22 / 136
第一章「白き竜と傷だらけの竜騎士」
第21話「神聖竜」
しおりを挟む
風が吹いた。白く暖かな風。
風の中心に立っていた少女の体は、白い光の粒子となって霧散して、それが再び一つの形になっていく。
その姿は飛竜より遥かに大きく、飛竜の様に細長い身体を持ち、背中には巨大な一対の翼に、そして飛竜とは異なり四肢を持つ。鱗は白く、美しい銀色。
その姿は、神話を描いた絵画に映る竜そのものの姿だった。
「アルミ、メイア……なのか?」
浮世離れした光景に、アーネストは尋ねる。
「騙していた事は謝る。けど、こうでもしないと人とは暮らせなかったんだ。許してくれ」
アルミメイアと、それからシンシアとよく似た黄金色の瞳をこちらへ向け、アルミメイアと瓜二つの声音で、竜は答えを返してきた。
「乗れ。アーネスト。お前が飛べないなら、私が代わりにお前を運んでやる」
巨大な翼をたたみ、顔を下げ、背中を見せながら竜は――アルミメイアは言う。
「俺……は……」
白い竜の背中を眺め、アーネストは言葉が詰まる。
見慣れた竜の背中。再びそこへ乗ると思うと、身体が少しずつ固くなっていくのが分かる。白く美しいはずなのに、アーネストにはそれが血塗られたものに見えた。
「大丈夫だ、アーネスト。私が傍に居てやる。だから、お前は一人じゃない」
綺麗な黄金色の瞳を向けながら、アルミメイアは優しく包み込むような声をかける。
その暖かさがゆっくりと氷を溶かしていくように、アーネストの身体を解していく。
アーネストは立ちあがる。
そして、ゆっくりとアルミメイアの傍に近寄り「悪い」と一言断りを入れて、アルミメイアの足を階段代わりにして、背中へと昇る。
「鞍と、手綱と、鐙が無いな……」
二年ぶりに飛竜の――竜の背中に跨り、慣れ親しんだシンシアとは違う竜の背中を感じながら、胸から沸いた気持ちで声を震わせながら、ぽつりと漏らす。
「これで我慢してくれ」
アルミメイアが翼を大きく広げると、アーネストがまたがる背中に丁度いい鞍と手綱と鐙が現れる。
「準備は良いか?」
アルミメイアが問いかける。
アーネストは手綱を握り、一度大きく深呼吸して、いつの間にかに目に浮かんでいた涙を手で拭う。
「ああ、大丈夫だ」
「なら行くぞ」
アーネストが答えを返すと、アルミメイアも直ぐに答えを返し、歩み出す。
広々とした竜舎の放牧場を最初の二歩は歩むように、そこから次第に速度を上げ、最後は馬の様に駆けると共に跳躍し、羽ばたき宙へと舞う。
「振り落とされるなよ」
そして、一度、二度、三度と大きく羽ばたく。その度に大きく速度が加速し、強く後方へと引っ張られる。
流れる景色が早くなり、受ける風が強くなる。それらは飛竜のものとは大きく違っていた。
速度は通常の飛竜が出せる速度を大きく超え、それでもなお加速していく。
神に等しき力を持つとされる伝説の魔獣、竜。その血を引くといわれる飛竜。その二つでこれ程までに違うものなのかと強く実感させられる。そして、半信半疑だった伝説が、これ程まで言われる由縁を知れた気がした。
灰色の空に学生達と、その騎竜の姿を見つける。彼らが止まっているかのように、アルミメイア真っ直ぐ近付いていく。
赤い空、舞う悪竜。二年前に見た景色が頭に浮かぶ。そして、問いかけてくる。
このままで良いのか? と。
『アーネスト、お前はどうしたいんだ?』
黄金色の瞳をこちらへ向け、尋ねてきたアルミメイアの言葉が浮かぶ。
アーネストは一度手綱を強く握りしめる。
「アルミメイア。頼みがある」
