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第二章 そして語られる過去と現在
第七話「ペンダント」
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第七話「ペンダント」
二人が旅に出てから二ヶ月が経つ。しかしまだ一度も村に戻ったりはしていない。
アデューは大きい街を訪れてはそこのネスツギルドでSNGの試験を受けていたが、田舎の村から出てきた素人の若者にそんなに簡単に合格を許してくれるほど甘いものではなく、二人はやむなく日雇い労働で旅賃を稼ぐ毎日であった。
「ほんとに…ごめんね、マイア。」
「ううん、いいのよ、アデュー。これもこれで楽しいんだから。」
土建の仕事をしながら二人は言う。
「こら、そこ、喋っている暇があったら仕事をしろ!」
棟梁が怒鳴る。
アデューもマイアもその年齢にしてはきつい仕事を成さなければならなかったが、二人は決して弱音を吐くことはなかった。
彼は決してソルジャーになることを諦めなかった。しかしマイアには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
対して彼女は、肉体の疲れがたまってはいたが、彼のそばにいられるだけで幸せだった。ただ紅い瞳のせいで、時々人に気味悪がられる事は変わらなかった。この瞳は『運命を視る紅い瞳』という突然変異の一つで、一万人に一人の割合で持つ魔瞳であり、全てを見透かすその瞳を人々は恐れていたのだ。
「今日こそ、合格してみせるぞ!」
勇んで彼は新しい街のギルドで試験の手続きをする。一次試験はテクニックと知恵を要求される実技試験だと世界共通決まっている。これに彼は何度か通過しているが、どうしても次の戦闘試験が上手くゆかない。彼の持っているのは薬草を刈る鎌だけで、殺傷力は多少あるが、試験での強敵を相手に戦うにはそれを上回る戦闘能力が要求される。彼には身のこなしや力こそある程度あれ、成長段階である、十四という彼の年齢ではきついものがある。ジオンハートの様に剣を扱える日はまだまだ遠い。
今回も一次試験の、“廃病院の幽霊調査”は見事、地下に残っていた予備電力の仕業だという仕掛けを発見し、クリア。
しかし二次試験の狂暴化した黒熊との決闘では、手傷をこちらが負い、結局不合格になってしまった。しかし、初めの頃に比べ、少しずつ戦闘における勘は冴えて来ている。次こそ…。
ギルドから出てきた彼を、可愛い恋人の笑顔と抱擁が待っていた。
「お疲れさま。」
「…マイア。」
彼女に抱きしめられた彼は、傷だらけの彼女の肌に気付く。彼女も、戦っている。二人で生きるために。
彼らは次の日も体を休めることなく、日雇いの引っ越し業に従事する。
さて、今までの残りと今日稼いだ資金を合わせたらどれくらいになるだろうか…?
「どう? どんな感じ?」
マイアが覗き込む。
「これなら今日はまともな宿に泊まれるね。羽根を伸ばそう、久しぶりに。
「ああ…。」
マイアはその場にへたり込む。
「大丈夫?」
「安心したら気が抜けちゃった。」
二人は一般宿の一室を借りる。
「じゃあ、寝ようか?」
二人は別々のベッドで眠る。
「こっち来ていいわよ、アデュー。」
彼は胸の鼓動の高鳴るのを感じたが、理性でそれを封じた。
「な、何言ってるんだよ、僕らはまだ子供だよ。ね、寝るよ?」
「うふ。ねえ、寝る前にペンダント見せてよ。」
マイアがベッドから這い出して、彼の枕元にしゃがみ込む。彼も体を上げて、胸にしていた緑色に輝くペンダントを外し、マイアに手渡す。
「昼間より夜の方が一層綺麗に輝くわね。」
間近で見ながらマイアが言う。
「不思議…何もかも忘れて幸せな気分になれるわ…。」
「幸せのペンダント、なのかな。結局父さんと母さんの形見になっちゃったけど。」
アデューの顔が少し翳る。マイアがペンダントをアデューに返しながら言う。
「大事にね、アデュー、きっとどんなに辛いことがあっても、そのペンダントが私達を守ってくれるわ。」
彼の唇にキスをして、自分の床に就いた。
真夜中…。
アデューはふと目を覚ます。そして何気なくマイアの方に体を傾ける。
しばらくその後ろ髪を眺めていたら、急に彼女が唸りだした。
「どうしたの?」
アデューはベッドを抜けだし、彼女の方に近づく。
「疲れているんだね…僕の為に苦労をかけさせてすまない…。」
彼女の髪を撫でながら耳元で囁く。
「心配しないで、マイア。」
しかし彼女が実際に苦しんでいたのはその事ではなかった。
彼女は彼女の持つ魔瞳で、村で火事が起こるという事を予期できていたのだ。しかし神父は助かるという事は読むことが出来たため、あえて、火事が起こることを誰にも告げなかった。あとの人は自分が見殺しにしたのだ。いくら自分の事を忌み嫌い蔑んできた人々であっても、罪悪感は決して消せなかった。
そして、もう一つ、全ての者の運命を視うる瞳も、恋するアデューの運命だけは何故か視る事が出来なかった。彼女の常々持つ大きな唯一の不安はそこにあった。
しかしアデューにはそんな事は知る由もなかった。
次の日は、曇り空で今にも雨が降り出しそうな天気ではあったが、二人は躊躇せず次の街へと移ることにした。
森の中を早足で歩む。何も警戒せず、何も考えず、ただ先へ。
その時だ。木陰から、何者かが突然飛び出してきた。
気付く間もなく、アデューは背後から刺される!
