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ラウリという人
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トゥーリッキが駅に着いたのは11時前だった。まだ時間には少し早い。この駅を使う人々が待ち合わせによく使う大きな時計の下の人混みに交ざると、彼女は胸が高鳴っているのを感じた。もうすぐラウリが帰ってくる。
ラウリと初めて出会ったのは高校のとき。彼は哲学の講義で私の前の席だった。無表情でいることの方が多かったけど、犬が好きだったり子供を楽しませるのが得意だったりする人だった。彼は何か起きても必要以上に取り乱したりしないところや、いつでも自分のしたいことを分かっているところはトゥーリッキに魅力的に映った。彼女が誘ってよく会うようになる内に、ラウリもいろいろなことを親しげに話してくれるようになった。
しかし高校を卒業して、トゥーリッキは地元の大学、ラウリは首都にある大学へ進んだから、それ以来直接会うのはこれが久しぶりだった。向こうは人の種類が違うだろうから、その中で暮らしているラウリもやっぱり変わっているだろうかと彼女は思った。
「トゥーリッキ。」行き交う人の流れを眺めていると、後ろから声がして、そこにラウリが立っていた。「久しぶりだね。髪、染めた?」そういった彼にトゥーリッキが返事しようとしたその時だった。視界に入った何かが妙に注意を引いた。
「トゥーリッキ。」全く同じラウリの声がさっきまで眺めていた人混みの中から聞こえた。彼女が振り向くと、そこにもう一人ラウリが立っていた。「その人は?」そう言って二人目のラウリが近づくと、二人のラウリはお互いの姿を見て固まった。直後に二人は説明を求めるようにトゥーリッキを見つめたが、彼女も訳が分からなくて混乱していた。同じ人間が二人いるという強烈な違和感にめまいがしてきて、彼女は二人のラウリを連れて行きつけの喫茶店へと入った。
「あなたは誰ですか。」席に着くと二人は同時に、お互いに聞いた。どちらも自分をラウリだと名乗った。そして、お互いに免許証を出してみろと言い合い、両方とも財布から出して見せた。二枚とも全く同じものだった。「どっち?ねえ、どっちが本物なの?」トゥーリッキは思わずそう言ったが、それはただ二人の食い違う主張を激しくさせるだけだった。
「初めて二人で見に行った映画の名前言ってみてよ。」トゥーリッキは二人しか知らないようなことをできるだけたくさん言わせてみることにした。「片方ずつ、耳元でね。」「スターウォーズだ。エピソード7。」二人は一字一句変わらない事を彼女の耳元でささやいた。どちらも正解だ。もしかしたら片方が言った答えが聞こえているのかも知れないと思い答える順番を変えたりしていろいろな質問を試してみたが、二人は正解するときは同時に正解し、片方が覚えていないことはもう片方も覚えていなかった。
しかし一つだけ違ったのは、例えば「この駅の地下にある輸入品の店には二人で行ったことはある?」と彼女が聞いたとき、「ないな。一回もなかったはず。」「行ったことなかったと思うよ。」と時々二人の正解の伝え方に微妙に差があることだった。彼女はそれが意味する所を考えた。この二人は全く同じ人物ではない、同じように見えて微妙に異なった二人の人間なのかもしれないと、そう感じた。でもどちらが本物のラウリなのかは、まだトゥーリッキには分からなかった。
彼女は二人をよく見比べた。さっきは全く同じに見えたが、こうしてよく見てみると細かいところが少し違っていた。「ねえ、二人とも腕だしてみて。」彼女は2本の腕を並べてよく見た。「どっちも前会った時より肌が黒いけど、あなたの方がこっちのラウリよりほんの少しだけ日に焼けてるよね。あと、髪の長さもちょっと違う。」「確かに。本当だ。」二人のラウリはお互いの腕を見て驚いて言った。でもそれだけでは本物を見分けるのに何の参考にもならない。トゥーリッキはしばらく会っていなかったから変化の過程を見ていなかった。
でも彼女は考え直した。これは二人がそれぞれ違う生活を送ってきたと言うことだ。いつ何をしていたのかを詳しく聞いていけばどこかできっと別なことを言うはず。本物のラウリは同時に一つの場所にしかいないんだから、ラウリが増殖する前に関わった人から話を聞けば、どちらかの言っていることが嘘だと分かるかも知れない。彼女は微かに肌の黒くてほんの少し髪の長い方を一人目のラウリ、もう片方を二人目のラウリと呼ぶことにした。
