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しおりを挟む魂が抜けたみたいな気分だったが、私は学園へ登校した。
馬車を降りるといつもなら挨拶が飛び交うのにそれがない。
不思議に思って辺りを見回すと、校庭の噴水の前に人だかりが出来ていた。
慌ててそこへ走りよると、見知った二人が向かい合っていた。
一人は私の愛するカレン。
もう一人は、昨日婚約を解消したミアだった。
「私がミアさんに認めてもらえないのが悪いのは分かっています。私への嫌がらせも許します。でも、もうリオン様を縛るのはやめてください!」
慌てて近付くと、カレンのそんな声が聞こえてきた。
何を言っているんだろう?
「ミア、カレン」
「リオン様!」
声をかけるとカレンが振り返る。
ミアは静かに私に向かって頭を下げた。周りの生徒たちも一斉にそれに倣う。
「ここは学園だ、頭を上げてくれ」
辺りを見回してそう告げると、生徒たちがゆっくりと頭を上げた。
「一体何があったのか教えて欲しい」
近くにいた生徒に尋ねる。
「恐れながら、そちらにいらっしゃるフレイア嬢が……」
「リオン様、ひどいんです」
生徒の言葉を遮って、カレンが私に飛びついてきた。
ざわりと空気が揺れる。
「カレン、人前だ」
「あ、ごめんなさい。でも、ミアさんがひどいんです!」
カレンは慌てて押しつけていた体を離すが、そのままミアを指差した。
人を指差すなんて!
「カレン」
「大丈夫か! ミアッ!」
カレンの手を無理矢理降ろすと同時に、人垣をかきわけて男がミアの前に飛び出した。
制服を着ているから同じ学校の生徒なのは間違いない。
その顔は、どこかで見たことがある。
「ヒューイ様!」
ミアが男に笑顔を見せた。
学園ではいつも無表情に近いミアの笑顔に、生徒たちが悲鳴を上げる。
二人は当たり前のように近付いて向き合って、見つめ合う。
「あぁ、ミア。大丈夫かい。どうして一人で先に行ってしまったんだ」
「ごめんなさい、ヒューイ様。今日はどうしても早く来なければならない用事があったんです」
「なら、昨日のうちに言ってくれればいいのに」
「だって、ご迷惑をおかけしたくなかったんですもの」
ぷいっとミアが男に背を向けた。
背中側、腰のあたりで両手を結び、少し首を傾げて右に左に体を揺らしては、時々ちらちらと男を上目遣いで見る。
その仕草のかわいらしさと言ったら。
「美少女がやると、本当に可愛いのね……」
近くの誰かが言った言葉に、思わず頷いてしまう。
いやいや、そんなことをしている場合ではない。
「愛しいミアのためならどんな願いだって叶えるつもりだ。朝早く君を迎えに行くくらい何でも無い。どんな小さな願いも言ってくれない方がどんなに辛いか!」
芝居がかった仕草で男はそう言って、首を振った。
「ごめんなさい、ヒューイ様……」
ミアは振り返り、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「あぁ、そんな顔をしないで。私のお姫様。これからは何でも私に言ってほしいだけだよ。さぁ、どうか姫君の手をとる権利を私に」
ミアの足もとに跪き、男は両手を捧げた。
頬を染め、ミアはゆっくり男の手にその手を重ねる。
さっきよりも熱く二人の視線が絡みあう。
もう……と言うか最初から、二人の世界に外野はいなかった。
なんだ、この茶番は……。
「素敵……」
茫然と二人を見つめる私の耳に、カレンのそんな声が聞こえてきた。
聞き間違いかと思って隣を見ると、カレンがうっとりした瞳で二人を見ていた。
「カレン?」
「ああ、なんて素敵。彼こそ私の理想の王子様だわ!」
は?
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