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死後の世界と真紅のドラゴン
いざ、ボス戦といきますか
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青い光に照らし出され、敦也たちがいまいる場所が明らかにされた。彼らはいま広い部屋にいた。円柱のようになっている形の部屋でまわりの壁や地面から青い光が放たれていた。
「っぶなかったー!」
空は尻もちをついて地面に座っていた。どうやら、バリアを展開して火球から身を守ったのだろう。
となりにいた凜が謎の恐怖に怯えたのか、敦也の右腕にぎゅっとしがみつく。だが、敦也はその感触を喜び楽しむ余裕などまったくなかった。なぜたら、部屋の頂点に巨大な翼をはためかせ飛んでいる怪物を目にしてしまったからだ。
「ここからが本番だよ、みんな。ダンジョンのボスモンスターさんのおでましだ!」
祐希は頂点を見上げ笑顔になった。
ここまでの道にあった額縁に飾られたイラストにあったものはダンジョンのボスモンスターをあらわしていたのだ。祐希はそれを知っていたのだろう。
敦也が目にした怪物は、トカゲに翼を付けて巨大化させたようなものだった。真紅の鱗に被われた身体、丸太のように分厚い四肢からは尖った爪が伸びている。頭の両側からは、二本の角がはそそり立つ。眼には、地獄の業火を連想させるような輝きを放っているが、その両の眼の視線は明らかに敦也たちに向けて据えられているのが解る。大きな口からは、鋭い牙が生えていて炎が漏れでていた。尻の部分から真紅の鱗に被われた長い尻尾が生えていてたまに動いていた。
空を襲った巨大な火球を放ったのは、どう考えてもあのドラゴンだろうと思った。
敦也がいる場所から、ドラゴンがいる場所はかなりの距離がある。けれども敦也は、すくんだように動けなかった。ボス部屋に来るまでにたくさんのモンスターと戦ってきた、ゴブリンと死闘をして勝利してきた。しかし、目の前にいるモンスターは今までのどのモンスターとは違った恐怖感を彼に与えた。
「奴の名は、クリムゾンフレイム。ダンジョンのボスモンスターだと詳細は出ないんだな」
広太がモンスター大全の写本に写ったドラゴンの名を口にした。
クリムゾンフレイムーー真紅の火炎、か。
クリムゾンフレイムの名の意味を理解したとき、突如真紅のドラゴンが口を振り上げ、部屋中に轟く雄叫びを上げた。部屋中の空気が震え、びりびりと振動が床を伝わっている。口から真っ赤な炎を噴き出しながら、バサバサと翼を翻して、真紅のドラゴンはまっすぐに敦也たちに向かって、猛烈なスピードで飛翔してきた。
「みんな頑張ってねー」
祐希は部屋の隅に座り込み敦也たちに手を振った。どうやら、祐希はピンチの時にしか力を貸す気は本当にないらしい。
「空、動けるよな。敦也と凜は前線で戦ってもらうぞ。俺と空がフォローするから全力で暴れてこい!」
「僕は問題ないよ」
「了解!」
「任せてください!」
広太の指示に三人は頷き行動を開始する。
「ソードコマンド-《神威》!」
「ガンコマンド-《群牙狼》!」
凜と広太は素早く詠唱を口にして、腕輪の力で神器を顕現させた。
「喰らえっ!!」
広太は二丁の銃の《群牙狼》を向かってくる真紅のドラゴンに向けて数発放った。広太の能力上外れることのない魔力を帯びた弾丸は真紅のドラゴンの身体を穿っていく。
しかし真紅のドラゴンのスピードは衰えず、依然として猛スピードで迫ってきている。
そして地面に近づいてきたところで、真紅のドラゴンは口を大きく開き火炎のブレスを噴出した。
「空!」
「わかってるよ!」
広太の呼び掛けがかかる前から動いていた空が火炎のブレスを防ぐため敦也たちの頭上にバリアを展開する。火炎のブレスはバリアの上でメラメラと燃えていた。
「……りゃあああ!」
火炎のブレスを防いでいたバリアが消えると同時に飛び出したのは凜だ。