「じゃあ、最近どこに出かけたか言ってみてよ。」彼女が聞くと、二人は最近オリバー達と釣りに行ったと言った。二人にその日の行動をなるべく詳しく思い出して話してもらうと、二人目のラウリの話では一人目のラウリが帰った時間の後も粘って釣り続けていたことになっていた。その時間の差が肌の色の微妙な違いに影響したのだろうか。「よし!これでオリバーに帰った時間を聞けばどっちの言ってることが本当か分かるね。」オリバーはラウリと同じ大学に行った二人の共通の友達だ。
「ごめん、何時だったかな。覚えてねぇな。」トゥーリッキが電話をすると、オリバーは少し困惑したように言った。「何でそんなこと聞くんだ。」彼女が目をあげると、二人のラウリは慌てて首を横に振った。「まだ理由は話せない。けど大事なことなの。その日に一緒に行った友達にも覚えてないか聞いてみて。」「ああ、聞いてみるよ。分かったらすぐかけ直す。」そう言ってオリバーは電話を切った。
かけ直してきたオリバーは一緒に行った友達は誰も帰った時間を思い出せないと語った。皆時計を見た記憶はあっても時間が思い出せないと不思議がっていたそうだ。この不思議もラウリが増えてしまった不思議と関係しているのだろうか。どうやら周りの人の話で本物を見分けることはできないようだ。私が自分で判断しなければいけない、と彼女は思った。
結局、その日はラウリがどうして二人になったのかも、どちらが本物なのかも分からなかった。二人のラウリがこの状態で実家に帰って騒ぎを起こしたくないというので、一人暮らししている彼女の部屋にしばらく泊めておくことにした。
どうしてどっちが本当のラウリか分からないんだろう、一番よく知ってる人のはずなのに。彼らを居間に残して寝室で一人になると、トゥーリッキは一人で考えた。どちらが本物か分からないくらいそっくりな偽物なら、もうそれは本物と変わらないんじゃないかな、という考えがふと頭をよぎった。いや。彼女はかぶりを振った。私にとってのラウリは一人のはず。私が同じ時間を過ごしてきたラウリは間違いなく一人しかいない。
あれ。
その時トゥーリッキはおかしな事に気が付いた。ラウリのことを考えていても、彼の印象が湧き上がってこないのだ。彼女自身も何が起こっているのか分からなかったが、とにかくそうだった。一緒にどこかへ行った事実や彼の顔を思い出すことはできるのに、それらを思い出したときに感じる何かが今は抜け落ちていた。まるで私にとってのラウリが...私の頭の中のラウリが外に出てきたみたい。
トゥーリッキは少しずつ分かってきた気がした。たぶん、本物は一人目のラウリ。彼女が彼に出会う前から存在しているラウリだ。二人目は、彼女がラウリという名前を聞いた時思い浮かべるイメージ、これまで見てきた全てのラウリの言葉、行動、仕草から彼女が再構成したラウリの中身、人格火、それに近いものかも。だから顔、口調、歩き方に至るまで、ラウリそのものだった。どうして私の頭から外に出てきたのかは分からないけど。だけどラウリの、私の知らない面や、まだ私が理解できていない面が二人のラウリをほんの少し違うものにしているのかも。
ラウリはかなりアウトドア派の人だったにもかかわらず、駅で私と再会した日を境にあまり外に出なくなった。口数も減った。自分がもう一人現れたことを受け入れられない様子だった。トゥーリッキは両方とも励まそうとして明るく振る舞ったが、彼はどうしてそんなに楽観的になれるんだ、と言ってそれぞれ別の部屋に引っ込んでしまった。
このままじゃいけない。なんとかしなくては。トゥーリッキは考えた。
でもどうやって?ラウリの人数が元に戻らない限り、どちらのラウリも以前の元気を取り戻すことはない。ならいっそ二人目を殺してしまおうか。いや、絶対に無理。私にはそんなことできない。
出てきたときと同じようにいきなり消えたりしないかな。私がもっとラウリについて理解したら?二人目のラウリはどんどん一人目のラウリに近づいていって、最後にはきっと全く同じ人間になる。
その時きっと何かが起こるような気がしてならなかったトゥーリッキは、ラウリという人についてもっとちゃん知ろうと心に決めた。本物のラウリと一緒に過ごす時間を増やして、もっといっぱい話すようにした。
