SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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第四章 殺戮と兵器と青年と

第十六話「セーラ」

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第十六話「セーラ」

 アデューは、あの時完全に息絶えてはいなかった。まだ本当は微かに生命の火をその体に宿していたにも関わらず、マイアに埋葬されたのだが…土葬であった。それが幸いする。
 彼は、『光』を持つ者である。世界のあらゆる物質・存在を生み出したと言われるエネルギー、黄泉…エレボスより来たりし、神の力。彼は、その力を有していた。そして彼の持つ三つの『光』の力によって彼は長い時間をかけて生命の息吹を取り戻し、墓土の中から目覚める事となる。大量に流された血もまた体の中を流れ、刺された傷も癒えた。ただ、それと引き換えに、それまでの記憶の大半は暗い海の中に消え去ってしまった。
 しかし、マイアはそんな事は知る由もなかった。最愛の恋人を失った悲しみから、茫然自失として世界をさまよっていた。そこで出会ったのが、革命によって亡命して来たグリニゲル=フォルナウスである。彼はその時既に『パラライザー』を組織しており、その構成員を必要としていた。マイアが唯一覚えていた、アデューを殺した男の、
「へへっ! 任務完了!」
 という言葉から、確証は無かったが、グリニゲルは、その男がネスツギルドのソルジャーであると判断し、そう教えた。それは後のSNG襲撃において、マイアの彼らに対しての復讐心と戦闘意欲を掻き立てるにはいい口実であった。それより彼女はパラライザーの復讐鬼と化し、今ここに至る。

