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10. 婚約中
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そして彼女との婚約が決まり、婚約者としての交流が始まった。
初めて顔を合わせた時には、あの会場で見た時の姿よりも大人に成長していると思った。
俺は家族からも同僚からも表情がないと言われるほどで、どうやら冷徹人間と思われている節がある。
令嬢と話すことなど今の今までにも数えるほどしかないと自覚するほど、こういう場では何を話せばいいのかは全くわからない。
男相手であれば剣の話でもできるのだが、令嬢ともなるとまったくもってわからなかった。
だが、彼女のふとした仕草や風になびく赤い髪、好きなものを見て細められるそのアメジストの瞳に他の令嬢たちとは違う何かを感じ始めていた。
そして俺は、少しでも侯爵夫人が求める地位を確立させようと仕事に集中した。
寮で暮らしていたこともあって、当たり前のように急な呼び出しもあった。
そうなるとどうしても彼女との交流の日に会えなくなったりもした。
その時は、同僚の助言を思い出し、彼女への連絡や贈り物を欠かさずにするようにした。それが誠意なのだと。
カードだけでなく、花を選ぶときは彼女の赤い髪に似合いそうな花を送った。
もちろん、宴に必要なドレスもアクセサリーも、彼女に似合いそうなものを自分で選んだ。流石に自分で選んでいるとは思われていないだろう。自己満足だろうがそれでかまわない。
そして婚約をして一年が過ぎた頃、突然上司に呼び出された。
団長室に入ると、開口一番に「エーレ子爵家について何か知っているか?」と聞かれたのだ。
エーレ子爵家は、母の従妹が嫁いでおり、そこのマイラ嬢は幼いころに何度かあった記憶がある。
父親のエーレ子爵はシラキード商会の会頭だ。俺の中での記憶はその程度の人物に過ぎない。
最近になって摘発した人身売買の組織からの押収資料からエーレ子爵が関与していると思われる記述があったらしくその確認もあったようだ。
だが、その資料が一部欠損していたため正確なことがわからないようで、直接本人に聞くわけにもいかずに捜査方法を探っているとのことだった。
そこで俺がエーレ子爵家の令嬢と一応は親戚ということで何か知らないかと聴取されたのだ。
つまり、何とか探れという暗に匂わせているのだろう。それから俺はそれとなくマイラ嬢に接触し始めた。
遠いとはいえ親戚ということで声をかけるのはおかしいことではない。それも子爵夫人も同席している場所でならば誤解されることもないだろう。
そう思っていたのだが、どういう訳か俺とマイラ嬢が付き合っていると噂が流れた。
二人で出掛けているとかどうとか言っているらしいが、そもそも出掛けたことはない。街に行った時に声をかけられたことはあったが、それだけだ。
だがそれで気をよくしたのか、エーレ子爵家からはシラキード商会の有用性を売り込むかのようにマイラ嬢との縁談を持ち込まれるようになった。
いくら国内有数の商会を持っているとはいえ、たかだか子爵家だ。我が家とはそもそもの基礎も成り立ちも違う。子爵家の人間が公爵家に入って上手くいくとは到底思えない。
そもそも、自分には婚約者がいるのだから論外なのだが、そうは考えないのだろうか。
こんな噂が流れるとは最悪だと考え、俺は宴でマイラ嬢を見かけた時に声をかけた。
公で話すこともないだろうと場所を移動して話をしたいと言って外へと連れ出したのだが、それが悪手だった。
騎士団の人間が隠れている場所で話をして、ついでとは言わないがその際の会話で何か口走らないかとの期待を込めてだが、彼女は父親の子爵の仕事のことは何も知らないのか、遠回しに聞いたからなのか俺たちの欲しい言葉は出てこなかった。
あまり核心に触れて逃げられるわけにはいかないからと、話題を逸らすように俺が一番言いたかったあの噂のことを聞いたが、マイラ嬢はそんな噂など聞いた事がないといい、もし耳にしたらちゃんと否定すると言ってくれた。
それを聞いて彼女がどんな顔をしているかなど見ることもせずにすぐに会場へと戻ったのだが、その会場を一周してフェリスを探したがどこにも姿はなかった。
どこかで休んでいるかと思ったが、カスティロ伯爵家のミカエルが彼女は帰ったと俺に言ったのだ。
ミカエルは彼女とは幼馴染だったはずだ。よく一緒にいるところを見かけて気に入らないと思っていたところだ。
ミカエルと一緒に入るときのフェリスのあの俺に向けられることがない微笑みや、ドキッとするような艶っぽい伏し目がちな表情は、まだ俺に向けられたことはないのだから、どうしてもある考えが浮かんでしまう。
フェリスはミカエルに想いを寄せているのだろうかと。
俺との婚約は断れないから受けただけだったのならどうしようかという不安が頭をかすめる。
ミカエルは「フェリが気分が悪くなって外にいたんだが、急に先に帰ると言って、それを君に伝えてほしいと頼まれてね」と俺に言った。
外にいた?
