鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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青色の世界と黄金の鎧騎士

彼女たちがギルド『青色の世界』

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明るく死後の世界である『閉ざされた世界』を照らす二つの満月が夜空できら星とともに輝いている。
森の中には、枝から生えている木の葉の隙間から月光が地面を照らしていた。奇妙な動きをする小動物たちは、小さな光りに集まっている。
そのすぐ横を少年が地面を蹴り走り去っていった。小動物たちは衝撃で驚き四方へとうろちょろする。
少年の表情には焦りと恐怖が写し出されていた。
自分がなぜここにいるのか、そしてなぜ背後からあいつは追ってくるのか理解が追い付かないのだ。
少年は十分前に、もといた世界で自分の家があるアパートの屋上から飛び降り自殺を実行したのだ。
日々のクラスメイトからのいじめに堪えきれず、生きていることが辛くなり、生きることから彼は逃げ出したのだ。
彼は地面に衝突して死んだ。だが、彼は、彼の本当の気持ちは、心は死にたくはないと叫び続けていたのだ。死ぬことは怖いと理解していた。なにもしていない彼は死んだらなにもかも残せない。生きていた証を残せない。
ならば、なぜ自分は今までここにいたのだ。
彼は落下のさなかそれを不意に考えて、死にたくないと思った。生きたかった、友達を作りたかった、楽しくすごしたかった。あわよくば、彼女もつくって結婚して幸せな家庭を築きたかった。
地面に衝突した瞬間、いるかわからない神に願った。
ぼくにチャンスをくださいと。
そして、彼は『閉ざされた世界』にやって来た。しかし、落とされた場所と時間がひじょうに悪かったのだ。
時間帯は深夜。さらに、彼の目の前には身の丈ゆうに三メートルは越えているで、荘厳で頑丈そうな鎧を着て、腰には大剣がぶら下げられていた。
少年は、鎧騎士の兜の奥の瞳と目が合うと一瞬前に感じた死の恐怖を思いだした。彼は気づくと鎧騎士に背を向けて走りだしていた。
「ここはどこなんだよ!?」
少年は走りながら口にする。背後からは鎧騎士ががちゃがちゃと鎧を鳴らしながら追いかけてきている。鎧騎士はいかにも重そうな鎧を身に纏っているため、やはりスピードはそれほどない。
すぐに逃げ切れるはずだと少年は考えていた。
だが、鎧騎士の追走は止まなかった。しだいに鎧騎士の速度が増してきているのだ。少年は走り疲れ息を乱しているのに対して、鎧騎士は少年に視線を据えてどんどん加速するのだ。
このままでは鎧騎士をまくどころか、いづれは追いつかれてしまう。
どこかに身を潜められる場所はないかと、あたりを走りながら見回すが、暗くて何も見えないのだ。
鎧ががちゃがちゃと鳴る音が近づいたので、背後を振り向くと鎧騎士との距離はもうそんなにない。追いつかれたらどうなるなんて考えるのは野暮だ。あの腰からぶら下げられている大剣で斬られてしまうのは明白だった。
鎧騎士を温厚な人だとは思わなかった。一瞬見ただけで人ではないなにかだと思った。兜の奥から見えたぎらぎらと燃える赤い瞳には、異物に対する殺意しかないように見えたのだ。
少年は前に向き直り、力の限り地面を蹴り走り続ける。いつか助かるはず。奇跡が起きるはず。
そうだこれは夢かもしれない、などとさえ考え出していた。
前方に明かりがいくつか見えた。助けが来たかもしれない。あそこまでいけば助かるかもしれない、いや、そうに決まっていると彼は信じて速度を上げた。
そして明かりがあるひらけた場所にでると、そこには土でできた巨大な壁があり、その明かりの光源であるランプが埋め込まれていた。
よく見るとそれは巨大な壁ではなかった。それは城のようだった。なぜこんな場所に城が。人がいるのかと、息を整えながら考えていると、がしゃっと近くを鎧が動く音がして、そちらを見やる。
