真紅のドラゴンも絶叫しはじめる。敦也の拳に抵抗するように力が込められていた頭が不意に軽くなり、身体ごと頭は地面に叩き落とされていく。
敦也も身体全身から力がすっと抜けていき落下を始める。
「先輩……」
バリアにいた凜が敦也を受けとめて、バリアは地面へと下っていく。
「やったのか……?」
地面に降り、真紅のドラゴンへと近づき生死を確認しようとする。
「うん、大丈夫だよ。敦也くんたちの勝利さ」
祐希は微笑みながら敦也たちに近づいてくる。
「やっ…………たー!!」
祐希の言葉を聞くと凜は瞳に小さな粒を浮かばせ、顔に満面の笑みを浮かばせて跳ね上がった。
「疲れたー。身体中痛いよ。誰かちょっと傷口手当てしてー」
空はバタンと地面に倒れ込んだ。地面に身体を打って、少し痛そうな表情をしたが笑顔がそこにはあった。
「よっしゃ! ありがと、祐希けっこう助けてくれて」
「ぼくはぼくがやりたいようにしただけさ」
「おい、俺を忘れるなよお前ら」
「あそこ光ってるよ!」
広太を無視した空が指した地面だけが、他の地面とは違う丸い輝きをしていた。
「あそこに行けば待ってるは宝がある場所に行けるのさ」
祐希の言葉に敦也たちは動く力を取り戻す。宝がもうすぐあると思うと、身体に自然と力が入った。
全員で光っている地面に立つと、地面はギルドの塔にある昇降床みたいに下降し始めた。
がご、という音で下降が終わると、まわりにランプが順に明かりを灯していき部屋が明るくなった。
部屋にあるのは三つの大小様々な宝箱だった。
俺達は大きい宝箱から開けていき、中に入っているものを確認した。二つ宝箱を開けると、鉄や植物の種が入っているだけで神器や神の副産物のようなものは入ってはいなかった。
最後の宝箱を開けると中には丸い水晶玉のようなものと一枚の紙が入っていた。
敦也は紙を手にとって書いてある文章を声にして読んでみた。
「これは神の副産物・《思いでの欠片》。地球で起きたことを見ることができるよ。例えば、自分がなんで裏切られたのかとかも知れちゃうよ……だってさ」
おそらくミサトが書いたであろう説明書を読み終えた敦也は、水晶玉を手にして凜を見る。
「凜がこれを使うべきじゃないか?」
「え、わたしですか。適した人物のために使うべきですよ」
凜は急の指名に驚いた様子で手を振る。
「凜は知っといたほうがいいと思う。玲奈とお前はとても仲が良かったはずだ。なのにその日なんで玲奈が来なかったのか」
「でも、広太たちはわたしでいいんですか?」
「俺は仲が良い奴なんていなかったし」
「僕は友達を作ろうとしなかったし」
「引きこもってたから、他人と関わりがなかったからね」
と、凜が神の副産物を使うことに異議は無いようだった。
「凜は知りたくないのか?」
「それは…………」
凜は考えるように下を向いた。
現実から目を背けることは簡単だ。逆に、現実を直視することは難しいと思う。凜は悩んだ、知ってしまったら玲奈に対する思いが変わってしまうかもしれないから。
「悩むんなら悩むな。いま目の前にチャンスがあるんだ。知らないで後悔しないこともあるかもしれないけど、知って良くなることもあるかもだぜ」
敦也の言葉に凜はうなずいて水晶玉を受けとる。
「……わたしが事故に遭った日に玲奈はなにをしていたか教えて」
水晶玉は凜の言葉に反応して、映像を宙に大画面で写し出した。映像を敦也たちは静かに眺めた。
『玲奈、いいの凜ちゃんと一緒に来ないで』
『凜がちょっと怒って教室に入ってきたところにサプライズしたら、きっと喜んでくれるよ!』
それは凜がいる教室での会話だった。時刻は凜が言っていた朝の集合時間だった。教室にいる生徒みんなクラッカーのようなものを持っていた。
教室の黒板には大きな文字で書かれていた。凜ちゃん誕生日おめでとう、と。
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