ダンジョンハンターズ(最強のダンジョンハンターになった俺は、今度は次世代の師匠になります)

rimurugeto

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――ディビジョン襲撃トーナメント編――

――第18章・カイダンチョウ――

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――カイタンシャ本部・日本。

 二週間後――

 カイタンシャ本部の廊下を、エージェントたちが慌ただしく走り抜けていく。
 机に駆け込み、端末を立ち上げる者たちの横を、橘ハヤテとマリンが足早に通り過ぎた。

「レイド開始まであと十二時間だ!」ハヤテが声を張る。「ダンジョンの一ミリ残らず、しっかり監視しろ!」

「了解!」エージェントたちが一斉に敬礼する。

 ハヤテが角を曲がった瞬間、待ち構えていたカメラクルーが飛び出し、女性レポーターがマイクを突き出した。

「カイタンシャ・ディレクター橘さん!」
「本当に、オマリロ・ニュガワがトーナメントに参加すると?」

「事実だ」ハヤテは即答した。

「伝説のカイタンシャを復帰させるとなると、勢力図やバランスに大きな変化が出るのでは? 物議を醸す声も――」

「問題ない」ハヤテはきっぱりと言う。「ニュガワは今でも尊敬される男だ。全カイダンに、秘箱《ヒバコ》を狙う公平なチャンスを与える」

「この大会は海外でも放送されますか? 世界中が、ニュガワの戦いを見たがっています!」

「これ以上の質問は受け付けない」

「ちょっと、あと一つだけ――!」

 ハヤテは強引に横を抜け、マリンもそれに続いた。
 執務室に戻ると、マリンが口を開く。

「カイダンチョウへの通達が必要かと存じます。規定では、十二時間前までに招集を知らせることになっています」

「いい案だな」ハヤテは頷く。「各カイダンチョウの居宅に、エージェントを飛ばせ」

「了解しました」

 マリンはスマホを取り出し、そのまま姿を消す。
 ハヤテは一人、モニターに中目黒エリアの映像を映し出した。

「秘箱ミスティック……今年は誰の手に渡る?」

――日本・田園調布。

 ドゴン、ドゴン、ドゴン――

「もっと腰入れろ、兵ども! 筋肉は裏切らん!」

 広い自宅ジムの中で、オレンジ色の髪と瞳をした筋骨隆々の男が、オレンジと黒のスーツに身を包んだ若いカイタンシャたちを相手にスパーリングをしていた。

「隊長……少し、休憩を……」

 男は腕を組み、ニッと笑う。

「よし。前回より十秒長く持ちこたえた。特別に、水を許可する! 厨房へ散れ!」

 隊員たちが歓声を上げたちょうどその時、ドアがノックされる。
 男――レツカイダンのカイダンチョウ、深山ガクトがドアを開けると、エージェントが一人立っていた。

「レツカイダン・カイダンチョウ、深山ガクト殿」エージェントが告げる。「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待状をお持ちしました」

 ガクトは封筒をひったくるように受け取る。

「ご苦労、ちっこいの! 今年も派手に燃やしてやる!」

 エージェントは一礼し、消える。

「聞いたか、お前ら!」ガクトが叫ぶ。「トーナメントが来るぞ! 気合い入れろ!」

「サー、イエスサー!」

――日本・白金台。

 柔らかな紫色の髪と瞳を持つ少女が、自室の鏡の前で、静かに髪を梳いていた。
 コツ、コツとノックの音。

『ミズキー! お客様よ!』

「すぐ参ります、お母さま」

 階段を下り、玄関を開けると、エージェントが立っていた。

「おはようございます」エージェントが丁寧に頭を下げる。「セイカイダン・カイダンチョウ、西園寺ミズキ様。レイド・トーナメントへの招待状です」

「ありがとうございます」

 ミズキは優雅に一礼し、封筒を受け取った。

――日本・成城。

 成城の門構えの立派な邸宅に、一台の車が止まる。
 エージェントが門へ歩いていくと、二人のカイタンシャが前に立ちふさがった。

「止まれ」一人が言う。「ここは我らがカイダンチョウの邸宅だ。用件は?」

「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待だよ」エージェントは肩をすくめる。「ったく、もう少し気を抜けないのか?」