そこには背後から追いかけてきている鎧騎士とまったく同じ鎧だが、腰から下げた大剣のカラーがわずかに違っている鎧騎士が立っていた。
少年は慌てて振り返ると、追ってきて鎧騎士はすぐそこだった。
二体の鎧騎士は大剣を抜いて構え、一歩ずつ少年に近づいていく。
右からと背後から迫り来る鎧騎士から逃げようと、少年はまた走りだす。
すると、背後の鎧騎士が叫び声を上げた。少年はなぜ急に鎧騎士が叫んだのか理解できなかった。しかし、すぐに理解できる材料が現れた。
城壁に設けられていた門から、数体の鎧騎士が駆け出てきたのだ。わずかに個体差はあるがどいつもでかく、少年をさらに竦み上がらせた。
この土でできた城が誰の城かを少年は理解した。この城は彼ら鎧騎士のもので、背後の鎧騎士が叫んだのは、侵入者である少年を城内にいる仲間に知らせるためだったのだ。
少年にもう逃げ場はなかった。
恐怖と絶望から口からかすかな声を洩れだしながら、じりじりと下がり。城壁に背中をぶつけた。
少年は深く目を閉じて逃げようとした。殺される恐怖から。
次の瞬間、少年の身体は鎧騎士の大剣に割かれ、叫び声を上げながら割かれた箇所から血が吹き出し、地面にどさと倒れ、意識を失い、死んだ。
少年の名は、高山佳人。『閉ざされた世界』の神・ミサトに与えられたチャンスをいかせず、生前も死後も何も残せずに、その魂は消えてなくなった。





「本当にいいのかよ美奈、あんな奴らと同盟なんてよ! 俺は信用ならねーぜ、今の奴らにはまともな戦力はいないんだろ!」
ギルド・『青色の世界ブルーワールド』の白スーツを身に纏っているサブマスター、雨宮陽介はギルドのマスターに意見していた。
綺麗な水を上へと放出している噴水の淵に座っていて、足をぶらつかせる少女。水色のワンピースに、青い毛糸のショールを羽織っている。夜風に揺れている長いサファイア・ブルーのような色の髪。陽介を見つめる瞳はゴールド。マスター・水上美奈みなかみみなは凜とした声で答える。
ギルド・青色の世界の一番の特徴は、ギルド基地の場所である。ギルド基地の内部に大きな湖があるのだ。この湖ではたくさんの魚が泳ぎ、時には食事のために釣られたりしている。現在九つあるギルドの内魚介類が採れるギルドはこのギルドだけである。
「ですが、陽介さん……夢見る猫達さんにはとっておきがいくつもあるじゃないですか。そしたら、」
「そしたら、強いが今そのとっておきの一人は勝手に旅に出ているんだろ。しかも、そいつがいない上に攻略組の雲竜寺たちまでもがブラックゾーンに旅立っていって、残った奴らに戦力なんてないだろ!」
美奈の言葉に食い気味に口にした陽介だが、彼は他のギルドと同盟を組むことに関しては反対などしていない、むしろ賛成している。だが、《龍の覇王あいつ》がいるギルドだけはどうしても許せないのだった。
「大河さんが言っていたじゃないですか、俺達の仲間はちゃんと強くなってくる、って。だから、問題ないですよー」
「俺はあいつの言葉だから信じられないんだよ」
ほんわかした日溜まりのような明るい笑顔で、陽介の嫌いな名を口にした美奈に少しイラっとした。
「……まだ五年前、ぼこぼこにされたこと根に持っているんですかー?」
青色の世界は五年前に最も近い距離にあるギルド、夢見る猫達の領土を奪うため、攻めに行ったのだ。そこで、陽介は大河と一騎討ちの勝負をして、陽介は大河に完敗した。
陽介は夢見る猫達というギルドのことを弱小ギルドだと勝手に評価していた。だから、いくら自分と同じサブマスターと言っても勝つ自信しかなかった。しかし、大河の力は恐ろしく強く陽介は接戦の末負けたのだ。
「もしだ、もし奴らが俺らを裏切ったらどうするんだ」
「裏切るとは考えられないと思いますよー。なぜなら、大河は戦えないのですから。裏切る意味がないんですよー」
夢見る猫達のサブマスターの瀬尾大河は、三年前に美奈が使った神の副産物によって魔力を封じられている。
「それに、わたくしは咲夜ちゃんを信じていますから。無駄な争いはもうしたくはありません。わたくしは少しずつ友達を増やしていきたいと思っています。咲夜ちゃんは友達第一号です!」