迷いがあるのか、少し揺れた声でアーネストは言う。
「なんだ?」
「俺を……」
一度頭を大きく振る。
(怖がっていてはダメだ。それじゃあ結局何も変わらない)
「俺を戦場へ運んでくれ。
俺は、そこに居る奴らも助けたい。そして、その力を貸してくれ」
今度ははっきりと、そして強くそう告げる。
アーネストの言葉を聞くと、アルミメイアは小さく笑う。
「分かった。飛ばすぞ」
アルミメイアは大きく羽ばたき、さらに速度を上げる。
流星の様に、早く、真っ直ぐに空を駆け抜けていく。
* * *
肉が裂けるような音が響いた。それに続き、冷たく、べとついた何かが吹き出し、リディアの身体を濡らす。
『グガアアアアア!』
死を告げる痛みが振り下される事は無く、代わりに悪竜の痛みに悶えるような咆哮が響いた。
ゆっくりと、恐る恐る瞼を開く。
目の前に、竜銃から発射された赤い熱線の残滓が残っていた。眼下には、熱線で撃ち抜かれたのか、顔の半分を崩し、血を流しよろめく悪竜の姿があった。
『グオオオオォォォ!!』
大きく、綺麗な咆哮が上がる。
薄らと残る熱線の残滓を辿り、空を見上げる。
灰色の空に流星が輝いた。そして――
光の剣が振り下された。
光の剣。そう形容するような、青白い線の様な光が走り、それが扇状に振るわれる。その光が、飛び回る悪竜達を薙ぎ払い、赤い靄へと変える。
断末魔さえ上げる事も許されず、悪竜達は消えていった。
光の剣の根元、それを放ったものの姿に目を向ける。
光の剣の余波で、雲が晴れたのか、そのものの周りは雲が晴れ、そこから黄金色の光が差し込んできていた。
そして、黄金色の光の中心には竜が居た。
白く、美しい銀色の鱗に覆われた身体に、飛竜とは異なり四肢を持つ姿で、飛竜の様な巨大な翼を持ちながら、その翼は天使の翼を彷彿させるような、美しい翼を広げていた。
神聖竜レンディアス。
神話を描いた絵画に記された、伝説の竜がそのまま絵画から抜け出したかのように、黄金に輝く光を背に飛んでいた。
見とれる程に美しく、そして、とても恐ろしかった。
ヴェルノとガリアが、落下していくリディアのようやく追いつき、ヴェルノが落ちくるリディアを捕まえ、ガリアの背中へと乗せる。
「大丈夫か?」
リディアをガリアの背中へと乗せると、ヴェルノが尋ねる。その声はリディアに届かなかった。
リディアは空を飛ぶ、あの白銀の竜に心を奪われ、その姿を目で追っていた。
「あれは……なんですか?」
大きく羽ばたき、急降下を開始する竜の姿を眺めながら、リディアは言葉を漏らす。
「あ? ……そうだな。あれは……一体なんなんだ?」
何気なく零した言葉に、ヴェルノも空を飛ぶ白銀の竜を眺めながら、うまく言葉が出ない様子で同意を返した。
アルミメイアのブレスが、一瞬のうちに数体の悪竜を葬り去る。
「す、すごい……」
あまりの光景に、アーネストはついつい感嘆の声が漏れる。
「見とれるのは構わないが、それではここに来た意味がないぞ」
見とれるアーネストへの返事と共に、アルミメイアは大きく羽ばたき急降下を開始する。アルミメイアの言葉で、気持ちを切り替え直し、アーネストは手綱を握りなおす。
「正面、黒竜に取りついている奴らを撃ち落とせるか?」
黒竜――おそらくリディアのヴィルーフだろう。それを正面に捉えながら、アルミメイアが尋ねてくる。
「やってみる」
先ほどリディアに襲い掛かった悪竜を撃ち抜いた竜銃を構え直し、銃口をヴィルーフの方へと向ける。
引き金を引き、二発の熱線を走らせる。そのすべてがヴィルーフと揉み合う悪竜に命中する。
