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第五章 ヘタレ王国宰相
第十話 同衾
しおりを挟む「ぶー!」
「だから期待するなって言ったろ」
食後の馬車の中でエリナがぶーたれている。
肉質も悪ければ味付けも薄すぎな上に、野菜も旬を外したものを適切に調理できていないという酷い店だった。
唯一成人している駄姉が飲んだワインはまだマシだったという程度で、ファルケンブルクの貴族向けレストランよりレベルが低いとの事だ。
んで値段は三倍以上というから救えない。
「姉さま、帰ったら私がご飯をつくりますから」
「クレアのご飯好きー!」
「わたくしもクレア様のつくる食事は大好きです!」
「姉さま、シル姉さまありがとうございます!」
「クレア様はお料理も数学も白魔法も素晴らしい才能を持っていますからね」
「てへへ、ほめ過ぎですよクリス姉さま」
「そういやエリナの魔法って実際王都じゃどれくらいのレベルなんだ?」
「メギドアローを使いこなせるのは魔導士協会でも十人かそこらというところでしょうか。メギドアロー級の他属性の攻撃魔法ならば所属員百名のうち、三十名程度ですのでかなり優秀ですね。といっても攻撃魔法が苦手でも研究を主にする協会員もいたりしますし、高ランク冒険者や上位貴族でも行使できる人物はいるかもしれませんが。ファルケンブルクだとメギドアローを使えるのはわたくしも含めて三人だけですし」
「エリナは俺から魔力を吸収して行使するメギドフレアならそろそろ使えそうな気がするんだよな」
「前回の訓練時ではすでに発動の兆候がでていましたからね、もうすぐだと思いますよ。メギドフレアクラスを扱えるのはこの国でも十名といないかと」
「嫁たちがチート過ぎだな」
「旦那様も雷属性に関してはかなりの潜在魔力になりましたよ、風属性も伸びてますし」
「その代わり他があまり伸びないけどな。相性が悪いのかも」
「全属性満遍なく伸びるというのはほとんど聞きませんしね。器用貧乏になるよりはよろしいかと思いますよ旦那様」
「ダッシュエミューを単独で狩れない頃よりはまあマシだけどな」
クレアの飯が食べられるとすっかり機嫌を直したエリナと駄妹がクレアに色々リクエストをしている。
すっかり暗くなった貴族街をガラガラと馬車が宿屋に向かって進んでいく。
街灯はそれなりにあるけど、人気が無さすぎだなと思いながら、ふと気づく。
「駄姉、ここには貧民街や孤児院はあるのか」
「ございます」
「じゃあ明日はそこだな」
「かしこまりました」
そっか、そりゃあるよな。
多分、俺が来る前の孤児院と同じような施設が。
◇
「えっなにこのベッド」
クレアが夜食を作ってる間に、部屋に備えられた寝室の扉を開けてみる。
中にはキングサイズよりでかいベッドが一つだけ置かれた部屋だった。
「五人で一緒に寝られる部屋を取りましたから」
「クリスお姉ちゃんすごーい! こんなベッド初めて見た!」
「あれ? エリナは気にしないの?」
「何を?」
「いやまあナニするつもりも無いんだけど」
「旦那様、ここは部屋風呂なんですよ。しかも露天風呂です」
「マジか! テンション上がってきた!」
「流石姉上ですね! 五人で一緒に入浴できる広さですよお兄様!」
浴場を覗き込んでた駄妹が駄姉を称賛する。
「ファルケンブルクに戻ったら結婚する予定だけど、一応エリナ以外は未婚の女性なんだからな。そのあたりちゃんと考えようぜお前ら」
もーめんどくせー。そうだ、クレアの料理を手伝うかと部屋に備えられたキッチンへ行く。
「てへへ、兄さまとお風呂……てへへ」
駄妹の声が聞こえたのだろう。耳を真っ赤にして超高速で調理しているクレアを放置して応接セットのある部屋へ戻る。
先に俺だけで風呂に入るか? いや、乱入されそうで怖い。
エリナから許可を貰ったからとか平気で言いそうだこいつら。
どかっとソファに座り込んで思考する。 風呂よりもここの孤児院の事だ。
ファルケンブルクの託児所が順調すぎて町の外のまで考えが及んでいなかった。ちょっと浮かれてたな俺。
劣悪な環境だったら全員引き取るか?
それは可能だがそこの孤児院長が納得するかどうか。
逆に俺が来たばかりのころに、「もっといい施設があるから孤児たちを引き受けますよ」なんて王都から役人が来ても突っぱねただろう。怪しすぎるからな。
だとすれば当面は寄付なりの資金援助で支えるとして、根本的な解決を図るにはやはりこの国を改革しなきゃならん。
時間をかけてファルケンブルクの孤児院の良さを理解してもらって移動して貰うというのも手ではあるが、そうすると王都での孤児の受け皿が無くなるからな。
ミコトのような存在が出たらと考えると恐ろしい。
ならもうやるしかないじゃないか。
まあまずは現状の確認をしなきゃいけない。奇跡的に良い環境とかなら良いんだろうけど、望み薄だろうな。
「お兄ちゃん」
むむむと考えていると、エリナが俺の横に座って抱き着いてくる。
「む、すまん。考え事をしてた」
「私はお兄ちゃんのやりたいことをずっと支えてあげるからね」
ちょっと涙が出そうになる。
そうだよな、エリナは俺がこの世界に来てからずっと俺の横で、俺のやることを見て、俺以上に俺のことを理解してくれてるんだよな。
「流石エリナだな。俺のことを理解し過ぎだろ」
「お兄ちゃんのことは私が一番理解してるからねー」
「ありがとうなエリナ。愛してるぞ」
「私も!」
「いいなー姉さま」
鶏のクリーム煮とサラダなんかを駄姉妹と運んできたクレアが羨ましそうに言う。
この短時間でこの腕前か、恐ろしいなクレアは。
「お兄ちゃんは単純だからすぐにクレアもお兄ちゃんの考えてることがわかるようになるよ」
「兄さまが真面目な顔をして悩んでるときは、私たちや子供たちのことを悩んでくれているっていうのはわかるんですけどね」
「……俺ってそんなに顔に出るか?」
こくこくとこの場にいる全員が頷いている。
うむ、気をつけよう。
「クレアー、パンの他にもパスタがあるけど?」
「クリーム煮はちょっと濃いめに作ったので、パスタソース代わりにもなりますよ姉さま。もし薄ければ塩コショウで調味してください」
「クレアすごい!」
「えへへ」
クレアの手料理で口直しした後は、無事女子チームだけを入浴させることに成功した。
その後にゆっくり風呂に浸かって出た俺は、すでにベッドで眠る位置が話し合いによって決まっていたので大人しく挟まれて眠りました。
未婚の女性が同衾するなよ。
もちろんヘタレなので手なんて出さないどころか腕枕を強要されたので何もしていません。
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