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第二章 そして語られる過去と現在
第九話「謎の少女」
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第九話「謎の少女」
デヴォイとクレアは、北へ北へと旅をしていた。
「レクイードまではもうすぐね。」
二人は所々に雪の積もった森の中を抜ける。気温が低くなった為、クレアは毛皮のコートを羽織っていた。デヴォイはフォルナウスとの闘いで焼けたコートを魔法具店で補修して、再び防水防寒加工をして貰っていた。
「エルザレクド市国。この大陸では最北端の国から船に乗り、レクイード共和国へ。思えば長い道のりだったなぁ。」
「そうね、誰かさんがあちこちで仕事の依頼を受けた為に、この調子だと卒業には間に合わないけどね。」
クレアがデヴォイを小突く。彼は困った顔をする。
「おいおいおい、俺のせいかぁ? 卒業が一年遅れるくらい気にしてちゃいけないぞ。」
「あなたはね。もう社会人だからそんな事が言えるのよ。」
彼女は険相だったが、そういう時はデヴォイが小さいクレアを抱え上げて羽交い締めにしてしまえばいつの間にかうやむやになってしまう。
…もう。照れながらクレアは言う。
「クライアント、それもレディに対する扱いとは思えないわ。」
その時だった。森の木々がざわざわと揺れ始めた。風…ではない、これは!
突然木の上から何者かが飛び出してきて、デヴォイを襲った! 剣を抜くより速い動きで相手は攻撃をしかけてきたので、デヴォイは避けるほかない。
「離れてろ!」
クレアはもう刺客に慣れているらしく、冷静に戦場から身を遠ざける。
「全く…森に恨みでも買うような事したかな?」
フォルナウスの時も森、そして幾たびか遭遇する盗賊も森で、今回も森で襲われる。確かあの時も…うまくは思い出せない。
気持ちを切り替え、まるで猿のように迅速に木々の間を動き廻る刺客に対峙する。
「氷追尾弾!」
かつてフォルナウスに使われた技の応用で、刺客に魔法攻撃を命中させる。
青い髪の少女が落ちる。クレアと見た目の年はほとんど変わらない。十二、十三といったところか。こんな小さな女の子が…?
「あんたの命、奪いにきたよ!」
あ、相手にするべきなのかどうか…。しかしこれだけ速い運動神経を持つ少女から、クレアを連れて逃れられるのか…不可能に近いな。けれども、女の子を剣でズバっと斬ってしまうのも趣味ではない。ここは適度な魔法を使って、相手を気絶させよう。
「土結球!突風!!!」
連続魔法はかなり高度な技だ。さらに、岩石球の土の属性を損なわないように、むしろ威力を増すようにただその飛ぶ勢いを増す突風を起こした。
「あは!」
少女は身を屈めて避ける。
「へぇ、やるじゃん、うちの馬鹿兄貴みたく、あんたも魔法馬鹿なのね。でも、腰にぶら下げてるその剣はどうしたのかな?」
少女は、挑発した態度を見せ、すぐに不敵に笑う。
「女の子だからって、手加減してると、死ぬよ?」
丁度その頃。エルザレクド市国のギルドにて。
「姉さん、こんなガキが今回のターゲットなんすか? しかもこれでAランクかよ~。」
青い髪の少女の人相書きを見ながらバンが面白くなさそうに言う。
「バン。この子は『パラライザー』の賞金首なんだからね。油断してると殺られるわよ。そもそも何故この依頼があったのかは分かっているでしょう?」
エイジスがたしなめる。バンは納得がいかないようだ。
「確かに、まだ誰も成功していない任務ですからねぇ、そりゃ賞金首にもなりますけど、あのデヴォイでさえなっていないんですよ?」
「違うわよ、ちゃんと分かっているの? このパラライザーがネスツギルドやSNGを襲撃する事件が多発しているから、なのよ。」
「余程の奴なんですかね。魔法の達人、獣人、魔人だとか。こんな可愛らしい子がね。」
「でもね…どんな相手であろうとと確実に始末しなくてはね。」
