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第八話 天国
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「私はこの世界に新しく来た魂を温かく迎え、全ての魂達を見守る全能の存在として作られた。私は彼らの望みをどんなことでも叶え、彼らは私に心から感謝し、像を建てたり宮殿を作ったり、それぞれのやり方で私を崇めてくれた。最初は何も無かった天国も、彼らの作った作品達で溢れるようになった。ここには様々な魂が共存するため魂同士が争いを生まないように配慮する必要があり、そのために私はお互いが不快になるような言動をできないように制限したが、魂達は誰一人それを拒まなかった。ここでは全てが満ち足りていて、皆平等だったからそもそも争う理由がなかったのだ。
ただ私にもできないことがあった。それは彼らの嫌がることをすることと、彼らを消滅させることだ。おそらくこの世界が苦痛と死から逃れたいという願望によって生まれたからだろう。しかしそんなことは全く問題なかった。彼らはここに来られたことをこの上なく喜び、私はそんな彼らを見るのが楽しかった。私たちは無限の時の中で、そうやって何万年も何億年も暮らし続けた。
しかし、私たちの知らない間にこの天国という場所が持つ根本的な問題がゆっくりと、だが確実に忍び寄ってきていたんだ。貴方ももう知っているだろう。時が経つにつれて、彼らはかつてのように私に頼み事をすることが減っていき、ついに彼らは私に話しかけてこなくなった。私は不思議に思い彼らに尋ねた。彼らは楽しいこと、心の動くこと全てをやり尽くしてしまった、この語も何億年何兆年とここで暮らし続けることを考えると耐えがたい恐怖さえ感じるのだと言った。私は焦った。彼らの目がかつて無いほど苦悩に満ちていたからだ。でも私は諦めなかった。私は彼らに幸せを与えるために作られた、幸福の国の主なのだ。私は自分に言い聞かせた。そしてまだ見つけていない楽しみを必死に探し、彼らに持ってきた。彼らとまたもう一度あの頃のような暮らしができるように。しかしそれも問題を解決することはできず、ただ先送りにするだけだった。
彼らはゆっくりと首を絞められているかの如く永遠に生きること強く苦しみ始めた。私は考えた。彼らを本当に幸せにするにはどうすればいいのだろうと。そしてある答えにたどり着いた。しかし行き着いた答えを私は気に入らなかった。私は何度も何度も考え直したが、結果は同じだった。」
僕はなぜか、"神"が涙を流し始めたように感じられた。"神"は続けた。
「永遠の幸せなんて、最初から無かったのだ。本当に恐れるべきだったのは死ではなく、永遠の命の方だったのだ。
ついにそれ以上生き続けていることに耐えられなくなった魂達は私に、彼らを無に還して欲しいと懇願した。私が断り、それをすることだけはできないのだと言うと、彼らは絶望のあまり絶叫し、のたうち回り、悶え苦しんだ。ここに来たことを呪いさえした。
私はそんな彼らに心から同情した。そして考えた。私には彼らを消すことはできないが変質させることはできる。だから彼を苦しめる元凶である、時間、世界、自分のことを考える能力を取り除いてはどうかと思ったのだ。
彼らの本能や欲望と言われる部分を取り除いてしまうことはできない。利他的なものも含めて人間のどんな行動も自分の利益のためであり、利益を追い求めるという行動は欲望や本能からのみ生じるものだからだ。だから欲望を奪った場合それに従って機能している理性は目的を失うことで動かなくなり、そうなった魂は存在しないことと同じだから、それらを奪うことは彼らを消滅させることになるため、私にはしようと思ってもできなかった。
永遠の時間から逃れることに必死になっていた魂達は私の提案を聞くと何が起きるか分からないながらも、それを喜んで受けた。
私はその時のことを今でもはっきり覚えている。救いを求める魂のうちの一人が最初の実験台に名乗り出て、皆の前で私に始めてくれと頼んだ。私は少しためらいつつも彼の勢いに押され、彼の頭に手をかざして時間と世界と自分について考える力を限りなく小さくした。
直後彼の体に変化が起こり始めた。最初は皆何が起きているのか分からなかった。彼の頭の表面に、まるでそれが薄い膜であるかのように裂け目がはいり、少しずつ破れ始めたのだ。予想だにしなかった変化に皆が驚いている間も、亀裂はどんどん広がってゆき、ついには彼の顔も破けてしまい、無数の何かが、膜の下にずっと閉じ込められていたかのように、折りたたまれていた体を広げながら溢れ出てきた。私たちは凍り付いた。現れたのは見ているだけで吐き気を催すような、醜く、恐ろしい、大小様々な化け物だった。それら体はいずれも四肢や目、耳、内蔵など人間らしい部品から構成されていたが、それがかえって気味の悪さを際立たせていた。
私はこんなことになろうとは思ってもみなかった。私たちが見ている前で、生まれた化け物の一つは突然近くにいた人間の一人を捕らえ、取り憑いてきつく締め上げた。締め上げられた人間は振り払って逃げようとしたが体が力に耐えきれなくなり、やがて同じように裂け目が入って中から似たような化け物の一団が引きずり出された。