強力な熱線が悪竜の身体を焼き、抉る。
『『グアアアアアァ!』』
強烈な熱線に穿たれた悪竜が、痛みに悶えながらヴィルーフから離れる。
「正確な射撃だ。さすがだな」
急降下したアルミメイアは、そのまま一気にヴィルーフに取りついていた悪竜の傍へと接敵し、鋭い爪と、牙で一息に両断する。
まるで包丁で肉を裁くかのように、アルミメイアの爪と牙は、悪竜の鱗と肉、そして骨を切断し、その体を両断する。
助け出されたヴィルーフは、力なく身体を崩し落下していく。
「ヴィルーフ!」
耳に付けた通信用の魔導具からリディアの叫び声が響く。
「助けられないか?」
無理を承知でアルミメイアに尋ねる。
「拾ってはいけないが、問題はない」
アルミメイアは答えを返すと同時に、手をヴィルーフの方へと伸ばす。するとすぐに、重力に引かれ、加速していたヴィルーフの体が、風に煽られた羽の様に、落下速度が弱まる。おそらく『軟着陸』の魔法だろう。
「魔法まで使えるのか……」
無詠唱で魔法を唱えて見せたアルミメイアの姿に、アーネストは驚きを禁じ得なかった。
「お前は私を馬鹿にしているのか?」
返ってきたアルミメイアの言葉に、アーネストは苦笑を浮かべる。
人間で魔法を扱うためには、長い時間を必要とする勉強と鍛錬を必要となる。そのため、簡単に扱えるというわけでは無い。けれどあ、アルミメイアは出来て当たり前という様な返事を返してきた。常識が違うのだということを思い知らされる。
『グオオオォォ!』
悪竜の咆哮が後方から響く。後ろを踏み向くと、数体の悪竜が襲い掛かって来ていた。
「アルミメイア!」
「判ってる!」
アルミメイアは一度大きく羽ばたくと一気に加速する。慣性に従い、アーネストは強く後方へ引っ張られる。手綱にしがみ付き、それをどうにかやり過ごす。
速度を上げたアルミメイアは一気に悪竜達を引き離す。そして、大きく上昇を加え、宙返りするような軌道を描き、悪竜達の後ろを取る。そこから、口を大きく開き、光の閃光――ブレスを吐く。
その光は一瞬のうちに前方の悪竜達を消し去る。
圧倒的な力。それを見せつけられ、悪竜達は敵わないと判断したのか、大きく距離を取り始める。
けれど、それで終わりではない。
残った悪竜達はアルミメイアから距離を取ったものの、未だに学生達や他の竜騎士達に狙いを定めており、追い回していた。
追い回され疲労し、捕まり始めた学生とその騎竜が目に入る。
「アルミメイア。十時の方向。頼めるか?」
「十時の方向って?」
「左斜め前!」
「分かりずらい!」
アーネストの指示に従にアルミメイアは方向転換し、襲われている学生と騎竜を正面に捉える。
「アーネスト、振り払ってくれるか? 邪魔すぎる」
「少し待ってくれ」
今にも食い殺されそうな学生の姿を目にし、焦る思いを押えながら、竜銃から使い切った術式のカートリッジを引き抜き、新しいカートリッジを差し込む。そして、正面に捉えた学生を襲う悪竜達に銃口を向け、引き金を引く。
連続して三発の熱線が発射され、それぞれが別々の悪竜を捉え、穿つ。それにより悪竜達は怯み、学生と騎竜からの距離が離れる。
「上出来だ」
悪竜と飛竜との距離が開くのを目にすると、アルミメイアは一気に速度を上げ、悪竜とのすれ違いざまに、爪と牙でもって悪竜達を両断した。
悪竜に襲われた学生と護衛の竜騎士それから騎竜達は、アーネストとアルミメイアの介入によって助け出される事となった。
大きな負傷を負った飛竜が数体出たものの、死者が出る事は無く助けられた。
