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規格外のスタンピード
69 邪神の欠片とオーバード・ボックス
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ラ・メイズ、メインゲート前、午前。
辺りは静まり返っている。
広大な敷地の上は、内壁に至るまで視界を遮るものはない。
一つの宝箱を除いて。
「お出ましか」
気配を殺し、スキル【蒐集ノ神】を発動して待機する。
ソレはじわじわと姿を現した。
メインゲートが黒く染まっていく。
迷宮へ続く階段が完全な闇に閉ざされる。
闇色の霧が広がり、日没が早まったかのように周囲が薄暗くなっていく。
溢れ出る黒い粘液がアメーバのように不規則にうごめきながら広がっていく。
ォオ…コロス、コロスコロスコロス
底冷えするような怨嗟の声が反響する。
黒の粘液はしばらく無秩序に動いていたが、思い出したかのように一斉に宙に浮かび、一所に集まっていく。
やがて一つの黒い球体が出現した。
リトル・ダークネス
種 族:邪神の欠片
レベル:60
状 態:邪神の眷属
現れた魔物の情報を収集していく。
直径は10メートルほどの球体。魔物としてはかなり巨大だ。
何をするでもなく不気味に浮かんでいる。
魔物の名前はリトル・ダークネス。小さな闇、か。
控えめな名前だ。
60層相当の魔物なのだ、メガとかギガとか付けても良いものを。
もっと蒐集欲をそそる名前にしておいてほしい。
周囲は霧で薄暗い。
邪神の欠片の能力なのだろう。視認できないほどではないが…。
…む、まずいな。
この霧には毒が含まれているようだ。
ゆっくり情報を集めさせてはくれないらしい。
俺に毒は効かないが、この霧が冒険者ギルドまで届くとやっかいだ。
少し早いが開戦といこうか。
まずは小手調べだ。
【無限工房ノ主】を発動する。宝を得るために無数に繰り返した操作だ。
一瞬で攻撃の用意を整え、宝箱の蓋を開いた。
繰り出すのは薄くしなる長大な刃。刀身はどこまでも白く、透き通っている。
白い刃はまるでそれが一つの生き物であるようにうねり、黒い球体を両断した。
オオオオオオオオオオ!!!
苦し気な絶叫が響く。
液体のような体だが、ミスリルによる攻撃は有効のようだ。
切断面から黒色の粘液が垂れ落ち、煙となって蒸発していく。
あの粘液は確定ドロップではないらしい。残念だ。
通常、迷宮の影響下にある魔物は、倒すと一部の素材を残して消滅してしまう。
だが一部の特殊な魔物は、特定の部位を切り離すことで、追加で素材を手に入れることができる。
祖白竜の鱗や不死鳥の尾羽などだ。
初めての魔物と戦うときには、より多くの素材を蒐集するために確定ドロップを特定することが大切だ。
邪神の欠片は全身が粘液質な黒い物質で構成されている。だが黒い物質は本体から離れると消滅してしまう。
確定ドロップはなしか?…いや、まだわからないか。もう少し様子を見るか。
オオオオオオオ…
ミスリルの刃に切られた切断面が波立ち、傷が修復されていく。
真っ二つになっても普通に浮かんでいた所をみると、それなりに耐久力があるようだ。
うむ、狩り甲斐があって良い。
闘争もまた蒐集の醍醐味。
苦労して手に入れた宝はまた格別なのである。
黒い球体の切断面が消える。それと同時に、球体の表面から無数の触手が出現しこちらへ迫ってくる。
数、速度、威力ともにそれなりのものだ。
攻撃を受けたことで俺を敵だと認識したらしい。だが…。
「真似をするな」
迫る触手と同数の刃を出現させ全ての触手を両断する。
触手の動きは直線的だ。迎撃するのは容易い。
全ての触手を切り落とされ、邪神の欠片は明らかに狼狽した様子を見せる。
オォォォオオオ!!!
