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死後の世界と真紅のドラゴン
それでは謎解きといこう
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映像が一瞬真っ暗になりまた流れ始める。どうやら、時間が経過したらしかった。
『凜が車に轢かれて死んだ。なに言ってるんですか先生。凜が……なにかの間違いですよね』
玲奈の悲壮感によってか瞳には大粒の涙があらわれ頬を流れていく。
『ごめんね、凜。わたしのせいだ……わたしがいつも通り凜と一緒に学校に行っていればこんなことにはならなかったよね』
映像の中で玲奈は激しく泣いた。最高の友人を失った悲しみで、自分が殺してしまったかもしれないという責任感に。
そこで映像は消えて、思いでの欠片の水晶玉は粉々に割れ塵となって風に舞った。
「あの日は……わたしの誕生日だったのか」
凜は知ってしまった真実で心が痛み、頬に涙を流す。凜は先日、玲奈を疑うようなことを言っていた。それも悔やんでいるんだろう。
「凜ちゃん……」
祐希が優しく凜の肩に手を置いて、
「凜ちゃん、泣きたいときは泣けばいいと思うよ、今の凜ちゃんは一人じゃないでしょ……ぼくたちがいるでしょ」
敦也が先日祐希に送った言葉をそのまま凜に送る。凜は祐希の言葉を聞くと祐希の胸に飛び込み大声で泣いた。祐希が凜の頭を、よしよし、と慰めるように言いながら優しく撫でた。
敦也はそんな凜にかける言葉が見つからなかった。体力を使いきって頭が回らなくなっていたのかもしれないけど、たぶんなにを言っても今の凜には届かないだろう。今はただ涙を流させてあげたほうがいいと思ったのかもしれない。
凜が泣き止むまで待ってからダンジョンから出ようと広太が提案すると、ダンジョン全体が大きく揺れた。
祐希は何かを察したのか上を向いてから叫んだ。
「急いでダンジョンから出るよ。もうすぐここは崩壊する」
敦也たちの顔に焦りの色が浮かび上がる。
「こっちだよ、はやく来て!」
祐希は手招いて敦也たちを光る床へと先導する。
広太、空と光る床へと走っていく。
「凜、帰ろう。仲間が……友達が待ってるぜ」
敦也は凜に手を伸ばす。凜は瞳に浮かぶ涙を手で拭い彼の手を取った。敦也は凜を引っ張って友達が待つ光る床に急いだ。
光る床に立つと床の輝きは増して俺達を飲み込んでいく。敦也は光の眩しさに眼を閉じる。
そして眼を開くと、敦也たち五人はダンジョンの入り口に立っていた。後ろからはダンジョンが崩壊していく音が聞こえてくる。どうやらあの光る床はダンジョンの入り口にテレポートできる床だったらしい。
眼を開くとすぐに視界に入ったのは笑顔で五人の帰りを待っていた咲夜だった。咲夜は明るい笑顔で、
「お帰り、お疲れさま」
咲夜のその言葉を聞いたら、ダンジョンをクリアしたという実感と疲労感がどっとやってきた。
敦也の意識は徐々に遠退いていき疲労により眠ってしまった。力を失った敦也は倒れだし近くにいた凜に支えられる形になった。
「先輩、わたしも疲れてるんですよ」
凜は倒れてきた敦也を抱えて支えながら呟いた、
「でも、少しだけかっこよかったから」
凜は敦也の頭に自分の頭を並ばせて静かに眠っていった。
疲労で疲れている二人の寝顔は、死後の世界には似合わないとても明るい笑顔だった。
※
飛鳥は覚悟を決めて、傘山先輩が待っている生徒会室に時間通りの六時に入った。
入るとすぐ眼に入ったのは、窓際に本を開いて立っている制服姿の傘山先輩だった。
「気は変わったかな?」
傘山先輩は読みかけの本に栞を挟み、本を閉じて飛鳥に目を向けた。
「そうですね、少し場所を変えませんか。答えはそこで言います」
飛鳥は傘山先輩にそう提案した。彼は彼女を信頼してのことかあっさり頷く。二人は生徒会室を出てある場所へと向かう。
二人が向かった場所は学校の屋上。飛鳥が敦也と最後に喋った場所だった。
「さて、答えをくれるかい」
