魔王シリーズ サタンライフ・オワ・デッド

カルトン

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天界退魔組織とは……

沙希は、はぁ、と呆れたような溜め息を吐いて、明に訊いた。
「で、なにをしているんですか?」
明はなにを口にすべきか数秒考えてから言った。
「……例えば、お前を探すためとか」
「ふわ、立花先輩は本当の変態なんですね、ストーカーなんですね、セクシャルハラスメントですか、ごめんなさい目の前から消えてください」
沙希は罵詈雑言をぶつけ、身体を腕でで守るようにして、蔑むような眼で明を睨んだ。
「いや、ちげーよ。俺は昨夜の化物のことや、お前ら天界退魔組織について聞こうと思ってさ」
変態の汚名を付けられた明は全力で否定して、沙希を探していた理由を話した。
「……話すと思いますか?」
「そこをなんとか!」
「天界退魔組織と魔属の存在は国家秘密のようなものです。それを民間人のあなたに話すつもりはありません」
頑として話そうとしない沙希の態度を見て、明は攻め方を変える。
「お前は学校でなにをしていたんだ?」
「なんで答えなければいけないんですか?」
「いや、ほら俺も何してたか言ったんだしさ」
仕方ありませんね、と呟き沙希も学校にいた理由を話す。
「わたしは部活をしていたんですよ。囲碁部です。部活をしていたら、昨夜見た変態が中等部の校舎を歩いていたのを見つけ、追いかけてきたんです」
「なるほどな。一つ言わせろ、俺は変態じゃのーよ!」
明は変態扱いから回避するべく強調して言った。
「だって、イチャイチャしたんですよね、あのメイド少女と」
「してねーよ!」
「あらそうですか」
グルグルグル、という低い音が、廊下に響き渡ったのはその直後だった。
沙希は無言で眉を寄せて明を見た。
その低い唸りの正体に気づいた明は、手を腹に当て苦笑いを浮かべた。明の腹が鳴った音らしかった。
「……立花先輩、もしかしてですけど、お腹すいてますか?」
苦笑いを浮かべる明に、沙希が訊いた。
「いや、起きたのがついさっきで、昼飯を食べようとしたら、イッチーに呼び出されて、そしたらな」
「なるほど、ようするにお腹がすいて死にそうなのですね」
何故か笑顔を浮かべた沙希に、
「いや、死にそうではないな」
呆れたような声で明は言った。
「仕方ありませんね、どこかに昼食を食べに行きましょうか。……実際、わたしも立花先輩と会って話してみたいことがありましたから」
明は少し困ったような顔で頭をかき、沙希に敬語訊いた。
「あの……だったらなにかおごってくれると嬉しいんですけど、今金がないんで」
沙希は何度か瞬きを繰り返して、溜め息を吐いて、口にした。
「おごりますけど、これは借りですからね、絶対にいつか返してくださいね」
妙にケチなのか厳しいのか、と思いながら明は了承するのと同時に、明のお腹がもう一度、空腹を訴える音が低く鳴った。





沙希が注文したのは、期間限定のロコモコバーガーとフライドポテト、炭酸のグレープジュースのセットだった。朝川学園から最寄り駅ににある、大手チェーンハンバーガー店に二人はいた。
背筋を伸ばして椅子に腰掛けた沙希は、行儀よく手を合わせいただきますと言ってから、両手でロコモコバーガーをつかんで、幸せそうにかぶりついている。明は沙希におごってもらった、テリヤキバーガーを噛みながらその様子を眺めていた。
「どうしたんですか、なにかついていますか?」
明の視線に気づいた沙希が、怪訝そうに明に訊いてきた。
「え……昨夜あんな化物と戦った少女が、普通にハンバーガーを食べるんだなって、思ってさ」
「……なぜですか?」
首を傾げて、ムッと形のいい眉をひそめる沙希。
明は、氷が異様に多い炭酸のグレープジュースをすすりながら、
「いやさ、その天界退魔組織ってところで適切な食事とかも出されて、本当に軍事的なことを想像していたからさ。だから、予想外だなー、って」
「馬鹿にしてますか? 天界退魔組織に入っていても、普通にわたし達は生活しています。だから、放課後に本部から連絡がなければ寄って食べたりしてますよ」