もしかすると、さっきのマイラ嬢と外へ向かったところを見られたのか?
今まで経験したことのないような胸のざわめきを感じた俺は、胸を押さえながら団長の元へ向かいマイラ嬢のことを報告し、すぐにその会場を出た。
一度邸に戻って庭の花で簡単だが花束を作り、それにカードを添えてダヴェルナ侯爵家へと向かった。会えないことをわかった上で侯爵家の家令にフェリスへ渡してもらえるように言伝た。
そもそも一緒に出掛けたのに先に一人で帰らせたということに対して何かを言われると覚悟はしていたが、少し訝しげに見られただけだった。
もしかするとフェリスが上手く説明してくれていたのかもしれないと思うと、申し訳ないという気持ちが溢れてくる。
公爵家へと戻る馬車の中で、いくら仕事とはいえ婚約者に対し不安にさせてしまった自分に対し苛立った。
初めて顔を合わせた時には、あの会場で見た時の姿よりも大人に成長していると思った。
俺は家族からも同僚からも表情がないと言われるほどで、どうやら冷徹人間と思われている節がある。
令嬢と話すことなど今の今までにも数えるほどしかないと自覚するほど、こういう場では何を話せばいいのかは全くわからない。
男相手であれば剣の話でもできるのだが、令嬢ともなるとまったくもってわからなかった。
だが、彼女のふとした仕草や風になびく赤い髪、好きなものを見て細められるそのアメジストの瞳に他の令嬢たちとは違う何かを感じ始めていた。
そして俺は、少しでも侯爵夫人が求める地位を確立させようと仕事に集中した。
寮で暮らしていたこともあって、当たり前のように急な呼び出しもあった。
そうなるとどうしても彼女との交流の日に会えなくなったりもした。
その時は、同僚の助言を思い出し、彼女への連絡や贈り物を欠かさずにするようにした。それが誠意なのだと。
カードだけでなく、花を選ぶときは彼女の赤い髪に似合いそうな花を送った。
もちろん、宴に必要なドレスもアクセサリーも、彼女に似合いそうなものを自分で選んだ。流石に自分で選んでいるとは思われていないだろう。自己満足だろうがそれでかまわない。
そして婚約をして一年が過ぎた頃、突然上司に呼び出された。
団長室に入ると、開口一番に「エーレ子爵家について何か知っているか?」と聞かれたのだ。
エーレ子爵家は、母の従妹が嫁いでおり、そこのマイラ嬢は幼いころに何度かあった記憶がある。
父親のエーレ子爵はシラキード商会の会頭だ。俺の中での記憶はその程度の人物に過ぎない。
最近になって摘発した人身売買の組織からの押収資料からエーレ子爵が関与していると思われる記述があったらしくその確認もあったようだ。
だが、その資料が一部欠損していたため正確なことがわからないようで、直接本人に聞くわけにもいかずに捜査方法を探っているとのことだった。
そこで俺がエーレ子爵家の令嬢と一応は親戚ということで何か知らないかと聴取されたのだ。
つまり、何とか探れという暗に匂わせているのだろう。それから俺はそれとなくマイラ嬢に接触し始めた。
遠いとはいえ親戚ということで声をかけるのはおかしいことではない。それも子爵夫人も同席している場所でならば誤解されることもないだろう。
そう思っていたのだが、どういう訳か俺とマイラ嬢が付き合っていると噂が流れた。