風の中心に立っていた少女の体は、白い光の粒子となって霧散して、それが再び一つの形になっていく。
その姿は飛竜より遥かに大きく、飛竜の様に細長い身体を持ち、背中には巨大な一対の翼に、そして飛竜とは異なり四肢を持つ。鱗は白く、美しい銀色。
その姿は、神話を描いた絵画に映る竜そのものの姿だった。
「アルミ、メイア……なのか?」
浮世離れした光景に、アーネストは尋ねる。
「騙していた事は謝る。けど、こうでもしないと人とは暮らせなかったんだ。許してくれ」
アルミメイアと、それからシンシアとよく似た黄金色の瞳をこちらへ向け、アルミメイアと瓜二つの声音で、竜は答えを返してきた。
「乗れ。アーネスト。お前が飛べないなら、私が代わりにお前を運んでやる」
巨大な翼をたたみ、顔を下げ、背中を見せながら竜は――アルミメイアは言う。
「俺……は……」
白い竜の背中を眺め、アーネストは言葉が詰まる。
見慣れた竜の背中。再びそこへ乗ると思うと、身体が少しずつ固くなっていくのが分かる。白く美しいはずなのに、アーネストにはそれが血塗られたものに見えた。
「大丈夫だ、アーネスト。私が傍に居てやる。だから、お前は一人じゃない」
綺麗な黄金色の瞳を向けながら、アルミメイアは優しく包み込むような声をかける。
その暖かさがゆっくりと氷を溶かしていくように、アーネストの身体を解していく。
アーネストは立ちあがる。
そして、ゆっくりとアルミメイアの傍に近寄り「悪い」と一言断りを入れて、アルミメイアの足を階段代わりにして、背中へと昇る。
「鞍と、手綱と、鐙が無いな……」
二年ぶりに飛竜の――竜の背中に跨り、慣れ親しんだシンシアとは違う竜の背中を感じながら、胸から沸いた気持ちで声を震わせながら、ぽつりと漏らす。
「これで我慢してくれ」
アルミメイアが翼を大きく広げると、アーネストがまたがる背中に丁度いい鞍と手綱と鐙が現れる。
「準備は良いか?」
アルミメイアが問いかける。
アーネストは手綱を握り、一度大きく深呼吸して、いつの間にかに目に浮かんでいた涙を手で拭う。
「ああ、大丈夫だ」
「なら行くぞ」
アーネストが答えを返すと、アルミメイアも直ぐに答えを返し、歩み出す。
広々とした竜舎の放牧場を最初の二歩は歩むように、そこから次第に速度を上げ、最後は馬の様に駆けると共に跳躍し、羽ばたき宙へと舞う。
「振り落とされるなよ」
そして、一度、二度、三度と大きく羽ばたく。その度に大きく速度が加速し、強く後方へと引っ張られる。
流れる景色が早くなり、受ける風が強くなる。それらは飛竜のものとは大きく違っていた。
速度は通常の飛竜が出せる速度を大きく超え、それでもなお加速していく。
神に等しき力を持つとされる伝説の魔獣、竜。その血を引くといわれる飛竜。その二つでこれ程までに違うものなのかと強く実感させられる。そして、半信半疑だった伝説が、これ程まで言われる由縁を知れた気がした。
灰色の空に学生達と、その騎竜の姿を見つける。彼らが止まっているかのように、アルミメイア真っ直ぐ近付いていく。
赤い空、舞う悪竜。二年前に見た景色が頭に浮かぶ。そして、問いかけてくる。
このままで良いのか? と。
『アーネスト、お前はどうしたいんだ?』
黄金色の瞳をこちらへ向け、尋ねてきたアルミメイアの言葉が浮かぶ。
アーネストは一度手綱を強く握りしめる。
「アルミメイア。頼みがある」
迷いがあるのか、少し揺れた声でアーネストは言う。
「なんだ?」
「俺を……」
一度頭を大きく振る。