 二人は一度顔を見合わせ、門を開けた。

「さっさと済ませろ」

 エージェントは車を敷地内に入れ、玄関をノックする。
 出てきたのは、ボサボサの黒髪に眠たげな目をした青年。ガウン姿で、あくびを噛み殺している。

「……何」

「こちらが、ソウカイダン・カイダンチョウ、神代コウイチ様への招待状です」

 コウイチはぶっきらぼうに封筒をひったくる。

「了解。帰れ」

 バタン、と容赦なくドアが閉められ、エージェントは小さく舌打ちした。

「感じ悪いガキだな……」

――日本・代官山。

 広い庭園で、栗色の髪を結い上げた着物姿の少女が、数人の若い女性とちゃぶ台を囲み、お茶を楽しんでいた。

「すごかったのよ! 一気に五千階以上、駆け抜けちゃって!」

「一万階はクリアしたことあるの?」

「ないけど、八千五百階までは行ったわ! 一人でね!」

 そこへエージェントが近づき、咳払いをする。

「失礼します、お嬢さん方」

 彼は封筒を差し出した。

「コウカイダン・カイダンチョウ、月島カオル様。ディビジョン・レイド・トーナメントへの出場をお願いしたく存じます」

 カオルは目を輝かせて受け取る。

「ありがとうございます、ありがとうございます! みんな、観ててね、最高のショーにするから!」

 周りの女子たちは、きゃあきゃあと騒ぎながら、覗き込むように招待状を見つめる。

「ふふっ、楽しみになってきた~!」

――日本・青山。

 道場の中。長い金髪と氷のような青い瞳を持つ女性が、静かに正座し、瞑想していた。
 トン、と控えめなノック。女中が顔を覗かせる。

「お嬢さま」女中が言う。「その時が来たようです」

 女性はすっと立ち上がり、その長身と歩き方だけで人を圧倒する。

「下がりなさい」

 女中は深く一礼し、部屋を出る。
 女性――ソウカイダンのカイダンチョウ、名取ユカが扉を開けると、若いエージェントが慌てて封筒を整えていた。

「おっとっと! すみません! こちらがソウカイダン・カイダンチョウ、名取ユカ様への招待状です! その……お美しい――じゃなくて、レイド・トーナメントへのご案内を!」

 ユカは無言で封筒を受け取り、中身に目を通す。

「また二位、ですって?」

 氷のような視線がふっと細くなる。

「この不名誉、決して赦されませんわ」

 瞳が凍りついたように冷え、女中は慌てて頭を下げて退室した。

――日本・赤坂。

 三人のエージェントが、人里離れた大きな邸宅の敷地へ続く小道を歩いていた。
 庭には、無数のゴーレム像が立ち並んでいる。

「気をつけろよ」先頭の一人が小声で言う。「砂原様は、冗談の通じる相手じゃない」

 他の二人も、こくりと緊張気味に頷く。
 玄関前に立つと、意を決してノックした。

「話せ、小猫ども」

 鋭く低い声が内側から響く。

「ナラク・カイダン・カイダンチョウ、砂原アツシ様!」エージェントが声を張り上げる。「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待に参りました! 前回大会の優勝、お祝い申し上げます!」