傘山先輩は、赤い空が黒く染まっていくのを眺めてから口を開いた。
「その前に、いくつか質問してもいいですか」
「ん、いいとも。ちゃんと答えを返せるかは保証できないけど」
傘山先輩は優しく笑って了承した。
「まず、なんでわたしなんですか。傘山先輩みたいな人が普通のごく普通のわたしをなんで選んだんですか?」
飛鳥は本題の質問をする前にこれだけは単純に聞いておきたかったことを質問した。
「……それは少し勘違いだよ、瀧川くん。僕は君が欲しいんじゃない、全てが欲しいんだ。君だけなんだよ、この学校で僕のことを嫌うのは。他の生徒は僕のことを欲しているのにさ。そんな異常な君を傍に置いておきたいとは思わないかい。観察したいとは思わないかい?」
「わたしはさながら実験動物ですか。モルモットですか」
飛鳥は傘山先輩の言葉に強烈な寒気がして、顔が変に笑ってしまう。不適な笑みだと飛鳥は思った。今から行うことに対する覚悟とは合わない笑顔だ。
「そうだね。君が素直に僕の物になってくれれば、観察なんてせずに君でたっぷりと遊ぶんだけどな」
傘山先輩は表情をまったく変えずに自分の願望を述べていく。
「なるほどです、両方とも嫌ですね。では、二つ目の質問です。わたしの大親友の敦也はなんで死んだんですか?」
飛鳥の質問に傘山先輩は少し驚いた様子だったが、すぐに普段の優しい笑顔を作った。
「それは矢沢にやられたからだろう。あれは僕の責任だね。ちゃんと後輩の面倒を見れなかった。すまない、瀧川くん」
この質問じゃだめと考えてすぐにべつの質問に切り替える。
「三つ目です。なんで矢沢先輩は敦也を殺したんですかね?」
「むしゃくしゃしたんだろう。彼はもとから危ない性格の人だったしね」
傘山先輩の発言に穴を見つけたので見逃さずそこを突く。
「いえ、矢沢先輩は中学の頃はとても優しい先輩だったはずです。矢沢先輩が変わったのは高校に入ってからじゃないんですか。例えば、酷い先輩に命令されてたから、とか」
「ほう、その先輩は酷い人だね。見つけて懲らしめてあげなくてはね。矢沢をあんな風に変えてしまった悪の元凶を。まぁ、いたらの話だけどね」
傘山先輩は相変わらず表情を変えず笑っていた。あくまで自分がその先輩とは自分からは言わない気らしい。
「あなたがその先輩なんじゃないですか。わたしはずっと敦也しか見ていなかった。だから傘山先輩なんて見るわけもない。傘山先輩から見れば敦也は邪魔な存在でしかなかった。そこで矢沢先輩に逆らえない何かを造って命令して敦也を殺させた」
「酷い妄想だね。頭でも打ったかい?」
「すべて現実ですからね。探偵ではないですけど、真実はいつも一つなんですよ」
傘山先輩は、はぁ、と詰めていた息を吐いてからもう黒くなってしまった空を見上げる。
「少しだけ違うよ。矢沢に逆らえない状況なんて造ってはいない。彼に逆らったら彼の両親が勤めている会社を潰すと言ったが、僕にはまだその力はない。まだ僕のグループは動き始めたばかりだからね」
「矢沢先輩は嘘に踊らされて、あなたの命令に従っていたんですか」
飛鳥は酷くこの人に失望した。絶望した。傘山先輩の発言ににまた引っかかる言葉があった。
「待って、グループって何!?」
傘山はワイシャツの袖をまくり、腕に描かれたイラストを飛鳥に見せた。傘山の腕に描かれたイラストは神に見える。法衣をまとい、輪を頭上に乗せ、翼を生やし。しかし、その翼は片方にしか生えていなかった。片方の翼はまるで何かにむしり取られたようになっている。
「このイラストを身体のどこかに付けた人がいずれ世界に溢れかえるよ。グループ名は《ロストゴッド》。目的はいたって単純だよ、異常な世界の崩壊と最高の世界の再構築さ。で、そのグループの創始者は僕ってわけ」
「ロストゴッド……失われた神って、世界崩壊ってあなたこそ異常ですよ」
飛鳥は苦笑いで傘山先輩を見る。世界崩壊。途方もなく無理な話だと思っているが、この目の前にいる人はそれを可能にしてしまいそうなオーラがあった。
