憑かれて恋

香前宇里

文字の大きさ
57 / 109
第三章

母と子 其の十五

しおりを挟む
 ――――――30分後。




「あとここぐらいか~」
 各部屋を周り、額縁やテーブル、縁側に置かれたイスを丹念に確認していく。
(もうちょっと分かりやすいトコに貼ってほしいもんだわね!)
 栄慶さんに渡された数珠は、御札のある部屋の前に来ると微かに熱を帯びる。
 だけどその部屋の、どこに貼られているのか分からないという曖昧さ。
(もぅ! もっとピンポイントで分かるようにしてよね)
 愚痴を零しながら部屋の隅々を探す。
「あ! あったぁ~」
 見つからないと思ったら、御札は冷蔵庫の裏に貼られていた。
(貼るなら同じ場所に貼りなさいよっ)
 無銭宿泊の自称陰陽師め! いつか会ったらただじゃおかないんだから!!
 私は勢いよく御札をひっぺ返し、握りつぶした。




「よし! 一階はこれで最後ね。あの霊と鉢合わせする前に栄慶さんとこ行かなきゃっ」
 天井からぶら下がった照明の紐を引っ張り、電気を消す。
「――っっ!?」
 辺りが暗くなると、縁側のガラス戸に何かが映り込み、私は思わず身構えた。
(外に……何か……いる)
 そろりとガラス戸に近づき、外を確認する。
 庭園の中を、白い人影が、旅館に背を向け歩いて行くのが見えた。


(い、生きてる人……だよね? なんであんな所に……)
 向こうは確か……海岸へと繋がる裏戸があるのだと、女将さんが言っていたのを思い出す。
 この旅館の一階は、各部屋から庭園に行けるようになっており、サンダルが用意されている。
 そこから庭に出たのだろうか……。
(でも今日、私たち以外誰も泊まってないはずだし……)
 そう思いながらしばらく動向を見ていると、その人は一瞬こちらを振り向いたかと思うと、裏戸を開けその先へと歩いて行った。


(あれってもしかして、昼間海で会った人じゃない?)
 夜目に慣れてきた私は、一瞬見えたその顔に見覚えがある事に気づく。
 ツバ広の白帽子を被った白いワンピースの女性。
(絶対そうだ)
 でも、どうしてあんな所に……? 夜の海を眺めに行ったとか?
 だとしても……月明かりがあると言えど、懐中電灯も持たずに歩くのは危ないんじゃないだろうか。




「……どうした?」
「あっ、栄慶さん!」
 いつの間に入って来たのか、隣で不思議そうに私を見つめる栄慶さんと目が合った。
 2階の確認が終わったのだろう、手には数枚の御札が握られていた。
「あの、海で出会った女性を見かけたんですけど」
「海で?」
「私が溺れかけた海岸で会った人です」
「あの岩場の近くでか?」
 彼は顎に手を当て、考え込むような仕草をする。
(やっぱり……気になるっ)
「あの、私ちょっと声掛けてきますね」
「おい、一体どういう……」
「すぐ戻りますからっ!!」
「癒見っ」



 呼び止めるようとする彼を置いて、私はサンダルを履き裏戸へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...