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第三章
母と子 其の七
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(な、なんて格好で来るのよ――っ)
競泳水着のような締め付け感の強いビキニタイプを着てきた彼に驚きつつも、それに似合うほどの均整のとれた身体に思わず見惚れ……いや、ただちょっと目を奪われていた私はその場に立ちすくむ。
すると彼は私に気づいたのか、こちらに向かって歩き始める。
……彼女達も連れて。
私は誰一人として声を掛けられなかったのに、栄慶さんは若い女の子達にキャーキャー言われながら逆ナンされて追いかけられて……。
あまりのその差に涙が出そう。
しかも私を視界に捉えたまま颯爽と歩く彼に、女の子達は怪訝な顔をし始めている。
更に追い打ちを掛けるように、遠巻きに見ていた人達も一斉に私を注目し始めた。
(視線が物凄く痛いんですけどっ)
ってか、なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないのよっっ
悲しみよりも先に怒りが込み上げてきた私は、ギュッと唇を噛みしめ、目尻に涙を溜めながら彼を強く睨みつける。
「癒見、私を放って先に行くんじゃない」
周りの視線をものともせず、彼はあっけらかんと声を掛けてきた。
くぅぅぅぅぅっっ
ますます腹立たしいっっ
「栄慶さんなんて……」
「? どうしたんだ癒……」
「栄慶さんなんてっ」
「若ハゲのくせにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「――!?」
『だからこれは剃ってるんだ!』と叫ぶ彼を無視し、私は波打ち際に沿って浜辺の奥へと駆け出した。
◇◇◇◇
可哀そうな美形だと思われたらいいのよ――っっ!!
そう心の中で叫びながら、ひたすら走り続ける。
「はぁ……はぁ……」
体力が尽きる頃、砂浜とは違う岩で覆われた海岸へとたどり着いた。
周りに人がいないのを確認してからその場にうずくまる。
「はぁ……、私ってば何してるんだろ……」
楽しいデートになるはずだと思ってたのに……。
なのに……なのにっ!
「栄慶さんの馬鹿……」
(馬鹿馬鹿馬鹿――――っ!!)
「……でも、水着姿の栄慶さんもカッコ良かったなぁ─……」
「…………」
って、そうじゃないでしょっ
思わず口元が緩みそうになり、何とか我慢する。
そ、そもそも栄慶さんったら、ちょっとカッコいいからって女の子にチヤホヤされて、鼻の下伸ばしてっ!
……いや、伸ばしてなかったかもしれないけどっ!!
でもっ
でもでもでもっっ
「あの……、大丈夫ですか?」
「へぁ!?」
急に聞こえた女性の声に、思わず変な声が出てしまった。
だ、誰も居ないと思ってたのにっ
もしかして今までの呟き……聞かれてた!?
私は慌てて立ち上がる。
「勢いよく走ってきたと思ったら、急にうずくまったのでびっくりしました」
「す、すみません」
良かった、聞こえてなかったみたい。
近づいてきたのは、ツバ広の白い帽子を被った女性。
歳は30代半ばくらいだろうか。
白のワンピースがよく似合う、黒髪の綺麗な女性だった。
(ひとり……かな?)
近くに誰も居てなさそうだけど……
地元の人なのだろうか。
「この時期になると良く来るんです。昔は……家族と一緒だったのですが……」
そう言いながら海に視線を向ける彼女の横顔が、少し悲しげに見えた。
何か……つらい事でもあったのだろうか……。
でも初対面の相手だし、あまり詮索しない方がいいかもしれないと口をつぐむ。
すると彼女は言葉に詰まった私に気づいたのか、再び笑みを浮かべた。
「ここ、穴場なんですよ。岩場が多いのであまり人が来ないんです。たまに泳いでいる人を見るくらいかしら……」
「そうなんですか?」
どうりで人が全然見あたらないわけね。
「急に声を掛けてごめんなさいね。私はもう少しこの辺を散歩してから宿に戻りますので、ごゆっくり」
彼女は腰くらいまである綺麗な黒髪と、涼しそうな白のワンピースを風になびかせながら去って行った。
(さて、どうしよう。私も戻った方がいいのかな……)
でも戻れば栄慶さんが居るだろうし。
(もしかしたら今頃、あの女の子達と……っ)
海の中で彼女達と楽しそうに遊ぶ栄慶さんの姿を思い浮かべる。
(べ、別に栄慶さんがどこで何をしてようと私には関係ないんだからっ!!)
私は私で楽しむんだから!!
(そうだ、ここで泳いじゃえっ)
ゴツゴツした岩が多くてちょっと心配だけど、さっきの女性も泳いでる人が居たって言ってたし、大丈夫よね?