氷月のエイジスは冷たい笑みを見せた。
「速い動きの相手に合わせた魔法の使い方というのは幾つかある。」
デヴォイは刺客の攻撃を必要最低限の動作で避けながら言う。
「一つは、風の属性の高速移動・飛行の魔法で相手に近づき、格闘戦に持ち込む方法。」
クレアが充分離れている事を確認し、彼は呪文詠唱をする。
「もう一つは…土と闇の合成魔法…水晶糸!」
デヴォイを中心に、四方八方に蜘蛛の巣状に、硬質な水晶の糸が張り巡らされる。
「うわぁ!」
少女もその巣に絡め捕られる。必死で糸を手に持っていたナイフで切り刻もうとするが、水晶である上に粘着液が塗布されていて、張り付いて取れなくなった。
「きゃあ! 何よこれ!」
「さて、俺を狙った理由、話して貰うよお嬢ちゃん。」
ある時は同じSNG仲間から、ある時は酔狂な魔導師から、そして今回は所属不明の少女から命を狙われる。冗談じゃない、もう懲り懲りだ。
デヴォイが口を割らせる目的での脅迫の為、更なる魔法を詠唱しようとしていた時だ。
「ねえ、あなた、その女の子の身柄を渡してくれないかしら?」
聞き覚えのある声がする。
「エイジス=ブラムフォード!」
デヴォイが振り返るとそこには勿論、銃を構えた金髪美女と、アイアンクローを装着した猫背の男が立っていた。
「渡す理由は?」
「それは、SNG全員の命に関わる事よ。あなたも、私達もね。今その子を捕まえないと被害は広がるの。『パラライザー』の刺客、フィアーをね。」
デヴォイはエイジスの言葉を信じたいとは思わなかったが、今は彼女たちは敵ではないようだ。おそらく任務で来ているのだろう。癪だが、仕方がない、邪魔する理由はない。
「今魔法を解く。処理は君達に任せる。」
デヴォイは簡潔に冷たく言い放つ。
魔法が解かれた瞬間、少女は一目散に逃げ出した。エイジスがトリガーを引く! が、かすっただけで結局捕獲出来なかった。バンが感嘆する。
「ひょえ~、ありゃ俺っちでも無理だな。誰も成功しないわけだ。」
「こら、バン、何してるの?」
振り返るとエイジスが恐い顔をして待っていた。
デヴォイとクレアは、北へ北へと旅をしていた。
「レクイードまではもうすぐね。」
二人は所々に雪の積もった森の中を抜ける。気温が低くなった為、クレアは毛皮のコートを羽織っていた。デヴォイはフォルナウスとの闘いで焼けたコートを魔法具店で補修して、再び防水防寒加工をして貰っていた。
「エルザレクド市国。この大陸では最北端の国から船に乗り、レクイード共和国へ。思えば長い道のりだったなぁ。」
「そうね、誰かさんがあちこちで仕事の依頼を受けた為に、この調子だと卒業には間に合わないけどね。」
クレアがデヴォイを小突く。彼は困った顔をする。
「おいおいおい、俺のせいかぁ? 卒業が一年遅れるくらい気にしてちゃいけないぞ。」
「あなたはね。もう社会人だからそんな事が言えるのよ。」
彼女は険相だったが、そういう時はデヴォイが小さいクレアを抱え上げて羽交い締めにしてしまえばいつの間にかうやむやになってしまう。
…もう。照れながらクレアは言う。
「クライアント、それもレディに対する扱いとは思えないわ。」
その時だった。森の木々がざわざわと揺れ始めた。風…ではない、これは!
突然木の上から何者かが飛び出してきて、デヴォイを襲った! 剣を抜くより速い動きで相手は攻撃をしかけてきたので、デヴォイは避けるほかない。
「離れてろ!」
クレアはもう刺客に慣れているらしく、冷静に戦場から身を遠ざける。
「全く…森に恨みでも買うような事したかな?」
フォルナウスの時も森、そして幾たびか遭遇する盗賊も森で、今回も森で襲われる。確かあの時も…うまくは思い出せない。
気持ちを切り替え、まるで猿のように迅速に木々の間を動き廻る刺客に対峙する。
「氷追尾弾!」
かつてフォルナウスに使われた技の応用で、刺客に魔法攻撃を命中させる。
青い髪の少女が落ちる。クレアと見た目の年はほとんど変わらない。十二、十三といったところか。こんな小さな女の子が…?
