SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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第二章 そして語られる過去と現在

第六話「アデュー」

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第六話「アデュー」

 時変わり、夏の日差しの暖かいのどかな日、西国バルジファルの小さな農村にて…。
 少年アデュー=モルガナは、村の外れにある草原に薬草を採りに出かけていた。風が心地よい。彼の銀髪が揺れる。
 薬草を摘みながら、幼なじみのマイアの事や、趣味のギターで教会での音楽会に出る事など、他愛もない事に想いを巡らせていた時である。
 茂みの中で、何か物音がした! 直後にパンターズヴォルフ(豹狼)が数匹姿を現した。モンスターの類に分類される凶悪な生物だ。群れをなして土地から土地を移動するため、彼にはこの危険性は予測されうるものではなかった。無防備だった故気配すら感じる事も出来なかった。
 今、ヴォルフ達に対抗できる武器と言えば、薬草を刈り取るための鎌しか持っていない。一匹ならまだしも、数匹で同時に襲いかかられたら…成す術がない。しかし、彼は逃げず、しゃがみ込んで頭を抱えたりせず、ただ鎌を相手に構えていた。恐怖心は勿論あったが、逃げたり伏せたりでこの状況を打開できるわけではない。必ず追いつかれる。冷静になって戦う必要があった。
 やはり、数匹で飛びかかって来た! どうする!
「少年、勇気ある行動恐れ入った。その勇気を讃え、ここは儂が引き受けよう…!」
 突然、上空から一人の剣士が飛び降りてきて、一刀の元に狼達を切り伏せた。
 アデューには一瞬事態が飲み込めなかった。空から人が!?
 剣士はすぐに、何か引っ張って、振り回した。よく見ると銀色に光るワイヤーが、残りの狼も、引き裂いていた。
「儂の胸に飛び込め!」
 その言葉を聞くや否や、アデューは無我夢中で、その言葉に従う。
 剣士の持っていたワイヤーの先には小型の飛行スキーが繋がっていて、地面に荒々しく着陸し、先程アデューがいたところを旋回して滑走し、やがて止まった。
 アデューはしばらく言葉が出なかった。
「怪我はないみたいだな。」
 顔を見上げると初老の男で、歴戦を経た戦士の持つ険しい表情を有していた。
「あ、あの…ありがとうございます。あっ!」
 飛び込んだ時に鎌で老剣士を傷つけていたかと思ったが、その鎧には傷一つなかった。
「あなたは…?」
「儂か。SNGソルジャー、ユルガス=ジオンハートだ。」
「SNG? ソルジャー?」
「お前の村にはないのだな。ならば、特に気にすることもあるまい、ただの傭兵だ。」
 にしても、この人は強い。そして気高く堂々とした威厳のある雰囲気を持っている。優しく気品のある村の教会の神父さんを除いては、村の大人の誰も持っていないような、輝かしい人柄を感じさせた。こんな人に、僕はなりたい。アデューはそう感じた。
 何か彼に訊いてみよう。
「ソルジャーって何ですか? それになれば、あなたみたいに強くなれるんですか?」
 その時ジオンハートの瞳の奥で何かがギラリと光った。
「強くなりたいのか、お前は。…やはりな。」
 その言葉に含みがあることに、アデューは気付く由もなかった。
 突然ジオンハートは抜き身の剣を構え、そして、振り下ろす!
 アデューは避けたが、ジオンハートの剣は、先程アデューのいた頭の位置にまでしか下りていなかった。
 突然の事だったので、彼は思わず動悸がした。
「合格だな。見栄を張って避けずに白羽取りでもしよう馬鹿者に儂は何も教えるつもりはない。避ける、という行動がこの時最善だ。実際に今みたいに途中で止めていたにしてもだ。しかし先程の狼達との場合は、『戦う』のが最善だ。その鎌にも殺傷力は充分あるからな。やはりお前は生まれつき戦士としての才能が備わっているように感じるな。あとは、体を鍛えることだ。そして戦場に慣れることだ。」
 ジオンハートはそう言い、彼に背を向ける。
「少し大きな街へ行けば、ネスツギルドが大抵あるものだ。二度の試験に合格すれば、晴れてソルジャーだ。きっとお前は、修羅になる。」
 飛行スキーに乗って彼は空の彼方へと飛んでいった。
 アデューには“修羅”の意味は分からなかった。しかし、その言葉を口に出す時のジオンハートの顔がとても嬉々としていたので、きっと素晴らしい強い者の事なんだろう。
 ふと、自分は薬草採りをしに来ていたという事を思い出し、仕事を再開する。

 彼が仕事を終えて、村へ帰ろうとした時である。彼は、村の方角の空の色が赤くなっているのに気付く。夕方だから、ではない。まだ日の沈む時間ではないはずだ。
 悪い予感がする…彼は走って帰っていった。
 すると、途中の森の中で、人影を発見した。まさか村の人では? その数は一つ…アデューがよく知っている人のものであった。
「マイア!」
 マイア=ナディウス。可憐な緑髪の少女も、今は煤けていてところどころに火傷を負っていて、走る気力を失っていた。
「何があったの? どうしたの、皆は? 村は?」
「分からない、でも、もう戻れないよ…。」
 遠くで炎が迫ってきているのが見えた。
「くそっ!」
 彼は彼女の手を取り、今自分が来た方へ走り出す。今は火事場から離れるのが最善だ。
 そうして燃えるものが周りにないところまで逃げると、二人で座り込む。マイアは疲れ切っていたのでしばらく落ち着いてから彼は尋ねた。
「マイア…一体何があったんだ? 何で村が燃えていたんだよ?」
 それに対してマイアは首を横に振るばかりだ。
「だから、分からないのよ…私はドゥルネイ神父様と教会にいたんだけど…気付いたときには外は炎に包まれていて…。神父様と一緒に窓から抜け出したあと、『私は村の人達を避難させるから、君は早く火の回らないところまで逃げなさい』って言われたきり…。」
 アデューは唐突にある決心をした。
「旅に出よう、マイア。」
 一瞬彼女には彼の言葉の意味が分からなかった。私は…。
 マイアには、本当の家族と言える人はいなかった。彼女は生来持つ紅い瞳のせいで、村の大人達からは気味悪がられていた。彼女に優しくしてくれたのは、アデューと、二年前の流行病で死んだその両親と、孤児であった彼女の面倒を見てくれたドゥルネイ神父だけだった。彼女にとっては、神父の安否だけが気遣われ、あとの人はどうでも良かった。
 また、アデューも、村の人々との仲は良くはあったが、今は旅に対する想いが強くなっていた。あの、剣士ジオンハートとのついさっきの突然の出会いで何かが変わったのだ。
 平凡が、非凡になる…二人はいつしか、村に背を向けて歩き出していた。
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