凜は《神威》を構え、能力を発動し猛スピードで着地しようとしている真紅のドラゴンに向かっていく。彼女の突進に気づいた真紅のドラゴンは、口から小さな火球を数発凜に向けて放った。
敦也も凜に負けじと能力を発動し、電光石火で真紅のドラゴンに向かっていく。
小さな火球を前にした凜はある光景を思い出していた。
それは夜鶴が刀で弾丸を切り裂く光景だった。凜はダンジョン攻略準備の期間、弾丸を剣で切断する訓練を行っていた。
前方から迫り来るのは、弾丸ではなく小さな火球で、弾丸よりは遅いし的も大きい。凜には迫り来る火球をすべて切断し回避する自信があった。
「やあぁぁぁーー!」
凜は気合いを迸らせながら、続々と迫り来る小さな火球を切断して、一気に真紅のドラゴンとの距離を詰める。
「グォォォ!!」
真紅のドラゴンは距離を詰めた凜を右前足で薙ぎ払おうと構えた。
「うおぉぉぉ!」
敦也は心臓が縮むような恐怖を感じながら、凜と真紅のドラゴンの右前足との間に身を踊らせる。凜に右前足が直撃する直前に、彼の電雷を帯びた拳が右前足の攻撃受け止めることに成功した。同時に彼の右腕には途方もない衝撃が走る。魔力を帯びていない昔の身体なら即右腕の骨が粉砕されていただろう。
受け止めることに成功したとはいっても、そんな長い時間受け止めることはできず、徐々に後ろに押されている。
だけど、敦也としては少しでも注意が自分に向けばそれでよかった。彼に気を取られた瞬間、前進していた凜が真紅のドラゴンの頭上で剣を構えた。
部屋中にいる誰もが凜の攻撃は通ると思った。
「きゃ!!」
しかし真紅のドラゴンの尻尾がしなり、凜を空中で叩き落としたのだ。
「凜っ!」
敦也は叩き落とされた凜に気を取られ、真紅のドラゴンの攻撃を受け止める力を緩めてしまった。その結果、
「がっ!!」
真紅のドラゴンの一撃が敦也の身体を横に薙ぎ払った。痺れるような衝撃が身体を襲いすさまじい勢いのまま壁に激突した。
「敦也兄、凜姉!」
戦闘においてバリア要員になっている空はただ攻撃された二人の無事を祈ることしかできなかった。
「広太くん、いきなりピンチだねー」
祐希はまだまだ余裕ありげに笑い戦況を眺めていた。
「大丈夫だよ、まだお前の手は借りねーよ!」
《群牙狼》を構え、広太は魔力を銃に集中し始めた。
「《神器解放》!!」
広太の叫びと共に、両手に握っている、二丁の銃《群牙狼》が輝きを帯び始めた。銃から放たれた輝きは徐々に広太をも呑み込んでいく。
そして、広太の全身を呑み込んだ輝きが弾けると、姿を変えた広太と銃が現れる。
広太の身長が少し伸びて、灰色の髪は伸びて寝癖のようにぴょこんとしていた。そこまではいつもの広太が少し成長したような感じだった。
しかし異変はここからだった。頭のてっぺんからは二つの灰色の三角耳がぴょこんと生えていた。さらに、腰の部分からは犬の尻尾のようなものが生えていた。どこをどうみてもイヌ科だったのだ。
広太の服も変わっていた。灰色のズボンと青色のシャツ。その上にはもさもさの付いた灰色のコートを着ている。
さらに広太のまわりには灰色のオーラを放つ狼が十匹いた。その狼たちの身体は透けていて内部には弾丸が浮いていた。弾丸を灰色の狼の形をしたオーラがコーティングしているようにも見える。
「うわー、広太もふもふしてるー。耳も尻尾も柔らかー」
祐希が姿を変えた広太の耳や尻尾を触ったりして楽しむと、
「ひゃう、止めろ祐希! 今はかなり敏感なんだよそこは!」
と言って広太は祐希と距離を作った。
広太の変異に真紅のドラゴンは何かを感じ取ったのか、翼をはためかせ上空へと飛翔していく。
「さてと……リーダーとして努力します、か!」
広太は身体を縮まらせ両足に魔力と力を集めると、最大になったところで両足を伸ばし跳躍した。その跳躍はあっという間に真紅のドラゴンとの距離を詰めて、真紅のドラゴンを通過して背中に乗った。
