このやってられない世界で

みなせ

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 今、久しぶりって言ったよね?
 キーラの記憶にも、私の記憶にも、犬に知り合いはいなかったと思うけど。
 そうじゃなくても、こんなでかい犬を見たことあったら、知り合いじゃなくても覚えているだろう。

『キーラ! 入ってもいい?』

 窓越しの白い犬は、前足を窓枠に引っ掛け、鼻面を窓に押し付けて嬉しそうに毛をキラキラさせている。

「いや、それはちょっと」

 何だか良く分からない生き物だし、大きいし。

『ちゃんと小さくなるから! いいでしょ?』
「いや、そう言うことじゃなく」
『なんでー、キーラはきっと犬派だと思ったから、ちゃんと犬みたいにしてきたんだよ!』

 得意満面な声を送ってよこすけど、

「残念。私は鳥派だ」
『そんな!』

 犬は急に元気をなくした。耳がペタンとなって、大きな瞳が半分になる。

「とにかく、私に犬の知り合いはいないから、お引き取り下さい」

 ここぞとばかりに、そう言ってカーテンを引こうと手をかける。
 犬はショックを受けたと言う動きをして、毛を逆立てた。

『キーラ! 酷いよ。僕は君の命の恩人でしょ!』
「命の恩人?」
『この国に来た時助けてあげたじゃない!』
「え?」

 この国に来た時……?

『キーラの吸収力は半端ないから苦しかったでしょ? だから息してって教えたじゃない』
「あ」

 なんとなく思い出した。
 苦しかった時、誰かが耳元でそう叫んでた。でも、こんな声だったっけ?

『思い出した?』
「うーん」
『キーラ!』
「うーん」
『もういい! 勝手に入る!』

 いじけた犬は右前脚で窓を叩いた。
 割るのかと思いきや、トンって音がしただけで、窓が開く。

「え、ちょ、ちょっと!」
『大丈夫』

 強い風の中、犬は一度窓から離れ空中で立ち上がると、その後ろ足を部屋の床に伸ばしてきた。
 そして足が床に着くと、そこから白い煙が竜巻みたいになって犬を包み込んだ。
 煙は足元から上に向かって吹き抜けると、そこに一人の青年を生みだした。
 真っ白な長い髪と真っ黒な大きな瞳。見た目は若い、犬顔の美丈夫。

「……」

 もうなんて言っていいか分からずに、その男をぽかんと見上げる。
 男は人懐っこそうな笑みを浮かべて、元気に言った。

「キーラ! この姿でははじめまして、だね!」

 いや、どの姿でもはじめましてではないかと。

「キーラ! 僕はフェイ」
「フェイ?」
「そう、フェイ。僕に会いたかったんでしょう?」

 フェイがそう首を傾げると、白い髪がさらりと流れる。

――――会いたかった?

 フェイの言葉を反芻して、もう一度まじまじとフェイを見た。
 白くて、どう考えても人じゃなくて、そしたら、もう間違いないだろう。

「あの、もしかしなくても、守護者とか呼ばれてます?」

 私は、伺うように首を傾げた。
 フェイは大きな目をさらに大きくして、笑う。

「うん、そう呼ばれてるみたいだね」

 ソウデスカ……どうやら、私の初めてのチートは、幻想だったようです。



























――――作者より一言―――――

ここまで読んでくださりありがとうございます。

明日の更新はお休みします。
次回更新は11月1日になります。

次回もよろしくお願いします。
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