「瀧川くん、僕の物になるんだ。そうすれば、君の家族を殺したりはしないことを約束しよう。さらには、新世界の創造者の妻として世界の半分は君に捧げようか」
傘山先輩の提案に飛鳥は強く深く息を飲んだ。この人に付いていけば全てが手に入る。富も名声も金も地位も。彼女の口から笑いが溢れていた。
「あははははははは、ははははははは!!」
全てが手に入る。そしたら何も苦労はしないで生きていける。人生楽だ。
飛鳥は笑いを止めて、眼を閉じて大切な人を頭に浮かばせて、呟くように口にする。
「……そんなのいらないわよ。確かにあなたに付いていけばたくさんの物が手に入る。でも、手に入らない物もあるから」
「手に入らない物。それはなんだい、言ってごらん。僕が手に入れて見せるから!」
「いえ、無理ですよ。あなたじゃ敦也を取り戻せない」
飛鳥は首を振り傘山先輩の言葉を否定する。
「あなたはなんで世界を造り直したいんですか?」
「俺の思い通りに動く世界にする。誰かの為に動く世界に。悪を絶ち、善を守る。俺はべつに人類皆死ねなんて考えてはいない。みんなが幸せになればいいんだ」
飛鳥は傘山先輩の言葉に驚いていた。すべてを手に入れると言っていたこの人がみんなの幸せを望んでいることに。
「そのために邪魔な奴は迷わずに殺す、躊躇せずに躊躇いもせずにね。幸せな世界を造るにはとりあえず人間を八割は減らそうかな。多いと統率がめんどそうだし」
「やっぱりあなたは間違っている。人の命をそんな簡単に捨てられる人が幸せになれる、幸せにできるわけがない。あなたの言うみんなって言うのはあなたが選んだみんなだ。それはみんなじゃない。人間って誰しも個性があるんです、アホだったり、馬鹿だったり、お調子者だったり、チャラかったり、強情だったり、人任せだったり。すべての人を受け入れることができる人が誰かを幸せにできると思います。あなたはそれが可能だと思っているでしょう。あなたみたいに気に入らないから殺すみたいなやり方じゃ絶対に無理です」
飛鳥の言葉を聞いた傘山先輩は顔を歪ませて笑って、彼女を強く睨んだ。その眼には強烈な殺意が宿っていた。
「君は僕の邪魔をするんだね…………じゃー、死のっか!!」
傘山先輩はポケットから折り畳まれナイフを取りだし、展開して飛鳥に向かって歩きだす。
飛鳥は少しずつ後ろに下がり、屋上の落下防止用のフェンスにぶつかってしまう。腹に傘山先輩のナイフが刺さり飛鳥は猛烈な痛みに襲われた。傘山先輩は両手でさらに力を込めてナイフを押し込んでいく。
「うっ!」
「ははははははは、死ねよ、速く!!」
飛鳥は傘山先輩の腕を掴み、傘山先輩を見て微笑んだ。
「あなたが死ねばそのグループは消えるかな……」
「あっ!!」
飛鳥言葉に傘山先輩が気づいたときには、二人は屋上から落下を始めていた。五階建ての校舎から真っ逆さまにである。
屋上の落下防止用のフェンスはずっと点検が行われてなかったため、古くなり錆びて力を強く込めれば壊れてしまうのだ。
これは敦也が教えてくれたことだよ。
「瀧川っ、貴様!」
「一緒に死にましょうか、傘山先輩。欲しがっていた人と死ねてよかったですね。わたしは敦也のほうがいいですけど」
アツヤいま会いに行くからね。
心で呟くと、
飛鳥ちゃんはその道を選ぶんだね。待つものが希望か絶望かは知らないよ。幸運か不幸かも知らない。すべては飛鳥ちゃんしだいさ。未来へ続く扉を開ける鍵の在処は君の心の中に。
『閉ざされた世界の』神であるミサトの迎えに来る声が届き、飛鳥は恐怖から逃げるように強く眼を閉じた。
そして、飛鳥と傘山先輩は地面に衝突して身体を強く打ち、一瞬にして死んだ。
翌日、飛鳥の部屋から見つかった遺書にはこう書き残されていた。
『お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん。先に死ぬことを謝ります。陽子もごめんね。
わたしはどうしてもやらなきゃいけないことがあるんです。何をしでかすかわからない大事な人が心配だから会いにいきます。そして、わたしは伝えてきます。愛していますって。
