鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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青色の世界と黄金の鎧騎士

攻略組の日常

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『閉ざされた世界』の外側のブラックゾーンに三人の少年少女が喋りながら、森の中を歩いていた。
彼ら彼女らは、『閉ざされた世界』に存在する十、いや、九のギルドのうちの一つ。『夢見る猫たち』の『攻略組』と呼ばれるメンバーである。
ギルドの基地から旅立ちもう一週間が経過していた。
空は黒く染まり始め、星がきらめきだしていた。小型のモンスターが茂みを動き、ときおりざわざわと音がなる。
遠くからはミミズクのような鳴き声がかすかに聴こえる。近くからは、オークの大きな断末魔が聞こえる。
「そろそろ休憩しないか、雲竜寺」
オークを自分の影に両断させた少女が、先頭を歩く地図を広げた少年に呼びかけた。少女の背後に存在する影は迫り来るオークを両断し続けて、そのたびにオークたちは断末魔を上げている。
少女の名前は月影夜鶴。自分の影を操る刀の神器を持つ攻略組のメンバーである。
「あぁ、そうだな。もう少し先にひらけた場所があるからそこまで行こうぜ」
先頭を歩く攻略組のリーダーが地図から目を離さずに、むむむ、と唸りながらそう言った。
彼の名前は雲竜寺颯人。現在の攻略組のリーダーを任されている。彼は方向音痴のため地図を睨んでいるが、地図の見方さえ解らないのが方向音痴である証拠だ。
「……はぁ」
夜鶴はため息を吐いてから、背中に背負っている少女を、よっこらせ、と背負い直して、背中の上で気持ちよさそうに眠る少女を見る。
少女の名前は軽音祐希。自由人であり、天才であり、色々と無知な面がある少女である。何時如何なる時でも有りとあらゆる拘束やルールから解き放たれる能力を持ち、氷を操る剣の神器を持つ。彼女は、遅い時間まで起きていられないので、今は夜鶴の背中で眠っているのだ。
地図に悪戦苦闘している雲竜寺リーダー、夜鶴背中で眠っている祐希自由人。この状況で戦闘ができるのは夜鶴しかいないのだ。
夜鶴一人ならそこら辺のランクが低いモンスターなど、瞬殺の圧勝なのだが、一人に労働させているのはどうなのだろうか、と夜鶴は星がきらめく夜空を眺めた。
攻略組の行く道を決めるのはリーダーである雲竜寺の仕事なのだが、彼が方向音痴のせいで毎回遠征は長期間になってしまう。
方向音痴なところ以外は、温厚で生真面目で優良で頼りがいのあるリーダーなのだ。実際強いし。
夜鶴は再度ため息を吐いた。背後ではオークが影に斬られて、この世最後の叫びを吐いた。
祐希を除く攻略組の一行は三日間寝ずに歩いている。雲竜寺が地図に記された道を歩かず、道を間違え続けあっちへ行ったりこっちを行ったりしているのだ。さすがに夜鶴の疲労はピークを迎えそうだった。背中で眠っている祐希が羨ましいとさえ思っていた。
「地図見せてくれないか、雲竜寺。わたしが道を案内するよ」
夜鶴は、地図が読めない雲竜寺の代わりに道を案内しようと提案するが、
「いや、これはリーダーの俺の仕事だ。月影に迷惑はかけられない」
雲竜寺は首を振りそれを断った。
事実、夜鶴には雲竜寺が断るのがわかっていた。雲竜寺の方向音痴でもっとも恐ろしいことは、彼が自分を方向音痴だと認識していないことである。自覚していないからこそ罪悪感はなく、リーダーとしての責務をまっとうしようとしているのだ。
そんなことには夜鶴はもう馴れているのだが、さすがにそろそろ足を休めたいのだ。最近戦いっぱなしだし、影が。
早く着いてくれないかな、と夜鶴は願いながら先頭を進む雲竜寺の背中を見ていると、不意に彼が動きを止めた。
「どうしたんだ?」
飛びかかってきたオークをまとめて影に両断させて、夜鶴は回り込んで雲竜寺の前を見る。
すると、そこだけ大きな木も草も一本も生えていないひらけた場所が見えた。雲竜寺が地図を見て目指していた場所だった。