二人で出掛けているとかどうとか言っているらしいが、そもそも出掛けたことはない。街に行った時に声をかけられたことはあったが、それだけだ。
だがそれで気をよくしたのか、エーレ子爵家からはシラキード商会の有用性を売り込むかのようにマイラ嬢との縁談を持ち込まれるようになった。
いくら国内有数の商会を持っているとはいえ、たかだか子爵家だ。我が家とはそもそもの基礎も成り立ちも違う。子爵家の人間が公爵家に入って上手くいくとは到底思えない。
そもそも、自分には婚約者がいるのだから論外なのだが、そうは考えないのだろうか。
こんな噂が流れるとは最悪だと考え、俺は宴でマイラ嬢を見かけた時に声をかけた。
公で話すこともないだろうと場所を移動して話をしたいと言って外へと連れ出したのだが、それが悪手だった。
騎士団の人間が隠れている場所で話をして、ついでとは言わないがその際の会話で何か口走らないかとの期待を込めてだが、彼女は父親の子爵の仕事のことは何も知らないのか、遠回しに聞いたからなのか俺たちの欲しい言葉は出てこなかった。
あまり核心に触れて逃げられるわけにはいかないからと、話題を逸らすように俺が一番言いたかったあの噂のことを聞いたが、マイラ嬢はそんな噂など聞いた事がないといい、もし耳にしたらちゃんと否定すると言ってくれた。
それを聞いて彼女がどんな顔をしているかなど見ることもせずにすぐに会場へと戻ったのだが、その会場を一周してフェリスを探したがどこにも姿はなかった。
どこかで休んでいるかと思ったが、カスティロ伯爵家のミカエルが彼女は帰ったと俺に言ったのだ。
ミカエルは彼女とは幼馴染だったはずだ。よく一緒にいるところを見かけて気に入らないと思っていたところだ。
ミカエルと一緒に入るときのフェリスのあの俺に向けられることがない微笑みや、ドキッとするような艶っぽい伏し目がちな表情は、まだ俺に向けられたことはないのだから、どうしてもある考えが浮かんでしまう。
フェリスはミカエルに想いを寄せているのだろうかと。
俺との婚約は断れないから受けただけだったのならどうしようかという不安が頭をかすめる。
ミカエルは「フェリが気分が悪くなって外にいたんだが、急に先に帰ると言って、それを君に伝えてほしいと頼まれてね」と俺に言った。
外にいた?
もしかすると、さっきのマイラ嬢と外へ向かったところを見られたのか?
今まで経験したことのないような胸のざわめきを感じた俺は、胸を押さえながら団長の元へ向かいマイラ嬢のことを報告し、すぐにその会場を出た。
一度邸に戻って庭の花で簡単だが花束を作り、それにカードを添えてダヴェルナ侯爵家へと向かった。会えないことをわかった上で侯爵家の家令にフェリスへ渡してもらえるように言伝た。
そもそも一緒に出掛けたのに先に一人で帰らせたということに対して何かを言われると覚悟はしていたが、少し訝しげに見られただけだった。
もしかするとフェリスが上手く説明してくれていたのかもしれないと思うと、申し訳ないという気持ちが溢れてくる。
公爵家へと戻る馬車の中で、いくら仕事とはいえ婚約者に対し不安にさせてしまった自分に対し苛立った。
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