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第三章
母と子 其の十五
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――――――30分後。
「あとここぐらいか~」
各部屋を周り、額縁やテーブル、縁側に置かれたイスを丹念に確認していく。
(もうちょっと分かりやすいトコに貼ってほしいもんだわね!)
栄慶さんに渡された数珠は、御札のある部屋の前に来ると微かに熱を帯びる。
だけどその部屋の、どこに貼られているのか分からないという曖昧さ。
(もぅ! もっとピンポイントで分かるようにしてよね)
愚痴を零しながら部屋の隅々を探す。
「あ! あったぁ~」
見つからないと思ったら、御札は冷蔵庫の裏に貼られていた。
(貼るなら同じ場所に貼りなさいよっ)
無銭宿泊の自称陰陽師め! いつか会ったらただじゃおかないんだから!!
私は勢いよく御札をひっぺ返し、握りつぶした。
「よし! 一階はこれで最後ね。あの霊と鉢合わせする前に栄慶さんとこ行かなきゃっ」
天井からぶら下がった照明の紐を引っ張り、電気を消す。
「――っっ!?」
辺りが暗くなると、縁側のガラス戸に何かが映り込み、私は思わず身構えた。
(外に……何か……いる)
そろりとガラス戸に近づき、外を確認する。
庭園の中を、白い人影が、旅館に背を向け歩いて行くのが見えた。
(い、生きてる人……だよね? なんであんな所に……)
向こうは確か……海岸へと繋がる裏戸があるのだと、女将さんが言っていたのを思い出す。
この旅館の一階は、各部屋から庭園に行けるようになっており、サンダルが用意されている。
そこから庭に出たのだろうか……。
(でも今日、私たち以外誰も泊まってないはずだし……)
そう思いながらしばらく動向を見ていると、その人は一瞬こちらを振り向いたかと思うと、裏戸を開けその先へと歩いて行った。
(あれってもしかして、昼間海で会った人じゃない?)
夜目に慣れてきた私は、一瞬見えたその顔に見覚えがある事に気づく。
ツバ広の白帽子を被った白いワンピースの女性。
(絶対そうだ)
でも、どうしてあんな所に……? 夜の海を眺めに行ったとか?
だとしても……月明かりがあると言えど、懐中電灯も持たずに歩くのは危ないんじゃないだろうか。
「……どうした?」
「あっ、栄慶さん!」
いつの間に入って来たのか、隣で不思議そうに私を見つめる栄慶さんと目が合った。
2階の確認が終わったのだろう、手には数枚の御札が握られていた。
「あの、海で出会った女性を見かけたんですけど」
「海で?」
「私が溺れかけた海岸で会った人です」
「あの岩場の近くでか?」
彼は顎に手を当て、考え込むような仕草をする。
(やっぱり……気になるっ)
「あの、私ちょっと声掛けてきますね」
「おい、一体どういう……」
「すぐ戻りますからっ!!」
「癒見っ」
呼び止めるようとする彼を置いて、私はサンダルを履き裏戸へと向かった。
「あとここぐらいか~」
各部屋を周り、額縁やテーブル、縁側に置かれたイスを丹念に確認していく。
(もうちょっと分かりやすいトコに貼ってほしいもんだわね!)
栄慶さんに渡された数珠は、御札のある部屋の前に来ると微かに熱を帯びる。
だけどその部屋の、どこに貼られているのか分からないという曖昧さ。
(もぅ! もっとピンポイントで分かるようにしてよね)
愚痴を零しながら部屋の隅々を探す。
「あ! あったぁ~」
見つからないと思ったら、御札は冷蔵庫の裏に貼られていた。
(貼るなら同じ場所に貼りなさいよっ)
無銭宿泊の自称陰陽師め! いつか会ったらただじゃおかないんだから!!
私は勢いよく御札をひっぺ返し、握りつぶした。
「よし! 一階はこれで最後ね。あの霊と鉢合わせする前に栄慶さんとこ行かなきゃっ」
天井からぶら下がった照明の紐を引っ張り、電気を消す。
「――っっ!?」
辺りが暗くなると、縁側のガラス戸に何かが映り込み、私は思わず身構えた。
(外に……何か……いる)
そろりとガラス戸に近づき、外を確認する。
庭園の中を、白い人影が、旅館に背を向け歩いて行くのが見えた。
(い、生きてる人……だよね? なんであんな所に……)
向こうは確か……海岸へと繋がる裏戸があるのだと、女将さんが言っていたのを思い出す。
この旅館の一階は、各部屋から庭園に行けるようになっており、サンダルが用意されている。
そこから庭に出たのだろうか……。
(でも今日、私たち以外誰も泊まってないはずだし……)
そう思いながらしばらく動向を見ていると、その人は一瞬こちらを振り向いたかと思うと、裏戸を開けその先へと歩いて行った。
(あれってもしかして、昼間海で会った人じゃない?)
夜目に慣れてきた私は、一瞬見えたその顔に見覚えがある事に気づく。
ツバ広の白帽子を被った白いワンピースの女性。
(絶対そうだ)
でも、どうしてあんな所に……? 夜の海を眺めに行ったとか?
だとしても……月明かりがあると言えど、懐中電灯も持たずに歩くのは危ないんじゃないだろうか。
「……どうした?」
「あっ、栄慶さん!」
いつの間に入って来たのか、隣で不思議そうに私を見つめる栄慶さんと目が合った。
2階の確認が終わったのだろう、手には数枚の御札が握られていた。
「あの、海で出会った女性を見かけたんですけど」
「海で?」
「私が溺れかけた海岸で会った人です」
「あの岩場の近くでか?」
彼は顎に手を当て、考え込むような仕草をする。
(やっぱり……気になるっ)
「あの、私ちょっと声掛けてきますね」
「おい、一体どういう……」
「すぐ戻りますからっ!!」
「癒見っ」
呼び止めるようとする彼を置いて、私はサンダルを履き裏戸へと向かった。
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