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恐るべき力
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「かずみ、驚かせすぎだよ」
理世の声に、数微はふっと肩の力を抜いた。そして無言でまりを見つめた。
間を割るように、理世はまりの手をひいて言った。
「少し気分転換に二人で外でも歩きに行こう。建物の中ばかりじゃ疲れちゃうでしょ?」
まりはつぶやいた。
「どうしてかずみさん、あんなに冷たい感じなんだろう……」
理世は少し息をつき、まりに説明を始めた。
「実はね、かずみのお父さんも数学者だったんだけど……この世界で、算数や数学が現実化することを発見したのは、そのお父さんなの」
「えっ⁉ そうなの……?」
まりの目が大きく開かれる。
「うん。当時、その発見によって多くの知識層は恐怖したの。何故なら、一個人が、世界を滅ぼしてしまう──そんな力を手に入れたから。しかも、それが学校の授業で誰でも触れられるなんて……」
理世は歩きながら、視線を遠くの空に投げた。
「当時の権力者たちは協力して、まず道徳教育の重要性を説き、小学校や中学校の算数・数学の時間を道徳科目に切り替えたの。悪意を持つ者にこの力が悪用されれば、世界は混沌とするからね」
まりは息を呑み、言葉を失った。
「かずみは、この世界の法則を父が発見したこと、それから、算数や数学を愛する学者として、ノブレス・オブリージュ――自分には使命があるってそう自らに課しているの」
「かずみさん‥凄いんだね‥。」
「うん‥かずみは、私には考えられないほど沢山のことを抱え込んでると思う。まり、あなたにも冷たく当たったのは、かずみに悪気があったからじゃないんだよ。」
「そうなんだ‥」
沈黙がながれた。理世はその静けさを破るように、柔らかく声をかけた。
「ちょっと、新しいこと教えよっか」
まりは顔を上げ、少し驚いた表情で応える。
「え、今日は何?」
理世は微笑みながら、ゆっくりと説明を始めた。
「数学の命題っていうものがあるの。真か偽かがはっきり決まる文のことを言うんだけどね。それを命題として作り、真だと認めると、その命題が現実化するんだよ」
「どういうこと?」まりは首をかしげた。
理世は窓の外の夜空を見上げ指をさす。
「あそこに月があるでしょ? 命題【手を伸ばせば、月に手が届く。】を作って、真だと仮定してみるの」
「うんうん」まりは少し目を輝かせた。
「じゃあ、試しに手を伸ばしてみて」
指示に従って手を差し伸べると、何か冷たく、丸い感触が掌に伝わった。
手を広げると、そこには空から見上げたときと同じ大きさの月が、掌の中で輝いている。
「え!? これはどういうこと……」まりの声は小さく震えていた。
理世は静かに頷く。
「命題を作って真だと認めたことで、現実がその通りになったのよ」
ふと空を見上げると、夜空には月の姿はなかった。今、手の中にあるのが、あの月そのものだったのだとまりは気付く。
その感覚は、面白さと恐ろしさが入り混じった、奇妙な感動だった。
小さく震える手の中の月を見つめ、まりは息を呑む。
数学が、こんなにも現実を変える力を持っている――その事実に、心の奥がざわついた。
理世の声に、数微はふっと肩の力を抜いた。そして無言でまりを見つめた。
間を割るように、理世はまりの手をひいて言った。
「少し気分転換に二人で外でも歩きに行こう。建物の中ばかりじゃ疲れちゃうでしょ?」
まりはつぶやいた。
「どうしてかずみさん、あんなに冷たい感じなんだろう……」
理世は少し息をつき、まりに説明を始めた。
「実はね、かずみのお父さんも数学者だったんだけど……この世界で、算数や数学が現実化することを発見したのは、そのお父さんなの」
「えっ⁉ そうなの……?」
まりの目が大きく開かれる。
「うん。当時、その発見によって多くの知識層は恐怖したの。何故なら、一個人が、世界を滅ぼしてしまう──そんな力を手に入れたから。しかも、それが学校の授業で誰でも触れられるなんて……」
理世は歩きながら、視線を遠くの空に投げた。
「当時の権力者たちは協力して、まず道徳教育の重要性を説き、小学校や中学校の算数・数学の時間を道徳科目に切り替えたの。悪意を持つ者にこの力が悪用されれば、世界は混沌とするからね」
まりは息を呑み、言葉を失った。
「かずみは、この世界の法則を父が発見したこと、それから、算数や数学を愛する学者として、ノブレス・オブリージュ――自分には使命があるってそう自らに課しているの」
「かずみさん‥凄いんだね‥。」
「うん‥かずみは、私には考えられないほど沢山のことを抱え込んでると思う。まり、あなたにも冷たく当たったのは、かずみに悪気があったからじゃないんだよ。」
「そうなんだ‥」
沈黙がながれた。理世はその静けさを破るように、柔らかく声をかけた。
「ちょっと、新しいこと教えよっか」
まりは顔を上げ、少し驚いた表情で応える。
「え、今日は何?」
理世は微笑みながら、ゆっくりと説明を始めた。
「数学の命題っていうものがあるの。真か偽かがはっきり決まる文のことを言うんだけどね。それを命題として作り、真だと認めると、その命題が現実化するんだよ」
「どういうこと?」まりは首をかしげた。
理世は窓の外の夜空を見上げ指をさす。
「あそこに月があるでしょ? 命題【手を伸ばせば、月に手が届く。】を作って、真だと仮定してみるの」
「うんうん」まりは少し目を輝かせた。
「じゃあ、試しに手を伸ばしてみて」
指示に従って手を差し伸べると、何か冷たく、丸い感触が掌に伝わった。
手を広げると、そこには空から見上げたときと同じ大きさの月が、掌の中で輝いている。
「え!? これはどういうこと……」まりの声は小さく震えていた。
理世は静かに頷く。
「命題を作って真だと認めたことで、現実がその通りになったのよ」
ふと空を見上げると、夜空には月の姿はなかった。今、手の中にあるのが、あの月そのものだったのだとまりは気付く。
その感覚は、面白さと恐ろしさが入り混じった、奇妙な感動だった。
小さく震える手の中の月を見つめ、まりは息を呑む。
数学が、こんなにも現実を変える力を持っている――その事実に、心の奥がざわついた。
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