私は比較的降りやすい場所に移動し、サンダルを脱いでゆっくりと海に入っていった。
競泳水着のような締め付け感の強いビキニタイプを着てきた彼に驚きつつも、それに似合うほどの均整のとれた身体に思わず見惚れ……いや、ただちょっと目を奪われていた私はその場に立ちすくむ。
すると彼は私に気づいたのか、こちらに向かって歩き始める。
……彼女達も連れて。
私は誰一人として声を掛けられなかったのに、栄慶さんは若い女の子達にキャーキャー言われながら逆ナンされて追いかけられて……。
あまりのその差に涙が出そう。
しかも私を視界に捉えたまま颯爽と歩く彼に、女の子達は怪訝な顔をし始めている。
更に追い打ちを掛けるように、遠巻きに見ていた人達も一斉に私を注目し始めた。
(視線が物凄く痛いんですけどっ)
ってか、なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないのよっっ
悲しみよりも先に怒りが込み上げてきた私は、ギュッと唇を噛みしめ、目尻に涙を溜めながら彼を強く睨みつける。
「癒見、私を放って先に行くんじゃない」
周りの視線をものともせず、彼はあっけらかんと声を掛けてきた。
くぅぅぅぅぅっっ
ますます腹立たしいっっ
「栄慶さんなんて……」
「? どうしたんだ癒……」
「栄慶さんなんてっ」
「若ハゲのくせにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「――!?」
『だからこれは剃ってるんだ!』と叫ぶ彼を無視し、私は波打ち際に沿って浜辺の奥へと駆け出した。
◇◇◇◇
可哀そうな美形だと思われたらいいのよ――っっ!!
そう心の中で叫びながら、ひたすら走り続ける。
「はぁ……はぁ……」
体力が尽きる頃、砂浜とは違う岩で覆われた海岸へとたどり着いた。
周りに人がいないのを確認してからその場にうずくまる。
「はぁ……、私ってば何してるんだろ……」
楽しいデートになるはずだと思ってたのに……。
なのに……なのにっ!
「栄慶さんの馬鹿……」
(馬鹿馬鹿馬鹿――――っ!!)
「……でも、水着姿の栄慶さんもカッコ良かったなぁ─……」
「…………」
って、そうじゃないでしょっ
思わず口元が緩みそうになり、何とか我慢する。
そ、そもそも栄慶さんったら、ちょっとカッコいいからって女の子にチヤホヤされて、鼻の下伸ばしてっ!
……いや、伸ばしてなかったかもしれないけどっ!!
でもっ
でもでもでもっっ
「あの……、大丈夫ですか?」
「へぁ!?」
急に聞こえた女性の声に、思わず変な声が出てしまった。
だ、誰も居ないと思ってたのにっ
もしかして今までの呟き……聞かれてた!?
私は慌てて立ち上がる。
「勢いよく走ってきたと思ったら、急にうずくまったのでびっくりしました」
「す、すみません」
良かった、聞こえてなかったみたい。
近づいてきたのは、ツバ広の白い帽子を被った女性。
歳は30代半ばくらいだろうか。
白のワンピースがよく似合う、黒髪の綺麗な女性だった。
(ひとり……かな?)
近くに誰も居てなさそうだけど……
地元の人なのだろうか。
「この時期になると良く来るんです。昔は……家族と一緒だったのですが……」
そう言いながら海に視線を向ける彼女の横顔が、少し悲しげに見えた。
何か……つらい事でもあったのだろうか……。
でも初対面の相手だし、あまり詮索しない方がいいかもしれないと口をつぐむ。
すると彼女は言葉に詰まった私に気づいたのか、再び笑みを浮かべた。
「ここ、穴場なんですよ。岩場が多いのであまり人が来ないんです。たまに泳いでいる人を見るくらいかしら……」
「そうなんですか?」
どうりで人が全然見あたらないわけね。
「急に声を掛けてごめんなさいね。私はもう少しこの辺を散歩してから宿に戻りますので、ごゆっくり」
彼女は腰くらいまである綺麗な黒髪と、涼しそうな白のワンピースを風になびかせながら去って行った。
(さて、どうしよう。私も戻った方がいいのかな……)
でも戻れば栄慶さんが居るだろうし。
(もしかしたら今頃、あの女の子達と……っ)
海の中で彼女達と楽しそうに遊ぶ栄慶さんの姿を思い浮かべる。
(べ、別に栄慶さんがどこで何をしてようと私には関係ないんだからっ!!)
私は私で楽しむんだから!!
(そうだ、ここで泳いじゃえっ)
ゴツゴツした岩が多くてちょっと心配だけど、さっきの女性も泳いでる人が居たって言ってたし、大丈夫よね?
私は比較的降りやすい場所に移動し、サンダルを脱いでゆっくりと海に入っていった。
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