灰色のオーラの十匹の狼達も壁を駆け登り、真紅のドラゴンに接近する。まるで、広太の動きに連動して動いているようだった。
「喰らうぞお前ら!」
広太が真紅のドラゴンの背中で叫ぶと、六匹の狼だけが形を変えた二丁拳銃に吸い込まれていった。
「喰らいなっ、六弾装填、狼牙炸裂弾!!」
神器・《群牙狼》の《神器解放》時には現在二つの技が存在する。《神器解放》時にまわりに現れる、狼の形をした魔力を帯びた弾丸。それを装填して四方から、標的ターゲットを狙い撃つ狼牙炸裂弾。
二つの銃口から放たれた狼の形をした魔力を帯びた弾丸は四方から飛び、標的である真紅のドラゴンに命中する。
解放された《群牙狼》の力は先程までとは格段に違い、真紅のドラゴンに多大なダメージを与えた。
「グゥォォォォォ!!」
憤怒の叫びを部屋中にこだまさせながら、真紅のドラゴンは身を回転させて広太を落とそうとした。広太は背中を強く蹴り、壁に両足をめりこませて着地した。
真紅のドラゴンは広太が壁に着地した隙を見逃さずそこに、最初に見たのと同じ巨大な火球を口から放った。
「四弾装填、狼牙破滅弾!!」
まわりにいた狼弾丸を群牙狼に吸収して、放つ。
《群牙狼》のもう一つの技。狼牙破滅弾。この技は至極単純に吸収した弾丸の数だけ強力な一撃を二丁拳銃から放つことが出来る技だ。
巨大な火球と強力な一撃はぶつかり合い衝撃を残し姿を消した。
「出てこいお前ら!」
広太の叫びに応じて、狼弾丸が広太のまわりに十匹現れる。広太が一度に放てる全弾はどうやら十匹が限度らしい。
真紅のドラゴンの動きを観察して、下を見て叩かれた敦也と凜が無事か確認する広太の思考に女性の声が響いた。
我が主よ。いきなり飛ばすの。
そうでもしなきゃ奴は倒せないだろう人狼女王。
我が主よ。わたしはお主が死ぬことを望んではいない。だからと言って、あそこで笑顔で眺めている娘に助けを乞うのも嫌じゃ。だから、我が主よ。制限時間など気にせずに全力で戦うがよい。
もとよりそのつもりだよ人狼女王様!
広太は静かになった思考で、真紅のドラゴンを倒す術を考え出す。
「敦也、凜! まだ動けるよな!」
「もちろんですよ!」
《神速》で壁を走り登ってきた凜が、真紅のドラゴンに向かって剣を構えている。
「今度こそーー!」
広太に気を取られていた真紅のドラゴンは、背中を斬られた一撃で高度を著しく落とした。
凜の神器・《神威》には特殊な能力は付けられていない。そのかわり、圧倒的な斬れ味が神威の持ち味だった。かなり硬度だった真紅の鱗もろとも身体を斬り裂かれたことに真紅のドラゴンは焦ったようにも見えた。
高度を落とした真紅のドラゴンの前に今度は敦也が構えて待っていた。
空のバリアを使い、二段ジャンプで空中にいる真紅のドラゴンとの距離を詰めたのだ。
真紅のドラゴンは目の前に迫った敦也の存在に気づき上空に回避しようとしたが、すでに敦也の電雷を帯びた拳が真紅のドラゴンにめがけて繰り出されていた。
「とどけっ!」
敦也の拳が真紅のドラゴンの顎部に直撃し憤怒の叫びを部屋中に響かせながら、一気に上空へと飛翔した。
「敦也兄凄いね、バリアで二段ジャンプって!」
地面に着地した敦也は、まだまだ体力が残っていそうな真紅のドラゴンを睨む。
「ま、仕方ないさ。奴はボスモンスターだ一筋縄でいかないのは当たり前さ」
広太と狼弾丸も一度、地面に着地して真紅のドラゴンの様子を見ることにしたらしい。
「わたしもう一回行ってきますね」
空中から地面に着した凜はまた能力を発動して、神速の勢いで壁を駆け登っていく。
「おい、待て凜!」
敦也が声をかけた時には凜はもう、飛んでいる真紅のドラゴンのすぐ横の壁にまで走っていた。
しかし、真紅のドラゴンは横に迫ってきている凜に気づかなかったのか、凜にではなく巨大な火球を三発地面にいる敦也たちに向けて放った。
「ほいきた!」
空はバリアを展開して、三発の巨大な火球を防ぐ。火球はバリアの向こうで爆発して、バリアの向こうが見えなくなってしまう。
