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第七話 神
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僕は目をこらした。遠くの方に今まで見たことのない色の光がぼんやりと見えた。喉がゴクリとなった。不思議なことに一目見てそれをこの世界の中心だと確信できた。ついにたどり着いたんだ。あの場所こそが魂の最後に行き着く場所だ!
僕は駆けだした。あそこに僕のずっと求めていたものが全てある。他の魂に会える。この永遠の苦しみを終えられる。ついに僕は報われる!
足下に流れる不思議な色の花が増え始めた。遠くから見えたのはこの花の色だったんだ。僕は頭の片隅でそう思い、さらに速度を上げた。花はどんどん増え続け、やがて僕は見渡す限りの花に囲まれていた。僕は急いで神の姿を探した。そして近くに何か大きなものが花に囲まれてたたずんでいるのを見つけた。あれが神に違いない。僕はゆっくりとそれに近づいてよく見た。しかしそれが何か分かると同時に、僕の想像していたものとあまりにかけ離れたその姿にたじろいだ。
そこには、荘厳なほど巨大な心臓が、脈打ちながら横たわっていた。僕は上を見上げてそれを眺めた。赤黒い不気味な空の下にそびえるそれは、グロテスクではあったが同時に不思議な畏怖の念を感じさせて、これが僕の探していた神かも知れないと感じた。
「あ、貴方が...神様ですか?」僕が恐る恐る話しかけたその時、それはテレパシーのようなものを使ってきた。普通にものを聞く時とは逆に、頭の中に概念が現れ、それが僕の中で言葉に置き換わって口から出てきた。「それに似たものではあるが、貴方を含め人間の間で伝わる神とは少し違う。
貴方の口を借りて申し訳ない。私はかつての力のほとんどを失い、話すことのできないこの姿になってしまった。こうする他無いのだ。」
「大丈夫です。」僕は想像もできなかった意思疎通の方法に少し戸惑いながら応えた。「まず、ほとんどの宗教で語られるのは神が世界と人間を作ったという話だが、私は人間を作ってはいない。私が人間によって作られたのだ。」僕は困惑した。「人間に作られた?」「そうだ。現世に生きる人間の無意識の、そのまた奥底、一番深いところでは意識は密かにつながり、集合意識を形成している。その集合意識が元の宇宙に付属するこの意識世界を作り出した。その時私も同時に生み出されたんだ。」「待ってください、じゃあこの世界には始まりがあるんですか?」
"神"は答えた。「一番初めにある人間が考えたんだ。自分は死んだ後どこに行くのだろうと。彼は自分という存在がいつか消えてしまうことを恐れ、飢えも渇きも寒さもない、幸せのみが存在する世界を夢想した。誰であったかは分からないし、そんな事はどうでもいい。純粋な欲の他に、理性を獲得した人間という種は、どんな文化圏にいてもいずれ考えつくところだからだ。彼の考えが伝わったり、他にそれを考えついた者が現れたりして、その考えはいつしか人間全体が持つようになっていった。その集合意識が形成した、魂だけが行くことのできる意識世界、それがこの天国なんだ。
主観的な経験、いわゆる意識や魂といったものは本来物質と物理法則によって全てが回っている宇宙にはそぐわない少し不自然なものだから、そういったものを超越できたのかも知れない。もしくは、宇宙は観測するものがあって初めて存在するから、最初から魂には世界を創造する力があったのかも知れない。
理由ははっきりしないが、とにかくそれまで死ぬと無に還っていた魂は、その時から天国という楽園で永遠に存在することとなった。ここに来た魂はあらゆる苦痛、そして死からさえも解放された。魂達は永遠の命を約束され、ここに来た者にとって自分という存在の消滅に対する恐れは過去のものになったんだ。」
僕は神の話に衝撃を受けると同時に妙に納得した自分に驚いた。天国の様な人間中心の世界を作るのは人間しかいないと心のどこかで思っていたのかも知れない。
「ねえ、他の魂はどこにいるんですか。ずっと彼らに会いたくてここまで旅してきたんです。」
少しの沈黙の後、"神"は言った。「貴方は、もう彼らに出会っている。」
稲妻のような衝撃が僕を襲った。その瞬間に、僕は一瞬で全てを理解した。「ああ...そんな...まさか...」「そうだ。貴方がこの世界で出会ってきた不死身の異形達、あれこそが人間の魂達の成れの果てだ。」
「ぐあああ!」僕は膝から崩れ落ち、天を見上げて絶叫した。僕は彼らに会って話せることを心の支えにしてここまで何百年も旅してきたのに。この世界に残された最後の希望も潰えてしまった。僕は叫んだ。「何が彼らをあんな悍ましい化け物に変えた!」
「私だ。」"神"は言った。僕は耳を疑った。「何だと...」僕の心が無限大の殺意で支配されそうにそうになったとき、"神"は更に言った。「しかし彼らが『変えられた』というのは間違いだ。彼らは、自ら望んであの姿になったのだから。」
僕は何処までも狂った真実に打ちのめされた。そして残ったわずかな気力を振り絞って聞いた。「どういうことだ...ここで一体何があった?ここは...人の考え得る最高の楽園じゃなかったのか!」
"神"はすぐには答えなかった。遠い過去を思い返しているような沈黙の後、ゆっくりと語り始めた。
僕は駆けだした。あそこに僕のずっと求めていたものが全てある。他の魂に会える。この永遠の苦しみを終えられる。ついに僕は報われる!
