39 / 53
死後の世界と真紅のドラゴン
いつだって始められる
しおりを挟む※
「楽しんでるかみんなー!!」
咲夜の声が桜を囲んだギルドメンバー全員に届き、そこかしこから大音量の歓声が上がる。
夢猫メンバーはいま祐希の提案だった花見をしている。ギルドメンバー全員で立派な桜を囲んで宴をしているのだ。
今日のために京子さんをはじめとする夢猫厨房の力で出張バーベキューが開かれている。
敦也たち五人がダンジョンを攻略してからもう三日が経っていた。あれから空は寝たきりで三日を過ごし、敦也も一日は眼を覚まさなかったらしい。祐希はぴんぴんでうろちょろ遊んでいたらしいが。
結局今回のダンジョン攻略で神器なような凄いものは手に入らなかった。けれど、敦也は勇気と自信をしっかりと手に入れることができただろう。凜は大切なことを知ることができて色々と気持ちの整理ができただろう。
「敦也くん、綺麗だね」
紫陽花模様の浴衣姿に背中に直剣を背負った祐希がとなりに立ち、敦也を下から覗きこむようにして見る。
敦也は皿に乗せた肉を口に運び、呑み込んでから祐希に視線をやる。
「祐希は桜を見たことはなかったんだよな。よかったな、見ることができて」
「うん、ぼくはこの世界に来れて良かったって思ってるよ。ずっと暗い部屋に引きこもっていたぼくは何も知らないからね。なにより、敦也くんや凜ちゃんというとても大好きな友達に出会えたしね」
祐希は明るい笑顔を敦也に見せて、彼の皿に乗っている肉を手で摘まみ口に運んだ。
「んー、おいしー! もう一枚ー」
敦也の皿からどんどん盛られていた肉が減っていくのを、彼は苦笑いで見ながら遠くの空を流れる一筋の星を眺めて、
いつか飛鳥と一緒に見たいな。
飛鳥が無事に平和に生きていることを願った。
「おーい敦也!」
「敦也兄元気ですか?」
広太と空が敦也を見つけて、広太は走って空はバリアに乗って平行移動して寄ってきた。
「空こそ大丈夫かよ!?」
「僕の能力は車椅子みたいで便利ですよねー」
空はいまだに右腕と右足には包帯が巻かれていた。まだあまり動かないらしかった。
「こいつは馬鹿だから死ねばよかったんだよ」
広太は口に肉をたくさん入れながら喋った。
「あれ、空がやられて一番怒ってたの広太だったでしょ」
「は、気のせいだよこいつなんてまったく気にしてねぇよ!」
「僕も広太なんてどうなってもいいと思っていますよ」
「二人とも素直じゃないんだからー」
祐希は笑い二人を眺め、広太と空は呆れたような顔をして祐希を見た。
「あ、ぼくそろそろ行くねー」
祐希は、ツインフローズンアイスは特設された舞台でライブがあるので着替えるために舞台裏に駆け足で行った。
敦也は広太と空から離れ、凜を探すために歩きだす。すぐ近くにいて見つけだせた。凜は桜に背中をあずけて座ってどんちゃん騒ぎを眺めている。
「ちゃんと食べてるか」
「先輩……わたしは玲奈に会いに行きたいです。生き返って会いたいです。そして、言いたい。ごめんね、って」
凜は瞳に少し涙を浮かばせて敦也を見上げた。
「おいおい凜、泣くのはもう少し早いぜ」
「え、どういうことですか?」
敦也は答える代わりに特設された舞台を指した。
そこには氷道、真奈、七海、祐希たちがライブ用の衣装に着替えて、それぞれが楽器を構えてスタンバイしていた。
「今日はわたしのわたし達の大事な仲間の誕生日を祝うバースデーソングを送るわ。凜ちゃん誕生日おめでとう」
氷道さんの言葉とともにツインフローズンアイスのライブが始まり、音と歌がそこにいた全員の意識に染み込んでいく。
となりに座っている凜は何が起きたかわからないような顔をして、バースデーソングを歌う氷道と祐希に釘付けだった。
「かなり遅れたけどさ、誕生日おめでとう、凜。これからもよろしくな」
敦也、は小さな箱をポケットから取り出して凜に渡す。
「先輩……これ?」
凜は小さな箱を受けとり、嬉しそうな泣きそうな顔をする。急なことで認識が追い付かないのだろう。
「ま、あまり期待はするな。時間なかったし、怪我で動けなかったしさ」
凜は箱を開き中に入っているものを見ると、頬を涙が流れ始めた。
小さな箱に入っていたものは、綺麗な透き通った、だけど形の悪いただの石だった。
「庭で転がったら偶然見つけて、綺麗だなーって思ってさ。それを上げるよ。って、泣いてる!! 嫌だった、やっぱりこんなんじゃ嬉しくなかったか!」
「……いえ先輩、とっても嬉しいです。ありがとうございます、大事にします!」
凜は頬に涙を流しながら笑った。俗に言う嬉し泣きってやつだろうか。
「喜んでくれたならよかったよ」
「ありがとうございます、先輩。ライブや誕生日プレゼントまで用意して貰って。わたしとっても嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね」
「あぁ、一緒に【鍵の在処】を目指そうぜ!」
ツインフローズンアイスが歌うバースデーソングを、凜は嬉し泣きをして敦也は笑顔を浮かばせてその表情を眺めていた。
彼ら彼女らは生きている。今この場所で生きている。
待つのが、希望か絶望か、幸か不幸かなんて関係ない。
彼ら彼女らは生きる、目指す。彼ら彼女らを待つ人の場所へ。
「さて、敦也くんに飛鳥ちゃんと駒は揃った。物語はここからだよ。わたしは【鍵の在処ここから】君たちの頑張りを眺めて待っているよ。早く会いに来なよ……楽しみだな」
ミサトが部屋の壁に写る夢猫の宴の様子を見て微笑んだ。
「行動を始める鍵の在処は君の心の中に」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる