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持ってきたお菓子の三分の一くらいを食べてから、フェイは町を目指した。
森の中にある町は、高い石塀で周囲を囲み、入口は大きな門が一つだけ。
門から見えない程度の場所に降りて、門に近付く。
「お待ちください」
辺りに人の気配がなかったから、そのまま門をくぐろうとしたら声をかけられた。
フードの隙間から声の方を見ると、青い防具をつけた男が立っていた。
門番、だよね。
「お一人ですか?」
―――――お一人?
横に立つ大人姿のフェイを盗み見る。
堂々と横に立っているけど、そうか、見えないのか。
「はい」
「……こちらにはどのような目的で?」
問われて、またフェイをちらりと見る。
『狩りの旅って言って』
「狩りの旅です」
「狩り、ですか? お一人で?」
門番の不思議そうな訝しげな声と、私の頭から足の先まで見ている気配に、頷く。
「……こちらにはどのくらい滞在を?」
「まだ、決めていません」
「……そうですか。では、ここを立つ時これをこちらにお返しください」
まだ何か言いたげな感じだが、目の前に青い模様の入った木札が差し出された。
様子をうかがいつつ手を出し木札を掴む。
が、門番は手を離さない。
「あの……」
「本当に狩り、ですか?」
視線は私の手に落ちているようだ。
多少は使いこまれてるけど、狩りをしていると言うには綺麗な手だと言いたいんだろう。
だけど、エマさんだって十分綺麗な手だった。
王都を出て、半日は過ぎてる。
もしかしたら、捜索願いが出ているかもしれない。
「本当に、狩りです……」
「お一人で?」
「はい」
小さくそう告げると、門番はゆっくりと木札から手を離した。
「治安は悪くありませんが、女性一人では危険なこともあるでしょう。十分注意してください」
「……ありがとうございます」
礼を言って、背中に視線を感じながら門をくぐると、まっすぐな道が延びていた。
振り返ることも出来ずに、その道を進む。
まだ建物も、人の姿も無い。
「フェイ、この道を……って、フェイ?」
暫く背中を気にしながら歩いて、ふと横を見たらフェイがいなかった。
「フェイ!?」
辺りに誰もいないから、思いきって叫ぶと声が帰ってきた。
『キーラ、叫ばないで。すぐに行くから』
「フェイ、どこに居るの」
『まだ門のところ。そこで待っていて』
言葉通り、すぐにフェイが門の方からやってきた。
「フェイ、どうしたの?」
『なんかキーラの話をしていたから聞いてきたんだ』
「私の話だったの?」
『うん。キーラって名前が出たからキーラの話だよ』
「何の話だった?」
『もしかしてキーラが探してる人じゃないかって』
「大丈夫かな?」
『大丈夫だよ。探してるのは二人組で、一人だから違うって言っていた』
フェイはそう肩をすくめた。
いいのか、それで。
「もしかしてお父さんからも連絡きていたりする?」
『うん。呼ばれてる』
「行かなくていいの?」
『いつもすぐには行けないから、キーラが帰る時で大丈夫だよ。それより町に行こう』
フェイが先に立って歩き出す。
五分も歩かないうちに、民家が並び始めその間には店もある。
王都もそうだけど、人はやっぱり少ない。
そろそろ暗くなりそうなので、外見から食べ物を売っているっぽい店の扉を開けてみた。
「いらっしゃい!」
威勢のいいおじさんの声が聞こえたけど、姿は見えない。
店内を見回すと、そこはどうやら干物屋のようだ。
独特のにおいと、天井からいろんな形の乾きものがぶら下がっている。
「って、あれ……」
カウンターの向こうに頭を出した店主が、不思議そうに首を傾げた。
「あの、宿を探してるんですけど……」
「あぁ、旅人さんか……宿なら、二軒先だよ」
「すみません、ありがとうございます」
そう言って扉を閉めようとすると、呼びとめられる。
「何か買って行かないのか?」
「えっと、じゃあ、お勧めを……」
「お勧め? 肉がいいのか、魚がいいのか、それとも」
「肉で!」
「おう、じゃあ、これだな」
店主は天井からぶら下がる干物の一つを引っ張って取ると、紙でつつんだ。
良く分からないが、カウンターへ近付き硬貨を何枚かバックから出した。
「おいくらですか?」
「……おいくら?」
「すみません。これから取ってもらえますか?」
こっちの通貨は分からないので、硬貨を見せる。
「……そうか、旅人さんだもんな。いいか、ここらで使える硬貨はこれだけだ。他のはしまっとけ。これ一枚で宿一泊分だ。家は……」
店主は銅貨一枚を指差しながらそう言って、包んだ商品を開くと干物を何枚か足した。
「これくらいになる。魚だともっとだな。硬貨を欲しがる奴はあまりいないが、気をつけたほうがいい」
「そう、なんですね。すみません。私も初めての旅なので……」
「……村から出てきたのか? まぁ、変わった風習のところもあるからな」
村もあるのか、と思いながら頷く。
「良い旅を」
「ありがとうございます」
商品を渡されたので、そう言って店を出た。
「フェイ、買い物できた。貨幣価値も分かった」
「フェイって名前じゃないけど、良かったね、お嬢ちゃん」
嬉しくなってフェイに言ったつもりだったんだけど、たまたま前を通った人が答えてくれた。
フェイも笑ってる。
あぁ、フェイ見えないんだ。気をつけないと!
