幸せな結婚生活まで

稲垣桜

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9. ブランゼス

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俺、ブランゼスは、エイレ公爵家の嫡男として生まれた。

社交界では麗しの百合と謳われた母の容姿を受け継いだのか、幼いころは女に間違われることが多かった。
それが嫌で、剣の腕を磨き人から侮られないようにと勉学にも励んだ。
そして成長するにつれ、まとわりつくように寄ってくる女たちと距離を置くように、表情も態度も誤解されることの無いように気を使った。
そんな生活を長くしているうちに、俺は笑うことも泣くこともせず感情というものをどこかに置き忘れたかの様に無表情無関心で生きるようになった。

嬉しいと感じることがないわけではないが、だから何だという受け止めをしてしまう。
悲しいと感じることもないわけではないが、それを表情で表すことはなく胸の内でその悲しみに堪えるだけだった。

そしてうっとおしい令嬢と距離を置くために騎士団に身を置き、剣の道一筋に邁進した。
16歳になる頃には騎士団で開催するトーナメントに欠かさずに出場し、18歳からは常に上位にその名前を連ねた。
そして20歳の時に出場したトーナメントの時、控室である令嬢を見かけた。
友人に付き添ってきただけのいつもの五月蠅いタイプだろうと思っていたが、どうやら本当に友人の付き添いで来ただけらしい。

同じ騎士団のビルドーフの従妹の友人らしく、ダヴェルナ侯爵家の令嬢で名前がフェリスというようだ。
そういえばダヴェルナ侯爵家の当主と同じ赤い髪をしている。

それから、それとなく様子を見ていたが、会場でも終わってからもその親友と一緒に観戦をしていただけで、話す相手もビルドーフだけだった。
俺の方を見るとか他の騎士に秋波を送るとか、そんなことも一切なくただ淡々と観戦して、感想を話すというそれだけだったのだ。

今まで、騎士の男たちを目の前にしてこんな風に興味を示さない令嬢は初めてだった。
おそらく、その時にはもう彼女のことを好きになっていたのかもしれない。

そしてそれから一年が過ぎる事、両親からは婚約だの結婚だのと様々な釣り書を目の前に置かれ、早く決めろと口うるさく言われるようになった。確かに公爵家の嫡子の立場に居ながら婚約者がいないのだから、そう言われるのはわかる。
興味はないがチラチラと目を通したそれらの中に、彼女のものは見当たらなかった。つい、そのことを口にした俺は、その瞬間に母から矢のような質問責めにあったが、他の五月蠅い令嬢に比べたらましだという程度の認識だとわかると母の顔から表情が消えた。


「お前はわかっているのか?ダヴェルナ侯爵夫人は王妹だ。つながりを求めている貴族は多い」


そうだ。
その事を失念していた。
彼女の母親は現国王の妹だ。

だが他の貴族家ならともかく、公爵家ならばこの申し込みに裏があるとは思われないだろうと、俺はそんな事を考えていた。

そしてダヴェルナ侯爵家へと婚約の申し込みをした時、侯爵夫人からは「しっかりと地位を確立させていただがないと」と、騎士団での出世とともに次期公爵家当主としての実力を問うと暗に告げられた。
侯爵という我が家より格下の家門の夫人からの言葉だが、王妹だったことは未だに大きいウエイトを占めるのだ。

だが、その言葉は確かに頷けるものだったから俺も素直に受け入れた。
そう言われると闘争心に火が付くというものだ。できる限りの努力をして結果を出してみせる。




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