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第三章
母と子 其の十四
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「栄慶さん栄慶さん栄慶さ――――んっ!!」
居るかどうか確認しないまま部屋の中へと飛び込むと、彼は眉をひそめながら振り返り、私の表情を見て
「ああ、出たのか」
と、淡々と答える。
手には額縁。
私が危険な目にあってたというのに絵の鑑賞ですか。
「出たのか、じゃないですよっ! 私の悲鳴、聞こえてたでしょ──っ!!」
息も絶え絶えに訴える。
「それで?」
「襲われそうになったんですよ! 足掴まれたんですよ!! 危険な目にあったんですよ――っ!!!!」
(少しは心配とか心配とか心配とか――っっ)
「危害を加えられたわけじゃないのだろう?」
「うううぅぅ~~」
私は心配の『し』の字もしない彼を唸りながら睨みつける。
「全く」
呆れたような声を出して近づいてくる彼をさらに睨みつけていると、額に何かを貼り付けられた。
「んなっ!?」
汗で張り付いたそれをすぐに剥がし確認する。
「なんですかこれ……」
「――って」
「私キョンシ―じゃないですよっ!」
額に張り付けられたのは古びた御札。
茶色く変色したその御札の表面には、達筆な文字で何かが描かれていた。
「まったくもうっ! えーと……きゅう……きゅう?」
「急急如律令だ」
「あ、その言葉聞いたことあります。陰陽師ですっけ?」
呪文を唱えて妖怪を退治するとか、そんな映画を昔見た記憶がある。
「いわゆる魔除けの札だ」
「数年前、陰陽師の末裔だとか言う男が、宿代がわりに貼ったと書き残し、消えたらしい」
「……それって無銭宿泊じゃ……」
「経緯はどうあれ、これに少なからず力が宿っているのは違いない」
「本物って事ですか?」
「にわか仕込みだろうがな」
「でも、それ私がさっき見た霊に全然効いてないじゃないですか」
それがあるなら栄慶さんが来なくても退治できたのではと思っていると、彼は不意にその御札をビリビリと破き始めた。
「えっ! 破っていいんですか!?」
「そもそも今回はこの札が原因だ」
「これに浄化させる力はない。そのせいでここにいる魂は成仏できずに彷徨い続ける羽目になったんだ」
「つまり……霊を建物の中に閉じ込めてしまったって事ですか?」
「そういう事だ」
(なんてはた迷惑な……)
「さて、これから館内に散らばった札を全て剥がさねばならん。私は2階へ行く、お前は1階を探して剥がして来い。これを持っていれば貼ってある場所が分かるはずだ」
そう言って栄慶さんは私に数珠を渡す。
「え! ちょ……私一人で……」
言い終わる間もなく、彼はスタスタと部屋を出て行った。
も~~~~っっ
(このままここで待ってようかな……)
――なんて思ったけど、後で何言われるか分かったもんじゃない。
私は渋々部屋を出て御札を探す事にした。
居るかどうか確認しないまま部屋の中へと飛び込むと、彼は眉をひそめながら振り返り、私の表情を見て
「ああ、出たのか」
と、淡々と答える。
手には額縁。
私が危険な目にあってたというのに絵の鑑賞ですか。
「出たのか、じゃないですよっ! 私の悲鳴、聞こえてたでしょ──っ!!」
息も絶え絶えに訴える。
「それで?」
「襲われそうになったんですよ! 足掴まれたんですよ!! 危険な目にあったんですよ――っ!!!!」
(少しは心配とか心配とか心配とか――っっ)
「危害を加えられたわけじゃないのだろう?」
「うううぅぅ~~」
私は心配の『し』の字もしない彼を唸りながら睨みつける。
「全く」
呆れたような声を出して近づいてくる彼をさらに睨みつけていると、額に何かを貼り付けられた。
「んなっ!?」
汗で張り付いたそれをすぐに剥がし確認する。
「なんですかこれ……」
「――って」
「私キョンシ―じゃないですよっ!」
額に張り付けられたのは古びた御札。
茶色く変色したその御札の表面には、達筆な文字で何かが描かれていた。
「まったくもうっ! えーと……きゅう……きゅう?」
「急急如律令だ」
「あ、その言葉聞いたことあります。陰陽師ですっけ?」
呪文を唱えて妖怪を退治するとか、そんな映画を昔見た記憶がある。
「いわゆる魔除けの札だ」
「数年前、陰陽師の末裔だとか言う男が、宿代がわりに貼ったと書き残し、消えたらしい」
「……それって無銭宿泊じゃ……」
「経緯はどうあれ、これに少なからず力が宿っているのは違いない」
「本物って事ですか?」
「にわか仕込みだろうがな」
「でも、それ私がさっき見た霊に全然効いてないじゃないですか」
それがあるなら栄慶さんが来なくても退治できたのではと思っていると、彼は不意にその御札をビリビリと破き始めた。
「えっ! 破っていいんですか!?」
「そもそも今回はこの札が原因だ」
「これに浄化させる力はない。そのせいでここにいる魂は成仏できずに彷徨い続ける羽目になったんだ」
「つまり……霊を建物の中に閉じ込めてしまったって事ですか?」
「そういう事だ」
(なんてはた迷惑な……)
「さて、これから館内に散らばった札を全て剥がさねばならん。私は2階へ行く、お前は1階を探して剥がして来い。これを持っていれば貼ってある場所が分かるはずだ」
そう言って栄慶さんは私に数珠を渡す。
「え! ちょ……私一人で……」
言い終わる間もなく、彼はスタスタと部屋を出て行った。
も~~~~っっ
(このままここで待ってようかな……)
――なんて思ったけど、後で何言われるか分かったもんじゃない。
私は渋々部屋を出て御札を探す事にした。
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