「あんたの命、奪いにきたよ!」
あ、相手にするべきなのかどうか…。しかしこれだけ速い運動神経を持つ少女から、クレアを連れて逃れられるのか…不可能に近いな。けれども、女の子を剣でズバっと斬ってしまうのも趣味ではない。ここは適度な魔法を使って、相手を気絶させよう。
「土結球!突風!!!」
連続魔法はかなり高度な技だ。さらに、岩石球の土の属性を損なわないように、むしろ威力を増すようにただその飛ぶ勢いを増す突風を起こした。
「あは!」
少女は身を屈めて避ける。
「へぇ、やるじゃん、うちの馬鹿兄貴みたく、あんたも魔法馬鹿なのね。でも、腰にぶら下げてるその剣はどうしたのかな?」
少女は、挑発した態度を見せ、すぐに不敵に笑う。
「女の子だからって、手加減してると、死ぬよ?」
丁度その頃。エルザレクド市国のギルドにて。
「姉さん、こんなガキが今回のターゲットなんすか? しかもこれでAランクかよ~。」
青い髪の少女の人相書きを見ながらバンが面白くなさそうに言う。
「バン。この子は『パラライザー』の賞金首なんだからね。油断してると殺られるわよ。そもそも何故この依頼があったのかは分かっているでしょう?」
エイジスがたしなめる。バンは納得がいかないようだ。
「確かに、まだ誰も成功していない任務ですからねぇ、そりゃ賞金首にもなりますけど、あのデヴォイでさえなっていないんですよ?」
「違うわよ、ちゃんと分かっているの? このパラライザーがネスツギルドやSNGを襲撃する事件が多発しているから、なのよ。」
「余程の奴なんですかね。魔法の達人、獣人、魔人だとか。こんな可愛らしい子がね。」
「でもね…どんな相手であろうとと確実に始末しなくてはね。」
氷月のエイジスは冷たい笑みを見せた。
「速い動きの相手に合わせた魔法の使い方というのは幾つかある。」
デヴォイは刺客の攻撃を必要最低限の動作で避けながら言う。
「一つは、風の属性の高速移動・飛行の魔法で相手に近づき、格闘戦に持ち込む方法。」
クレアが充分離れている事を確認し、彼は呪文詠唱をする。
「もう一つは…土と闇の合成魔法…水晶糸!」
デヴォイを中心に、四方八方に蜘蛛の巣状に、硬質な水晶の糸が張り巡らされる。
「うわぁ!」
少女もその巣に絡め捕られる。必死で糸を手に持っていたナイフで切り刻もうとするが、水晶である上に粘着液が塗布されていて、張り付いて取れなくなった。
「きゃあ! 何よこれ!」
「さて、俺を狙った理由、話して貰うよお嬢ちゃん。」
ある時は同じSNG仲間から、ある時は酔狂な魔導師から、そして今回は所属不明の少女から命を狙われる。冗談じゃない、もう懲り懲りだ。
デヴォイが口を割らせる目的での脅迫の為、更なる魔法を詠唱しようとしていた時だ。
「ねえ、あなた、その女の子の身柄を渡してくれないかしら?」
聞き覚えのある声がする。
「エイジス=ブラムフォード!」
デヴォイが振り返るとそこには勿論、銃を構えた金髪美女と、アイアンクローを装着した猫背の男が立っていた。
「渡す理由は?」
「それは、SNG全員の命に関わる事よ。あなたも、私達もね。今その子を捕まえないと被害は広がるの。『パラライザー』の刺客、フィアーをね。」
デヴォイはエイジスの言葉を信じたいとは思わなかったが、今は彼女たちは敵ではないようだ。おそらく任務で来ているのだろう。癪だが、仕方がない、邪魔する理由はない。
「今魔法を解く。処理は君達に任せる。」
デヴォイは簡潔に冷たく言い放つ。
魔法が解かれた瞬間、少女は一目散に逃げ出した。エイジスがトリガーを引く! が、かすっただけで結局捕獲出来なかった。バンが感嘆する。
「ひょえ~、ありゃ俺っちでも無理だな。誰も成功しないわけだ。」
「こら、バン、何してるの?」
振り返るとエイジスが恐い顔をして待っていた。
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