「ぶふぁっ!」
アデューが血を吐いた。
「きゃあああああああっっ!」
マイアが悲鳴を上げるのとどちらが早いか、傭兵風の男がアデューの胸にあるペンダントをひったくる。
「へへっ! 任務完了!」
二人が行動を起こす前に、男は一瞬で姿を消す。
しばらく、二人とも何が起こったのかを理解する事が出来なかった。
アデューが刺され、ペンダントが強奪された、その事実。
「幸せのペンダントじゃなかったね…ゴブッ。」
アデューの吐血は止まらない。どうやら、心臓の後ろから深く刺されたようで、もはやどうする事もかなわない。既に視界も真っ白になり、恋人の姿も認識できなくなり、意識が急速に遠のいていく…。
マイアはまだ混乱している。彼女が唯一運命を視ることの出来なかった最愛の人は、彼女の腕の中で今、命尽きようとしている。
「ぶわぁああああああああああああああああああああああああ!!」
彼女は声と呼べない声を上げ、絶叫した。
少年は、夢半ばにして、突然にしてその短い生涯を閉じた。
再び現代へ。
例のペンダントは、トリニティのラルフ=クローフスの生家にある。数年前、友人から貰ったというペンダント。少年の人生を変えたペンダントはその美しい不思議な輝きを失って、彼の元へと渡っていた。そしてその彼も、同じペンダントにまつわる悲しい出来事を体験することになる。
二人が旅に出てから二ヶ月が経つ。しかしまだ一度も村に戻ったりはしていない。
アデューは大きい街を訪れてはそこのネスツギルドでSNGの試験を受けていたが、田舎の村から出てきた素人の若者にそんなに簡単に合格を許してくれるほど甘いものではなく、二人はやむなく日雇い労働で旅賃を稼ぐ毎日であった。
「ほんとに…ごめんね、マイア。」
「ううん、いいのよ、アデュー。これもこれで楽しいんだから。」
土建の仕事をしながら二人は言う。
「こら、そこ、喋っている暇があったら仕事をしろ!」
棟梁が怒鳴る。
アデューもマイアもその年齢にしてはきつい仕事を成さなければならなかったが、二人は決して弱音を吐くことはなかった。
彼は決してソルジャーになることを諦めなかった。しかしマイアには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
対して彼女は、肉体の疲れがたまってはいたが、彼のそばにいられるだけで幸せだった。ただ紅い瞳のせいで、時々人に気味悪がられる事は変わらなかった。この瞳は『運命を視る紅い瞳』という突然変異の一つで、一万人に一人の割合で持つ魔瞳であり、全てを見透かすその瞳を人々は恐れていたのだ。
「今日こそ、合格してみせるぞ!」
勇んで彼は新しい街のギルドで試験の手続きをする。一次試験はテクニックと知恵を要求される実技試験だと世界共通決まっている。これに彼は何度か通過しているが、どうしても次の戦闘試験が上手くゆかない。彼の持っているのは薬草を刈る鎌だけで、殺傷力は多少あるが、試験での強敵を相手に戦うにはそれを上回る戦闘能力が要求される。彼には身のこなしや力こそある程度あれ、成長段階である、十四という彼の年齢ではきついものがある。ジオンハートの様に剣を扱える日はまだまだ遠い。
今回も一次試験の、“廃病院の幽霊調査”は見事、地下に残っていた予備電力の仕業だという仕掛けを発見し、クリア。
しかし二次試験の狂暴化した黒熊との決闘では、手傷をこちらが負い、結局不合格になってしまった。しかし、初めの頃に比べ、少しずつ戦闘における勘は冴えて来ている。次こそ…。
ギルドから出てきた彼を、可愛い恋人の笑顔と抱擁が待っていた。
「お疲れさま。」
「…マイア。」
彼女に抱きしめられた彼は、傷だらけの彼女の肌に気付く。彼女も、戦っている。二人で生きるために。
彼らは次の日も体を休めることなく、日雇いの引っ越し業に従事する。
さて、今までの残りと今日稼いだ資金を合わせたらどれくらいになるだろうか…?