 扉が勢いよく開き、アツシが姿を現す。
 その眼光だけで、三人の膝が震えた。

「称賛はいらん。手紙だけよこして、とっとと失せろ」

「は、はいっ!」

 封筒を押し付けるように手渡し、三人は蜘蛛の子を散らすように去っていく。
 アツシは無造作に封を切り、鼻で笑った。

「小童どもが」

 手紙を放り投げる。

「ニュガワが戻った、か。今度は何を企んでいる?」

――東京都港区。

 ジュンペイは、オマリロの家の前に車を止めた。

「生きてればいいけどな……」ジュンペイはため息をつく。「十代三人と幽霊一人の相手とか、老人の仕事じゃねえだろ」

 玄関まで歩き、ノックする。
 ガチャ、と勢いよくドアが開き、カイタンシャの制服に身を包んだレイが顔を出した。

「♪はーい、こんにちはー♪」

 ジュンペイは思わず一歩下がる。

「お、おう。えっと、オマリロ・ニュガワは在宅か?」

「♪いるかも? いないかも? でもあなたはちょっと好きかも~♪」

 ジュンペイは襟を引き直し、咳払いした。

「冗談に付き合ってる暇はない。リーダーがいるか、いないか、だ」

「じゃあ、中入って見てみて!」

 レイに案内され、リビングへ。
 そこではハンとザリアがテレビゲームに夢中で、リカはスマホを構え、自撮りしながらしゃべっていた。

「みんなー!」レイが笑いながら叫ぶ。「オマリロさんにお客さまだよー!」

 三人は同時に動きを止め、ジュンペイを見る。

「またお前かよ」ザリアが鼻を鳴らす。「何しに来たんだ?」

「お願いだから、牢屋だとか言わないでくださいね!」ハンが青ざめる。「行くならリカからにしてください!」

 リカはスマホをハンに投げつけた。

「は? あんたが先でしょ!」

「……バカか、お前ら」ジュンペイは長くため息をついた。「今日はオマリロ・ニュガワに用がある。レイド・トーナメントに申し込んだんだろ。その招待状を持ってきた」

 三人は拍子抜けしたように固まる。

「あ、そういうことか」ザリアは立ち上がり、大声を張る。「師匠―! お客さんですよ!」

 次の瞬間、オマリロが現れる。険しい顔だ。

「税金はまだだ。帰れと言っておけ。さもなくば棒で顔を叩く」

 ジュンペイはおでこを押さえた。

「なるほど。そっくりに育ってるわけだ」

 オマリロはようやく彼に気づく。

「エージェントか。何の用だ」

 ジュンペイは封筒を差し出す。

「おめでとうございます。神カイダン・カイダンチョウ、オマリロ・ニュガワ様。ディビジョン・レイド・トーナメントへの正式な招待状です」

「ふむ」オマリロは唸る。「立派な紙だ」

「ええ。ようやくお渡しできたところで、私はこれで――」

 踵を返しかけたジュンペイは、ふと思い出したように振り向く。

「それと、ディレクターからの伝言です。レイド前夜祭のセレモニーに、ご出席いただけないかと。あなたの顔があるだけで、視聴率が跳ね上がりますから」

「式典は嫌いだ」オマリロはぼそりと呟く。

「わたし、セレモニー行きたいです!」リカが割って入る。「テレビに映るの最高じゃないですか!」

「一回出たら、どれも同じだって分かるぞ」ザリアは肩をすくめた。

「もし出席してくださるなら、午後五時ちょうどに会場まで」ジュンペイは続ける。「では」

 ジュンペイが去った後、リカが目を輝かせる。

「師匠、行きますよね? ね? お願いです!」

「パーティ?」レイが首をかしげる。「そんなの、まだあったんだ?」

 オマリロは招待状を一瞥し――

「……行く」

 リカは拳を突き上げた。

「よっしゃー! パーティだ!」

 そのまま廊下へ駆けていく。
 ハンは腕を組んだまま、それを眺めた。

「女ってやつは……」

 オマリロは時計を見る。

「二時間」

 そう言うや否や、その場からかき消えた。

「師匠、本物の幽霊かもしれないな……」ハンは首をかしげる。「あの消え方、どうなってんだ」

「ほら、ハン」ザリアが肘でつつく。「着替えんぞ」

「待て、遠慮しと――!」

 引きずられていくハン。
 レイもついていく。

「わーい! お茶会? 行く行く!」

 やがて時は過ぎ――出発の時間となった。

――日本・新宿区。

 西新宿の街路には、会場となる大型ホールを囲むように、ファンたちがひしめき合っていた。
 スピーカーからは賑やかな音楽が流れ、会場のライトが夜空を照らす。

「どいてどいて! カイダンチョウたち見えないじゃん!」

「どうやったら中入れるんだ?」

「オマリロ・ニュガワ来てる? サイン欲しい!」

「ゲスト以外は一定の距離を保ってください!」

 ジュンペイたちエージェントは必死で人波を押し返す。
 そのとき、数台のリムジンがゆっくりと会場前に横付けされた。

「やっとだ……」ジュンペイは胸をなで下ろす。「これで本番が始まる」

 リムジンのドアが一つ、また一つと開き、正装したカイダンチョウたちが姿を現す。
 カメラのフラッシュが一斉に光った。