ただ微かに聞こえたのは、凜が真紅のドラゴンに向かって斬りかかっていったであろう叫びだけだった。
爆発が収まりバリアを消して、上空を見ると真紅のドラゴンの右前足に信じられないものが握られていた。
それは、苦しそうな表情をしている凜だった。
「っぶなかったー!」
空は尻もちをついて地面に座っていた。どうやら、バリアを展開して火球から身を守ったのだろう。
となりにいた凜が謎の恐怖に怯えたのか、敦也の右腕にぎゅっとしがみつく。だが、敦也はその感触を喜び楽しむ余裕などまったくなかった。なぜたら、部屋の頂点に巨大な翼をはためかせ飛んでいる怪物を目にしてしまったからだ。
「ここからが本番だよ、みんな。ダンジョンのボスモンスターさんのおでましだ!」
祐希は頂点を見上げ笑顔になった。
ここまでの道にあった額縁に飾られたイラストにあったものはダンジョンのボスモンスターをあらわしていたのだ。祐希はそれを知っていたのだろう。
敦也が目にした怪物は、トカゲに翼を付けて巨大化させたようなものだった。真紅の鱗に被われた身体、丸太のように分厚い四肢からは尖った爪が伸びている。頭の両側からは、二本の角がはそそり立つ。眼には、地獄の業火を連想させるような輝きを放っているが、その両の眼の視線は明らかに敦也たちに向けて据えられているのが解る。大きな口からは、鋭い牙が生えていて炎が漏れでていた。尻の部分から真紅の鱗に被われた長い尻尾が生えていてたまに動いていた。
空を襲った巨大な火球を放ったのは、どう考えてもあのドラゴンだろうと思った。
敦也がいる場所から、ドラゴンがいる場所はかなりの距離がある。けれども敦也は、すくんだように動けなかった。ボス部屋に来るまでにたくさんのモンスターと戦ってきた、ゴブリンと死闘をして勝利してきた。しかし、目の前にいるモンスターは今までのどのモンスターとは違った恐怖感を彼に与えた。
「奴の名は、クリムゾンフレイム。ダンジョンのボスモンスターだと詳細は出ないんだな」
広太がモンスター大全の写本に写ったドラゴンの名を口にした。
クリムゾンフレイムーー真紅の火炎、か。
クリムゾンフレイムの名の意味を理解したとき、突如真紅のドラゴンが口を振り上げ、部屋中に轟く雄叫びを上げた。部屋中の空気が震え、びりびりと振動が床を伝わっている。口から真っ赤な炎を噴き出しながら、バサバサと翼を翻して、真紅のドラゴンはまっすぐに敦也たちに向かって、猛烈なスピードで飛翔してきた。
「みんな頑張ってねー」
祐希は部屋の隅に座り込み敦也たちに手を振った。どうやら、祐希はピンチの時にしか力を貸す気は本当にないらしい。
「空、動けるよな。敦也と凜は前線で戦ってもらうぞ。俺と空がフォローするから全力で暴れてこい!」
「僕は問題ないよ」
「了解!」
「任せてください!」
広太の指示に三人は頷き行動を開始する。
「ソードコマンド-《神威》!」
「ガンコマンド-《群牙狼》!」
凜と広太は素早く詠唱を口にして、腕輪の力で神器を顕現させた。
「喰らえっ!!」
広太は二丁の銃の《群牙狼》を向かってくる真紅のドラゴンに向けて数発放った。広太の能力上外れることのない魔力を帯びた弾丸は真紅のドラゴンの身体を穿っていく。
しかし真紅のドラゴンのスピードは衰えず、依然として猛スピードで迫ってきている。
そして地面に近づいてきたところで、真紅のドラゴンは口を大きく開き火炎のブレスを噴出した。
「空!」
「わかってるよ!」
広太の呼び掛けがかかる前から動いていた空が火炎のブレスを防ぐため敦也たちの頭上にバリアを展開する。火炎のブレスはバリアの上でメラメラと燃えていた。
「……りゃあああ!」
火炎のブレスを防いでいたバリアが消えると同時に飛び出したのは凜だ。
凜は《神威》を構え、能力を発動し猛スピードで着地しようとしている真紅のドラゴンに向かっていく。彼女の突進に気づいた真紅のドラゴンは、口から小さな火球を数発凜に向けて放った。