森の中にある町は、高い石塀で周囲を囲み、入口は大きな門が一つだけ。
門から見えない程度の場所に降りて、門に近付く。
「お待ちください」
辺りに人の気配がなかったから、そのまま門をくぐろうとしたら声をかけられた。
フードの隙間から声の方を見ると、青い防具をつけた男が立っていた。
門番、だよね。
「お一人ですか?」
―――――お一人?
横に立つ大人姿のフェイを盗み見る。
堂々と横に立っているけど、そうか、見えないのか。
「はい」
「……こちらにはどのような目的で?」
問われて、またフェイをちらりと見る。
『狩りの旅って言って』
「狩りの旅です」
「狩り、ですか? お一人で?」
門番の不思議そうな訝しげな声と、私の頭から足の先まで見ている気配に、頷く。
「……こちらにはどのくらい滞在を?」
「まだ、決めていません」
「……そうですか。では、ここを立つ時これをこちらにお返しください」
まだ何か言いたげな感じだが、目の前に青い模様の入った木札が差し出された。
様子をうかがいつつ手を出し木札を掴む。
が、門番は手を離さない。
「あの……」
「本当に狩り、ですか?」
視線は私の手に落ちているようだ。
多少は使いこまれてるけど、狩りをしていると言うには綺麗な手だと言いたいんだろう。
だけど、エマさんだって十分綺麗な手だった。
王都を出て、半日は過ぎてる。
もしかしたら、捜索願いが出ているかもしれない。
「本当に、狩りです……」
「お一人で?」
「はい」
小さくそう告げると、門番はゆっくりと木札から手を離した。
「治安は悪くありませんが、女性一人では危険なこともあるでしょう。十分注意してください」
「……ありがとうございます」
礼を言って、背中に視線を感じながら門をくぐると、まっすぐな道が延びていた。
振り返ることも出来ずに、その道を進む。
まだ建物も、人の姿も無い。
「フェイ、この道を……って、フェイ?」
暫く背中を気にしながら歩いて、ふと横を見たらフェイがいなかった。
「フェイ!?」
辺りに誰もいないから、思いきって叫ぶと声が帰ってきた。
『キーラ、叫ばないで。すぐに行くから』
「フェイ、どこに居るの」
『まだ門のところ。そこで待っていて』
言葉通り、すぐにフェイが門の方からやってきた。
「フェイ、どうしたの?」
『なんかキーラの話をしていたから聞いてきたんだ』
「私の話だったの?」
『うん。キーラって名前が出たからキーラの話だよ』
「何の話だった?」
『もしかしてキーラが探してる人じゃないかって』
「大丈夫かな?」
『大丈夫だよ。探してるのは二人組で、一人だから違うって言っていた』
フェイはそう肩をすくめた。
いいのか、それで。
「もしかしてお父さんからも連絡きていたりする?」
『うん。呼ばれてる』
「行かなくていいの?」
『いつもすぐには行けないから、キーラが帰る時で大丈夫だよ。それより町に行こう』
フェイが先に立って歩き出す。
五分も歩かないうちに、民家が並び始めその間には店もある。
王都もそうだけど、人はやっぱり少ない。
そろそろ暗くなりそうなので、外見から食べ物を売っているっぽい店の扉を開けてみた。
「いらっしゃい!」
威勢のいいおじさんの声が聞こえたけど、姿は見えない。
店内を見回すと、そこはどうやら干物屋のようだ。
独特のにおいと、天井からいろんな形の乾きものがぶら下がっている。
「って、あれ……」
カウンターの向こうに頭を出した店主が、不思議そうに首を傾げた。
「あの、宿を探してるんですけど……」
「あぁ、旅人さんか……宿なら、二軒先だよ」
「すみません、ありがとうございます」
そう言って扉を閉めようとすると、呼びとめられる。
「何か買って行かないのか?」
「えっと、じゃあ、お勧めを……」
「お勧め? 肉がいいのか、魚がいいのか、それとも」
「肉で!」
「おう、じゃあ、これだな」
店主は天井からぶら下がる干物の一つを引っ張って取ると、紙でつつんだ。
良く分からないが、カウンターへ近付き硬貨を何枚かバックから出した。
「おいくらですか?」
「……おいくら?」
「すみません。これから取ってもらえますか?」
こっちの通貨は分からないので、硬貨を見せる。
「……そうか、旅人さんだもんな。いいか、ここらで使える硬貨はこれだけだ。他のはしまっとけ。これ一枚で宿一泊分だ。家は……」
店主は銅貨一枚を指差しながらそう言って、包んだ商品を開くと干物を何枚か足した。
「これくらいになる。魚だともっとだな。硬貨を欲しがる奴はあまりいないが、気をつけたほうがいい」
「そう、なんですね。すみません。私も初めての旅なので……」
「……村から出てきたのか? まぁ、変わった風習のところもあるからな」
村もあるのか、と思いながら頷く。
「良い旅を」
「ありがとうございます」
商品を渡されたので、そう言って店を出た。
「フェイ、買い物できた。貨幣価値も分かった」
「フェイって名前じゃないけど、良かったね、お嬢ちゃん」
嬉しくなってフェイに言ったつもりだったんだけど、たまたま前を通った人が答えてくれた。
フェイも笑ってる。
あぁ、フェイ見えないんだ。気をつけないと!
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