「見ろ、神代カイダンチョウだ! 雰囲気あるな~!」

「あれ月島カオルじゃない? めっちゃ綺麗!」

「砂原カイダンチョウ、殺しに来てる顔つきなんだけど……」

 ジュンペイは彼らを迎え、会釈する。

「皆さま、ご来場ありがとうございます。こちらへどうぞ。式典会場へご案内いたします」

「ならば、さっさと行きましょう」ユカが先頭に立って歩き出す。

 建物の中は、光と音楽に満ちた大ホールだった。周囲のテーブルには招待客たちが座り、談笑している。
 正面には大きなステージ。そこに、マリンとハヤテが立っていた。

 カイダンチョウたちが一歩足を踏み入れた瞬間、会場の視線が一斉に集まり、照明が落ちる。

「我がカイダンチョウたちよ!」ハヤテが両手を広げる。「レイド前夜祭へようこそ!」

 一同が軽く頭を下げる。

「光栄に存じます、ディレクター」ユカが代表して答えた。

「では早速、ステージに上がってくれ!」

 拍手の中、カイダンチョウ全員がステージに並び立つ。

「ところで――ニュガワはどこだ?」

 ざわ、と客席が揺れた。

「どうせあのジジイの腰が壊れて、這ってるんだろ」砂原アツシが鼻で笑う。「来るとは思わんがな、ディレクター」

「誤報だ」

 自然と視線が入口へ向く。
 そこには、バスローブにローファーという場違いな格好のオマリロが立っており、その後ろから、きちんとドレスアップした子どもたちが顔を出していた。

「本物……!」

「ウソだろ、まだ生きてたのかよ……」

「なんか……寝起きみたいな格好してるけど!?」

 カイダンチョウたちは、それぞれ複雑な表情を浮かべる。
 オマリロがステージへ近づくと、ハヤテは満面の笑みで腕を広げた。

「いやあ、ニュガワ! その格好はちょっとラフすぎるが――来てくれて嬉しい!」

 オマリロは、ひょいとステージに飛び乗る。

「さっさと始めろ」

「まだまだ元気そうだな」コウイチがあくび混じりに言う。「案外、しぶとい」

「本当に」ユカが冷たく言い放つ。「この場にあの格好で現れるなんて。マナーはご存じなくて?」

「ちょ、ちょっと!」カオルが慌てる。「オマリロ様はレジェンドなんだよ!? もっと敬意払おうよ!」

「俺も賛成だ」ガクトが頷く。

「ディレクターのお話の最中ですよ」ミズキが静かに諫める。「私情は後でどうぞ」

 アツシは身をかがめ、オマリロを覗き込むように睨んだ。

「ニュガワ……一つも変わってないな」

 オマリロは視線だけを上げる。

「砂原も、相変わらずだ」

 アツシの目つきがさらに鋭くなるが、ハヤテが間に入るように声を張った。

「よしよし! 七人全員そろったところで――ランキングを表示してくれ!」

 エージェントが端末を押すと、各カイダンの順位が、カイダンチョウたちの頭上に浮かび上がる。

「最下位って、なんかムカつくな……」ザリアがリカに囁く。「一番カッコいいカイダンチョウがいるのに、ビリってどういうこと」

「大丈夫だよ!」リカは拳を握る。「私たちが弱くても、オマリロさんは弱くない! レイドボス、片手間で倒してたじゃん!」

「だよね、だよね!」

「他のカイダンチョウたち、師匠に変な目向けてますね」ハンは冷ややかに観察する。「性格悪いな」

 ランキング表示が一段落すると、背後のスクリーンに千代田ダンジョンの俯瞰図が映し出された。

「数時間後、この千代田ダンジョンを舞台に――」ハヤテが宣言する。「各カイダンが、今年の賞品《プライズ》――“ティア3・秘箱ミスティック”を賭けて争うことになる!」

 会場から、どよめきと驚きの声が上がる。

「ティア3ですって?」ユカが前に出る。「ディレクター、ティア3の秘箱が発見されたのは、五十年ぶりですわよ」

「その通りだ」ハヤテは誇らしげに頷く。「だからこそ、今年の大会は過去最大級の賭けになる。勝ったカイダンは、一気に戦力を底上げできる」

「ティア3……」ザリアが息を呑む。「それゲットできたら、私たちもめちゃ強くなれる。師匠と並んで戦えるかもじゃん」

「ってことは、他も全力で取りにくるってことだ」ハンが指を折る。「皆欲しがる。特に――うちの師匠が狙ってるって分かってる連中は」

「来るなら来い、だよ」リカがニヤリと笑う。「うちのカイダンチョウと一緒なら、嫉妬してる連中まとめて蹴散らしてやるんだから!」

「やったー!」レイも意味は分かってないまま拳を振る。

 カイダンチョウたちは互いに牽制するように視線を交わし合い、オマリロはただ黙ってバスローブの袖を整える。

「さて――」ハヤテが声を低めた。「ここで一つ、気になる問いが生まれる」

 スポットライトがオマリロを照らし、視線が集まる。

「ニュガワが戻ってきた今――」

 ハヤテはゆっくりと客席とステージを見渡した。

「――勝つのは、どのカイダンだ?」

 拍手と歓声が、会場を揺らした。

――
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