敦也も凜に負けじと能力を発動し、電光石火で真紅のドラゴンに向かっていく。
小さな火球を前にした凜はある光景を思い出していた。
それは夜鶴が刀で弾丸を切り裂く光景だった。凜はダンジョン攻略準備の期間、弾丸を剣で切断する訓練を行っていた。
前方から迫り来るのは、弾丸ではなく小さな火球で、弾丸よりは遅いし的も大きい。凜には迫り来る火球をすべて切断し回避する自信があった。
「やあぁぁぁーー!」
凜は気合いを迸らせながら、続々と迫り来る小さな火球を切断して、一気に真紅のドラゴンとの距離を詰める。
「グォォォ!!」
真紅のドラゴンは距離を詰めた凜を右前足で薙ぎ払おうと構えた。
「うおぉぉぉ!」
敦也は心臓が縮むような恐怖を感じながら、凜と真紅のドラゴンの右前足との間に身を踊らせる。凜に右前足が直撃する直前に、彼の電雷を帯びた拳が右前足の攻撃受け止めることに成功した。同時に彼の右腕には途方もない衝撃が走る。魔力を帯びていない昔の身体なら即右腕の骨が粉砕されていただろう。
受け止めることに成功したとはいっても、そんな長い時間受け止めることはできず、徐々に後ろに押されている。
だけど、敦也としては少しでも注意が自分に向けばそれでよかった。彼に気を取られた瞬間、前進していた凜が真紅のドラゴンの頭上で剣を構えた。
部屋中にいる誰もが凜の攻撃は通ると思った。
「きゃ!!」
しかし真紅のドラゴンの尻尾がしなり、凜を空中で叩き落としたのだ。
「凜っ!」
敦也は叩き落とされた凜に気を取られ、真紅のドラゴンの攻撃を受け止める力を緩めてしまった。その結果、
「がっ!!」
真紅のドラゴンの一撃が敦也の身体を横に薙ぎ払った。痺れるような衝撃が身体を襲いすさまじい勢いのまま壁に激突した。
「敦也兄、凜姉!」
戦闘においてバリア要員になっている空はただ攻撃された二人の無事を祈ることしかできなかった。
「広太くん、いきなりピンチだねー」
祐希はまだまだ余裕ありげに笑い戦況を眺めていた。
「大丈夫だよ、まだお前の手は借りねーよ!」
《群牙狼》を構え、広太は魔力を銃に集中し始めた。
「《神器解放》!!」
広太の叫びと共に、両手に握っている、二丁の銃《群牙狼》が輝きを帯び始めた。銃から放たれた輝きは徐々に広太をも呑み込んでいく。
そして、広太の全身を呑み込んだ輝きが弾けると、姿を変えた広太と銃が現れる。
広太の身長が少し伸びて、灰色の髪は伸びて寝癖のようにぴょこんとしていた。そこまではいつもの広太が少し成長したような感じだった。
しかし異変はここからだった。頭のてっぺんからは二つの灰色の三角耳がぴょこんと生えていた。さらに、腰の部分からは犬の尻尾のようなものが生えていた。どこをどうみてもイヌ科だったのだ。
広太の服も変わっていた。灰色のズボンと青色のシャツ。その上にはもさもさの付いた灰色のコートを着ている。
さらに広太のまわりには灰色のオーラを放つ狼が十匹いた。その狼たちの身体は透けていて内部には弾丸が浮いていた。弾丸を灰色の狼の形をしたオーラがコーティングしているようにも見える。
「うわー、広太もふもふしてるー。耳も尻尾も柔らかー」
祐希が姿を変えた広太の耳や尻尾を触ったりして楽しむと、
「ひゃう、止めろ祐希! 今はかなり敏感なんだよそこは!」
と言って広太は祐希と距離を作った。
広太の変異に真紅のドラゴンは何かを感じ取ったのか、翼をはためかせ上空へと飛翔していく。
「さてと……リーダーとして努力します、か!」
広太は身体を縮まらせ両足に魔力と力を集めると、最大になったところで両足を伸ばし跳躍した。その跳躍はあっという間に真紅のドラゴンとの距離を詰めて、真紅のドラゴンを通過して背中に乗った。
灰色のオーラの十匹の狼達も壁を駆け登り、真紅のドラゴンに接近する。まるで、広太の動きに連動して動いているようだった。
「喰らうぞお前ら!」
広太が真紅のドラゴンの背中で叫ぶと、六匹の狼だけが形を変えた二丁拳銃に吸い込まれていった。