狼狽をかき消すかのように絶叫する邪神の欠片。再び球体から無数の触手を出現させる。どうやら数ではかなわないと学習したらしい。無数の触手が複雑に絡まり、一本の巨大な触手を形成していく。
「ツブ、レロ」
明確な意思を持った声。巨大な触手が振り下ろされる。舞い上がる土砂。生じた地響きがラ・メイズを揺るがす。
オオオオオオオオ
邪神の欠片は勝利の雄たけびを上げる。
矮小な者がこの攻撃を受ければひとたまりもない。
次は人間だ。あの壁の外から多くの人間の息遣いが聞こえる。
殺す。すべてを殺す。余さず殺す。
「コロスコロスコロ…オォォ…?」
おかしい。
邪神の欠片は巨大な触手を引き上げようとして、違和感に気付く。
触手が半ばから切断されている。
刃物による切断面ではない。まるで何かに噛み千切られたようにズタズタに引き裂かれていた。
「終わりか?60層相当の魔物にしては拍子抜けだな。あとおーおーうるさいぞ」
潰したはずの宝箱が口を開く。
邪神の欠片は、目の前の宝箱が自分に比肩する存在であることを悟った。
「オ、オオ、オマエ…ナゼイキテ、イル」
邪神の欠片が言葉を発する。どうやら普通に喋れるらしい。
声に怯えが見える。少し興ざめだが、会話に付き合うくらいは良いだろう。
「ただ噛み千切っただけだ」
俺は宝箱を開いて見せる。
箱の接合部に、鋭利な刃が等間隔に並んでいる。それは牙だ。
罠にかかった憐れな獲物をかみ砕く、宝箱モンスターの原始的な武器である。
「オマエ、ハ、ナンダ」
邪神の欠片が尋ねる。
「トシゾウだ」
「トシ、ゾウ。ナゼ、ワレトタタカウ。ナゼソレダケノチカラヲモツ」
「お前の素材が欲しいからだ。宝が欲しいから強くなった」
「ソザイ、タカラ。トシゾウ、ノ、ノゾミハ、トミカ」
「富…、そうだな。価値ある宝を集めることが俺の望みだ」
「ナラバ、ワレニシタガエ。スベテヲホロボセ。セカイノ、ハンブン、ハ、オマエノモノダ」
「却下だ。世界を滅ぼしたら、新しい宝が生まれなくなるからな」
「オォオ、ナゼ、ミナワレヲコバム。ナゼワレヲキラウ」
要求を断られたくらいで大げさな。
…いや、邪神の欠片の言葉には、何か別の意味があるのか。
「リトル・ダークネス。邪神の欠片よ。お前は、邪神の一部なのか」
…。
邪神の欠片は答えない。当たりか。
「邪神よ、俺はお前が好きだぞ。お前の瘴気が多くの宝を生んでいる。お前のおかげで迷宮が存在する。感謝している」
「…ワケガ、ワカラヌ。トシゾウ、ハ、ナンダ。ナニヲ、イッテイル」
「お前の本体に伝えろ。地の底で瘴気を溜めて待っていろ。いずれ奪いに行くと」
オオ、オオオ、オオオオオオ!!!
邪神の欠片が触手を振り回す。地面が抉れる。巻き上げられた土ですら攻撃の一部だ。
だがぬるい。力だけなら相当のものだが、あまりにもワンパターンだ。触手で全て防ぐことができる。
邪神の欠片、60層相当の魔物がこの程度のわけがない。これではシロ以下だ。おそらく何らかの理由で本来の力が発揮できていないのだろう。
これではドロップも期待できそうにない。俺の中で邪神の欠片への興味が急速に失われていく。
…いささか物足りないが、興味深い情報も手に入った。
もともと降って湧いたボーナスゲームのようなものだからな。そろそろ終わらせるか。
「リトル・ダークネス、邪神の欠片よ。本来なら、お前は最高の宝となるはずだった。だが、すでにお前は遅すぎる前座に過ぎない。ドロップを残して、消えろ」
トシゾウは【擬態ノ神】を“解除”する。
これまでの宝箱の身体はトシゾウの本当の姿ではない。
トシゾウの本当の種族、それはオーバード・ボックス。それは最後に進化して以来封じていた姿。
巨大な何かが解き放たれる。