その時初めて、見ていた者の一人が悲鳴をあげた。その声で私たちは我に返り、皆逃げ出した。しかしずっと一緒にいた仲間を予想だにしなかった形で失ったショックもあり、すぐに動けなかった者も少なからずいた。そういった者達から次々と捕まり、化け物は加速度的に増えていった。私は化け物になってしまった魂達にもう一度理性を戻そうとしたが、全て拒否されて無駄に終わった。私は残った魂を連れてどこまでも遠くまで逃げた。
ただ私にもできないことがあった。それは彼らの嫌がることをすることと、彼らを消滅させることだ。おそらくこの世界が苦痛と死から逃れたいという願望によって生まれたからだろう。しかしそんなことは全く問題なかった。彼らはここに来られたことをこの上なく喜び、私はそんな彼らを見るのが楽しかった。私たちは無限の時の中で、そうやって何万年も何億年も暮らし続けた。
しかし、私たちの知らない間にこの天国という場所が持つ根本的な問題がゆっくりと、だが確実に忍び寄ってきていたんだ。貴方ももう知っているだろう。時が経つにつれて、彼らはかつてのように私に頼み事をすることが減っていき、ついに彼らは私に話しかけてこなくなった。私は不思議に思い彼らに尋ねた。彼らは楽しいこと、心の動くこと全てをやり尽くしてしまった、この語も何億年何兆年とここで暮らし続けることを考えると耐えがたい恐怖さえ感じるのだと言った。私は焦った。彼らの目がかつて無いほど苦悩に満ちていたからだ。でも私は諦めなかった。私は彼らに幸せを与えるために作られた、幸福の国の主なのだ。私は自分に言い聞かせた。そしてまだ見つけていない楽しみを必死に探し、彼らに持ってきた。彼らとまたもう一度あの頃のような暮らしができるように。しかしそれも問題を解決することはできず、ただ先送りにするだけだった。
彼らはゆっくりと首を絞められているかの如く永遠に生きること強く苦しみ始めた。私は考えた。彼らを本当に幸せにするにはどうすればいいのだろうと。そしてある答えにたどり着いた。しかし行き着いた答えを私は気に入らなかった。私は何度も何度も考え直したが、結果は同じだった。」
僕はなぜか、"神"が涙を流し始めたように感じられた。"神"は続けた。
「永遠の幸せなんて、最初から無かったのだ。本当に恐れるべきだったのは死ではなく、永遠の命の方だったのだ。
ついにそれ以上生き続けていることに耐えられなくなった魂達は私に、彼らを無に還して欲しいと懇願した。私が断り、それをすることだけはできないのだと言うと、彼らは絶望のあまり絶叫し、のたうち回り、悶え苦しんだ。ここに来たことを呪いさえした。
私はそんな彼らに心から同情した。そして考えた。私には彼らを消すことはできないが変質させることはできる。だから彼を苦しめる元凶である、時間、世界、自分のことを考える能力を取り除いてはどうかと思ったのだ。
彼らの本能や欲望と言われる部分を取り除いてしまうことはできない。利他的なものも含めて人間のどんな行動も自分の利益のためであり、利益を追い求めるという行動は欲望や本能からのみ生じるものだからだ。だから欲望を奪った場合それに従って機能している理性は目的を失うことで動かなくなり、そうなった魂は存在しないことと同じだから、それらを奪うことは彼らを消滅させることになるため、私にはしようと思ってもできなかった。
永遠の時間から逃れることに必死になっていた魂達は私の提案を聞くと何が起きるか分からないながらも、それを喜んで受けた。
私はその時のことを今でもはっきり覚えている。救いを求める魂のうちの一人が最初の実験台に名乗り出て、皆の前で私に始めてくれと頼んだ。私は少しためらいつつも彼の勢いに押され、彼の頭に手をかざして時間と世界と自分について考える力を限りなく小さくした。
直後彼の体に変化が起こり始めた。最初は皆何が起きているのか分からなかった。彼の頭の表面に、まるでそれが薄い膜であるかのように裂け目がはいり、少しずつ破れ始めたのだ。予想だにしなかった変化に皆が驚いている間も、亀裂はどんどん広がってゆき、ついには彼の顔も破けてしまい、無数の何かが、膜の下にずっと閉じ込められていたかのように、折りたたまれていた体を広げながら溢れ出てきた。私たちは凍り付いた。現れたのは見ているだけで吐き気を催すような、醜く、恐ろしい、大小様々な化け物だった。それら体はいずれも四肢や目、耳、内蔵など人間らしい部品から構成されていたが、それがかえって気味の悪さを際立たせていた。
私はこんなことになろうとは思ってもみなかった。私たちが見ている前で、生まれた化け物の一つは突然近くにいた人間の一人を捕らえ、取り憑いてきつく締め上げた。締め上げられた人間は振り払って逃げようとしたが体が力に耐えきれなくなり、やがて同じように裂け目が入って中から似たような化け物の一団が引きずり出された。
その時初めて、見ていた者の一人が悲鳴をあげた。その声で私たちは我に返り、皆逃げ出した。しかしずっと一緒にいた仲間を予想だにしなかった形で失ったショックもあり、すぐに動けなかった者も少なからずいた。そういった者達から次々と捕まり、化け物は加速度的に増えていった。私は化け物になってしまった魂達にもう一度理性を戻そうとしたが、全て拒否されて無駄に終わった。私は残った魂を連れてどこまでも遠くまで逃げた。
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