沙希は、少し傷ついたように溜め息を吐いてから、続けた。
「ふーん、結構天界退魔組織って自由なんだな」
「自由かどうかは、そうですね、鍛えたいときは本部のトレーニングルームに行って鍛えて、魔属について知りたかったら本部の図書室にでもいけばいいので。学校や仕事みたいに、毎日本部に顔を出さなければいけないみたいなことはありませんね」
淡々と天界退魔組織について話し出す、沙希を見て明は驚いた。
「いいのかよ、そんなこと言って」
「別にこれぐらいは問題ありません」
そうなのな、と明は口にしてからフライドポテトを口に放り込んだ。
「立花先輩は昨夜、メイド少女を追って家の外をさ迷っていたんですよね」
唐突に振られた話題に明はうなずいて答える。
「そしたら、魔属と遭遇してしまって襲われた、というわけですよね」
「そうだ、ほんと焦ったぜ。見たことのない生き物が急に襲ってきたんだからよ」
明は、昨夜の魔属達の容姿を思い出してゾッとした。
「では、魔界と魔属について説明しましょうか。そのあとに、天界退魔組織について説明しましょう」
沙希が炭酸のグレープジュースをすすりながら、口にした言葉に明はまた驚いた。
「いいのかよ! さっきはあんなに駄目って言ってたのによ」
「大丈夫です、あなたに話したからと言って、なにも問題はないでしょう」
沙希が自信ありげに答えるのを明は眺め、沙希が話し出すのを待つ。
「まずですね、世界が三つ存在するんです。わたし達がいる世界、魔界や天界は平界と呼んでいるらしいです。次に、平界に手を貸している天界。平界を滅ぼそうとする魔界。この三つです」
「……はぁ」
明は理解しがたい事実に、呆けたような声しか出てこない。
「一応聞くけど、全部事実だよな」
「はい、それは立花先輩自身が昨夜、眼にしたモノが証明だと思いますよ」
続けますよ、と言って沙希は続きを話し出す。
「現在、魔界は六つ国家に分けられています。それらを全て統治した魔王を第六天魔王と呼んでいます。昨夜、立花先輩達を襲ったのは混合獣種なので、第四か第五魔界あたりでしょう」
「なんで魔界は六つに分けられているんだ?」
「それはわたしも知りません。でもたぶん、それは平界と同じなんじゃないですかね、力を誇示するため争いが起き、魔界を六つに分け六人の王が治めるようにしたんじゃないですか」
魔界でも魔属間での争いみたいなことがあるんだな、と明は思う。
「魔属はわたし達人間を滅ぼすつもりらしいです。昨夜襲われて、それはわかりましたよね」
躊躇のない魔属の攻撃を思い出して、明はうなずいた。
「新東京には、浮游都市をまるごと囲んだ結界が張られています。なので、新東京に魔属がやって来ると、結界が作り出したもう一つの新東京に送られます。そこで、天界退魔組織の退魔者が魔属と戦うんです」
そう言われて、明は、でも、と切り出した、
「昨夜は俺の前に現れたぞ。それはどういうことなんだ?」
「たしかに魔力の強い魔属は結界を越えて、本来の新東京に現れます。しかし、昨夜の魔属はまだ下級の魔属でした。つまり、昨夜の魔属は結界の中ににいました」
え!?と明は思う。魔属は結界の中にいた。そうなると、明が魔属に会うためには、
「そうです、立花先輩とメイド少女は昨夜、結界の中にいたんです。普通はあり得ません。結界に入れるのは、霊力を持った存在か魔力を持った存在だけです……立花先輩達もそういう存在なんじゃないですか、とわたしは思っているんですけど、どうですか?」
沙希の思わぬ指摘に、明は狼狽した。明は地上で生きて五年、浮游都市で生きて十年の間、退魔者という存在とも、魔属という存在とも出会ったことはなかった。昨夜がまるっきりの初対面だった。だから、どうですか? と言われても見当などつかなかった。
「いや、俺はごく普通の一般人だよ」
「ですよね、立花先輩は変態の一般人ですよね。ですから、結界の不具合かなわたしは思っているんですけどね、念のため訊いておきました」
魔界と魔属。明は信じきれていないが、昨夜の戦いを見れば疑いをする気は起きてこなかった。