だからわたしは死にます。
わたしの大好きな人に会いにいきます。
ごめんなさい。ちゃんと孝行もできないで。わたしを敦也に出会わせてくれてありがとう』
『凜が車に轢かれて死んだ。なに言ってるんですか先生。凜が……なにかの間違いですよね』
玲奈の悲壮感によってか瞳には大粒の涙があらわれ頬を流れていく。
『ごめんね、凜。わたしのせいだ……わたしがいつも通り凜と一緒に学校に行っていればこんなことにはならなかったよね』
映像の中で玲奈は激しく泣いた。最高の友人を失った悲しみで、自分が殺してしまったかもしれないという責任感に。
そこで映像は消えて、思いでの欠片の水晶玉は粉々に割れ塵となって風に舞った。
「あの日は……わたしの誕生日だったのか」
凜は知ってしまった真実で心が痛み、頬に涙を流す。凜は先日、玲奈を疑うようなことを言っていた。それも悔やんでいるんだろう。
「凜ちゃん……」
祐希が優しく凜の肩に手を置いて、
「凜ちゃん、泣きたいときは泣けばいいと思うよ、今の凜ちゃんは一人じゃないでしょ……ぼくたちがいるでしょ」
敦也が先日祐希に送った言葉をそのまま凜に送る。凜は祐希の言葉を聞くと祐希の胸に飛び込み大声で泣いた。祐希が凜の頭を、よしよし、と慰めるように言いながら優しく撫でた。
敦也はそんな凜にかける言葉が見つからなかった。体力を使いきって頭が回らなくなっていたのかもしれないけど、たぶんなにを言っても今の凜には届かないだろう。今はただ涙を流させてあげたほうがいいと思ったのかもしれない。
凜が泣き止むまで待ってからダンジョンから出ようと広太が提案すると、ダンジョン全体が大きく揺れた。
祐希は何かを察したのか上を向いてから叫んだ。
「急いでダンジョンから出るよ。もうすぐここは崩壊する」
敦也たちの顔に焦りの色が浮かび上がる。
「こっちだよ、はやく来て!」
祐希は手招いて敦也たちを光る床へと先導する。
広太、空と光る床へと走っていく。
「凜、帰ろう。仲間が……友達が待ってるぜ」
敦也は凜に手を伸ばす。凜は瞳に浮かぶ涙を手で拭い彼の手を取った。敦也は凜を引っ張って友達が待つ光る床に急いだ。
光る床に立つと床の輝きは増して俺達を飲み込んでいく。敦也は光の眩しさに眼を閉じる。
そして眼を開くと、敦也たち五人はダンジョンの入り口に立っていた。後ろからはダンジョンが崩壊していく音が聞こえてくる。どうやらあの光る床はダンジョンの入り口にテレポートできる床だったらしい。
眼を開くとすぐに視界に入ったのは笑顔で五人の帰りを待っていた咲夜だった。咲夜は明るい笑顔で、
「お帰り、お疲れさま」
咲夜のその言葉を聞いたら、ダンジョンをクリアしたという実感と疲労感がどっとやってきた。
敦也の意識は徐々に遠退いていき疲労により眠ってしまった。力を失った敦也は倒れだし近くにいた凜に支えられる形になった。
「先輩、わたしも疲れてるんですよ」
凜は倒れてきた敦也を抱えて支えながら呟いた、
「でも、少しだけかっこよかったから」
凜は敦也の頭に自分の頭を並ばせて静かに眠っていった。
疲労で疲れている二人の寝顔は、死後の世界には似合わないとても明るい笑顔だった。
※
飛鳥は覚悟を決めて、傘山先輩が待っている生徒会室に時間通りの六時に入った。
入るとすぐ眼に入ったのは、窓際に本を開いて立っている制服姿の傘山先輩だった。
「気は変わったかな?」
傘山先輩は読みかけの本に栞を挟み、本を閉じて飛鳥に目を向けた。
「そうですね、少し場所を変えませんか。答えはそこで言います」
飛鳥は傘山先輩にそう提案した。彼は彼女を信頼してのことかあっさり頷く。二人は生徒会室を出てある場所へと向かう。
二人が向かった場所は学校の屋上。飛鳥が敦也と最後に喋った場所だった。
「さて、答えをくれるかい」
傘山先輩は、赤い空が黒く染まっていくのを眺めてから口を開いた。
「その前に、いくつか質問してもいいですか」
「ん、いいとも。ちゃんと答えを返せるかは保証できないけど」