いくら雲竜寺が方向音痴と言えど、三日も歩き続ければ目的の場所に着くのだ。そのときの嬉しさと言ったらたまらない。
「よし、休憩するか」
夜鶴が感動していると、雲竜寺が木や草が一本も生えていない円形の場所に足を踏み入れると、それに反応して地面から巨大なムカデが現れて、雲竜寺に襲いかかった。
鋭く尖った顎を開いて雲竜寺を食べようとするムカデは、次の瞬間、彼の掌低により身体をのけ反らして倒れた。倒れた衝撃で森の木で休んでいた小鳥が一斉に羽ばたいていく。
「あの巨体を掌低で弾き返すかよ……」
夜鶴は、雲竜寺の強さに呆れながら円形の場所に一歩入り、祐希を地面に寝かすと、腰から下げた鞘から刀を抜いて、跳んだ。
「《鬼影》!」
夜鶴が神器の名前を叫ぶと、刀から黒い影が洩れでて、刃を覆った。
黒い影に覆われた刃は、黒く鋭利になり黒い光沢を放つ。
神器・《鬼影》は持ち主の影を背後に立たせ怪物のように暴れまわらせる力を持つ。影は持ち主には従順で、どんな命令もこなすのだ。
影だからこそ伸びることができたりすることもある。
「はあぁぁぁーー!」
夜鶴は刀の柄を強く握り、のけ反り倒れている巨大ムカデの腹に叩きつけた。巨大ムカデはけたたましい叫び声を上げながら影の力で強化された斬撃で両断された。
ふぅ、と息を吐きながら夜鶴は黒い長髪をなびかせて地面に着地すると、両断された巨大ムカデの上半身が、キャシャーと叫びながら夜鶴に襲いかかる。
さすが虫だなー、生命力がすごいなー、と夜鶴は迫り来る巨大ムカデにただそれだけを思った。それしか思わなかった。
迫り来る巨大ムカデを《鬼影》で迎え撃つことはもちろんできる。だが、彼女はそれをしようとは考えて身体を動かそうとしなかった。
なぜなら。
夜鶴が巨大ムカデが動いているなと理解したときには、もう巨大ムカデは迎え撃たれたからだ。
カ、カカ、と短い断末魔を上げながら、地面から伸びてきた大きな氷の氷柱に貫かれた巨大ムカデは息を止めた。
「キャシャーキャシャーうるさいよ!」
夜鶴は背後で眠っているはずの祐希が静かに目を覚まして、音もなく背中に背負う直剣の神器・《氷華》を抜いて、能力を発動するのを肌で感じていた。
祐希の神器の能力は氷を操るためか、発動時に周囲の温度か一瞬で冷えるのだ。夜鶴はそれを感じて、あぁ、祐希怒ってるなー、と考えたのだった。
「ふん!」
巨大ムカデを倒して満足した祐希は、水色の剣を背中の鞘に納めて髪の色が水色から普段のパープルブラックに戻るのを確認すると、紫陽花模様の浴衣がかなり緩んでいることに気づかず横になってすぴーすぴーと可愛らしい寝息で眠り始めた。
夜鶴は刀を鞘に納めると、祐希に近づいて彼女を背負って、雲竜寺が円形の場所の中央で背負っているナップザックから食料を取り出している傍によって、祐希をゆっくりと横に寝かした。
雲竜寺がちゃかちゃかと準備してお湯を作るための水を近くの湧き水に汲みに行くのを確認してから、夜鶴は久方ぶりの食事となるカップラーメンを選んでいた。
死後の世界に来てまでカップラーメンかよ、と思うかもしれないが、カップラーメンはすばらしい。保存はきくし、コンパクトでたくさん持ち運べるし、作るのに時間がかからない。死後の世界でこれを開発したライはすごいと思う。
夜鶴はお気に入りのカップラーメンを見つけると、ちょうど水を汲んで帰ってきた雲竜寺がお湯を沸かし始めていた。
ただぼーっとお湯が沸くのを待つのもアレなので、雲竜寺と会話しようと夜鶴が口を開く。
「なぁ、雲竜寺……」
「なんだ唐突に」
「敦也君や広太君や凜ちゃんたちは元気にやってるかな、って思ってさ」
短い間だったが彼らに夜鶴は戦闘技術を教えた。夜鶴と雲竜寺、サブマスの瀬尾のメンバーでギルド《青色の世界ブルーワールド》との同盟会議で旅立ったあと、彼らは『閉ざされた世界』に存在する数あるダンジョンのうちの一つの攻略に向かって見事ダンジョン攻略成功したのだ。
そのメンバーの中には、『閉ざされた世界』に来てからまだ一月も経たない少年・敦也もいたのだ。聞いた話によれば、彼はモンスターに捕まった凜ちゃんを助けるために頑張ったとかなんとか。新入りにしてはすさまじく貢献したらしい。