「へぇ、お前ってそういうとこあったんだ、知らなかった。」ラウリがそういったとき、彼女は初めて彼とちゃんと話さなくなっていたことに気づいた。出会った頃はそんなことなかったのに。気づけば誰かの話ばかりしていて、お互いの話をしなくなっていた。ラウリのことを一番知っているのは自分だと思っていたのに、彼女は自分が彼の表面しか知らなかったことに気付き始めていた。
異変は急に訪れた。ある日彼女が帰ってくると、二人のラウリが「癒着していた。」玄関を開けたトゥーリッキの目に飛び込んできたのはくっついた左腕と右腕を引き剥がそうとする二人のラウリの姿だった。「何...やってるの?」
「うぅ...助けてくれ...頼む、突然くっついて取れないんだ。」彼女は恐る恐る近づいてその腕を見た。「どうなってるの。」一人目の左腕と二人目の右腕が、元々くっついていたかのように同化している。トゥーリッキはこれは自分の行動が引き起こしたものだとなんとなく分かった。
二人のラウリは協力してくっついた部分を包丁で切断しようとしたらしいが、切ったそばからまたくっついていくのだという。病院に行くわけにも行かないし、多分行ってもどうしようもないので、本人達には悪いが彼女はくっついたラウリをそのままにしておくことにした。
次の日には二人もラウリはくっついていた腕を失い、右肩と左肩でくっついていた。どうやら日を追うごとに進行していくようだった。彼女は二人目のラウリが昨日から少し元気がないことに気づいた。反対に一人目の方は生き生きしている。彼女は表面上は二人目のラウリを心配したが、心の片隅では二人が完全にくっついたとき、二人目のラウリは消滅するだろう事をなんとなく感じていて、この状況をしばらく我慢する事と引き換えに全て元道理になる事を知っていた。そしておそらく二人のラウリもそのことに薄々気付き欠けているようだった。
「寒い...助けて...腹が減った。」胴がくっついた頃、二人目は震えながら言った。「いくら食べても全然良くならないんだ。お前の方に持って行かれる。」一人目の方はそんな二人目と目を合わせられないようだった。もうすぐ全てが元に戻ることが分かっているようだった。
ラウリがくっついたことで使わなくなった一人目のラウリの部屋を片付けていると、スマホの通知音が聞こえた。ラウリが置き忘れていたようだった。ふと画面を見ると、知らない女の子の名前が出ていた。
胸騒ぎがした。そんなはずはない、ラウリは
ラウリと初めて出会ったのは高校のとき。彼は哲学の講義で私の前の席だった。無表情でいることの方が多かったけど、犬が好きだったり子供を楽しませるのが得意だったりする人だった。彼は何か起きても必要以上に取り乱したりしないところや、いつでも自分のしたいことを分かっているところはトゥーリッキに魅力的に映った。彼女が誘ってよく会うようになる内に、ラウリもいろいろなことを親しげに話してくれるようになった。
しかし高校を卒業して、トゥーリッキは地元の大学、ラウリは首都にある大学へ進んだから、それ以来直接会うのはこれが久しぶりだった。向こうは人の種類が違うだろうから、その中で暮らしているラウリもやっぱり変わっているだろうかと彼女は思った。
「トゥーリッキ。」行き交う人の流れを眺めていると、後ろから声がして、そこにラウリが立っていた。「久しぶりだね。髪、染めた?」そういった彼にトゥーリッキが返事しようとしたその時だった。視界に入った何かが妙に注意を引いた。
「トゥーリッキ。」全く同じラウリの声がさっきまで眺めていた人混みの中から聞こえた。彼女が振り向くと、そこにもう一人ラウリが立っていた。「その人は?」そう言って二人目のラウリが近づくと、二人のラウリはお互いの姿を見て固まった。直後に二人は説明を求めるようにトゥーリッキを見つめたが、彼女も訳が分からなくて混乱していた。同じ人間が二人いるという強烈な違和感にめまいがしてきて、彼女は二人のラウリを連れて行きつけの喫茶店へと入った。
「あなたは誰ですか。」席に着くと二人は同時に、お互いに聞いた。どちらも自分をラウリだと名乗った。そして、お互いに免許証を出してみろと言い合い、両方とも財布から出して見せた。二枚とも全く同じものだった。「どっち?ねえ、どっちが本物なの?」トゥーリッキは思わずそう言ったが、それはただ二人の食い違う主張を激しくさせるだけだった。