美奈は生前では温室育ちのお嬢様だった。美奈は優しかった。弱者に救済を、悪には罰を与える、そんな存在になりたいと願っていた。しかし、美奈にそんな力はなかった。
今美奈は閉ざされた世界で未練を持って生きている。温室育ちのお嬢様だった美奈は右も左も始めはわからなかった。しかし、それは美奈以外の九人も同じだったのだ。辛いのはわたくしだけじゃない。悲しい思い、酷い思いをしたのはわたくしだけじゃない。そう言い聞かせながら、十年間この世界を生き延び遂に新たな一歩を踏み出したのだ。
「まー、美奈の決定は絶対だ逆らうつもりはねーよ……どうでもいいが俺は友達第何号なんだよ」
陽介は本心ではかなり気にしながら訊ねた。
「陽介はもちろん友達第零号に決まっているじゃない!」
うふふふと貴婦人っぽく手を口に当てるしぐさをしながら笑う美奈に、少し赤くなってしまった顔を反らす陽介。
「さて、わたくし達のギルドだってまだまだ問題はあるんですよ。行きましょう陽介さん、これからもよろしくお願いしますね」
噴水の淵から立ち上がり、ビーチサンダルを履いた足をリズムよくステップしながら前に進ませる美奈の背中を見て、陽介は二つ思った。
ーー美奈はもう立派になったんだな……。
そして、もう一つは、
「なー、同盟って言ったってよ、まず何するんだよ」 
「……そうですね、考えていませんでしたわ」
「おいおい……」
ーー前言撤回だ。美奈は変わってねー。
美奈は天然で、よく今のようなちょっとしたミスがある。いや、今のはちょっとしたどころの問題ではないけど。
「ま、互いに争ってきたんだ、まずは親睦会でもしたらどうだ」
陽介は何気なく提案すると、
「いいですわね親睦会! やりましょう! ぜひ、やりましょう! 楽しみですわ、さっそく咲夜ちゃんに連絡しますね!」
かなり気に入れられてしまった。
陽介は肩をすくめて「やれやれ」と、呟いた。
ーーまた忙しくなりそうだ。
「おい、美奈。親睦会でなにするか考えてあるのかよ」
陽介が呼びかけると、嬉しそうに石でできた道をとんとんとステップしてした美奈の動きがぴたと止まった。
「なんも考えてないんだな……」
額に手を当てて、はぁ、と息を吐いてやれやれと陽介は思った。
どうして『青色の世界』のマスターはこう後先考えず感じたまんま、思いついたらすぐに動いてしまうのだろうか。もう少し後先しっかり考えてから行動に移して欲しい。マスターなんだから。
美奈はがくがくと首を震わせながら、振り向き、
「な……な、なにをしたらよいのですか、親睦会とは?」
最初から陽介に頼るつもりで、美奈が彼を見つめる。
陽介はめんどくさがりながらも腕を組んで、まじめに考えだして、答えを導きだした。
「とりあえず、『夢見る猫たち』のメンバー数人を招待するだろ」
「うんうん」
美奈がうなずいて、それでそれで、と瞳を輝かせる。
「『青色の世界』にしかない魚介類の食事でもてなす」
「おー」
ガッポーズをとる陽介に、美奈は感嘆して瞳を輝かせたまま、
「それで……」
続きを頼んだ。
「え……?」
陽介はそれ以外のアイデアを考えていなかったらしく、美奈の期待の瞳が眩しい。
なんとかしてアイデアをだそうと考えて、美奈にヒントを求めた。
「俺らの誇れるものってなんだ?」
「魚介類!」
陽介の質問に、美奈ははきはきと答える。
『青色の世界』の誇れるものは魚介類だ。朝昼晩魚介類でいけちゃうねってぐらい美味しいし、たくさんある。
だが、それしかなかった。
「陽介……夢見る猫たちさんたちにもなにかしてもらうというのはどうですか?」
美奈の考えに、陽介はたしかにと思った。親睦会なのだから、両者からなにか出し物をすべきだ。
「それでいいか……俺らからは魚介類のオンパレードで、『夢見る猫たち』からもなにかやってもらう感じで」
「はい、そうしましょう!」
美奈が日だまりのような笑顔でうなずく。その笑顔は太陽よりも眩しく、まるで穢れを知らない幼い少女のようなのだ。だから陽介は彼女を守りたいと思う。
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