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王太子殿下からアニバーサリーカードの刺繍の事を教えてほしいという手紙を受け取った侯爵夫人は、急いで手紙を書いていた。
あのウェルカムカードは友人の伯爵夫人から紹介してもらった店で作らせたものだが、侯爵家としては今回が初めての取引だったのだが、そのことで王太子殿下から問い合わせがあるとは思わず驚きを隠せなかったというのが本心だった。
そしてすぐにその店【アントレーヌ】の店主に連絡を取ることにした。もちろん感謝の気持ちと共にお菓子の箱を添えて。
こうして領主夫人から手紙を受け取ったマルグリットは、その返事に「当店で契約している裁縫師が担当したこと、気に入ってもらえてこちらこそ嬉しい、またいつでもお声をおかけください」と緊張しながらも手紙を書いた。
あまりエレミア個人の事を話して他からの引き抜きにあっては困るが、個人的に仕事を頼みたいというのであれば再度問い合わせがあるだろう。その時は店主として間に入る事を条件に話を通せば、店が損をすることも無い。そう考えて手紙をしたためて返事を手渡した。
すぐに返事が欲しいということが何か引っかかるが、考えていても結論は出ない。
一方その手紙を受け取った侯爵夫人は、王太子殿下へ店の名前と店主の名前、そしてその店と契約している裁縫師が手がけたものだと伝えたのだが、欲しかったのはその情報だったようでホッと胸をなでおろした。
確かにあの刺繍は見事だったから、もしかすると王太子妃への贈り物でも頼むのだろうか。
その王太子は侯爵夫人から得た情報を基に、カイトの為に少し色を付けてやろうと考えていた。
友人の長い間の憂いを払うのもまた一興だろう。そしてカイトがいない隙を狙ってアーサーを呼びつけた。
カイトの話では彼は彼女に会っているし詳細も知っている。それにここの駐留騎士団の隊長の彼なら地元の情報を集めることもたやすいだろう。
そして部屋を訪れたアーサーに店の名前と店主の名前を伝え、そこで契約している裁縫師の中にカイトの探している例の【彼女】がいるらしいと伝えて信頼できる人間に自分の滞在中に調べ上げるように伝えたのだ。
「アーサー、くれぐれもカイトには言うなよ」
「はい、わかっております。お任せ下さい」
そう言い残し部屋を出てその足で騎士団の待機場所へ向かった。
あの日、あの子供と親しく話をした騎士であれば、もし万が一町で本人に出くわしたとしても上手い具合に言い逃れることもできるだろう。そう思いその騎士を騎士団の事務室へ呼び出した。
「ジェイク。お前に調べてもらいたいことがある」
年齢は20を過ぎたばかりと思われるまだ少し幼さが残る顔立ちをした青年が「何でしょうか」と少し不思議そうな顔で答えた。
「アントレーヌという店を知っているだろう?そこと契約している裁縫師が誰かを調べてほしい」
「裁縫師…ですか?」
そうだと答え、探している事に気付かれないよう注意を払うようにと注意した。詳細な理由は省いたものの特秘だと念を押す。
「ところで、一ヶ月位前の庭園開放日の酔っ払いに絡まれた親子を覚えているか?」
「庭園開放日…ですか?」
「ああ、お前が怪我していないか確認した子供がいただろう」
ジェイクは目を閉じて自分の記憶を探った。庭園開放日は普段入ることのできない場所へ入れるとあって、大勢の市民が訪れていたのだが、その日の事を思い出しているとフッと子供の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「もしかして、あの黒髪の子供ですか?」
「覚えていたか。そうだ、その子だ。実はその親がその裁縫師の可能性があるんだが裏を取ってほしいんだ」
「あの子でしたらエデン地区に住んでると言ってましたよ。時計台の前の広場で友達と遊んでると話してましたから」
「はぁ?お前、なんで言わないんだ」
「いや……聞かれなかったから」
