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58.光の精霊王の名前……興味ないわぁ。
しおりを挟む火の精霊王の話を聞きながら、愛し子の日記のページをめくる。
ゆっくりと見ていけば、ポエムの中に時おり日記らしい言葉が浮かんでいるのよ。
時系列がばらばらだから、急に思い出したことを書いているんだと思うわ。
たとえば……一番最初の日記らしい文はこれ。
“聖女様の結婚式に是非祝福を、と頼まれたの。
でも、エノーラは嫌だって言うの。結婚式なんて行かない方がいいって。
私に男の人が近付くのが嫌なんですって。どうしてかしら?
本当に、エノーラは心配症ね”
エノーラ……ずいぶん親しそうだけど、一体誰なのかしら。
なんとなく予想はつくけど、きっと考えちゃいけないことね。
「どうした?」
つい考え込んでしまった私の手元を、火の精霊王が覗きこんだわ。
そして、あぁ、と続ける。
「エノーラが誰かって悩んでるのか? エノーラは光だよ。光はいつでも愛し子の側にいる」
余計な事を言ってくれるじゃない。止める間もないなんて……。
精霊王の名前はゲームでは出てこないのよね。光の精霊王は、光の精霊王としか呼ばれない。
だから、確認しなければセーフ……だと思ったのに。
まぁいいわ。聞かなかった事にしちゃいましょう。
「そんなことより、前の愛し子とはずいぶん性格が違うのね」
「そうか? そんなに変わらないと思うが」
え、何言ってるの? 結構、って言うかかなり違うでしょう?
「前の愛し子は、この愛し子よりずっと明るそうに見えますわよ?」
失恋なんかへっちゃら、って言うか男に興味なさそうな勢いよね。
「それは多分、近くにいた人の影響だろう。前の愛し子の親は火と水の隣人だった。その上子供も多くて、とにかくにぎやかでいつもお祭りのようだった。愛し子はその末っ子として、思い切り可愛がられて育ったから……ずいぶん明るい性格だった」
へぇ、火と水なんて相性最悪な感じだけれど、子供がいっぱいって事はきっと仲良しだったのね。
そして毎日がお祭りな家……だから、加護も祝福もまきちらしたのね。
次の愛し子が困るなんて思いもしないでしょうからねぇ。
環境って大事……ため息がもれちゃうわね。
火の精霊王に向かって肩を竦めてみせてから、日記に視線を落とす。
私の予想で、愛し子の日記らしき文を順番に並べてみるわよ。
“夢の中で綺麗な女の人に会った。
美味しいお菓子をもらって、もっと食べたかったら、家に帰るって約束してって言われたの。
すごくおいしいお菓子だったから、いいよって約束した。【家】に帰るって意味が分からなかったけど。
目を覚ましてすぐその話をしたら、エノーラがすごく怒ったの。
どうして怒るの? って聞いたんだけど、エノーラは忘れてしまったならいいですって。
私、何を忘れちゃったんだろう?”
“エノーラに【家】ってとこに連れて行ってもらった。
そこには聖女様っていう人がいて、みんな困っているから助けて欲しいって言うの。
エノーラはそんなことしなくていいって言うけど、ただお願いするだけだからって言うから、聖女様の言うようにお願いした。
エノーラにまた怒られちゃった”
“ずいぶん前に会った聖女様が来てくれた。
私のおかげで、困っていた人がみんな助かったんだって。
ありがとうって言われたけど、私は何もしてないから。
エノーラがまた怒ってる。何でだろう?”
“聖女様から大事なものだからって本を渡された。
お父さんから、だって。
お父さんって、何かしら?
エノーラに聞いても、分からないって言うの。
聖女様が悲しそうな顔をしたけど、分からないものは仕方がないわよね。
お父さんが書いたって言う文を読もうと思ったけど、私の知っている文字じゃなかったから読めなかった。
エノーラにそう言ったら、それは気持ちを書くものだから読まなくていいって。
もったいないから思いついたことを書くことにした”
ここにさっきの文が入るんだと思うわ。
“結婚式、綺麗だった。
でも、何でだろう。ずっと涙が出て止まらないの。
聖女様やみんなは、感動したんだねって言うんだけど、このモヤモヤしてる気持ちが感動なのかな?
聖女様と勇者様が仲良くしているのを見ると、なんだかすごく胸が苦しいの。
エノーラが、だから結婚式なんて行くもんじゃないって、やっぱり怒ってる。
あのお菓子がまた食べたいなぁ”
“聖女様に子供が生まれたんだって。
加護を……って言われたけど、エノーラがそれを聞いてどっかに行っちゃった。
今は無理ですって言ったら、勇者様が怒りだした。
聖女様がかばってくれたけど、凄く怖かった”
“引っ越し、したの。
時々、勇者様が怒った時のことを思い出して、何か別の事も一緒に思い出しそうで、私が怖がるから。
もうこの【家】にはいないほうがいいって。
聖女様が探さないかなって言ったら、そんなこと考えなくてもいいって。
もう私はここに必要ないから、聖女様には探せないんだって。どういう意味だろう”
聖女はともかく、勇者は相変わらずね。
女の人って、女神……かしらね。
ちらりと火の精霊王を見れば、嫌そうに頷いてくれたわ。
女神……十分、くそ、ね。
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