「どう? どんな感じ?」
マイアが覗き込む。
「これなら今日はまともな宿に泊まれるね。羽根を伸ばそう、久しぶりに。
「ああ…。」
マイアはその場にへたり込む。
「大丈夫?」
「安心したら気が抜けちゃった。」
二人は一般宿の一室を借りる。
「じゃあ、寝ようか?」
二人は別々のベッドで眠る。
「こっち来ていいわよ、アデュー。」
彼は胸の鼓動の高鳴るのを感じたが、理性でそれを封じた。
「な、何言ってるんだよ、僕らはまだ子供だよ。ね、寝るよ?」
「うふ。ねえ、寝る前にペンダント見せてよ。」
マイアがベッドから這い出して、彼の枕元にしゃがみ込む。彼も体を上げて、胸にしていた緑色に輝くペンダントを外し、マイアに手渡す。
「昼間より夜の方が一層綺麗に輝くわね。」
間近で見ながらマイアが言う。
「不思議…何もかも忘れて幸せな気分になれるわ…。」
「幸せのペンダント、なのかな。結局父さんと母さんの形見になっちゃったけど。」
アデューの顔が少し翳る。マイアがペンダントをアデューに返しながら言う。
「大事にね、アデュー、きっとどんなに辛いことがあっても、そのペンダントが私達を守ってくれるわ。」
彼の唇にキスをして、自分の床に就いた。
真夜中…。
アデューはふと目を覚ます。そして何気なくマイアの方に体を傾ける。
しばらくその後ろ髪を眺めていたら、急に彼女が唸りだした。
「どうしたの?」
アデューはベッドを抜けだし、彼女の方に近づく。
「疲れているんだね…僕の為に苦労をかけさせてすまない…。」
彼女の髪を撫でながら耳元で囁く。
「心配しないで、マイア。」
しかし彼女が実際に苦しんでいたのはその事ではなかった。
彼女は彼女の持つ魔瞳で、村で火事が起こるという事を予期できていたのだ。しかし神父は助かるという事は読むことが出来たため、あえて、火事が起こることを誰にも告げなかった。あとの人は自分が見殺しにしたのだ。いくら自分の事を忌み嫌い蔑んできた人々であっても、罪悪感は決して消せなかった。
そして、もう一つ、全ての者の運命を視うる瞳も、恋するアデューの運命だけは何故か視る事が出来なかった。彼女の常々持つ大きな唯一の不安はそこにあった。
しかしアデューにはそんな事は知る由もなかった。
次の日は、曇り空で今にも雨が降り出しそうな天気ではあったが、二人は躊躇せず次の街へと移ることにした。
森の中を早足で歩む。何も警戒せず、何も考えず、ただ先へ。
その時だ。木陰から、何者かが突然飛び出してきた。
気付く間もなく、アデューは背後から刺される!
「ぶふぁっ!」
アデューが血を吐いた。
「きゃあああああああっっ!」
マイアが悲鳴を上げるのとどちらが早いか、傭兵風の男がアデューの胸にあるペンダントをひったくる。
「へへっ! 任務完了!」
二人が行動を起こす前に、男は一瞬で姿を消す。
しばらく、二人とも何が起こったのかを理解する事が出来なかった。
アデューが刺され、ペンダントが強奪された、その事実。
「幸せのペンダントじゃなかったね…ゴブッ。」
アデューの吐血は止まらない。どうやら、心臓の後ろから深く刺されたようで、もはやどうする事もかなわない。既に視界も真っ白になり、恋人の姿も認識できなくなり、意識が急速に遠のいていく…。
マイアはまだ混乱している。彼女が唯一運命を視ることの出来なかった最愛の人は、彼女の腕の中で今、命尽きようとしている。
「ぶわぁああああああああああああああああああああああああ!!」
彼女は声と呼べない声を上げ、絶叫した。
少年は、夢半ばにして、突然にしてその短い生涯を閉じた。
再び現代へ。
例のペンダントは、トリニティのラルフ=クローフスの生家にある。数年前、友人から貰ったというペンダント。少年の人生を変えたペンダントはその美しい不思議な輝きを失って、彼の元へと渡っていた。そしてその彼も、同じペンダントにまつわる悲しい出来事を体験することになる。
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