オオオォォオォォォ……
邪神の欠片は何が起こったのか理解できない。
憐れな獲物が最後に見たのは巨大な牙、そして闇。
闇の塊であるはずの自分よりも、深く、暗く、底知れない何か。
こうしてスタンピードは幕を閉じた。
辺りは静まり返っている。
広大な敷地の上は、内壁に至るまで視界を遮るものはない。
一つの宝箱を除いて。
「お出ましか」
気配を殺し、スキル【蒐集ノ神】を発動して待機する。
ソレはじわじわと姿を現した。
メインゲートが黒く染まっていく。
迷宮へ続く階段が完全な闇に閉ざされる。
闇色の霧が広がり、日没が早まったかのように周囲が薄暗くなっていく。
溢れ出る黒い粘液がアメーバのように不規則にうごめきながら広がっていく。
ォオ…コロス、コロスコロスコロス
底冷えするような怨嗟の声が反響する。
黒の粘液はしばらく無秩序に動いていたが、思い出したかのように一斉に宙に浮かび、一所に集まっていく。
やがて一つの黒い球体が出現した。
リトル・ダークネス
種 族:邪神の欠片
レベル:60
状 態:邪神の眷属
現れた魔物の情報を収集していく。
直径は10メートルほどの球体。魔物としてはかなり巨大だ。
何をするでもなく不気味に浮かんでいる。
魔物の名前はリトル・ダークネス。小さな闇、か。
控えめな名前だ。
60層相当の魔物なのだ、メガとかギガとか付けても良いものを。
もっと蒐集欲をそそる名前にしておいてほしい。
周囲は霧で薄暗い。
邪神の欠片の能力なのだろう。視認できないほどではないが…。
…む、まずいな。
この霧には毒が含まれているようだ。
ゆっくり情報を集めさせてはくれないらしい。
俺に毒は効かないが、この霧が冒険者ギルドまで届くとやっかいだ。
少し早いが開戦といこうか。
まずは小手調べだ。
【無限工房ノ主】を発動する。宝を得るために無数に繰り返した操作だ。
一瞬で攻撃の用意を整え、宝箱の蓋を開いた。
繰り出すのは薄くしなる長大な刃。刀身はどこまでも白く、透き通っている。
白い刃はまるでそれが一つの生き物であるようにうねり、黒い球体を両断した。
オオオオオオオオオオ!!!
苦し気な絶叫が響く。
液体のような体だが、ミスリルによる攻撃は有効のようだ。
切断面から黒色の粘液が垂れ落ち、煙となって蒸発していく。
あの粘液は確定ドロップではないらしい。残念だ。
通常、迷宮の影響下にある魔物は、倒すと一部の素材を残して消滅してしまう。
だが一部の特殊な魔物は、特定の部位を切り離すことで、追加で素材を手に入れることができる。
祖白竜の鱗や不死鳥の尾羽などだ。
初めての魔物と戦うときには、より多くの素材を蒐集するために確定ドロップを特定することが大切だ。
邪神の欠片は全身が粘液質な黒い物質で構成されている。だが黒い物質は本体から離れると消滅してしまう。
確定ドロップはなしか?…いや、まだわからないか。もう少し様子を見るか。
オオオオオオオ…
ミスリルの刃に切られた切断面が波立ち、傷が修復されていく。
真っ二つになっても普通に浮かんでいた所をみると、それなりに耐久力があるようだ。
うむ、狩り甲斐があって良い。
闘争もまた蒐集の醍醐味。
苦労して手に入れた宝はまた格別なのである。
黒い球体の切断面が消える。それと同時に、球体の表面から無数の触手が出現しこちらへ迫ってくる。
数、速度、威力ともにそれなりのものだ。
攻撃を受けたことで俺を敵だと認識したらしい。だが…。
「真似をするな」
迫る触手と同数の刃を出現させ全ての触手を両断する。
触手の動きは直線的だ。迎撃するのは容易い。
全ての触手を切り落とされ、邪神の欠片は明らかに狼狽した様子を見せる。
オォォォオオオ!!!