 アデューの復活から半年が過ぎた時にルデールでは十二月革命が始まる。彼の記憶は、首都ルデールから離れた、当時の政治犯を多く捕らえたジャイロ監獄から始まる。
「おい、囚人番号九六ー一四!」
 それがアデューにつけられた名前だった。食料が配給されたが、それは微々たる物であり、暖かい国で生まれた彼にとってこの北国の寒い気候は厳しいものがあり、自然に衰弱していき、生気も無きに等しくなっていた。また、記憶を失っていて、自分が誰で、何をしてこんなところに入れられているのかは全く分からないで、毎日の強制労働で更に疲労も重なり、短かった銀色の髪も背中まで伸びてボサボサになっていった。
 だが、そんな彼の状況を変える出来事が起こる。それが革命軍による、ジャイロ監獄襲撃事件である。
 爆撃によって、監獄の檻が壊される。そこへ一人の女性が現れ、寝ていたアデューを起こす。水色のウェーブした髪を持つ、革命軍の女性であった。
「同志よ、さあ早く、あなたもここから逃げて、私達と共に戦いましょう!」
 この女性…何か勘違いしているぞ…僕は革命軍なんかじゃ…いや、捕らえれていて助けられたという事はそうなのかもしれない…そういう事にしておこう。
 結局アデューは成りゆきで彼女たちと行動を共にする事にした。
「あなた、名前は?」
 首都にある革命軍の隠れアジトで水色の女性が訊ねる。
「名前…知らない…囚人番号九六ー一四とは呼ばれていたけど…。お姉さんは?」
「私はセーラ。セーラ=ブルーノーツよ。あなた、名前が無いと不便ね…そうね。デヴォイなんてどう? で、名字は…。」
 彼女は側にいた革命軍の男に訊ねる。
「ふむ、ありきたりだがマクシミリアン、というのはどうだろうか。」
「マクシミリアン。いいわね。」
 デヴォイと名前を付けられたアデューは、セーラの髪を見ながら呟く。
「髪の毛…綺麗だね。いい色…。」
「うふっ、男の人は皆褒めてくれるわねぇ、これはスカイブルーっていう色なの。あ、そうだ、あなたの名前、決まったわ。デヴォイ=マクシミリアン。いいんじゃない?」
 デヴォイはその夜、彼女の寝床に現れる。
「どうしたの? 眠れない?」
 落ち着いた優しい顔で、迎えてくれる。彼女は自分のベッドに彼を寝かせる。
「…あなた、そんなに若いのに革命軍に志願したなんて、偉いわね。でも、きっと不安も多く辛い思いもたくさんしてきたんでしょうね…。記憶を失うまで奴等の拷問を受けたんでしょう。」
 彼女は彼の頭を撫でて、子守歌を歌う。懐かしい、というものではない。聞いた覚えはない。でも、とても純粋で綺麗な子守歌だ…。
「故郷や両親や友達の為に、戦っているんだものね…勇気を持って、ね。今は劣勢かも知れないけれど、諦めなければ勝てるわ。」
 諦めなければきっとソルジャーになれる…。ふとデヴォイの頭をそんな言葉がよぎる。ソルジャーって何だ…? しかしそれより僕には…。
「両親も、友達もいない、知らない…。」
「そっか、ごめん…記憶がなかったんだね。」
「いや…違う、両親は死んだし…友達もいなくなっちゃったんだ…。」
 何故かそれだけは覚えている…両親の顔と、緑髪の少女…マイアの顔が浮かぶ。
「辛い思い出だけなんて…酷すぎるわよ…。」
 彼女は彼に同情し、彼をきつく抱きしめた。彼女の胸の鼓動が耳元で聴こえる。彼の鼓動も伝わっているかも知れない。
「きっとこの戦いが終わったら、あなたのこれからの、楽しい思い出がたくさん創られる時代がくるはずよ…。」
 そんな時だった。アジトのドアが開けられる。
「帝国軍の報復だ! 外に出て戦うぞ!」
 急遽、デヴォイは彼女達革命軍と、戦闘に参加せざるを得なくなった。先程の優しい顔とは打って変わって、彼女は厳しい戦士の顔になる。
「行くわよ! 未来は私達が勝ち取るのよ!」
 セーラは機関銃を引っ提げる。デヴォイは武器庫にあった剣を取ってくる。
「あなた、そんなもので大丈夫?」
「うん…いや、ああ、俺だって戦えるさ。それに、体が覚えているんだ…剣で戦える。」
 彼は口調を変えていっちょまえに気取ってみる。
 戦況は、決して思わしいものではなかった。街は既に炎に包まれ、味方が次々と斃れていくのが分かる…。消えていく幾つもの鼓動を、追って更にかき消す轟音…これが戦場。
「ちっ、弾切れね…。」
 セーラは急いで弾薬を補給する。
「今のうちに俺が…うぉぉぉぉおおおおっっ!」
 横で斃れた仲間の剣を拾って、デヴォイは双剣で単身敵陣へ突っ込む。
 間合いは…これならいける! 二刀流もなかなか使えるもんだ!
 彼は帝国軍兵士を斬り倒していく。
「負けてられないわね、私も…。」
 セーラも補給が完了したらしく、敵陣へと突っ込む。その時だ。
「はうっ!」
 正面の残存兵が、散弾銃でデヴォイ達を銃撃する。デヴォイもセーラも、体を蜂の巣にされる。そして、その場にそのまま倒れ伏す。
 しばらくしてから、デヴォイの意識は回復する。銃創は全て、塞がっている。いや…これは塞がっているとは言えない…。深藍色の物質で埋められている…。ふと、横を見る。
 誰だ…この水色の髪の女性は…、え~と、さっきまで一緒にいたはずの…セーラだ。セーラ? 胸の鼓動を共有した人…どうして…どうして…目の前の女性は体中に穴が空き、血が流れている…? もう動かない…。どういう事だ…これは…これが…死? そういえば…俺…僕も昔体験した事がある…僕自身が…一度死んでいる…どういう事だ…?
 鐘の音が聞こえる。震えるデヴォイの左肩の上に、球体の悪魔が現れる…。彼は今、【夜】の力を呼び出している。
 この感覚は何だ…悲しい…怒り…そんなものじゃない…気持ち悪いし不可解で、きっと誰もが知らないような感覚…。名付けるならば“既死感”…“デス・デ・ジャ・ヴュ”。
 デヴォイの両手が消滅する。代わりにそこには足まで届く大きな鋏が現れる。彼は今、【斬】の力を呼び出している。
 また鐘の音が聞こえる…。異形の悪魔が再び増える。
「夜の宴の準備をしよう…。」
 その声からは何の感情も読みとれない…。
 デヴォイの全身が深藍色へと代わり、胸の部分に一つの突起が生まれる。彼は今、【破】の力を呼び出している。
 鐘は再び鳴り、悪魔もそれに合わせて増えていく…。今、それを目にしている先程の帝国兵達は、身がすくんで全く動けない状態である。呼吸をする事さえ、とうに忘れている。
 十二回目の鐘が鳴り、球体の悪魔は全て目の前の兵士達を凝視している。
 鋏が、大きく開く。
 胸の突起の中から、巨大な砲身が現れる。
 その全ての力が、発動された。
 これが後に言う、『ウェポン』発動である。
 彼の銀髪はその時の力の放出で現在の茶髪へと変わる。マイアが一瞬分からなかった所以である。
 
 そして再び彼の記憶は途切れ、無職の魔法剣士、デヴォイ=マクシミリアンとして、各地の魔法大会や剣術大会で賞金稼ぎをしていたところから始まり、今に至る。
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