ギルドから旅立って一週間しか経っていないが、ギルドのことが不安になってしまう。
「そうだな、楽しくすごしてると思うぞ。あいつらはすぐに強くなるからな」
やかんに当たるばちばちと燃える火を眺めながら、雲竜寺が答える。彼はギルドのことを心配していない。基地にはマスターがいるし、彼が鍛えている弟子・広太がいるのだ。なにか問題が起きても問題ないだろうと考えて、今の自分にできることを精一杯やろうと考えているのだ。だから、攻略組のリーダーとしてしっかりとメンバーを導きたいのだが思うように先に進めないのだ。それが毎回不思議で堪らない。
「わたしたちはすぐに追い抜かされちゃったりしてな」
夜鶴が笑いを含んだ声でそう言うと、雲竜寺は眉をぴくりと動かさせて、
「それは絶体にないから安心しろ。たしかにあいつらは強いが、まだまだだ」
「自分の力に自信があるんだな、雲竜寺は」
「いや、あいつらより戦闘経験は豊富なんだ追い抜かされてたまるか。けど……」
「けど……?」
「あいつら三人は強くなると俺は思う。広太はつねにおもしろい戦術で俺に向かってくるしな。まだ俺には勝てんが」
「結局、自分は強いって言いたいのね」
はぁ、と呆れ混じりの息を吐くと、ぷすぷすとお湯が沸き上がる音がしだした。
雲竜寺がやかんからカップラーメンにお湯を注ぐ。夜鶴のカップラーメンにもお湯を入れてくれるあたりが紳士。
「今の夢猫の基地には戦えるのが少ないからな」
「わたしたち攻略組はいつも基地にいるわけじゃないし、ライは勝手に旅してるし、何よりグレンモル区を作ったのが大きいな」
「グレンモル区は仕方ないとして、ライははやく帰ってきて欲しいな」
ギルド・『夢見る猫たち』の古株だけが知るグレンモル区。今の夢猫の少数しかその名前と実態を知らないだろう。
「あと、『青色の世界』と同盟できたんだからしっかり協力して欲しいな」
「それもあいつらしだいだな」
「敦也くんたちのことかい?」
雲竜寺の返事に、夜鶴は首を傾ける。
「もし『青色の世界』と共に何かするとなったら、基地の中で戦えるあいつらが重要になるだろうな」
「なるほど……けど、『青色の世界』に繋がる道にはモンスターはいないから大丈夫でしょ。わたしたちがやっつけたんだから」
「トオンの峡谷か。あそこには強いモンスターはいなかったし、もし復活していたとしてもあいつらなら問題ないだろう」
雲竜寺がそこまで言って、視線を焚き火から満天の星空へと移した。
「一番の問題は」
「夢猫の主力とも言える、サブマスの大河が魔力を封じられて戦えないことだね」
雲竜寺が今まさに言わんとしていたことを夜鶴が口にした。
『夢見る猫たち』のサブマスター・瀬尾大河は『青色の世界』のマスターが発動した神の副産物によって、魔力の使用を封じられているのだ。
今はギルド相互不可侵条約があるが、それがなくなればサブマスが戦えない夢猫が負ける確率は高いだろう。
「まぁ、きっと『青色の世界』のマスターが封印を解いてくれるさ。たぶん、絶体」
『青色の世界』と同盟を結べたのは大きな進歩だ。だが、それがどうした。まだゴールは、『閉ざされた世界』に存在する人間のほとんどが目指す【鍵の在処】はまだまだ遠い場所にあるのだ。
一つのギルドと同盟を結べたとしても、まだギルドは他に七つもあるのだ。さらに、『閉ざされた世界』の奥に進めば進むほどモンスターは強力にになるのだ。それらを相手にするだけの力は今の夢猫にはないのだ。
一つのギルドと同盟を結べたことはたしかに大きな進歩だ。だけど、それは大きくて小さな一歩でしかないのだ。
夜鶴は、ラーメンをふーふーしてからずるずるとすすり、
「シーフードうますぎだろ!!」
『青色の世界』との同盟で手に入った魚介類を、使ったラーメンに下鼓を打ち感動してから、近くで眠る祐希の長髪を手櫛で透いた。
夜鶴も祐希も雲竜寺もまだ成人もいかないで死んでしまったのだ。今ある命は守り生きたい。
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