足下に流れる不思議な色の花が増え始めた。遠くから見えたのはこの花の色だったんだ。僕は頭の片隅でそう思い、さらに速度を上げた。花はどんどん増え続け、やがて僕は見渡す限りの花に囲まれていた。僕は急いで神の姿を探した。そして近くに何か大きなものが花に囲まれてたたずんでいるのを見つけた。あれが神に違いない。僕はゆっくりとそれに近づいてよく見た。しかしそれが何か分かると同時に、僕の想像していたものとあまりにかけ離れたその姿にたじろいだ。
そこには、荘厳なほど巨大な心臓が、脈打ちながら横たわっていた。僕は上を見上げてそれを眺めた。赤黒い不気味な空の下にそびえるそれは、グロテスクではあったが同時に不思議な畏怖の念を感じさせて、これが僕の探していた神かも知れないと感じた。
「あ、貴方が...神様ですか?」僕が恐る恐る話しかけたその時、それはテレパシーのようなものを使ってきた。普通にものを聞く時とは逆に、頭の中に概念が現れ、それが僕の中で言葉に置き換わって口から出てきた。「それに似たものではあるが、貴方を含め人間の間で伝わる神とは少し違う。
貴方の口を借りて申し訳ない。私はかつての力のほとんどを失い、話すことのできないこの姿になってしまった。こうする他無いのだ。」
「大丈夫です。」僕は想像もできなかった意思疎通の方法に少し戸惑いながら応えた。「まず、ほとんどの宗教で語られるのは神が世界と人間を作ったという話だが、私は人間を作ってはいない。私が人間によって作られたのだ。」僕は困惑した。「人間に作られた?」「そうだ。現世に生きる人間の無意識の、そのまた奥底、一番深いところでは意識は密かにつながり、集合意識を形成している。その集合意識が元の宇宙に付属するこの意識世界を作り出した。その時私も同時に生み出されたんだ。」「待ってください、じゃあこの世界には始まりがあるんですか?」
"神"は答えた。「一番初めにある人間が考えたんだ。自分は死んだ後どこに行くのだろうと。彼は自分という存在がいつか消えてしまうことを恐れ、飢えも渇きも寒さもない、幸せのみが存在する世界を夢想した。誰であったかは分からないし、そんな事はどうでもいい。純粋な欲の他に、理性を獲得した人間という種は、どんな文化圏にいてもいずれ考えつくところだからだ。彼の考えが伝わったり、他にそれを考えついた者が現れたりして、その考えはいつしか人間全体が持つようになっていった。その集合意識が形成した、魂だけが行くことのできる意識世界、それがこの天国なんだ。
主観的な経験、いわゆる意識や魂といったものは本来物質と物理法則によって全てが回っている宇宙にはそぐわない少し不自然なものだから、そういったものを超越できたのかも知れない。もしくは、宇宙は観測するものがあって初めて存在するから、最初から魂には世界を創造する力があったのかも知れない。
理由ははっきりしないが、とにかくそれまで死ぬと無に還っていた魂は、その時から天国という楽園で永遠に存在することとなった。ここに来た魂はあらゆる苦痛、そして死からさえも解放された。魂達は永遠の命を約束され、ここに来た者にとって自分という存在の消滅に対する恐れは過去のものになったんだ。」
僕は神の話に衝撃を受けると同時に妙に納得した自分に驚いた。天国の様な人間中心の世界を作るのは人間しかいないと心のどこかで思っていたのかも知れない。
「ねえ、他の魂はどこにいるんですか。ずっと彼らに会いたくてここまで旅してきたんです。」
少しの沈黙の後、"神"は言った。「貴方は、もう彼らに出会っている。」
稲妻のような衝撃が僕を襲った。その瞬間に、僕は一瞬で全てを理解した。「ああ...そんな...まさか...」「そうだ。貴方がこの世界で出会ってきた不死身の異形達、あれこそが人間の魂達の成れの果てだ。」
「ぐあああ!」僕は膝から崩れ落ち、天を見上げて絶叫した。僕は彼らに会って話せることを心の支えにしてここまで何百年も旅してきたのに。この世界に残された最後の希望も潰えてしまった。僕は叫んだ。「何が彼らをあんな悍ましい化け物に変えた!」
「私だ。」"神"は言った。僕は耳を疑った。「何だと...」僕の心が無限大の殺意で支配されそうにそうになったとき、"神"は更に言った。「しかし彼らが『変えられた』というのは間違いだ。彼らは、自ら望んであの姿になったのだから。」
僕は何処までも狂った真実に打ちのめされた。そして残ったわずかな気力を振り絞って聞いた。「どういうことだ...ここで一体何があった?ここは...人の考え得る最高の楽園じゃなかったのか!」
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