この世界の魔法は全ての人々を幸せにできるほど万能ではなかった

しぐれ

文字の大きさ
2 / 3

1話 ホンモノ

しおりを挟む
目が覚めると俺は見知らぬ空間にいた。

四方が真っ白な壁に囲われた1メートル程しか無い狭い部屋。



「ここは......どこだ?」



これからどうしようかと悩んでいると誰も居ない筈なのに突然人の声が聞こえてきた。



「やっと起きましたか。体調は大丈夫ですか?」



「脳に直接語りかけている......だと!」



「違いますよ。ほら耳にイヤホンが付いているでしょう?」



「なんだ......。異世界に転生して魔法でも使えるのかと思った」



「異世界転生は無理ですが、魔法ならこれから先嫌という程見ると思いますよ」



「え? それってどう言う......」



「ああ、そろそろ時間ですね。君にはこれからこの島で入学試験を受けてもらいます」



「は? 入学試験? ちゃんと説明してくれ」



 俺がそういうと一瞬ノイズが入りイヤホンから聞こえていた声は途絶え、それと同時に四方にあった壁が倒れる。周りに広がる景色を見て、俺は言葉を失った。何故なら――



 眼前にはアマゾンを彷彿とさせるような雄大な自然が広がっていたからだ。周りは木々が生い茂りどこかから水の流れる音も聞こえる。



「なにこれ……。ここで何日間か生き残ればいいの?」



 これからどうしようかと途方に暮れていると、近くからゲームなどでビームを打つ時の効果音と似ている音と女の人の悲鳴が聞こえてきた。このままでは何もしなくても死ぬことを悟った俺はその方向に向かってみることにした。



 音の下方向に少し進むと木が生えていない場所を見つけた。木の陰に隠れその周辺の様子をうかがうと、そこには衝撃的なモノがあった。



女性の死体。おそらく死んでからそこまで時間がたっていないのであろう。まだ彼女は息があり抉られた脇腹からは、血が絶えず出続けていた。いや。『抉られた』という表現は正しくないのかもしれない。穴が開いていた。物理的な破壊ではない。消滅したというのがこの場合の正しい表現なのだろう。恐らくこれは『魔法』によるものなんだろう。そのグロテスクな光景に、平和な国で生まれ育った俺が耐えられるわけもなく、吐き気がこみあげてくる。



「うっ……」



 この瞬間俺は覚悟した。この先人を簡単に殺せるような力と心を持つ奴と戦わなければいけないことを。俺はとりあえず自分が最初にいた場所に帰ることにした。



「本当に、これからどうしようかなぁ……」



 帰り道そんなことをぼやきながら歩いていると奇妙な物が落ちているのを見つけた。



「これは……。銃?」



拾い上げてみるとずっしりと重く、弾倉を確認してみると7発の弾が入っていた。俺が持っているこれは間違いなく本物の銃だった。



「おいおいまじかよ。これで戦えってことか……」



とりあえず武器が手に入ったのは大きな成果だ。最初いた場所に戻ると、大きめのリュックが1つ置いてあった。中を確認してみるとそこには飲み水と食料が入っていた。



「この分なら1週間は持ちそうだな」



 食料物資を確保できた俺はこれからどうするかを考え始めた。



「まずは拠点だな。誰にも見つからなさそうな安全な拠点を探そう」



 俺は考えたことをすぐに行動に移すためリュックを背負い準備をする。ニートだってさすがに自分の命がかかわってくる時は動くんです。



 周囲の探索をすること数時間。すっかり辺りも暗くなってきた所で俺は洞窟を見つけた。



「ちょうどいい。今日はここで一夜を明かそう」



洞窟の中は薄暗く、じめじめしていてとても過ごしやすい環境とは言えなかった。だが人に見つかりにくいという安心感と普段は動かしてない筋肉を大量に酷使した疲労感からか俺は一瞬で眠りにつくことができた。



快適な室温湿度の空間で部屋に8枚あるモニターを1つ1つチェックする。



「もう脱落者が出たのか。早いなー。ご冥福をお祈りします。なむなむ……」



 背後から声がする。



「人が死んでるのにそんなに適当でいいんですか?」



「いいんだよこんなもんで。ここにいる奴らは消えても困らないいわば『ゴミ』なんだからね。なむなむしてるだけでもありがたいと思ってほしいよ」



「そうですか。それよりも、彼にだけルールを伝えなくて本当によかったんですか? このままだと彼死んじゃうかもしれませんよ?」



「大丈夫だよ。彼は絶対に勝つ」



「何を根拠にそんなことを……。私はあの『ヴィザード(魔法使い)』が勝つと思いますけどね」



「根拠? そんなものはいらない。何せあの子の弟だからね。それに彼自身は気づいてないみたいだけど『力』を持っている。フフフ……たのしみだなぁ。僕の期待を裏切らないでくれよ。流川涼人るかわすずと君」



 耳についていたイヤホンはいつの間にか消えてなくなっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...