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第五章「境を越えて来る者達」
第10話「竜騎士」
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季節は夏から秋へと移ろい、夏の青々としていた草木が、秋のくすんだ色合いへと変化していく。
秋を迎えた竜騎学舎も、夏の長期休暇による静けさから、授業が再開されたことによる秋の賑わいへと変わっていた。
そして、授業が再開されて数日後、竜騎学舎はある大きなイベントを迎えていた。
それは、竜騎学舎の生徒達の卒業式ならびに、竜騎士の叙任式。本来は、春先に予定されているイベントであったが、急遽予定が変更され、一部の生徒の卒業および竜騎士の叙任式が執り行われる事となった。
竜騎学舎の校舎の裏手、竜舎のある広々としたスペースに、その叙任式の為のスペースが設けられていた。
通常の騎士の叙任式は城内で行われる。しかし、騎竜と一体とする竜騎士は、叙任式に騎竜を連れた参加するため、城内では行う事ができず、この場所で行う事が通例となっていた。
急場で作られ、彩りの弱い式典場に竜騎学舎の制服を着た生徒が五人、自らの騎竜を連れ、式典場の中央に引かれた、赤い絨毯の上を歩く。その生徒と騎竜達の列の最後尾に、リディアとヴィルーフは並んでいた。
着なれた制服に身を包んでの参加。本来なら、竜騎士の式典用の衣服を着て参加する行事であるが、急遽前倒しで執り行われたため、その衣服が間に合わず、制服での参加となった。
今日は、竜騎学舎の生徒から、正式な竜騎士へと変わる日。立場が変わり、大きく前進する日。自分を取り巻く環境が大きく変わる日であるのに、身に纏う衣服が着なれた制服であるためか、この場に立つリディアには、何が変わったという感覚は少なかった。
式典場に敷かれた絨毯の上を歩きながら、そっと辺りを見回す。
式典は大きなイベントでもあるため、竜騎学舎の敷地が解放され、客が入るようになっている。けれど、急遽行われた式典であるために、観客は数えられる程度しか入っていなかった。
集まった観客を順繰りに見回していく。見知った人の姿は殆ど無い。父の姿も、見当たらなかった。
(来るはずなど、あるわけないか……)
言いようのない感情が沸き、小さく息を吐いた。
絨毯の上を歩いていた生徒達が足を止め、一斉に跪く。指示されていた位置に辿り着いたのだ。
音楽団のファンファーレが鳴り響く。それに合わせ、式典場の奥の壇上に、式典用の豪奢な衣服に身を包んだラヴェリアが、従者を従え上る。
『まずは、今日という日に立ち会えた事を感謝しよう』
壇上に立ったラヴェリアが、そう高らかに声を発する。
『諸君らはこの学び舎で、竜騎士に成るための教練を受け、その力を評価された。そして、今日をもって、諸君らはこの学び舎を巣立ち、竜騎士という栄誉を手にする。今日は、それを祝す日だ。
だが忘れてはならない。竜騎士という栄誉は、ただの飾りではなく、この国を守るという大きな使命を背負った肩書であることを。
それは、大変重く、そして辛いものかもしれない。だが、この学び舎で学び得たものは、諸君らの力になるだろう。
思い出してほしい。歴史に刻まれし多くの英雄は、皆、この学び舎から旅立って行った者達だ。諸君らは、この学び舎で、その英雄たちが学んだ事のすべてを受け継いでいる。ここで学んだすべてを糧とし、前へと進めば、諸君らは彼らと英雄に引けを取る事のない、英雄になれるであろう。
諸君らの栄光は、この国に栄光をもたらしてくれる。故に私は、諸君らの栄誉ある活躍を期待する。以上だ』
ラヴェリアが口上を終えると、小さく拍手が湧き上がる。
「それでは、これより、竜騎士叙任の儀を執り行う。クリフォード・エゼルレッド、前へ!」
ラヴェリアの傍に控えていた従者が、壇上に前に出て、一人ずつ名前を読み上げていく。
名前が呼ばれると、一人ずつ騎竜を従えラヴェリアの前に跪き、剣を捧げる。
一人、また一人と名が告げられ、そして最後に、リディアの名が告げられる。
「リディア・アルフォード、前へ!」
一度立ち上がり、ヴィルーフの手綱を引きながら、壇上の前へと歩み進める。
「これを」
ラヴェリアの前に立つと、従者が一振りの剣を差し出してくる。この式典のために造られた、意匠の凝らされた剣だ。
その剣を手に取り、リディアは壇上に立つラヴェリアの前に跪き、剣を鞘から引き抜くと、持ち手の方をラヴェリアへと向け、差し出す。
ラヴェリアは差し出された剣を手に取る。
「リディア・アルフォードよ。そなたはこれより、神聖竜の名の下に、我が騎士となり王国のため、剣となり、盾となり、我に尽くすと誓うか?」
儀式の為の口上が告げられる。
「はい。私、リディア・アルフォードは、神聖竜の名の下に、騎士として、この身を国王陛下の為に捧げることを誓います」
「よろしい」
リディアの返答に、ラヴェリアは深く頷く。
そして、受け取った剣を一度天に掲げ、それから剣の刃先を、リディアの右肩、左肩を叩く。
「そなたは、今をもって、王国の竜騎士となった。王国の剣として、そして、盾として、我が国に害をなす敵を討ち滅ぼしてくれることを望む」
「は!」
最後に、ラヴェリアが手にしていた剣を、リディアへと返す。それと共に、大きく拍手が沸き起こる。