「喰らいなっ、六弾装填、狼牙炸裂弾!!」
神器・《群牙狼》の《神器解放》時には現在二つの技が存在する。《神器解放》時にまわりに現れる、狼の形をした魔力を帯びた弾丸。それを装填して四方から、標的ターゲットを狙い撃つ狼牙炸裂弾。
二つの銃口から放たれた狼の形をした魔力を帯びた弾丸は四方から飛び、標的である真紅のドラゴンに命中する。
解放された《群牙狼》の力は先程までとは格段に違い、真紅のドラゴンに多大なダメージを与えた。
「グゥォォォォォ!!」
憤怒の叫びを部屋中にこだまさせながら、真紅のドラゴンは身を回転させて広太を落とそうとした。広太は背中を強く蹴り、壁に両足をめりこませて着地した。
真紅のドラゴンは広太が壁に着地した隙を見逃さずそこに、最初に見たのと同じ巨大な火球を口から放った。
「四弾装填、狼牙破滅弾!!」
まわりにいた狼弾丸を群牙狼に吸収して、放つ。
《群牙狼》のもう一つの技。狼牙破滅弾。この技は至極単純に吸収した弾丸の数だけ強力な一撃を二丁拳銃から放つことが出来る技だ。
巨大な火球と強力な一撃はぶつかり合い衝撃を残し姿を消した。
「出てこいお前ら!」
広太の叫びに応じて、狼弾丸が広太のまわりに十匹現れる。広太が一度に放てる全弾はどうやら十匹が限度らしい。
真紅のドラゴンの動きを観察して、下を見て叩かれた敦也と凜が無事か確認する広太の思考に女性の声が響いた。
我が主よ。いきなり飛ばすの。
そうでもしなきゃ奴は倒せないだろう人狼女王。
我が主よ。わたしはお主が死ぬことを望んではいない。だからと言って、あそこで笑顔で眺めている娘に助けを乞うのも嫌じゃ。だから、我が主よ。制限時間など気にせずに全力で戦うがよい。
もとよりそのつもりだよ人狼女王様!
広太は静かになった思考で、真紅のドラゴンを倒す術を考え出す。
「敦也、凜! まだ動けるよな!」
「もちろんですよ!」
《神速》で壁を走り登ってきた凜が、真紅のドラゴンに向かって剣を構えている。
「今度こそーー!」
広太に気を取られていた真紅のドラゴンは、背中を斬られた一撃で高度を著しく落とした。
凜の神器・《神威》には特殊な能力は付けられていない。そのかわり、圧倒的な斬れ味が神威の持ち味だった。かなり硬度だった真紅の鱗もろとも身体を斬り裂かれたことに真紅のドラゴンは焦ったようにも見えた。
高度を落とした真紅のドラゴンの前に今度は敦也が構えて待っていた。
空のバリアを使い、二段ジャンプで空中にいる真紅のドラゴンとの距離を詰めたのだ。
真紅のドラゴンは目の前に迫った敦也の存在に気づき上空に回避しようとしたが、すでに敦也の電雷を帯びた拳が真紅のドラゴンにめがけて繰り出されていた。
「とどけっ!」
敦也の拳が真紅のドラゴンの顎部に直撃し憤怒の叫びを部屋中に響かせながら、一気に上空へと飛翔した。
「敦也兄凄いね、バリアで二段ジャンプって!」
地面に着地した敦也は、まだまだ体力が残っていそうな真紅のドラゴンを睨む。
「ま、仕方ないさ。奴はボスモンスターだ一筋縄でいかないのは当たり前さ」
広太と狼弾丸も一度、地面に着地して真紅のドラゴンの様子を見ることにしたらしい。
「わたしもう一回行ってきますね」
空中から地面に着した凜はまた能力を発動して、神速の勢いで壁を駆け登っていく。
「おい、待て凜!」
敦也が声をかけた時には凜はもう、飛んでいる真紅のドラゴンのすぐ横の壁にまで走っていた。
しかし、真紅のドラゴンは横に迫ってきている凜に気づかなかったのか、凜にではなく巨大な火球を三発地面にいる敦也たちに向けて放った。
「ほいきた!」
空はバリアを展開して、三発の巨大な火球を防ぐ。火球はバリアの向こうで爆発して、バリアの向こうが見えなくなってしまう。
ただ微かに聞こえたのは、凜が真紅のドラゴンに向かって斬りかかっていったであろう叫びだけだった。
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