「では、次にわたしと亜矢先輩が所属している天界退魔組織について説明します……どこまで知っていますか?」
突然の質問に、明は頬杖をつきなんも知らねーよ、と返した。
「まぁ、そうですよね。天界退魔組織は、十年前に国家が設立した、対魔属のために設置されている特務機関のようなものです」
「特務組織……?」
ようするに国家公務員みたいな感じです、という沙希の付け加えを聞いて明は納得した。
「大規模な魔属の災害や魔属の引き起こす事件などを阻止するための、情報を収集、謀略工作などを行う組織です」
「ようするに、あれか警察みたいな感じなのか?」
そう言って、明はいちおう納得する。
「そうですね、警察の強化版とでも思ってくれて結構です」
警察が人間が起こす災害やテロなどの事件を専門に扱うに対して、天界退魔組織は対魔属のための組織ということらしい。
「で、その強化警察の一員なんだよな、お前と亜矢は」
「はい」
沙希は控えめにうなずいたあと、まだまだ新米ですけど、と素直に付け加えた。
そうなのか、と明は予想外に思った。なぜなら、沙希は昨夜の戦いで魔属と十分に力を発揮して戦っているように見えたからである。中学生でその上新米で、あんなに強いなんて、明は素直に感嘆した。
「なぁ、亜矢も新米なのか?」
「いえ、亜矢先輩はわたしの教育係です。なので、まだまだ亜矢先輩からたくさんのことを学んでいるんです」
「そうなのか、沙希のほうが強いと思うけどな」
明に不意に褒められ、沙希は頬を赤く染めて顔を反らす。そんなことないです、と沙希は言った。
「わたしは武器の力に助けてもらっているところがたくさんありますから。わたしが使う武器は神具と呼ばれ、天界から授かった力なんです」
「それって、天界に力を認められたってことなのか?」
「はい、そうですね。わたしは退魔者として強くなったんです。でも、わたしはまだ弱いです。魔属と戦うときも、怖くて怖くて手が震えています。わたしが魔属とまともに戦えているのは亜矢先輩がいるからなんてす」
「ずいぶん亜矢を尊敬しているんだな」
明の言葉に、沙希は笑顔で言った。
「はい、わたしの憧れの先輩です」
自分の友達が褒められるのに気分を良くして、明は口にした。
「でさ、どうやったら天界退魔組織に入って、退魔者になれるんだ?」
「……話しを聞いていましたか?」
「ああ、ちゃんと聞いていたぜ」
首を縦に振る明を見て、沙希が眼を瞬いた。
「話しを聞いていたなら、どうしてそう思うんですか?」
「いや、お前らが必死で俺ら一般人のために戦って平和を守っているんだろ。だから、俺も力になりたいな、って思ったんだよ」
明が真剣な表情で言う。沙希は、え、と困ったように呟き、
「天界退魔組織の退魔者になるということは、死の危険と隣り合わせということになりますよ。立花先輩がそんな危険を背負う必要はありません」
「だったら、お前らだってそんな危険を背負う必要はねーよ。そういう危ない仕事は大人に任せておけよ。中学生は青春しとけ」
明は笑顔で言った。たしかにそうだ、危ない奴がいたら警察を呼べばいい、怖い奴がいたら自衛隊を呼べばいい。まだ十代の少年少女が命がけで戦うなんて間違っているかもしれないのだ。
「立花先輩の言うことは理解できます。ですが、こちらにも事情というものがあります。だから、退魔者をやっているんです」
そして、と沙希は続ける。
「絶対にあなたが退魔者になることには反対です。なぜなら、あなたが退魔者になることを望んでいない人がいるからです」
沙希の言葉に、明は言葉を失った。明が退魔者になることを望んでいない人がいる。それが誰だかわからないけれど、なんでそんなことを望むのかは理解できた。
明に危険な目に遭って欲しくない。死んで欲しくないから、危険と隣り合わせの退魔者なんてやってほしくないのだろう。
「わかった、退魔者にしてくれとはもう頼まない。その代わり、亜矢が退魔者になった理由を教えてくれ」
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