この日をもって、リディア・アルフォードは竜騎学舎の生徒から、正式に竜騎士となった。
秋を迎えた竜騎学舎も、夏の長期休暇による静けさから、授業が再開されたことによる秋の賑わいへと変わっていた。
そして、授業が再開されて数日後、竜騎学舎はある大きなイベントを迎えていた。
それは、竜騎学舎の生徒達の卒業式ならびに、竜騎士の叙任式。本来は、春先に予定されているイベントであったが、急遽予定が変更され、一部の生徒の卒業および竜騎士の叙任式が執り行われる事となった。
竜騎学舎の校舎の裏手、竜舎のある広々としたスペースに、その叙任式の為のスペースが設けられていた。
通常の騎士の叙任式は城内で行われる。しかし、騎竜と一体とする竜騎士は、叙任式に騎竜を連れた参加するため、城内では行う事ができず、この場所で行う事が通例となっていた。
急場で作られ、彩りの弱い式典場に竜騎学舎の制服を着た生徒が五人、自らの騎竜を連れ、式典場の中央に引かれた、赤い絨毯の上を歩く。その生徒と騎竜達の列の最後尾に、リディアとヴィルーフは並んでいた。
着なれた制服に身を包んでの参加。本来なら、竜騎士の式典用の衣服を着て参加する行事であるが、急遽前倒しで執り行われたため、その衣服が間に合わず、制服での参加となった。
今日は、竜騎学舎の生徒から、正式な竜騎士へと変わる日。立場が変わり、大きく前進する日。自分を取り巻く環境が大きく変わる日であるのに、身に纏う衣服が着なれた制服であるためか、この場に立つリディアには、何が変わったという感覚は少なかった。
式典場に敷かれた絨毯の上を歩きながら、そっと辺りを見回す。
式典は大きなイベントでもあるため、竜騎学舎の敷地が解放され、客が入るようになっている。けれど、急遽行われた式典であるために、観客は数えられる程度しか入っていなかった。
集まった観客を順繰りに見回していく。見知った人の姿は殆ど無い。父の姿も、見当たらなかった。
(来るはずなど、あるわけないか……)
言いようのない感情が沸き、小さく息を吐いた。
絨毯の上を歩いていた生徒達が足を止め、一斉に跪く。指示されていた位置に辿り着いたのだ。
音楽団のファンファーレが鳴り響く。それに合わせ、式典場の奥の壇上に、式典用の豪奢な衣服に身を包んだラヴェリアが、従者を従え上る。
『まずは、今日という日に立ち会えた事を感謝しよう』
壇上に立ったラヴェリアが、そう高らかに声を発する。
『諸君らはこの学び舎で、竜騎士に成るための教練を受け、その力を評価された。そして、今日をもって、諸君らはこの学び舎を巣立ち、竜騎士という栄誉を手にする。今日は、それを祝す日だ。
だが忘れてはならない。竜騎士という栄誉は、ただの飾りではなく、この国を守るという大きな使命を背負った肩書であることを。
それは、大変重く、そして辛いものかもしれない。だが、この学び舎で学び得たものは、諸君らの力になるだろう。
思い出してほしい。歴史に刻まれし多くの英雄は、皆、この学び舎から旅立って行った者達だ。諸君らは、この学び舎で、その英雄たちが学んだ事のすべてを受け継いでいる。ここで学んだすべてを糧とし、前へと進めば、諸君らは彼らと英雄に引けを取る事のない、英雄になれるであろう。
諸君らの栄光は、この国に栄光をもたらしてくれる。故に私は、諸君らの栄誉ある活躍を期待する。以上だ』
ラヴェリアが口上を終えると、小さく拍手が湧き上がる。
「それでは、これより、竜騎士叙任の儀を執り行う。クリフォード・エゼルレッド、前へ!」
ラヴェリアの傍に控えていた従者が、壇上に前に出て、一人ずつ名前を読み上げていく。
名前が呼ばれると、一人ずつ騎竜を従えラヴェリアの前に跪き、剣を捧げる。
一人、また一人と名が告げられ、そして最後に、リディアの名が告げられる。
「リディア・アルフォード、前へ!」
一度立ち上がり、ヴィルーフの手綱を引きながら、壇上の前へと歩み進める。
「これを」
ラヴェリアの前に立つと、従者が一振りの剣を差し出してくる。この式典のために造られた、意匠の凝らされた剣だ。
その剣を手に取り、リディアは壇上に立つラヴェリアの前に跪き、剣を鞘から引き抜くと、持ち手の方をラヴェリアへと向け、差し出す。
ラヴェリアは差し出された剣を手に取る。
「リディア・アルフォードよ。そなたはこれより、神聖竜の名の下に、我が騎士となり王国のため、剣となり、盾となり、我に尽くすと誓うか?」
儀式の為の口上が告げられる。
「はい。私、リディア・アルフォードは、神聖竜の名の下に、騎士として、この身を国王陛下の為に捧げることを誓います」
「よろしい」
リディアの返答に、ラヴェリアは深く頷く。
そして、受け取った剣を一度天に掲げ、それから剣の刃先を、リディアの右肩、左肩を叩く。
「そなたは、今をもって、王国の竜騎士となった。王国の剣として、そして、盾として、我が国に害をなす敵を討ち滅ぼしてくれることを望む」
「は!」
最後に、ラヴェリアが手にしていた剣を、リディアへと返す。それと共に、大きく拍手が沸き起こる。
この日をもって、リディア・アルフォードは竜騎学舎の生徒から、正式に竜騎士となった。
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