幸せな結婚生活まで

稲垣桜

文字の大きさ
4 / 24

4. 貴族というもの

しおりを挟む
ブランゼス様への伝言を頼み屋敷に帰った私は、何も考えられないままただ窓の外を見ていた。

先に帰ると伝言したのだからブランゼス様は気にもしていないだろう。マイラ嬢と一緒なのだから私が帰ったことも最後まで気が付かなかったのかもしれない。
白んでいく空を見て、私はようやく眠りについた。

翌朝になり、ブランゼス様が昨晩我が家に寄り、体調を気に掛けるカードと花束を置いて行ったとカイリが教えてくれた。
正直言ってそれを受け取りたくないという気持ちと、気にしてくれたのだという嬉しさとが心の中でせめぎ合う。

また部屋で何をするでもなく過ごしていると、母がお茶をしようと訪ねてきた。


「フェリ?あなた大丈夫?」

「お母様…」


昨日一人で先に帰ってきたことと、お母様の耳にも入っているあの噂のことをお母様なりに心配しているのだろう。
お母様はお父様とは相愛なのだから、私のような思いはしていないと思う。でも、お母様の浮かべる表情は、なんだかすべてわかっている大人の顔だ。
大人だから当たり前か。

私はその顔を見て、全てを吐き出した。言いたいことも何もかもを。
すると母は、小さな笑顔を浮かべて、私を諭すようにゆっくりと話し始めた。


「私のお義姉様…今の王妃様には恋人がいたのよ。幼いころから将来は結婚すると両親も認めていたのに、その当時の王太子お兄様の婚約者がやらかしたの」

「やらかした…?」

「そう、それでその時に新しい婚約者にと白羽の矢が立ったのがお義姉様だったの」


お母様の話では、その打診を断ることができなかった伯母様は、恋人と別れ王太子と婚約そして結婚をしたそうだ。そして長い年月を一緒に過ごしていくうちに今では仲睦まじい国王夫妻として有名になったのだと話してくれた。

貴族という特権階級にいるのだから、わがままなど許されるわけがないと伯母様も理解して、その恋人とは今では純粋な友人として接することができているらしい。
夫である国王陛下も納得されているほど、今では信頼関係を築けているのは聞いていても羨ましいと思う。


「始まりは政略でも何でも、長い年月の中で歩み寄ることもできるわ。心を通わせることができるものなのよ。フェリもブランゼス様のことで悩んでいても辛くなるのならきっちり線を引いて、そこから始めなさい。それでもだめなら私に言いなさいね」


お母様はいつでも味方なのだとそっと手を握って微笑んで。とんでもなく力強い味方ね。


(新しいスタートか…)


そして私は今までの淡い恋心はすべて過去のものとして心の奥底に追いやろうと決めた。

この国での不貞は罪が重い。
いくら夫婦関係が破綻していようと、そういう関係は社会的にも抹殺に近い扱いを受けるのだ。
とくには最悪だ。下手をすると高額な罰金に加えて公衆の面前での鞭打ちの刑も課されることもあるのだから。

流石に高位貴族ともなると鞭打ちはないだろうが、相手が子爵家であれば片方だけが刑を執行される可能性もある。
愛している相手ならそれは避けたいだろうし、本当に彼女を愛しているのならば私との婚約を回避し彼女を選ぶ気概を見せるだろう。
だが、結婚を間近に控えてその様子は全くない。

今はいい。まだ婚約者なのだから。
でも結婚したらその時はブランゼス様にもきちんとけじめをつけてもらって、一緒に歩んでいければとそう思う。

私はブランゼス様から届いた贈り物を前にして、この先どう事が動くのだろうかと考え込んでいた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

犠牲になるのは、妹である私

木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。 ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。 好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。 婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。 ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。 結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。 さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

【完結】手紙

325号室の住人
恋愛
☆全3話 完結済 俺は今、大事な手紙を探している。 婚約者…いや、元婚約者の兄から預かった、《確かに婚約解消を認める》という内容の手紙だ。 アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。 父に言われたのだ。 「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」 と。 ※当主を《兄》で統一しました。紛らわしくて申し訳ありませんでした。

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

【完結】美しい家庭教師を女主人にはしません、私は短剣をその女に向けたわ。

BBやっこ
恋愛
私は結婚している。子供は息子と娘がいる。 夫は、軍の上層部で高級取りだ。こう羅列すると幸せの自慢のようだ。実際、恋愛結婚で情熱的に始まった結婚生活。幸せだった。もう過去形。 家では、子供たちが家庭教師から勉強を習っている。夫はその若い美しい家庭教師に心を奪われている。 私は、もうここでは無価値になっていた。

処理中です...