狼狽をかき消すかのように絶叫する邪神の欠片。再び球体から無数の触手を出現させる。どうやら数ではかなわないと学習したらしい。無数の触手が複雑に絡まり、一本の巨大な触手を形成していく。
「ツブ、レロ」
明確な意思を持った声。巨大な触手が振り下ろされる。舞い上がる土砂。生じた地響きがラ・メイズを揺るがす。
オオオオオオオオ
邪神の欠片は勝利の雄たけびを上げる。
矮小な者がこの攻撃を受ければひとたまりもない。
次は人間だ。あの壁の外から多くの人間の息遣いが聞こえる。
殺す。すべてを殺す。余さず殺す。
「コロスコロスコロ…オォォ…?」
おかしい。
邪神の欠片は巨大な触手を引き上げようとして、違和感に気付く。
触手が半ばから切断されている。
刃物による切断面ではない。まるで何かに噛み千切られたようにズタズタに引き裂かれていた。
「終わりか?60層相当の魔物にしては拍子抜けだな。あとおーおーうるさいぞ」
潰したはずの宝箱が口を開く。
邪神の欠片は、目の前の宝箱が自分に比肩する存在であることを悟った。
「オ、オオ、オマエ…ナゼイキテ、イル」
邪神の欠片が言葉を発する。どうやら普通に喋れるらしい。
声に怯えが見える。少し興ざめだが、会話に付き合うくらいは良いだろう。
「ただ噛み千切っただけだ」
俺は宝箱を開いて見せる。
箱の接合部に、鋭利な刃が等間隔に並んでいる。それは牙だ。
罠にかかった憐れな獲物をかみ砕く、宝箱モンスターの原始的な武器である。
「オマエ、ハ、ナンダ」
邪神の欠片が尋ねる。
「トシゾウだ」
「トシ、ゾウ。ナゼ、ワレトタタカウ。ナゼソレダケノチカラヲモツ」
「お前の素材が欲しいからだ。宝が欲しいから強くなった」
「ソザイ、タカラ。トシゾウ、ノ、ノゾミハ、トミカ」
「富…、そうだな。価値ある宝を集めることが俺の望みだ」
「ナラバ、ワレニシタガエ。スベテヲホロボセ。セカイノ、ハンブン、ハ、オマエノモノダ」
「却下だ。世界を滅ぼしたら、新しい宝が生まれなくなるからな」
「オォオ、ナゼ、ミナワレヲコバム。ナゼワレヲキラウ」
要求を断られたくらいで大げさな。
…いや、邪神の欠片の言葉には、何か別の意味があるのか。
「リトル・ダークネス。邪神の欠片よ。お前は、邪神の一部なのか」
…。
邪神の欠片は答えない。当たりか。
「邪神よ、俺はお前が好きだぞ。お前の瘴気が多くの宝を生んでいる。お前のおかげで迷宮が存在する。感謝している」
「…ワケガ、ワカラヌ。トシゾウ、ハ、ナンダ。ナニヲ、イッテイル」
「お前の本体に伝えろ。地の底で瘴気を溜めて待っていろ。いずれ奪いに行くと」
オオ、オオオ、オオオオオオ!!!
邪神の欠片が触手を振り回す。地面が抉れる。巻き上げられた土ですら攻撃の一部だ。
だがぬるい。力だけなら相当のものだが、あまりにもワンパターンだ。触手で全て防ぐことができる。
邪神の欠片、60層相当の魔物がこの程度のわけがない。これではシロ以下だ。おそらく何らかの理由で本来の力が発揮できていないのだろう。
これではドロップも期待できそうにない。俺の中で邪神の欠片への興味が急速に失われていく。
…いささか物足りないが、興味深い情報も手に入った。
もともと降って湧いたボーナスゲームのようなものだからな。そろそろ終わらせるか。
「リトル・ダークネス、邪神の欠片よ。本来なら、お前は最高の宝となるはずだった。だが、すでにお前は遅すぎる前座に過ぎない。ドロップを残して、消えろ」
トシゾウは【擬態ノ神】を“解除”する。
これまでの宝箱の身体はトシゾウの本当の姿ではない。
トシゾウの本当の種族、それはオーバード・ボックス。それは最後に進化して以来封じていた姿。
巨大な何かが解き放たれる。
オオオォォオォォォ……
邪神の欠片は何が起こったのか理解できない。
憐れな獲物が最後に見たのは巨大な牙、そして闇。
闇の塊であるはずの自分よりも、深く、暗く、底知れない何か。
こうしてスタンピードは幕を閉じた。
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