「初めて二人で見に行った映画の名前言ってみてよ。」トゥーリッキは二人しか知らないようなことをできるだけたくさん言わせてみることにした。「片方ずつ、耳元でね。」「スターウォーズだ。エピソード7。」二人は一字一句変わらない事を彼女の耳元でささやいた。どちらも正解だ。もしかしたら片方が言った答えが聞こえているのかも知れないと思い答える順番を変えたりしていろいろな質問を試してみたが、二人は正解するときは同時に正解し、片方が覚えていないことはもう片方も覚えていなかった。
しかし一つだけ違ったのは、例えば「この駅の地下にある輸入品の店には二人で行ったことはある?」と彼女が聞いたとき、「ないな。一回もなかったはず。」「行ったことなかったと思うよ。」と時々二人の正解の伝え方に微妙に差があることだった。彼女はそれが意味する所を考えた。この二人は全く同じ人物ではない、同じように見えて微妙に異なった二人の人間なのかもしれないと、そう感じた。でもどちらが本物のラウリなのかは、まだトゥーリッキには分からなかった。
彼女は二人をよく見比べた。さっきは全く同じに見えたが、こうしてよく見てみると細かいところが少し違っていた。「ねえ、二人とも腕だしてみて。」彼女は2本の腕を並べてよく見た。「どっちも前会った時より肌が黒いけど、あなたの方がこっちのラウリよりほんの少しだけ日に焼けてるよね。あと、髪の長さもちょっと違う。」「確かに。本当だ。」二人のラウリはお互いの腕を見て驚いて言った。でもそれだけでは本物を見分けるのに何の参考にもならない。トゥーリッキはしばらく会っていなかったから変化の過程を見ていなかった。
でも彼女は考え直した。これは二人がそれぞれ違う生活を送ってきたと言うことだ。いつ何をしていたのかを詳しく聞いていけばどこかできっと別なことを言うはず。本物のラウリは同時に一つの場所にしかいないんだから、ラウリが増殖する前に関わった人から話を聞けば、どちらかの言っていることが嘘だと分かるかも知れない。彼女は微かに肌の黒くてほんの少し髪の長い方を一人目のラウリ、もう片方を二人目のラウリと呼ぶことにした。
「じゃあ、最近どこに出かけたか言ってみてよ。」彼女が聞くと、二人は最近オリバー達と釣りに行ったと言った。二人にその日の行動をなるべく詳しく思い出して話してもらうと、二人目のラウリの話では一人目のラウリが帰った時間の後も粘って釣り続けていたことになっていた。その時間の差が肌の色の微妙な違いに影響したのだろうか。「よし!これでオリバーに帰った時間を聞けばどっちの言ってることが本当か分かるね。」オリバーはラウリと同じ大学に行った二人の共通の友達だ。
「ごめん、何時だったかな。覚えてねぇな。」トゥーリッキが電話をすると、オリバーは少し困惑したように言った。「何でそんなこと聞くんだ。」彼女が目をあげると、二人のラウリは慌てて首を横に振った。「まだ理由は話せない。けど大事なことなの。その日に一緒に行った友達にも覚えてないか聞いてみて。」「ああ、聞いてみるよ。分かったらすぐかけ直す。」そう言ってオリバーは電話を切った。
かけ直してきたオリバーは一緒に行った友達は誰も帰った時間を思い出せないと語った。皆時計を見た記憶はあっても時間が思い出せないと不思議がっていたそうだ。この不思議もラウリが増えてしまった不思議と関係しているのだろうか。どうやら周りの人の話で本物を見分けることはできないようだ。私が自分で判断しなければいけない、と彼女は思った。
結局、その日はラウリがどうして二人になったのかも、どちらが本物なのかも分からなかった。二人のラウリがこの状態で実家に帰って騒ぎを起こしたくないというので、一人暮らししている彼女の部屋にしばらく泊めておくことにした。
どうしてどっちが本当のラウリか分からないんだろう、一番よく知ってる人のはずなのに。彼らを居間に残して寝室で一人になると、トゥーリッキは一人で考えた。どちらが本物か分からないくらいそっくりな偽物なら、もうそれは本物と変わらないんじゃないかな、という考えがふと頭をよぎった。いや。彼女はかぶりを振った。私にとってのラウリは一人のはず。私が同じ時間を過ごしてきたラウリは間違いなく一人しかいない。
あれ。