傘山先輩は優しく笑って了承した。
「まず、なんでわたしなんですか。傘山先輩みたいな人が普通のごく普通のわたしをなんで選んだんですか?」
飛鳥は本題の質問をする前にこれだけは単純に聞いておきたかったことを質問した。
「……それは少し勘違いだよ、瀧川くん。僕は君が欲しいんじゃない、全てが欲しいんだ。君だけなんだよ、この学校で僕のことを嫌うのは。他の生徒は僕のことを欲しているのにさ。そんな異常な君を傍に置いておきたいとは思わないかい。観察したいとは思わないかい?」
「わたしはさながら実験動物ですか。モルモットですか」
飛鳥は傘山先輩の言葉に強烈な寒気がして、顔が変に笑ってしまう。不適な笑みだと飛鳥は思った。今から行うことに対する覚悟とは合わない笑顔だ。
「そうだね。君が素直に僕の物になってくれれば、観察なんてせずに君でたっぷりと遊ぶんだけどな」
傘山先輩は表情をまったく変えずに自分の願望を述べていく。
「なるほどです、両方とも嫌ですね。では、二つ目の質問です。わたしの大親友の敦也はなんで死んだんですか?」
飛鳥の質問に傘山先輩は少し驚いた様子だったが、すぐに普段の優しい笑顔を作った。
「それは矢沢にやられたからだろう。あれは僕の責任だね。ちゃんと後輩の面倒を見れなかった。すまない、瀧川くん」
この質問じゃだめと考えてすぐにべつの質問に切り替える。
「三つ目です。なんで矢沢先輩は敦也を殺したんですかね?」
「むしゃくしゃしたんだろう。彼はもとから危ない性格の人だったしね」
傘山先輩の発言に穴を見つけたので見逃さずそこを突く。
「いえ、矢沢先輩は中学の頃はとても優しい先輩だったはずです。矢沢先輩が変わったのは高校に入ってからじゃないんですか。例えば、酷い先輩に命令されてたから、とか」
「ほう、その先輩は酷い人だね。見つけて懲らしめてあげなくてはね。矢沢をあんな風に変えてしまった悪の元凶を。まぁ、いたらの話だけどね」
傘山先輩は相変わらず表情を変えず笑っていた。あくまで自分がその先輩とは自分からは言わない気らしい。
「あなたがその先輩なんじゃないですか。わたしはずっと敦也しか見ていなかった。だから傘山先輩なんて見るわけもない。傘山先輩から見れば敦也は邪魔な存在でしかなかった。そこで矢沢先輩に逆らえない何かを造って命令して敦也を殺させた」
「酷い妄想だね。頭でも打ったかい?」
「すべて現実ですからね。探偵ではないですけど、真実はいつも一つなんですよ」
傘山先輩は、はぁ、と詰めていた息を吐いてからもう黒くなってしまった空を見上げる。
「少しだけ違うよ。矢沢に逆らえない状況なんて造ってはいない。彼に逆らったら彼の両親が勤めている会社を潰すと言ったが、僕にはまだその力はない。まだ僕のグループは動き始めたばかりだからね」
「矢沢先輩は嘘に踊らされて、あなたの命令に従っていたんですか」
飛鳥は酷くこの人に失望した。絶望した。傘山先輩の発言ににまた引っかかる言葉があった。
「待って、グループって何!?」
傘山はワイシャツの袖をまくり、腕に描かれたイラストを飛鳥に見せた。傘山の腕に描かれたイラストは神に見える。法衣をまとい、輪を頭上に乗せ、翼を生やし。しかし、その翼は片方にしか生えていなかった。片方の翼はまるで何かにむしり取られたようになっている。
「このイラストを身体のどこかに付けた人がいずれ世界に溢れかえるよ。グループ名は《ロストゴッド》。目的はいたって単純だよ、異常な世界の崩壊と最高の世界の再構築さ。で、そのグループの創始者は僕ってわけ」
「ロストゴッド……失われた神って、世界崩壊ってあなたこそ異常ですよ」
飛鳥は苦笑いで傘山先輩を見る。世界崩壊。途方もなく無理な話だと思っているが、この目の前にいる人はそれを可能にしてしまいそうなオーラがあった。
「瀧川くん、僕の物になるんだ。そうすれば、君の家族を殺したりはしないことを約束しよう。さらには、新世界の創造者の妻として世界の半分は君に捧げようか」