(怖がっていてはダメだ。それじゃあ結局何も変わらない)
「俺を戦場へ運んでくれ。
俺は、そこに居る奴らも助けたい。そして、その力を貸してくれ」
今度ははっきりと、そして強くそう告げる。
アーネストの言葉を聞くと、アルミメイアは小さく笑う。
「分かった。飛ばすぞ」
アルミメイアは大きく羽ばたき、さらに速度を上げる。
流星の様に、早く、真っ直ぐに空を駆け抜けていく。
* * *
肉が裂けるような音が響いた。それに続き、冷たく、べとついた何かが吹き出し、リディアの身体を濡らす。
『グガアアアアア!』
死を告げる痛みが振り下される事は無く、代わりに悪竜の痛みに悶えるような咆哮が響いた。
ゆっくりと、恐る恐る瞼を開く。
目の前に、竜銃から発射された赤い熱線の残滓が残っていた。眼下には、熱線で撃ち抜かれたのか、顔の半分を崩し、血を流しよろめく悪竜の姿があった。
『グオオオオォォォ!!』
大きく、綺麗な咆哮が上がる。
薄らと残る熱線の残滓を辿り、空を見上げる。
灰色の空に流星が輝いた。そして――
光の剣が振り下された。
光の剣。そう形容するような、青白い線の様な光が走り、それが扇状に振るわれる。その光が、飛び回る悪竜達を薙ぎ払い、赤い靄へと変える。
断末魔さえ上げる事も許されず、悪竜達は消えていった。
光の剣の根元、それを放ったものの姿に目を向ける。
光の剣の余波で、雲が晴れたのか、そのものの周りは雲が晴れ、そこから黄金色の光が差し込んできていた。
そして、黄金色の光の中心には竜が居た。
白く、美しい銀色の鱗に覆われた身体に、飛竜とは異なり四肢を持つ姿で、飛竜の様な巨大な翼を持ちながら、その翼は天使の翼を彷彿させるような、美しい翼を広げていた。
神聖竜レンディアス。
神話を描いた絵画に記された、伝説の竜がそのまま絵画から抜け出したかのように、黄金に輝く光を背に飛んでいた。
見とれる程に美しく、そして、とても恐ろしかった。
ヴェルノとガリアが、落下していくリディアのようやく追いつき、ヴェルノが落ちくるリディアを捕まえ、ガリアの背中へと乗せる。
「大丈夫か?」
リディアをガリアの背中へと乗せると、ヴェルノが尋ねる。その声はリディアに届かなかった。
リディアは空を飛ぶ、あの白銀の竜に心を奪われ、その姿を目で追っていた。
「あれは……なんですか?」
大きく羽ばたき、急降下を開始する竜の姿を眺めながら、リディアは言葉を漏らす。
「あ? ……そうだな。あれは……一体なんなんだ?」
何気なく零した言葉に、ヴェルノも空を飛ぶ白銀の竜を眺めながら、うまく言葉が出ない様子で同意を返した。
アルミメイアのブレスが、一瞬のうちに数体の悪竜を葬り去る。
「す、すごい……」
あまりの光景に、アーネストはついつい感嘆の声が漏れる。
「見とれるのは構わないが、それではここに来た意味がないぞ」
見とれるアーネストへの返事と共に、アルミメイアは大きく羽ばたき急降下を開始する。アルミメイアの言葉で、気持ちを切り替え直し、アーネストは手綱を握りなおす。
「正面、黒竜に取りついている奴らを撃ち落とせるか?」
黒竜――おそらくリディアのヴィルーフだろう。それを正面に捉えながら、アルミメイアが尋ねてくる。
「やってみる」
先ほどリディアに襲い掛かった悪竜を撃ち抜いた竜銃を構え直し、銃口をヴィルーフの方へと向ける。
引き金を引き、二発の熱線を走らせる。そのすべてがヴィルーフと揉み合う悪竜に命中する。
強力な熱線が悪竜の身体を焼き、抉る。
『『グアアアアアァ!』』