その時トゥーリッキはおかしな事に気が付いた。ラウリのことを考えていても、彼の印象が湧き上がってこないのだ。彼女自身も何が起こっているのか分からなかったが、とにかくそうだった。一緒にどこかへ行った事実や彼の顔を思い出すことはできるのに、それらを思い出したときに感じる何かが今は抜け落ちていた。まるで私にとってのラウリが...私の頭の中のラウリが外に出てきたみたい。
トゥーリッキは少しずつ分かってきた気がした。たぶん、本物は一人目のラウリ。彼女が彼に出会う前から存在しているラウリだ。二人目は、彼女がラウリという名前を聞いた時思い浮かべるイメージ、これまで見てきた全てのラウリの言葉、行動、仕草から彼女が再構成したラウリの中身、人格火、それに近いものかも。だから顔、口調、歩き方に至るまで、ラウリそのものだった。どうして私の頭から外に出てきたのかは分からないけど。だけどラウリの、私の知らない面や、まだ私が理解できていない面が二人のラウリをほんの少し違うものにしているのかも。
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このままじゃいけない。なんとかしなくては。トゥーリッキは考えた。
でもどうやって?ラウリの人数が元に戻らない限り、どちらのラウリも以前の元気を取り戻すことはない。ならいっそ二人目を殺してしまおうか。いや、絶対に無理。私にはそんなことできない。
出てきたときと同じようにいきなり消えたりしないかな。私がもっとラウリについて理解したら?二人目のラウリはどんどん一人目のラウリに近づいていって、最後にはきっと全く同じ人間になる。
その時きっと何かが起こるような気がしてならなかったトゥーリッキは、ラウリという人についてもっとちゃん知ろうと心に決めた。本物のラウリと一緒に過ごす時間を増やして、もっといっぱい話すようにした。
「へぇ、お前ってそういうとこあったんだ、知らなかった。」ラウリがそういったとき、彼女は初めて彼とちゃんと話さなくなっていたことに気づいた。出会った頃はそんなことなかったのに。気づけば誰かの話ばかりしていて、お互いの話をしなくなっていた。ラウリのことを一番知っているのは自分だと思っていたのに、彼女は自分が彼の表面しか知らなかったことに気付き始めていた。
異変は急に訪れた。ある日彼女が帰ってくると、二人のラウリが「癒着していた。」玄関を開けたトゥーリッキの目に飛び込んできたのはくっついた左腕と右腕を引き剥がそうとする二人のラウリの姿だった。「何...やってるの?」
「うぅ...助けてくれ...頼む、突然くっついて取れないんだ。」彼女は恐る恐る近づいてその腕を見た。「どうなってるの。」一人目の左腕と二人目の右腕が、元々くっついていたかのように同化している。トゥーリッキはこれは自分の行動が引き起こしたものだとなんとなく分かった。
二人のラウリは協力してくっついた部分を包丁で切断しようとしたらしいが、切ったそばからまたくっついていくのだという。病院に行くわけにも行かないし、多分行ってもどうしようもないので、本人達には悪いが彼女はくっついたラウリをそのままにしておくことにした。
次の日には二人もラウリはくっついていた腕を失い、右肩と左肩でくっついていた。どうやら日を追うごとに進行していくようだった。彼女は二人目のラウリが昨日から少し元気がないことに気づいた。反対に一人目の方は生き生きしている。彼女は表面上は二人目のラウリを心配したが、心の片隅では二人が完全にくっついたとき、二人目のラウリは消滅するだろう事をなんとなく感じていて、この状況をしばらく我慢する事と引き換えに全て元道理になる事を知っていた。そしておそらく二人のラウリもそのことに薄々気付き欠けているようだった。
「寒い...助けて...腹が減った。」胴がくっついた頃、二人目は震えながら言った。「いくら食べても全然良くならないんだ。お前の方に持って行かれる。」一人目の方はそんな二人目と目を合わせられないようだった。もうすぐ全てが元に戻ることが分かっているようだった。
ラウリがくっついたことで使わなくなった一人目のラウリの部屋を片付けていると、スマホの通知音が聞こえた。ラウリが置き忘れていたようだった。ふと画面を見ると、知らない女の子の名前が出ていた。
胸騒ぎがした。そんなはずはない、ラウリは
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