「まあ、いい。今からお前はエデン地区の担当に名前を入れておくから、すぐに調べに行け」
「はい。すぐに」
あのウェルカムカードは友人の伯爵夫人から紹介してもらった店で作らせたものだが、侯爵家としては今回が初めての取引だったのだが、そのことで王太子殿下から問い合わせがあるとは思わず驚きを隠せなかったというのが本心だった。
そしてすぐにその店【アントレーヌ】の店主に連絡を取ることにした。もちろん感謝の気持ちと共にお菓子の箱を添えて。
こうして領主夫人から手紙を受け取ったマルグリットは、その返事に「当店で契約している裁縫師が担当したこと、気に入ってもらえてこちらこそ嬉しい、またいつでもお声をおかけください」と緊張しながらも手紙を書いた。
あまりエレミア個人の事を話して他からの引き抜きにあっては困るが、個人的に仕事を頼みたいというのであれば再度問い合わせがあるだろう。その時は店主として間に入る事を条件に話を通せば、店が損をすることも無い。そう考えて手紙をしたためて返事を手渡した。
すぐに返事が欲しいということが何か引っかかるが、考えていても結論は出ない。
一方その手紙を受け取った侯爵夫人は、王太子殿下へ店の名前と店主の名前、そしてその店と契約している裁縫師が手がけたものだと伝えたのだが、欲しかったのはその情報だったようでホッと胸をなでおろした。
確かにあの刺繍は見事だったから、もしかすると王太子妃への贈り物でも頼むのだろうか。
その王太子は侯爵夫人から得た情報を基に、カイトの為に少し色を付けてやろうと考えていた。
友人の長い間の憂いを払うのもまた一興だろう。そしてカイトがいない隙を狙ってアーサーを呼びつけた。
カイトの話では彼は彼女に会っているし詳細も知っている。それにここの駐留騎士団の隊長の彼なら地元の情報を集めることもたやすいだろう。
そして部屋を訪れたアーサーに店の名前と店主の名前を伝え、そこで契約している裁縫師の中にカイトの探している例の【彼女】がいるらしいと伝えて信頼できる人間に自分の滞在中に調べ上げるように伝えたのだ。
「アーサー、くれぐれもカイトには言うなよ」
「はい、わかっております。お任せ下さい」
そう言い残し部屋を出てその足で騎士団の待機場所へ向かった。
あの日、あの子供と親しく話をした騎士であれば、もし万が一町で本人に出くわしたとしても上手い具合に言い逃れることもできるだろう。そう思いその騎士を騎士団の事務室へ呼び出した。
「ジェイク。お前に調べてもらいたいことがある」
年齢は20を過ぎたばかりと思われるまだ少し幼さが残る顔立ちをした青年が「何でしょうか」と少し不思議そうな顔で答えた。
「アントレーヌという店を知っているだろう?そこと契約している裁縫師が誰かを調べてほしい」
「裁縫師…ですか?」
そうだと答え、探している事に気付かれないよう注意を払うようにと注意した。詳細な理由は省いたものの特秘だと念を押す。
「ところで、一ヶ月位前の庭園開放日の酔っ払いに絡まれた親子を覚えているか?」
「庭園開放日…ですか?」
「ああ、お前が怪我していないか確認した子供がいただろう」
ジェイクは目を閉じて自分の記憶を探った。庭園開放日は普段入ることのできない場所へ入れるとあって、大勢の市民が訪れていたのだが、その日の事を思い出しているとフッと子供の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「もしかして、あの黒髪の子供ですか?」
「覚えていたか。そうだ、その子だ。実はその親がその裁縫師の可能性があるんだが裏を取ってほしいんだ」
「あの子でしたらエデン地区に住んでると言ってましたよ。時計台の前の広場で友達と遊んでると話してましたから」
「はぁ?お前、なんで言わないんだ」
「いや……聞かれなかったから」
「まあ、いい。今からお前はエデン地区の担当に名前を入れておくから、すぐに調べに行け」
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