SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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第二章 そして語られる過去と現在

第八話「リーフ」

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第八話「リーフ」

「今、Cランクの『デニスの商人輸送団を盗賊から護衛して欲しい』という依頼があります。報酬は三百ホールドです。」
 トリニティの三人は、ラルフとシローの故郷であるデニスで任務を受ける。Sランクソルジャーである彼らにとっては容易い仕事であり、さっさと終えてしまった。得た報酬で、昔懐かしの酒場で呑む事にした。
「隣に座ってもいいか?」
 ラルフが酒場にいた若い女性に声をかける。
「また始まったな、あいつのナンパ癖が。全く女好きな奴だ。」
「普段の先輩からは想像できないですよね。」
 離れた席に座って様子を見ていたボルドとシローが囁く。
「『剣と女とグラサン以外には興味ない。』があいつの口癖だからな。しかしいつからなんだ、あの癖は。」
 訊かれたシローは少し顔を曇らせる。
「おい、どうしたんだ? 確かにお前はその三つのうち一つも当てはまってないかもしれないが、気を落とすなよ。」
「…いや、そういう事じゃなくて、ちょっとね、あったんすよ。昔、オレ達がアルカニア訓練学校にいた頃に。それまでは、あの人も純硬派で、女なんかには興味なかったんですけど。あれから急に変わってしまったんだよなぁ…。」
「話せよ、シロー。」
「ああ、明日、訓練学校を訪れた時に話しますよ。」
 そうだな、この話はボルドさんにならしても大丈夫だ。ただ先輩は思い出したくないだろう。シローはグラスを見つめながら、過去の事件を鬱な気持ちで思いめぐらせる。

「おお、君達か。二年ぶりだね。活躍は聞いているよ。」
 当時と同じ校長が、彼らを出迎えた。
 共に廊下を歩きながら、訓練学校の若き生徒達が武術や魔法の訓練に励んでいる授業の様子を見せてもらう。ボルドは感心した。
「へえ…。お前等こんなに本格的なところでやってたのか…はあ、そりゃ、それだけ強くなるわな。」
「例の墓碑はまだありますか…?」
 ラルフの関心はまた別にあるようだ。校長に訊きながら庭で花を摘んでいる。
「ああ、あるよ…。訪れる人は年々少なくなっているけれどね、関係者は皆卒業していくからね。」
 言いながら校長はそこへ、案内する。ラルフとシローが墓碑に刻まれた一人の生徒の名前を目にした時、その悲しい過去が浮かび上がった。

 四年前、アルカニア訓練学校の庭にて。
「先輩、先輩。」
 まだ十五歳のシローが、芝生に寝っ転がって読書をしているラルフに声をかける。
「パールマンさんが、先輩に用事があるそうっすよ。」
 彼が校舎の方に目だけ遣ると、金髪の女の子が彼を待っているのが見えた。リーフ=パールマン。ラルフと同じ十六歳の、優しい顔をした女の子だ。
 彼は腰を上げて彼女の方に向き直る。彼女は後ろ手に何かを隠している。
「何だ?」
「こっちに来てよ、いいものあるんだから。」
 ラルフがリーフの元へ行くと、深い緑色のペンダントを手渡された。
「この前市場で見つけたの。いいでしょ、つけてみてよ。」
「ああ、丁度いい。」
「似合ってるじゃな~い。あんたにそれ、あげる。」
 ラルフは素直に受け取ったが、貰いっぱなしではなんなので、彼女に何かお返しをする事にした。彼は今まで女の子にモテはしたが興味はなく、気の許せる女友達と言えば、訓練学校の前の小学校からずっと一緒のリーフだけだ。男と同じ様には付き合ってはきたが、こういうお返しをする時は、ちゃんと女の子らしいお返しを考えねばならなかった。
「ちょっと待ってな。」
 ラルフはそう言って、花を摘みにいった。俺には似合わない、と気恥ずかしさを感じる事もなく、校舎から離れた森へ入った。