強烈な熱線に穿たれた悪竜が、痛みに悶えながらヴィルーフから離れる。
「正確な射撃だ。さすがだな」
急降下したアルミメイアは、そのまま一気にヴィルーフに取りついていた悪竜の傍へと接敵し、鋭い爪と、牙で一息に両断する。
まるで包丁で肉を裁くかのように、アルミメイアの爪と牙は、悪竜の鱗と肉、そして骨を切断し、その体を両断する。
助け出されたヴィルーフは、力なく身体を崩し落下していく。
「ヴィルーフ!」
耳に付けた通信用の魔導具からリディアの叫び声が響く。
「助けられないか?」
無理を承知でアルミメイアに尋ねる。
「拾ってはいけないが、問題はない」
アルミメイアは答えを返すと同時に、手をヴィルーフの方へと伸ばす。するとすぐに、重力に引かれ、加速していたヴィルーフの体が、風に煽られた羽の様に、落下速度が弱まる。おそらく『軟着陸』の魔法だろう。
「魔法まで使えるのか……」
無詠唱で魔法を唱えて見せたアルミメイアの姿に、アーネストは驚きを禁じ得なかった。
「お前は私を馬鹿にしているのか?」
返ってきたアルミメイアの言葉に、アーネストは苦笑を浮かべる。
人間で魔法を扱うためには、長い時間を必要とする勉強と鍛錬を必要となる。そのため、簡単に扱えるというわけでは無い。けれどあ、アルミメイアは出来て当たり前という様な返事を返してきた。常識が違うのだということを思い知らされる。
『グオオオォォ!』
悪竜の咆哮が後方から響く。後ろを踏み向くと、数体の悪竜が襲い掛かって来ていた。
「アルミメイア!」
「判ってる!」
アルミメイアは一度大きく羽ばたくと一気に加速する。慣性に従い、アーネストは強く後方へ引っ張られる。手綱にしがみ付き、それをどうにかやり過ごす。
速度を上げたアルミメイアは一気に悪竜達を引き離す。そして、大きく上昇を加え、宙返りするような軌道を描き、悪竜達の後ろを取る。そこから、口を大きく開き、光の閃光――ブレスを吐く。
その光は一瞬のうちに前方の悪竜達を消し去る。
圧倒的な力。それを見せつけられ、悪竜達は敵わないと判断したのか、大きく距離を取り始める。
けれど、それで終わりではない。
残った悪竜達はアルミメイアから距離を取ったものの、未だに学生達や他の竜騎士達に狙いを定めており、追い回していた。
追い回され疲労し、捕まり始めた学生とその騎竜が目に入る。
「アルミメイア。十時の方向。頼めるか?」
「十時の方向って?」
「左斜め前!」
「分かりずらい!」
アーネストの指示に従にアルミメイアは方向転換し、襲われている学生と騎竜を正面に捉える。
「アーネスト、振り払ってくれるか? 邪魔すぎる」
「少し待ってくれ」
今にも食い殺されそうな学生の姿を目にし、焦る思いを押えながら、竜銃から使い切った術式のカートリッジを引き抜き、新しいカートリッジを差し込む。そして、正面に捉えた学生を襲う悪竜達に銃口を向け、引き金を引く。
連続して三発の熱線が発射され、それぞれが別々の悪竜を捉え、穿つ。それにより悪竜達は怯み、学生と騎竜からの距離が離れる。
「上出来だ」
悪竜と飛竜との距離が開くのを目にすると、アルミメイアは一気に速度を上げ、悪竜とのすれ違いざまに、爪と牙でもって悪竜達を両断した。
悪竜に襲われた学生と護衛の竜騎士それから騎竜達は、アーネストとアルミメイアの介入によって助け出される事となった。
大きな負傷を負った飛竜が数体出たものの、死者が出る事は無く助けられた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