傘山先輩の提案に飛鳥は強く深く息を飲んだ。この人に付いていけば全てが手に入る。富も名声も金も地位も。彼女の口から笑いが溢れていた。
「あははははははは、ははははははは!!」
全てが手に入る。そしたら何も苦労はしないで生きていける。人生楽だ。
飛鳥は笑いを止めて、眼を閉じて大切な人を頭に浮かばせて、呟くように口にする。
「……そんなのいらないわよ。確かにあなたに付いていけばたくさんの物が手に入る。でも、手に入らない物もあるから」
「手に入らない物。それはなんだい、言ってごらん。僕が手に入れて見せるから!」
「いえ、無理ですよ。あなたじゃ敦也を取り戻せない」
飛鳥は首を振り傘山先輩の言葉を否定する。
「あなたはなんで世界を造り直したいんですか?」
「俺の思い通りに動く世界にする。誰かの為に動く世界に。悪を絶ち、善を守る。俺はべつに人類皆死ねなんて考えてはいない。みんなが幸せになればいいんだ」
飛鳥は傘山先輩の言葉に驚いていた。すべてを手に入れると言っていたこの人がみんなの幸せを望んでいることに。
「そのために邪魔な奴は迷わずに殺す、躊躇せずに躊躇いもせずにね。幸せな世界を造るにはとりあえず人間を八割は減らそうかな。多いと統率がめんどそうだし」
「やっぱりあなたは間違っている。人の命をそんな簡単に捨てられる人が幸せになれる、幸せにできるわけがない。あなたの言うみんなって言うのはあなたが選んだみんなだ。それはみんなじゃない。人間って誰しも個性があるんです、アホだったり、馬鹿だったり、お調子者だったり、チャラかったり、強情だったり、人任せだったり。すべての人を受け入れることができる人が誰かを幸せにできると思います。あなたはそれが可能だと思っているでしょう。あなたみたいに気に入らないから殺すみたいなやり方じゃ絶対に無理です」
飛鳥の言葉を聞いた傘山先輩は顔を歪ませて笑って、彼女を強く睨んだ。その眼には強烈な殺意が宿っていた。
「君は僕の邪魔をするんだね…………じゃー、死のっか!!」
傘山先輩はポケットから折り畳まれナイフを取りだし、展開して飛鳥に向かって歩きだす。
飛鳥は少しずつ後ろに下がり、屋上の落下防止用のフェンスにぶつかってしまう。腹に傘山先輩のナイフが刺さり飛鳥は猛烈な痛みに襲われた。傘山先輩は両手でさらに力を込めてナイフを押し込んでいく。
「うっ!」
「ははははははは、死ねよ、速く!!」
飛鳥は傘山先輩の腕を掴み、傘山先輩を見て微笑んだ。
「あなたが死ねばそのグループは消えるかな……」
「あっ!!」
飛鳥言葉に傘山先輩が気づいたときには、二人は屋上から落下を始めていた。五階建ての校舎から真っ逆さまにである。
屋上の落下防止用のフェンスはずっと点検が行われてなかったため、古くなり錆びて力を強く込めれば壊れてしまうのだ。
これは敦也が教えてくれたことだよ。
「瀧川っ、貴様!」
「一緒に死にましょうか、傘山先輩。欲しがっていた人と死ねてよかったですね。わたしは敦也のほうがいいですけど」
アツヤいま会いに行くからね。
心で呟くと、
飛鳥ちゃんはその道を選ぶんだね。待つものが希望か絶望かは知らないよ。幸運か不幸かも知らない。すべては飛鳥ちゃんしだいさ。未来へ続く扉を開ける鍵の在処は君の心の中に。
『閉ざされた世界の』神であるミサトの迎えに来る声が届き、飛鳥は恐怖から逃げるように強く眼を閉じた。
そして、飛鳥と傘山先輩は地面に衝突して身体を強く打ち、一瞬にして死んだ。
翌日、飛鳥の部屋から見つかった遺書にはこう書き残されていた。
『お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん。先に死ぬことを謝ります。陽子もごめんね。
わたしはどうしてもやらなきゃいけないことがあるんです。何をしでかすかわからない大事な人が心配だから会いにいきます。そして、わたしは伝えてきます。愛していますって。
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