 彼が校舎の中庭へ戻ろうとしたときであった。
 生徒たちの叫び声と、獣のうなり声がした。
「そちらは任せた! 私はこちらを担当しよう! こら、お前、早く体育館に避難しろ! ここはもう危険だ!」
 教官がラルフの姿を見つけて厳しく怒鳴る。
「何があったんですか?」
 彼は落ち着いて訊ねる。
「モンスターの群れがバリケードを破って侵入したんだ!」
「試験用モンスターですか?」
「いや、違う、野生の本物だ! すぐに避難しろよ!」
 だが、素直に従うラルフではない。
 まだ逃げ遅れた生徒がいるはずだ。リーフやシロー達は無事だろうか。彼女は、もしかしたら待っているのかも知れない…馬鹿な、あり得ない。俺の為に…。
 中庭に差し当たった頃、見覚えのある金髪が見えた。あれはシローか!
 気を取られていると上から2mもある巨大な蟷螂が襲いかかってきた。
「邪魔だ!」
 ラルフはステップを踏み、弾みで一閃する。蟷螂は大きな音を立てて地に落ちた。
「先輩!」
 シローもこちらに気付いたようだ。モンスターに囲まれながらも専門の魔術で善戦している。
「オレはいいですから、残っている人達を!」
「ああ!」
 そして先程いた庭で彼は目にしてしまう。
 まさに、リーフがグリズリーの爪に引き裂かれいるその瞬間を。
 彼の中で、時間は止まり、理性も判断力も一瞬にして消え去った。
「うわぁぁぁああああああああああああ!」
 上擦った声で彼は叫び、グリズリーを薙ぎ倒す。
 もう、敵も味方も分からなくなってしまった彼は、目につく者全てに襲いかかった。そして一人の生徒に斬りかかろうとしたその時だ。
稲光《ブリッツ》!」
 ラルフの頭上に雷鳴が轟き、落ちる一本の稲妻。直撃したようで、彼はその場で気絶し卒倒する。
 その魔法を唱えた主が、彼の元に駆け寄る。
「先輩! 何をしているんですか! あなたがそれでは駄目でしょう!」
 シローがラルフを攻撃したのはそれが最初で最後であった。
「ア、アア!」
 彼は気付く。ラルフの隣に横たわる、絶命している少女を。
 時を同じくして、教官達がモンスターを全滅させ終えた。しかし三十二名の負傷者と六名の死者を出すという最悪の結果に終わってしまった。

「先輩は理解したんです…リーフさんに対する気持ちをその時初めて。ただの友達として好きだっただけではなく、女性として愛していた事を。彼にとって彼女はこの世で最も大切な存在であったという事を。それに、あの時『待っててくれ』と自分が言った事が彼女の死に繋がったんじゃないか、と先輩はそう考えてしまってずっと後悔して苦しんでいるんです。それから、女性というものを追い求めるようになったんです、失った心の穴を埋める為に。でも、リーフさんを超える女性が、彼女を忘れさせてくれる、彼女以上に愛することの出来る女性が見つからない限り、先輩は幸せにはなれないんです…。」
 墓碑に花をやるラルフと校長から離れてシローがボルドに語る。
「そうか…。でもな、どんな悲しい過去があったって、今を大切にしちゃいけないわけじゃない。俺はお前等に会う前も、会ってからも、楽しいことも苦しいこともたくさんあったけど、皆大切なものだ。今も大切だし好きだ。お前もそうだろ、シロー?」
「ええ、オレも好きですよ。特にこうしてトリニティとして三人で旅が出来るようになってからは。」
「あいつにもきっと、いつかそう心から感じる事が出来る日が来る。ゆっくりと、心の傷は癒していけるもんだ。」
 黒いサングラスの奥の、深い慈愛に満ちた、しかし翳りのある紅い瞳を輝かせながら、ボルドはタバコに火をつける。
「そうなるといいですね…。」
 ラルフの頬を伝う涙を目にしながら、シローが切なく呟いた。

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